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弁護士 岸上大起

交付規程は「返還命令等の指示がなされた場合は、補助事業者はこれに必ず従うものとする」と書いていますが、会計検査院は補助金の返還を命じられるのですか

このページの結論

交付規程に「補助事業終了後、会計検査院、経済産業省又は中小機構は、補助事業に関して予告なく実地検査を実施することができる。当該実地検査により補助金の返還命令等の指示がなされた場合は、補助事業者はこれに必ず従うものとする。」と書かれています。会計検査院が検査に来て返還を命じたら、争えないのでしょうか。

会計検査院は、補助事業者の会計を実地に検査し、資料の提出や質問を求めることができます(会計検査院法23条1項3号・25条・26条)。しかし、検査の結果として会計検査院ができるのは、本属長官・関係者・主務官庁その他の責任者に対する意見の表示と処置の要求です(同法34条・36条)。補助事業者に返還を命じることができるのは、補助金適正化法18条1項の各省各庁の長(中小機構が交付する補助金では、中小機構法16条の読替えにより中小機構の理事長)であり、その前に、17条1項の取消事由に当たる事実と、理由を示した取消し(21条の2)がなければなりません。検査の場で口頭で告げられた「指示」は、この返還命令ではありません。

「必ず従うものとする」と書かれていても、補助金適正化法24条の2が適用を外しているのは行政手続法2章・3章だけで、処分を争う道は閉ざされていません。返還命令は行政処分であり、取消訴訟で争える対象です。なお、事務局が交付主体となる補助金(小規模事業者持続化補助金など)には、この処分の枠組みはそのままは当てはまりません。もっとも、検査そのものには応じなければなりません。事実を示す資料の提示と質問への回答には協力したうえで、法的な評価については、確かめてから改めて回答する旨を伝えて差し支えないと考えております。

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

1 同じ一文が三つの交付規程に、同じ向きの記述が公募要領にあります

まず、書かれていることをそのまま引きます。中小機構が交付する中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)の交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。規程令7第5号による改正後のもの)27条4項です(以下、交付規程と公式資料は、いずれも2026年10月に閲覧した版です)。

引用(同交付規程27条4項。同規程9頁)「補助事業終了後、会計検査院、経済産業省又は中小機構は、補助事業に関して予告なく実地検査を実施することができる。当該実地検査により補助金の返還命令等の指示がなされた場合は、補助事業者はこれに必ず従うものとする。」

一文目は、誰が、いつ、何をすることができるか。二文目は、その検査の結果として「返還命令等の指示」がされたら従うものとする、という定めです。同じ文言は、ほかの補助金の交付規程にもあります。中小企業省力化投資補助金交付規程(令和6年6月24日規程令6第4号。規程令8第9号による改正後のもの)29条4項(同規程8頁)、中小企業新事業進出促進補助金交付規程(令和7年4月21日規程令7第1号。規程令7第17号及び規程令8第2号による改正後のもの)27条4項(同規程8頁)は、いずれも一字違わず同じ文です。

中小機構が交付主体ではない補助金にも、同じ向きの記述があります。小規模事業者持続化補助金<一般型 通常枠>の第20回公募 公募要領(第8版・2026年7月21日)は、「10.補助事業者の義務(採択後に遵守すべき事項)」の(10)で、次のように書いています。

引用(同公募要領25頁(PDF26頁)(10))「この期間に、会計検査院等による実地検査等が実施される可能性もあり、補助金の交付を受けた者の義務として応じなければなりません。また、検査等の結果、仮に、補助金の返還命令等の指示がなされた場合には従わなければなりません。」
引用(同公募要領41頁(PDF42頁)「13.その他」(4)後段)「(前略)本事業実施中及び本事業終了後、会計検査院や補助金事務局等が抜き打ちで実地検査に入ることがあります。この検査により補助金の返還命令等の指示がなされた場合には、これに従わなければなりません。」(※(4)は一文で、前半は収益納付と処分制限財産の処分についての記述です。引用に当たり「(前略)」としました。)

41頁(4)の一文は、事務局の指示に従うとする定めとの関係で、Q&A「記載のない細部については、補助金事務局からの指示に従うものとします」と書かれていますがでも取り上げています。本稿では、「返還命令等の指示」の側から読みます。

四つの記述に共通しているのは、会計検査院を検査の主体の筆頭に置いたうえで、「検査により返還命令等の指示がなされた場合」という一つながりの表現で、検査と返還命令とを結び付けていることです。読んだ事業者は、会計検査院が検査に来て、その場で返還を命じ、それには従うほかない、と受け取ります。本稿で確かめるのは、この受け取り方が条文に合っているか、という点です。

2 会計検査院にできること――会計検査院法が定める権限の範囲

会計検査院が補助事業者のところに検査に来ること自体は、法律に根拠があります。会計検査院法23条1項3号は、会計検査院が必要と認めるときに検査をすることができるものとして、「国が直接又は間接に補助金、奨励金、助成金等を交付し又は貸付金、損失補償等の財政援助を与えているものの会計」を挙げています。中小機構を通じて国の補助金の交付を受けた補助事業者の会計は、ここに入ります。同条2項は、この検査をするときは「これを関係者に通知するものとする」と定めています。そして、実地の検査と資料の提出については、次の二つの条文があります。

引用(会計検査院法25条)「会計検査院は、常時又は臨時に職員を派遣して、実地の検査をすることができる。/この場合において、実地の検査を受けるものは、これに応じなければならない。」(※原文は項で分かれています。引用に当たり「/」で区切りました。)
引用(会計検査院法26条)「会計検査院は、検査上の必要により検査を受けるものに帳簿、書類その他の資料若しくは報告の提出を求め、又は関係者に質問し若しくは出頭を求めることができる。/この場合において、帳簿、書類その他の資料若しくは報告の提出の求めを受け、又は質問され若しくは出頭の求めを受けたものは、これに応じなければならない。」(※原文は項で分かれています。引用に当たり「/」で区切りました。)

ですから、会計検査院の実地検査には応じなければなりません。資料の提出や質問にも、応じなければなりません。ここまでは、交付規程が書いているとおりです。

問題は、その先です。検査の結果、会計検査院は何をすることができるのか。会計検査院法の「権限」の章(20条から37条まで)が、検査の結果について会計検査院にできることとして定めているのは、国の会計事務を処理する職員についての懲戒処分の要求(31条)、出納職員・物品管理職員の弁償責任の検定(32条)、職務上の犯罪の検察庁への通告(33条)、利害関係人の求めによる審査と主務官庁その他の責任者への判定の通知(35条)、そして次の二つの条文による意見の表示と処置の要求です。

引用(会計検査院法34条)「会計検査院は、検査の進行に伴い、会計経理に関し法令に違反し又は不当であると認める事項がある場合には、直ちに、本属長官又は関係者に対し当該会計経理について意見を表示し又は適宜の処置を要求し及びその後の経理について是正改善の処置をさせることができる。」
引用(会計検査院法36条)「会計検査院は、検査の結果法令、制度又は行政に関し改善を必要とする事項があると認めるときは、主務官庁その他の責任者に意見を表示し又は改善の処置を要求することができる。」

二つの条文に共通する動詞は、「意見を表示し」「処置を要求し」です。宛先は、本属長官(検査を受けた会計経理を所管する官庁の長)・関係者(34条)、主務官庁その他の責任者(36条)です。会計検査院は、会計経理が法令に違反し又は不当であると認めたとき、その会計経理を扱っている官庁や責任者に向けて意見を示し、処置を求めます。先に挙げた31条から33条まで、35条も、国の職員・主務官庁・責任者に向けられたものです。32条の弁償責任の検定は、出納職員・物品管理職員についての定めであって、補助事業者に金銭の納付を命じるものではありません。補助事業者に対して補助金の返還を命じる、という権限は、会計検査院法のどこにも置かれていません。同法20条が会計検査院の任務として定めているのも、国の収入支出の決算の検査と、会計経理の監督・是正です。

事業再構築補助金についての会計検査院の意見表示が、個々の事業主体に宛てたものではなく、中小企業庁長官と中小機構理事長に宛てて出されていることは、コラム「会計検査院が指摘した事業再構築補助金の事例から」で述べたとおりです。宛先がそうなっているのは、法律の建付けがそうなっているからです。

34条の「関係者」に、検査を受けた補助事業者が含まれると読む余地はあります。私見としては、仮にそう読んだとしても、そこで会計検査院ができるのは意見の表示と処置の要求であって、次の節で述べる補助金適正化法18条の返還命令ではないと考えております。返還命令には、加算金の納付義務(19条1項)や裁判なしの強制徴収(21条1項)といった法律上の効果が結び付いていますが、それらはいずれも「返還を命ぜられたとき」「返還を命じた補助金等」を要件として定められているものです。会計検査院の意見表示や処置要求に、それらの効果が結び付くことはありません。

3 返還を命じることができるのは誰か――適正化法18条1項と、その前に置かれた順序

補助金の返還を命じる権限は、補助金適正化法が定めています。

引用(補助金適正化法18条1項)「各省各庁の長は、補助金等の交付の決定を取り消した場合において、補助事業等の当該取消に係る部分に関し、すでに補助金等が交付されているときは、期限を定めて、その返還を命じなければならない。」

主語は「各省各庁の長」です。中小機構が交付する補助金については、中小機構法16条が補助金適正化法の規定を準用し、「各省各庁の長」を「独立行政法人中小企業基盤整備機構の理事長」と読み替えていますので、返還を命じる名義は中小機構の理事長です。会計検査院は、ここに出てきません。交付規程が並べている三つの主体のうち、経済産業省についても同じです。中小機構が交付した補助金について返還を命じる名義は、読替え後の各省各庁の長である中小機構の理事長であって、経済産業大臣ではありません。経済産業省が検査の主体に挙がるのは、国から中小機構への補助を財源とする補助金について、事業者が経済産業大臣との関係では間接補助事業者等(2条4項・6項)に当たり、23条1項が間接補助事業者等に対する立入検査を認めていることで説明できると考える余地があります。検査の主体であることと、返還を命じる名義人であることとは、別です。

そして、18条1項の返還命令は、単独では立ちません。条文が「交付の決定を取り消した場合において」としているとおり、先に交付決定の取消しがあることが前提です。取消しができる場合は、17条1項が三つに限って定めています。補助金等の他の用途への使用、交付の決定の内容又はこれに附した条件への違反、法令又はこれに基づく処分への違反です。さらに、取消しをするときには、理由を示さなければなりません。

引用(補助金適正化法21条の2)「各省各庁の長は、補助金等の交付の決定の取消し、補助事業等の遂行若しくは一時停止の命令又は補助事業等の是正のための措置の命令をするときは、当該補助事業者等に対してその理由を示さなければならない。」

順序を並べると、こうなります。17条1項の取消事由に当たる事実があること、交付主体が理由を示して交付決定を取り消すこと(17条1項・21条の2)、そのうえで期限を定めて返還を命じること(18条1項)。返還命令は、この三段目です。実地検査は、この三段のどれでもありません。検査は、取消事由に当たる事実があるかどうかを調べる行政調査であって、取消しや返還命令そのものではないことは、Q&A「補助金の立入検査(実地検査)は犯罪捜査なのか」で述べています。

交付規程の「当該実地検査により補助金の返還命令等の指示がなされた場合」という一文は、この順序を飛ばしています。検査から返還命令へ直接つながるかのように読めますが、間には、取消事由の認定、理由を示した取消し、返還命令という段階があり、それぞれが補助金適正化法の条文に基づく交付主体の処分です。会計検査院の検査員も、経済産業省の職員も、この処分の名義人ではありません。

なお、交付規程は、中小機構が交付の手続を定めた内部の規則(行政規則)であって、返還命令の法的根拠は、交付規程の条項ではなく、中小機構法16条の準用を経た補助金適正化法18条1項です。交付規程の条項がどこまで補助事業者を拘束するのかは、Q&A「交付規程に違反したと言われたら」で述べています。

もう一つ、断っておきます。本稿の2節以下の整理は、中小機構が交付主体となる補助金についてのものです。小規模事業者持続化補助金のように事務局が交付主体となる補助金は、事務局との間の、交付規程に基づく負担付贈与契約と解されますので、17条1項・18条1項の処分の枠組みはそのままは当てはまりません。また、国から補助を受けた団体が交付する補助金では、事業者が受けるのは間接補助金等(2条4項)であり、適正化法が各省各庁の長に認めている取消しは、交付団体に向けられたものです(17条2項)。返還を求める名義と根拠は交付主体ごとに違いますので、お手元の交付決定通知書で、誰が交付したのかを確かめてください。この区別は、Q&A「ものづくり補助金と間接補助事業者等――適正化法の宛先」で述べています。

4 「指示」は返還命令ではありません――その場で承諾を求められたら

実地検査の場で、検査員から「この設備は目的外使用に当たるので返還になる」「残存簿価相当額を納付してもらうことになる」と告げられることがあります。公式資料はこれを「返還命令等の指示」と呼び、従わなければならないとしています。しかし、検査の場で口頭で告げられたことは、前の節で述べた三段のどれでもありません。返還命令は、交付決定の取消しの後に、期限を定めてされる処分です(18条1項)。取消しは、その内容を通知しなければならないとされ(17条4項・8条)、理由を示さなければなりません(21条の2)。実務上、いずれも書面で届きます。文献も、本法に基づく交付行政庁の処分を「命令処分」と呼び、補助事業者等がそれに従う義務を負うのは、処分としてされたものについてであることを前提に説明しています。

引用(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』204頁(株式会社全国会計職員協会、2016))「補助事業者等はこれらの命令処分に従うべき義務を負うが、これらの処分に不服がある場合には行政不服審査法(地方公共団体にあっては本法第二五条)の規定に基づき不服申立て(地方公共団体にあっては不服申出)をなし、あるいは行政事件訴訟法の規定に基づき抗告訴訟を提起することができることはいうまでもない。」

従うべき義務があるのは「命令処分」であり、しかもその処分には不服申立てと抗告訴訟の道が開かれている、というのが文献の説明です。検査の場での口頭の指摘は、命令処分ではありません。取消しであれば名義人と理由が、返還命令であれば名義人と期限が、示されているはずです。それらがない段階で「従う」も「従わない」もないというのが、条文に沿った整理だと考えております。

なお、交付規程は、取消事由の一つとして、補助事業者が「法令、本規程又は本規程に基づく中小機構の処分若しくは指示に違反した場合」を挙げています(新市場進出の交付規程22条1項(1)。同規程6頁)。「指示に従わなければ取消しになる」という説明は、ここから来ます。もっとも、補助金適正化法17条1項が取消事由とするのは、交付決定の内容・これに附した条件・法令・これに基づく各省各庁の長の処分への違反であり、検査の場の口頭の指摘がここに入るかは、指摘の中身ごとに検討することになります。交付規程の「指示」の定めをどう読むかは、Q&A「記載のない細部については、補助金事務局からの指示に従うものとします」と書かれていますがで述べています。

気を付けていただきたいのは、検査の場で、返還に応じる旨の書面や、事実関係を認める旨の書面への署名を求められる場合です。署名した書面は、後に取消しの理由や返還額の根拠として使われます。検査員の求めに応じて事実を示す資料を出すことと、法的な評価について同意することとは、別のことです。資料の提示と事実についての質問には協力したうえで、法的な評価については、確かめたうえで改めて回答する旨をお伝えいただいて差し支えないと考えております。この点は、Q&A「補助金の立入検査(実地検査)は犯罪捜査なのか」で詳しく述べています。検査の後に、取消しの処分ではなく「自主返納」や「減額確定」の形で返還を求められることもありますが、その誘導にどう向き合うかは、コラム「補助金の処分性の見分け方、財産処分制限、減額確定・自主返納への誘導」で述べています。

5 処分を争う道は残っています

「必ず従うものとする」という定めは、争う道がないかのように読めます。しかし、補助金の処分について法律が適用を外しているのは、次の一か条だけです。

引用(補助金適正化法24条の2)「補助金等の交付に関する各省各庁の長の処分については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二章及び第三章の規定は、適用しない。」

外されているのは、行政手続法の2章(申請に対する処分)と3章(不利益処分)、すなわち審査基準・標準処理期間・理由の提示・聴聞・弁明の機会の付与といった、処分の手続についての定めです。もっとも、取消し等の理由の提示は、補助金適正化法21条の2が別に定めています。処分をした後に、それを争う手続は、外されていません。行政事件訴訟法に基づく取消訴訟を排除する定めは、補助金適正化法のどこにもなく、審査請求を経なければ取消訴訟を提起できないという建付けにもなっていません。文献は、事情変更による交付決定の取消し又は変更処分(10条)について、次のように述べています。

引用(小滝・前掲194頁)「もとより、相手方に、取消し又は変更処分に対する不服があれば、不服申立てをなし、あるいは抗告訴訟をもってこれを争いうることはいうまでもない。」

前の節で引いた204頁も、命令処分について「いうまでもない」としていました。文献が直接に述べているのは10条の取消し・変更処分と、7条・10条・13条・16条・23条の処分についてですが、17条1項の取消しと、それに続いて交付主体がする18条1項の返還命令についても、同じに考えられます。返還命令は行政処分であり、取消訴訟で争える対象です。

交付規程は、交付主体が自ら定めた規則です。それが「必ず従うものとする」と書いたからといって、法律が与えている、処分を争う道がなくなるわけではありません。私見としては、交付規程のこの一文は、補助事業者に協力を求める趣旨の定めとして読むほかなく、争う道を閉ざす効力を持つものではないと考えております。

どこに、いつまでに言うのかは、Q&A「交付決定の取消しの通知に不服があるとき、どこに言えばよいのか」で述べています。取消訴訟の出訴期間は、処分があったことを知った日から6か月です(行政事件訴訟法14条1項)。この期間は、取消しや返還命令の通知を受けてから進みます。検査の場で指摘を受けた日からではありません。なお、補助金適正化法25条の「不服の申出」は、地方公共団体についての定めであって、補助事業者がこの条文によって不服を申し出ることは定められていません。この点も、同じQ&Aで述べています。

6 公式の説明は、一方当事者の見解です

中小機構・中小企業庁・各事務局の説明は、公正な第三者による解説ではなく、補助金をめぐる紛争の一方当事者の見解です。通説が説いていない立場を強く主張しているものもあります。公式の説明だからと鵜呑みにするのは非常に危険です。

本件について申し上げれば、次のとおりです。会計検査院が補助事業者の会計を実地に検査し、資料の提出や質問を求めることは、会計検査院法23条1項3号・25条・26条に根拠があり、応じなければなりません。しかし、検査の結果として会計検査院ができるのは、本属長官・関係者・主務官庁その他の責任者に対する意見の表示と処置の要求です(同法34条・36条)。補助事業者に返還を命じることができるのは、補助金適正化法18条1項の各省各庁の長、中小機構が交付する補助金では読替え後の中小機構の理事長であり、その前に17条1項の取消しと21条の2の理由の提示がなければなりません。そして、その処分を争う道は、24条の2によっても閉ざされていません。

二文目は、誰が返還命令をするのかを書いていません。交付主体がするという前提で読む余地はあります。しかし、一文目で検査の主体として会計検査院を筆頭に並べたうえで、二文目を「当該実地検査により」で受けていますので、検査に来た者が返還を命じると読めてしまいます。そのうえで「必ず従う」としています。

私見としては、会計検査院を筆頭に置いた「実地検査により補助金の返還命令等の指示がなされた場合は、補助事業者はこれに必ず従うものとする」という定めは、会計検査院法が会計検査院の権限を意見表示と処置要求に置き、補助金適正化法が返還命令を取消しと理由の提示の後に置いた仕組みの理解が浅いと言わざるを得ません。誰が、どの条文に基づいて、何をすることができるのかを、公式資料の一文で混ぜてしまっているからです。

申し上げているのは、検査に協力しなくてよい、ということではありません。会計検査院の検査にも、中小機構の検査にも、応じなければなりません。申し上げているのは、検査に応じることと、検査の場で告げられた法的な評価を受け入れることとは別であり、取消しと返還命令という処分が届いたときに初めて、従うか争うかを決める場面が来る、ということです。

次のような場合は、お返事をされる前にご相談ください

  • 実地検査の場で、返還や納付になると告げられ、承諾書や確認書への署名を求められている
  • 検査の後に、返還命令の書面が届く前に、自主返納や減額の手続を勧められている
  • 会計検査院の検査を受けたことを理由に、交付主体から取消しや返還の連絡が来た
いまの状況を相談する →お電話:070-3618-5126(受付:平日10:00〜18:00、出られないときは折り返します)

関連ページ: 補助金の立入検査(実地検査)は犯罪捜査なのか(Q&A)/取消しの通知に不服があるとき、どこに言えばよいのか(Q&A)

7 検査の場で「返還になる」と告げられたら、どう動くか

実地検査の場で返還の話が出たときに、押さえていただきたいのは次の四つです。

  • (1)誰が、どの条文に基づいて来ているのかを確かめる。会計検査院の検査(会計検査院法25条)なのか、中小機構の検査(補助金適正化法23条1項・交付規程)なのか、委託を受けた事務局が同行しているのか。来た人の所属と、示された根拠条文を、その日のうちに記録してください。どちらの検査かによって、その後に誰から何が届くのかが変わります。確かめ方は、Q&A「実地検査に来たのは、どこの誰ですか」で述べています。
  • (2)事実には協力し、評価には即答しない。帳簿書類、契約書、現物、写真の提示と、事実についての質問には応じてください。「目的外使用に当たる」「返還になる」という評価については、確かめたうえで改めて回答する旨を伝えてください。承諾書・確認書・顛末書への署名を求められたら、内容を読み、持ち帰って検討する旨を伝えて差し支えありません。
  • (3)告げられた言葉を、そのまま書き留める。どの設備について、どの事実を根拠に、どの条文に違反すると言われたのか。「返還」「納付」「取消し」のどの言葉が使われたのか。後に書面で届く取消しや返還命令の理由と、検査の場で言われたこととが合っているかを確かめる材料になります。合っていなければ、理由の差替えの問題になります。
  • (4)書面が届いたら、名義人・根拠条文・理由・期限・教示を確かめる。返還命令は、交付主体の名義で、期限を定めてされます(18条1項)。取消しは通知され(17条4項・8条)、理由が示されていなければなりません(21条の2)。実務上、いずれも書面で届きます。取消訴訟の被告と出訴期間の教示も確かめてください。6か月の期間は、この通知を受けてから進みます。届いた書面の読み方は、Q&A「交付決定取消しの事前通知が届いたら」と、「取消しの通知に不服があるとき、どこに言えばよいのか」で述べています。

最後に一つ申し上げます。本稿で引いた四つの文言は、補助金ごと、版ごとに条番号も表現も違います。お手元の交付決定通知書に記載された交付規程と公募要領の版で、該当する条項を確かめてください。検査のあとに取消しや返還の話が出てきた場合の全体の流れは、交付決定の取消し・返還請求のページにまとめています。

実地検査の場で返還や納付になると告げられた事業者の方、承諾書や確認書への署名を求められている方、会計検査院の検査を受けたあとに交付主体から取消しや返還の連絡が来た方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、お返事をされる前にご相談ください。検査の際にお取りになった記録、示された書面、交付決定通知書、交付規程の該当頁があれば、具体的な検討ができます。

根拠(条文・公式資料・裁判例)

※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。

関連ページ

※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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