執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
補助金の返還を求められるのは、どのような場合なのか。返還の事例をお探しの方にとって、この問いに公表資料で答えられる材料の一つが、会計検査院の決算検査報告です。国の決算の検査の結果を毎年度まとめた報告書で、事業再構築補助金についても、どのような事態が不当と認められ、どのような点について改善が求められたのかが、類型ごとに掲げられています。ご自身が指摘を受けている事柄がどの類型に近いのかを見ていただくと、どの条文の問題として扱われているのかの手がかりになります。
先に答えを申し上げます。補助金の返還を命ずる根拠は、一つではありません。交付決定の取消しに伴って返還を命ずるもの(補助金適正化法18条1項)と、補助金の額の確定によって交付済みの額が上回ったときに返還を命ずるもの(同条2項)とが、別に定められています。さらに、補助金で取得した財産を処分したときの納付は、この返還命令とは別の仕組みです。
そして、会計検査院が令和6年度決算検査報告で事業再構築補助金について不当と認めたのは、20事業主体が実施した20事業です。その事態は、虚偽の実績報告に基づく過大な交付、補助の対象とならない経費の計上、処分制限財産の無断の処分という3つの類型に整理されています。もっとも、検査報告に数えられていることと、交付決定を取り消せることとは別の問題です。報告書自身がその旨を注記している箇所があり、後記4で引用します。
以下は、会計検査院が公表している決算検査報告の記載に即した整理です。報告書に書かれていないことは書きません。個々の事業主体の名称・所在地・業種や、その事業主体ごとの金額も書かず、報告書が示した類型と合計の数字だけを引きます。
既に検査の結果を伝える連絡や、取消しを予定する旨の通知を受けておられる方は、「交付決定取消しの事前通知が届いたら」で、取消しの通知が出る前の段階で何ができるかを述べています。返還を命じられる場合に併せて求められる加算金・延滞金の扱いは、「補助金の返還を求められたら、加算金・延滞金は払うのか」で述べています。
なお、本稿が念頭に置くのは、中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が交付する事業再構築補助金のように、補助金適正化法が適用され、又は中小機構法16条により準用される補助金です。事務局が交付主体となる補助金(負担付贈与契約型)は、同法が「補助金等」として規律する対象ではありませんので、本稿の18条の整理がそのまま当てはまるものではありません。この類型については事務局が交付する補助金で述べています。
1 返還を命ずる根拠は一つではない
はじめに、条文で筋道を分けておきます。返還を求める通知が届いたとき、どの筋道のものなのかによって、どこを争うことになるかが変わるからです。
一つめは、交付決定の取消しに伴う返還です。交付主体は、次の3つのいずれかに当たるときに、交付決定の全部又は一部を取り消すことができるとされています。補助事業者が補助金の他の用途への使用をしたとき、補助事業に関して交付決定の内容若しくはこれに附した条件に違反したとき、法令若しくはこれに基づく処分に違反したときです(補助金適正化法17条1項)。取消しの理由は、この3つに限られます。そして、取消しをした場合には、返還を命ずることになります。
引用(補助金適正化法18条1項)「各省各庁の長は、補助金等の交付の決定を取り消した場合において、補助事業等の当該取消に係る部分に関し、すでに補助金等が交付されているときは、期限を定めて、その返還を命じなければならない。」
取消事由の3つの中身と、取消しをするかどうかの判断については、交付決定の取消し・返還請求と「補助金の交付決定の取消しに裁量はあるのか」で述べています。
二つめは、補助金の額の確定による返還です。額の確定とは、実績報告を受けて、報告された補助事業の成果が交付決定の内容及びこれに附した条件に適合するかどうかを調査し、交付すべき額を最終的に決める手続です(同法15条)。この確定した額より多く交付されていたときは、その超過分の返還を命ずることになります。
引用(補助金適正化法18条2項)「各省各庁の長は、補助事業者等に交付すべき補助金等の額を確定した場合において、すでにその額をこえる補助金等が交付されているときは、期限を定めて、その返還を命じなければならない。」
こちらは、交付決定を取り消すものではありません。交付決定は残したまま、額を計算し直す場面です。確定の手続で何が判断されるのかは「額の確定(補助金適正化法15条)とは何か」で、減額と言われたときの考え方は「補助金の『減額』とは何か」で扱っています。
三つめは、補助金で取得した財産を処分したときの納付です。補助事業者は、補助事業により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、承認を受けないで、補助金の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならないとされています(同法22条)。事業再構築補助金では、処分制限財産を処分するときに、中小機構が、納付通知書により納付させることができるとされています。その限度は、当該処分制限財産に係る補助金額です(中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程24条6項)。処分制限財産とは、取得価格又は効用の増加価格が単価50万円(税抜)以上の機械、器具及びその他の財産です(同条1項)。これは交付決定の取消しとは別の仕組みで、金額の計算も別です。計算と手続は「補助事業を続けられないとき」に、納付命令の限界についての当職の見解は「残存簿価相当額を納付しなければならないのか」に書いてあります。
2 決算検査報告の読み方――不当事項と意見表示
会計検査院の決算検査報告は、検査の結果を区分して掲げています。事業再構築補助金について令和6年度決算検査報告に載っているのは、「不当事項」として掲げられたものと、「意見を表示し又は処置を要求した事項」として掲げられたものの2つです。
前者は、検査の結果、不当と認められる事項として、事業主体ごとに番号を付して掲げられるものです。後者は、会計検査院法36条に基づくものです。
引用(会計検査院法36条)「会計検査院は、検査の結果法令、制度又は行政に関し改善を必要とする事項があると認めるときは、主務官庁その他の責任者に意見を表示し又は改善の処置を要求することができる。」
宛先の違いは、読むうえで大切です。令和6年度決算検査報告に載っている事業再構築補助金についての意見表示は、令和7年10月27日付けで、中小企業庁長官と独立行政法人中小企業基盤整備機構理事長に宛てたものと記載されています。個々の事業主体に対して返還を命ずるものではなく、中小企業庁と中小機構に対して、周知・把握の方策・報告方法の見直しを求めるものです。
3 不当事項として挙げられた類型
令和6年度決算検査報告は、機構、受託事業者及び226事業主体において、再構築事業227事業を対象に会計実地検査を行ったとしています。受託事業者とは、公募回ごとに公募要領や補助事業の手引きなどを定め、確定検査等の事務を行う委託先です。当サイトが他のページで「事務局」と呼んでいるものと同じで、同報告の意見表示の項でも「事務局」と呼ばれています。この補助金で交付をするのは機構であり、事務局は交付主体ではありません。検査の結果として、20事業主体が実施した20事業について、次のアからウまでの事態が掲げられています。事業主体ごとの番号は(252)から(271)までです。
引用(令和6年度決算検査報告・掲げられた3類型)ア 役務の提供等の実態を伴わない虚偽の実績報告書等に基づき、事業再構築補助金が過大に交付されていた事態
イ 補助対象事業費に補助の対象とならない経費を含めるなどしていた事態
ウ 処分制限財産が無断で処分されていた事態
報告書は、この3類型をさらに細かく分けて、事業主体ごとに番号を付して掲げています。本稿では、細かな区分ごとの事業主体の数までは引きません。個々の事業主体が特定される形を避けるためです。以下では、イとウについて、掲げられている事態の内容を紹介します。
報告書は、これらのため事業再構築補助金計344,613,095円が過大に交付されるなどしていて、不当と認められるとしています。20事業主体の表の合計は、千円単位で、事業費876,107千円(補助対象事業費779,320千円)です。これに対する機構の補助金交付額は429,727千円です。なお報告書は、複数の事態に該当している事業主体があると注記しています。
イとして掲げられているのは、経費と申請の要件に関わる事態です。建設するなどした建物を事業計画に記載のない既存の事業に用いていて、事業計画で実施するとした再構築事業が行われていなかった事態が挙げられています。補助対象事業費に補助の対象とならない工事費等を含めるなどしていた事態も挙げられています。さらに、売上高等減少要件を満たしていなかった事態、業態転換の要件である新規性を有していなかった事態が挙げられています。売上高等減少要件とは、連続する6か月のうち任意の3か月の付加価値額(事業全体の営業利益、人件費及び減価償却費を合計した額)の合計が、コロナ以前と比較して一定の割合以上減少していることを求めるものです。対象となる期間と割合は、公募回により異なります。
ウとして掲げられているのは、交付を受けた後の財産の扱いに関わる事態です。処分制限財産が無断で譲渡され、貸し付けられ、又は廃棄されていた事態と、処分制限財産が無断で補助の目的外に使用されていた事態が挙げられています。
出典(会計検査院)令和6年度決算検査報告 第3章第2節第14 独立行政法人中小企業基盤整備機構 不当事項 補助金(2)中小企業等事業再構築促進補助金が過大に交付されていたなどのもの(252)―(271)
会計検査院 検査報告データベース(令和6年度・当該項目)
この3類型の並びからは、返還が問題となる場面が一つではないことが分かります。アは実績報告の内容に関わるもの、イは経費と申請の要件に関わるもの、ウは交付を受けた後の財産の扱いに関わるものです。
報告書は、こうした事態が生じた原因についても記載しています。事業主体の側の事情として挙げられているのは、補助事業の適正な執行に対する認識が著しく欠けていたこと、又は認識が欠けていたことです。事業再構築の要件についての理解が十分でなかったこと、処分制限財産の処分に係る手続を適正に行う必要があることについての理解が十分でなかったことも挙げられています。これに加えて、受託事業者において20事業主体に対する指導等が十分でなかったことが挙げられています。機構において受託事業者に対する指導及び監督が十分でなかったことなども挙げられ、これらによると認められるとされています。事業主体の側の事情だけが挙げられているわけではありません。
前の年度の報告にも、同じ補助金についての不当事項が1件あります。令和5年度決算検査報告(293)は、補助対象事業費に補助の対象とならない経費を含めていたものとして掲げられたものです。前記イと同じ系統の事態が、前の年度から掲げられていることになります。
出典(会計検査院)令和5年度決算検査報告 第3章第2節第9 独立行政法人中小企業基盤整備機構 不当事項 補助金(3)中小企業等事業再構築促進補助金の補助対象事業費に対象とならない経費を含めていたもの(293)
会計検査院 検査報告データベース(令和5年度・当該項目)
経費を含めていたとされる事態で問題となるのは、手続の期間の定めに関わる点です。令和6年度の報告によれば、公募要領等は、再構築事業の実施期間内に、契約(発注)、納入、検収、支払、実績報告書の提出等に係る全ての手続を完了することを必要としています。令和5年度の報告によれば、「補助事業の手引き」等は、補助の対象となる経費を、補助事業実施期間に納品、検収及び支払までを完了したものとしています。いずれも、法律の条文ではなく、公募要領や手引きの定めです。実績報告の書類に書いた日付が、実際の納品・検収・支払の日付と合っているかという、具体的な点です。
4 意見表示で挙げられた状況――処分制限財産と事業化状況の報告
令和6年度決算検査報告には、同じ事業について、中小企業庁長官と機構の理事長に宛てた意見表示が載っています。検査の対象は、令和4年度から6年度までに機構が事業再構築補助金を交付した224事業主体が実施した225事業(交付額計61億6121万余円)です。
先に、報告書が使っている言葉を3つ押さえます。計画新規事業とは、事業計画書に記載された事業再構築のことです。既存事業等とは、再構築事業を実施する前から行っていた既存の事業と、計画新規事業とは別の新規事業とを合わせたものです。取得価格等とは、取得価格又は効用の増加価格のことです。
報告書は、この225事業における処分制限財産の使用状況を調べています。会計実地検査の時点で、既存事業等にのみ使用されているなどしていて、計画新規事業に使用されていなかった状況が見受けられたとしています。計画新規事業には使用されていたものの、既存事業等にも使用されていた状況も含まれます。その数は、83事業主体の83事業(225事業の36.8%)です。これに含まれる処分制限財産は317件です。取得価格等計28億8920万余円、事業再構築補助金相当額計16億2323万余円とされています。
内訳は、図表4に示されています。計画新規事業に使用されていないものとして、遊休30事業主体、既存事業等にのみ使用22事業主体、廃棄・譲渡等14事業主体が挙げられています。これとは別に、既存事業等にも使用が32事業主体です。複数の状況に該当する事業主体及び事業があるため、足しても計と一致しないと注記されています。
ここで、報告書自身が付した注記が重要です。
引用(令和6年度決算検査報告・図表4の注(3))「『既存事業等にのみ使用』及び『既存事業等にも使用』に該当する処分制限財産については、処分制限財産は原則として計画新規事業にのみ使用される必要があるとする使用範囲の考え方に基づき集計したものであり、交付規程等に定められた目的外使用に当たるとの判断に基づき集計したものではない。」
この注記は、図表4の区分のうち、既存事業等にのみ使用と既存事業等にも使用に当たるものについてのものです。これらは使用範囲の考え方に当てはめて数えた数であって、目的外使用に当たるとの判断に基づく数ではないと、報告書自身が明示しています。残りの区分についても、同じことがいえると考えております。遊休は使用されていないという区分であり、廃棄・譲渡等は使用とは別の処分の態様による区分です。いずれも、補助の目的に反する使用があったとの認定を示すものではありません。そうすると、83事業主体という数を、そのまま返還すべき事案の数として読むことはできないと考えております。
なお報告書は、中小企業庁及び機構が、処分制限財産は原則として事業計画書に記載された事業再構築にのみ使用される必要があるとしており、既存事業等に使用する場合には原則として目的外使用に当たるとしている、と記載しています。これは交付主体の側の考え方として報告書に書かれているもので、裁判所の判断ではありません。補助事業にも使用している場合の整理については既存事業との併用と「補助金の『目的外使用』とは何か」で、当サイトの考え方を述べています。
報告書は、計画新規事業に使用していない理由について、事業主体に確認した結果も記載しています。37事業主体は、経済社会情勢の変化により、コロナ禍において策定した事業計画の内容が必ずしも現状に適合しなくなったなどとしていたとされています。その結果、想定していた利益を確保できず、計画新規事業を休止したためなどとしていたとされています。14事業主体は、既存事業等に処分制限財産を使用しても問題ないと認識していたためなどとしていたとされています。計画どおりに続けられなくなった事情と、使用範囲の理解が足りなかった事情とが、分けて書かれています。
交付主体の側の対応についても、記載があります。報告書によれば、機構及び事務局は、令和6年度末までに、1,160事業主体の1,161事業に対して随時調査を実施しました。随時調査とは、再構築事業の終了後に、予告なく実地で行われる検査です(交付規程に根拠があるものとして報告書が説明しています)。この随時調査により、69事業主体の69事業において処分制限財産の目的外使用が生じていることなどを把握したとされています。そして、事業主体に対して、計画新規事業に使用することや、残存簿価相当額に補助率を乗ずるなどした額を納付する手続を求めるなどしていたとされています。目的外使用が把握された場合の対応として報告書が挙げているのは、交付決定の取消しではありません。
もう一つの柱は、事業化状況の報告です。報告書は、事業化状況・知的財産権報告書の記載を確認した結果も挙げています。計画新規事業の売上実績がないのに売上実績ありとして報告していた事態、既存事業等も含めた売上額を計上していた事態が挙げられています。事業化段階を利益が上がっている段階としながら、原価が売上額を上回ると報告していた事態も挙げられています。これらの純計は、49事業主体の49事業(交付額計13億2329万余円)とされています。この報告の義務は、補助事業終了年度の終了後を初回として、以降5年間続きます(同交付規程25条1項)。
なお報告書は、処分制限財産についての83事業主体と、事業化状況の報告についての49事業主体の純計を、108事業主体108事業(24億7315万円)としています。そして、この項目には、前記3の不当事項の項目を併せて参照するよう付記されています。数の読み方には、この付記も踏まえた注意が必要であると考えております。
出典(会計検査院)令和6年度決算検査報告 第3章第2節第14 独立行政法人中小企業基盤整備機構 意見を表示し又は処置を要求した事項(令和7年10月27日付け 中小企業庁長官・独立行政法人中小企業基盤整備機構理事長宛て)
会計検査院 検査報告データベース(令和6年度・当該項目)
次のような場合は、回答を出す前にご相談ください
- 実地検査や随時調査の後に、返還や納付を求める連絡が来た
- 補助金で取得した設備を、計画した新規事業以外にも使っていると指摘された
- 実績報告の日付や経費の計上について、説明を求める書面が届いた
関連ページ: 交付決定の取消し・返還請求(対応ページ)/補助金の立入検査(実地検査)は犯罪捜査なのか(Q&A)/交付決定取消しの事前通知が届いたら(Q&A)/補助金の返還を求められたら、加算金・延滞金は払うのか(Q&A)
5 類型ごとに、手元の書面で確かめること
前記3・4の類型は、いずれも手元の書面から確かめられる事柄に対応しています。指摘を受けた類型に応じて、次の順で書面を並べていただくのがよいと考えております。様式の番号は、中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程のものです。
- 実績報告の内容を問われている場合(前記3のアの類型)――発注書、契約書、納品書、検収の記録、請求書、振込の記録を日付の順に並べ、実績報告書に書いた日付と突き合わせる。公募要領等は、補助事業の実施期間内に契約(発注)から実績報告書の提出までの手続を完了することを必要としているため、期間の外にはみ出している手続がないかを見る。
- 補助の対象とならない経費を含めていると言われた場合(イの類型)――交付決定の経費区分と、実際の支出の内訳を対照する。対象外とされた費目がどれなのか、通知に書かれているかを確かめる。考え方は「補助金の『減額』とは何か」にあります。
- 申請時の要件を問われている場合(イの類型のうち、売上高等減少要件・新規性に関わるもの)――売上高等減少要件については、算定の基礎とした月ごとの数字の出どころ(勘定科目残高推移表等)を揃える。新規性については、事業計画書に書いた商品・サービスと、従前提供していた商品・サービスとの違いが分かる資料を揃える。
- 処分制限財産の処分を問われている場合(ウの類型のうち、譲渡・貸付け・廃棄に関わるもの)――取得財産等管理台帳(様式第7)で、単価50万円(税抜)以上の財産と処分制限期間(法定耐用年数を準用した期間)を確認する。処分の前には承認申請書(様式第12-1。同交付規程24条3項)が必要とされている。例外として、災害又は火災(補助事業者等の責めに帰すことができない事由による場合に限る。)により使用できなくなった場合や、立地上又は構造上危険な状態にある場合の取壊し・廃棄については、財産処分報告書(様式第12-4。同条5項)の提出により承認を受けたものとみなすことができるとされている。手続の違いは「補助事業を続けられないとき」で整理しています。
- 計画した新規事業以外にも使っていると言われた場合(ウの類型のうち、目的外使用に関わるもの)――事業計画書に記載した事業を現にどこまで実施しているのかを、売上の記録・稼働の記録・写真で示せるようにする。両方に使っている場合の整理は既存事業との併用にあります。
- 事業化状況の報告を問われている場合――提出済みの事業化状況・知的財産権報告書(様式第13。同交付規程25条1項)の控えを並べ、報告した事業化段階と、売上額・原価の記載が互いに合っているかを見る。処分制限期間と報告の関係は「事業再構築補助金は5年たてば自由に処分できるのか」で述べています。
- 事業を続けられない場合――事業計画期間において事業計画の全部若しくは一部を廃止しようとするとき、又は他に承継させようとするときは、届出書(様式第14-1又は様式第14-2。同交付規程26条1項)を提出することとされている。承継による解決は事業譲渡で、やめ方ごとの違いは「補助事業を途中でやめたい・縮小したいとき」で扱っています。
6 会計検査院に指摘されたら、次に何をするか
会計検査院から指摘を受けたという説明だけが届いている段階では、交付決定の取消しも、返還の命令もされていません。交付決定を取り消し、返還を命ずるのは、会計検査院ではありません。検査報告には、検査の結果法律、政令若しくは予算に違反し又は不当と認めた事項の有無と、意見を表示し又は処置を要求した事項及びその結果を掲記するものとされています(会計検査院法29条3号・7号・8号)。返還を命ずるのは、前記1のとおり交付主体です(補助金適正化法18条1項・2項)。検査報告に掲げられたこと自体が、返還の義務を生じさせるものではないと考えております。
検査の場面では、資料の提出や質問を受けることがあります。会計検査院は、常時又は臨時に職員を派遣して実地の検査をすることができるとされ、実地の検査を受けるものはこれに応じなければならないとされています(会計検査院法25条)。また、会計検査院は、検査上の必要により、検査を受けるものに帳簿、書類その他の資料若しくは報告の提出を求め、又は関係者に質問し若しくは出頭を求めることもでき、その求めを受けたものはこれに応じなければならないとされています(同法26条)。交付規程も、補助事業終了後に、会計検査院、経済産業省又は中小機構が、補助事業に関して予告なく実地検査を実施することができるとしています(中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程27条4項前段。令和3年6月15日規程令3第13号・規程令7第5号までの改正を経た版で確かめました。公募の回次により版が異なることがありますので、お手元の交付決定通知書に係る版をご確認ください)。
もっとも、会計検査院が行う実地の検査は、交付主体が補助金適正化法23条1項に基づいて行う報告の求め・立入検査・質問とは、根拠となる条文が異なります。後者については、報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して答弁せず、若しくは虚偽の答弁をすることが、罰則の対象とされています(補助金適正化法31条3号)。検査の場で法的な評価についてその場の判断を迫られたときの考え方は「補助金の立入検査(実地検査)は犯罪捜査なのか」で、資料の求めにどこまで応じるかは「行政から求められた資料は、どこまで出さなければならないのか」で述べています。
検査の結果を踏まえて交付主体が取消しをしようとするときは、取消しを予定する旨の通知(事前通知)が先に送られることがあります。この段階では、まだ取消しはされていません。期限までに書面で意見を述べることができますので、何を確かめ、何を集めるかは「交付決定取消しの事前通知が届いたら」で述べています。なお、補助金等の交付に関する処分については、行政手続法2章・3章の規定は適用されません(補助金適正化法24条の2)。意見を述べる機会は、交付する側が設けた手続として与えられているものですので、期限と方法は事前通知の記載によります。
補助事業の実施の状況を調べないまま取消しがされた場合の考え方は、「補助事業の実施の状況を調べないまま交付決定を取り消すことは許されるのか」で述べました。法が交付決定をした後の手段を段階的に置いていることは、後記7でも触れます。
取消しがされると、その取消しに係る部分について返還を命ずることになります(補助金適正化法18条1項)。加算金は、同法17条1項による取消しに伴って返還を命ぜられたときに生ずるものとされており(同法19条1項)、納期日までに納付しなかったときの延滞金も定められています(同条2項)。率と免除の定めは「補助金の返還を求められたら、加算金・延滞金は払うのか」で述べています。
出訴期間を数えはじめるのは、検査の結果を伝える連絡や検査報告の公表の時点ではなく、取消しの通知という処分があったことを知った日です(行政事件訴訟法14条1項)。6か月を過ぎた場合の同項ただし書の扱いは、「交付決定の取消しから6か月を過ぎたら、取消訴訟は起こせないのか」で扱っています。
7 指摘があることと、取消しができることとは別である
ここまでに見たとおり、令和6年度決算検査報告が不当と認めた事態は、虚偽の実績報告に関わるものだけではありません。補助対象事業費に補助の対象とならない経費を含めていたとされたもの、申請時の要件を満たしていなかったとされたもの、交付を受けた後の財産の扱いが問題とされたものが掲げられています。手続の理解が足りなかったとされた事業主体も含まれています。もっとも、これは報告書が不当と認めた事態の内訳であって、返還が必要であると裁判所が判断した事案の内訳ではありません。
他方で、検査報告に挙げられていることから、交付決定の取消しがそのまま導かれるものではないと考えております。報告書の記載自体から挙げられる理由が、3つあります。
(1)前記4で引用したとおり、報告書は、処分制限財産の集計のうち既存事業等にのみ使用・既存事業等にも使用に当たるものについて、使用範囲の考え方に基づくものであって、目的外使用に当たるとの判断に基づくものではないと述べています。残りの区分も、使用されていないという区分と、使用とは別の処分の態様による区分であって、補助の目的に反する使用があったとの認定を示すものではありません。
(2)意見表示の宛先は、中小企業庁長官と機構の理事長です。その内容は、事業主体への周知、使用状況を把握するための方策の検討、報告方法の見直しであって、個々の事業主体の交付決定を取り消すことではありません。
(3)報告書によれば、随時調査で目的外使用が把握された場合に交付主体がとった対応は、計画新規事業に使用することや納付の手続を求めるなどすることでした。
そして、交付決定を取り消すことができるかどうかは、指摘された事実が補助金適正化法17条1項の3つの取消事由のどれに当たるのか、当たるとして現に取消権を行使してよいのかという、交付主体の判断の問題です。この2段目の判断については「補助金の交付決定の取消しに裁量はあるのか」で、裁判例と解説書を引いて述べています。法は、交付決定をした後の手段を、段階的に置いています。遂行の状況の報告(同法12条)、遂行命令・一時停止命令(同法13条)、額の確定に当たっての調査(15条)、是正措置命令(同法16条1項)を置いており、取消しはその先に置かれた規定です。この順番については「補助事業の実施の状況を調べないまま交付決定を取り消すことは許されるのか」で述べました。
したがって、検査で指摘を受けたという説明を受けたときも、確かめる順序は変わらないと考えております。通知の記載から読み取るのは、次の4点です。指摘された事実が何か、その事実が3つの取消事由のどれに当たるとされているのか。根拠として挙げられているのが法律の条文なのか交付規程なのか、求められているのが18条1項の返還なのか、同条2項の返還なのか、それとも財産処分に伴う納付なのか。確かめる作業は、ここから始まります。根拠条文の挙げ方そのものについては「交付規程に違反したと言われたら」で扱っています。
取消通知には、原則として処分があったことを知った日から6か月という出訴期間があります(行政事件訴訟法14条1項)。もっとも、同項には「正当な理由があるときは、この限りでない。」とのただし書があります。この点は「交付決定の取消しから6か月を過ぎたら、取消訴訟は起こせないのか」で扱っています。期間が過ぎるほど、資料も集めにくくなり、主張の組み立ても難しくなります。通知や事前通知が届いた段階で、ご相談ください。
よくある質問
- 補助金の返還を求められた事例には、どのようなものがありますか。公開されている例を知りたいです。
会計検査院の決算検査報告が公表資料として参照できます。令和6年度決算検査報告は、事業再構築補助金について、機構・受託事業者及び226事業主体における227事業を対象に会計実地検査を行い、20事業主体の20事業について、役務の提供等の実態を伴わない虚偽の実績報告書等に基づく過大な交付、補助対象事業費に補助の対象とならない経費を含めるなどしていた事態、処分制限財産が無断で処分されていた事態の3つに整理しています。不当と認められた補助金は計344,613,095円とされています。
出典:会計検査院 令和6年度決算検査報告 第3章第2節第14 独立行政法人中小企業基盤整備機構 不当事項 補助金(2)(252)―(271)
- 検査報告に載っている類型は、どれも不正受給に当たるものなのですか。
令和6年度決算検査報告が掲げている類型は、3つです。アは、役務の提供等の実態を伴わない虚偽の実績報告書等に基づき補助金が過大に交付されていた事態です。イは、補助対象事業費に補助の対象とならない経費を含めるなどしていた事態で、売上高等減少要件や業態転換の新規性といった申請時の要件に関するものも含まれています。ウは、処分制限財産が無断で処分されていた事態です。報告書は、こうした事態が生じた原因として、処分制限財産の処分に係る手続についての理解が十分でなかったことや、受託事業者の指導等・機構の指導監督が十分でなかったことも挙げています。したがって、報告書が掲げているものを一括りに不正受給と呼ぶことはできないと考えております。もっとも、これは報告書が不当と認めた事態の内訳であり、返還が必要であると裁判所が判断した事案の内訳ではありません。
交付決定の取消し・返還請求(対応ページ) →出典:会計検査院 令和6年度決算検査報告 第3章第2節第14 独立行政法人中小企業基盤整備機構 不当事項 補助金(2)(252)―(271)
- 会計検査院の検査で指摘を受けたと言われました。交付決定は取り消されるのでしょうか。
指摘があることと、交付決定を取り消せることとは別の問題であると考えております。令和6年度決算検査報告は、処分制限財産の使用状況の集計のうち既存事業等にのみ使用・既存事業等にも使用に当たるものについて、原則として計画新規事業にのみ使用される必要があるとする使用範囲の考え方に基づき集計したものであり、交付規程等に定められた目的外使用に当たるとの判断に基づき集計したものではないと注記しています。残りの区分も、使用されていないという区分と、使用とは別の処分の態様による区分であって、補助の目的に反する使用があったとの認定を示すものではありません。また、同報告の意見表示は、中小企業庁長官と機構の理事長に宛てて、事業主体への周知、使用状況を把握するための方策の検討、報告方法の見直しを求めるものです。取消しができるかどうかは、指摘された事実が補助金適正化法17条1項の取消事由に当たるか、当たるとして現に取消権を行使してよいかという交付主体の判断の問題として、別に検討することになります。
補助金の交付決定の取消しに裁量はあるのか(Q&A) →出典:会計検査院 令和6年度決算検査報告 第3章第2節第14 独立行政法人中小企業基盤整備機構 意見を表示し又は処置を要求した事項(令和7年10月27日付け)
- 補助金で取得した設備を、計画した新規事業のほかに既存の事業にも使っています。返還になりますか。
令和6年度決算検査報告には、中小企業庁及び機構が、処分制限財産は原則として事業計画書に記載された事業再構築にのみ使用される必要があるとし、既存事業等に使用する場合には原則として目的外使用に当たるとしている旨が記載されています。もっとも、これは交付主体の側の考え方として報告書に書かれているもので、裁判所の判断ではありません。当サイトでは、補助事業にも使用している以上は補助の目的に沿った使用がされていると整理する余地があると考えております。報告書も、既存事業等にも使用に当たるものの集計は使用範囲の考え方に基づくもので、目的外使用に当たるとの判断に基づくものではないと注記していますので、指摘を受けた段階でその場で認める必要はありません。
既存事業との併用(対応ページ) →出典:会計検査院 令和6年度決算検査報告 第3章第2節第14 独立行政法人中小企業基盤整備機構 意見を表示し又は処置を要求した事項(令和7年10月27日付け)
※ 本稿は、執筆時点の法令・公表資料に基づく一般的な整理であり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。本稿で引いた事例は、会計検査院が公表している決算検査報告に掲げられたものに限り、個々の事業主体の名称・所在地・業種及び事業主体ごとの金額は記載していません。会計検査院の決算検査報告の数字は、いずれも検査報告データベースの本文により確認したものです。