執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 何を求められているのか
補助金を受け取り、実績報告も済んで額の確定も受けた後になって、「補助金に係る消費税等仕入控除税額を返還せよ」という通知が届くことがあります。取消しの話でもなく、設備の処分の話でもありませんので、何を言われているのか分からないまま納付期限だけが迫る、という形になりがちです。
言われているのは、補助対象経費に含まれていた消費税のうち、消費税の申告で仕入税額控除を受けた部分を返してほしい、ということです。補助金の交付を受けた経費について仕入税額控除を受けると、控除された分だけ手元に残る金額が増えますので、その分の補助金が重ねて交付された状態になります。この重なりを解消するための仕組みです。
公募要領は、申請の段階でこの金額を差し引いて書くものとしています。中小企業新事業進出促進補助金の公募要領(第3回・1.1版・令和8年1月)は、補助対象経費の考え方として次のように述べています。
引用(中小企業新事業進出促進補助金 公募要領(第3回)1.1版37頁)「交付申請の際、消費税及び地方消費税額等仕入控除税額を減額して記載しなければなりません。」「補助事業者が課税事業者(免税事業者及び簡易課税事業者以外)の場合、補助事業に係る課税仕入に伴い、消費税及び地方消費税の還付金が発生することになるため、この還付と補助金交付が重複しないよう、課税仕入の際の消費税及び地方消費税相当額について、原則としてあらかじめ補助対象経費から減額しておくこととします。この消費税及び地方消費税相当額を「消費税等仕入控除税額」といいます。」
もっとも、申請の時点では、その年度の消費税の申告がまだ済んでいません。そのため、申告によって金額が確定した後に報告させ、確定した額について返還を命ずる、という後払いの仕組みが置かれています。後から通知が来るのは、この仕組みによるものです。
この趣旨については、自治体の補助金の事案で、裁判所が正面から述べた判決があります。東京地判令和8年1月29日(令和6年(ワ)第35396号。LLI/DB判例秘書登載。本年1月の判決であり、上訴審の帰趨は確認できていません)は、次のように述べています。
引用(東京地判令和8年1月29日)「消費税仕入控除税額相当額の支払を求める趣旨は、補助金の収入は、非課税売上として計上されるため、消費税課税対象外となる一方で、間接補助事業者等が補助事業において支払った経費に含まれる消費税は、仕入税額控除の対象とすることができることから、補助金に係る消費税について、仕入税額控除を受けた際は、控除金に含まれる補助金額が間接補助事業者等に重複して交付されることになるため、公平の観点から、これを保有させ続けることは相当ではないという点にある」
2 根拠は交付規程(自治体では交付要綱)の条項です
この返還の根拠は、補助金適正化法ではなく、交付規程の条項です。中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。令和7年6月30日施行の改正までのもの)は、次のように定めています。
引用(同交付規程21条(消費税等仕入控除税額の確定に伴う補助金の返還))「補助事業者は、本補助金に係る消費税及び地方消費税に係る仕入控除税額(補助対象経費に含まれる消費税及び地方消費税相当額のうち、消費税法(昭和63年法律第108号)の規定により仕入れに係る消費税額として控除できる部分の金額及び当該金額に地方税法(昭和25年法律第226号)の規定による地方消費税の税率を乗じて得た金額の合計額に補助率を乗じて得た金額をいう。)(以下「消費税等仕入控除税額」という。)が生じる場合は、消費税及び地方消費税の申告により消費税等仕入控除税額が確定した後に、様式第10により速やかに中小機構に報告しなければならない。」「2 中小機構は、前項の報告がなされた場合には、当該消費税等仕入控除税額の全部又は一部の返還を命ずる。」「3 第18条第3項の規定は、前項の返還の規定について準用する。」
条番号と様式の番号は、補助金ごとに、また版ごとに違います。中小企業新事業進出促進補助金交付規程(令和7年4月21日規程令7第1号。規程令8第2号による改正までのもの)も21条・様式第10で同じ文言ですが、中小企業省力化投資補助金交付規程(令和6年6月24日規程令6第4号。規定令8第9号による改正までのもの)21条1項は「補助事業完了後に、消費税及び地方消費税の申告により補助金に係る消費税等仕入控除税額が確定した場合には、様式第5による報告書により速やかに中小機構に報告しなければならない。」と、報告の時期の書き方と様式が違います。お手元の通知が引いている条項が、どの補助金のどの版のどの条文なのかを、まず確かめてください。
自治体の補助金では、交付規程ではなく交付要綱に同じ型の条項が置かれています。前記の東京地判令和8年1月29日の事案でも、交付要綱に「補助事業者は、補助事業完了後に、消費税の申告により補助金に係る消費税仕入控除税額が確定した場合は、別紙第4号様式により速やかに知事に報告しなければならない。この場合において、知事が当該仕入控除税額の全部又は一部の納付を命じたときは、補助事業者は、これを納付しなければならない。」という条項が置かれていました。
交付決定の取消しとは別の経路です
ここが実務上大きいところです。この返還は、交付決定の取消し(補助金適正化法17条1項)を経由しません。取消しの要件が立つかどうかという議論とは、別の経路です。取消しの要件そのものは、交付決定の取消し・返還請求のページで扱っています。
前記の東京地判令和8年1月29日も、交付要綱の当該条項には交付決定を取り消す旨の定めがないという点を踏まえたうえで、「実質的には不当利得返還の性質を有すると見るのが相当であり、本件補助金の一部返還と整理するのが相当である」と述べ、納付の命令が交付要綱のいう「知事が補助金の返還を命じた場合」に当たるとして、延滞金の条項の適用を認めました。
そうすると、加算金と延滞金の扱いも分かれます。補助金適正化法19条1項は、加算金を「第十七条第一項の規定又はこれに準ずる他の法律の規定による処分に関し、補助金等の返還を命ぜられたとき」に限っています。消費税等仕入控除税額の返還命令は17条1項の処分によるものではありませんので、加算金の対象ではないと考えております。他方、延滞金は別です。前記交付規程21条3項が準用する同18条3項は、「前項の補助金の返還期限は、当該命令のなされた日から20日以内とし、期限内に納付がない場合は、未納に係る金額に対して、その未納に係る期間に応じて年利10.95パーセントの割合で計算した延滞金を徴するものとする。」と定めています。返還期限が命令の日から20日以内と短いことは、先に押さえておいてください。加算金・延滞金そのものの考え方は、Q&A「加算金・延滞金は払うのか」で述べています。
3 報告は、申告で確定した後に行うものとされています
報告の時期は、「消費税及び地方消費税の申告により消費税等仕入控除税額が確定した後に」とされています(前記交付規程21条1項)。様式第10(消費税額等仕入控除税額の確定に伴う報告書)に書くのは、交付規程18条1項による額の確定額と、確定した仕入控除税額であり、注記は「別紙として積算の内訳を添付すること」としています。
したがって、申告が済んでいない段階では、報告すべき金額がまだ確定していません。実績報告や額の確定の時点で金額を出すよう求められても、その時点で確定していないのであれば、確定した後に様式に従って報告することになる、という整理が条文の文言に沿うものと考えております。期限の管理としては、申告の時期を基準に社内の予定を組んでおくことになります。
また、条項は「消費税等仕入控除税額……が生じる場合は」という書き方です。免税事業者である場合や、簡易課税制度の適用を受けている場合には、補助対象経費に含まれる消費税額のうち「仕入れに係る消費税額として控除できる部分の金額」という形で控除した部分がないという整理になる余地があります。前記の公募要領も、減額して記載すべき場合を「課税事業者(免税事業者及び簡易課税事業者以外)の場合」としています。もっとも、ここは税務の当てはめの問題ですので、顧問税理士と並行して確かめることになります。士業の先生方との役割分担については、コラム「士業との連携」で述べています。
4 金額は検算できます
通知に書かれた金額をそのまま受け入れる前に、計算の順序を確かめてください。前記交付規程21条1項の定義は、次の順序で組まれています。
- 補助対象経費に含まれる消費税及び地方消費税相当額のうち、消費税法の規定により仕入れに係る消費税額として控除できる部分の金額を出す。
- その金額に、地方税法の規定による地方消費税の税率を乗じて得た金額を足して、合計額を出す。
- その合計額に補助率を乗じる。
補助率を乗じる点が落ちていないか、補助対象経費の範囲が額の確定の通知(様式第8)と合っているか、課税売上割合によって控除できる部分が一部にとどまる場合にその按分が反映されているか、そして申請の段階で既に減額して申請していた分が二重に差し引かれていないか。このあたりは、申告書と付表、額の確定の通知、交付申請書の経費明細を並べれば、事業者の側でも確かめられます。前記交付規程21条2項は「全部又は一部の返還を命ずる」という書き方ですので、金額そのものが当然に確定しているわけではありません。
返還額の計算の考え方は、コラム「補助事業を続けられないとき――手続の順番、返還額の計算、返還が生じない選択肢」でも述べています。
次のような場合は、お返事やご納付の前にご相談ください
- 消費税等仕入控除税額の返還(納付)を命ずる通知が届き、納付期限が迫っている
- 報告をしてから何年も経った後に、改めて納付を求められた
- 通知に書かれた金額の計算根拠が示されておらず、検算ができない
関連ページ: 補助金の返還を求められたら、加算金・延滞金は払うのか(Q&A)/補助金の返還請求に時効はあるのか(Q&A)
5 何年も経ってから求められた場合
この類型では、報告をしてから長い時間が経った後に納付を求められることがあります。前記の東京地判令和8年1月29日の事案は、事業者が平成25年11月18日と平成27年2月8日に報告をし、自治体が令和4年8月に「返還手続が完了していなかった」旨の連絡文書を送り、令和5年10月10日に納付を命じたというものでした。報告から約9年11か月、約7年8か月が経っています。
事業者の側は、権利の濫用であると主張しました。帳簿及び証拠書類の保管期間(事業完了後5年間)を過ぎた後に命じられたことも挙げています。しかし判決は、「原告の事務遅滞があったとしても、本件請求が本件要綱の内容から逸脱するものではなく、被告が本件支払債権を行使されることはないとの認識を抱くことの根拠とはなり得ない」として、権利濫用の主張を採用しませんでした。保管期間についても、帳簿等の保管は消滅時効期間と関連付けて定められているわけではなく、「帳簿等が存在しない場合に上記債権の行使が不可能となるものでもない」と述べています。
結論として、認容されたのは元本2001万2441円と、納付期限の翌日から支払済みまで年10.95パーセントの割合による延滞金です。年10.95パーセントという率は、放置した期間がそのまま金額になって現れます。期限までに納められない見込みであれば、何もしないという選択は採らないほうがよいと考えております。
なお、この事案で正面から争われたのは、支払を求める債権の消滅時効の期間でした。時効の期間と起算点の考え方は、Q&A「補助金の返還請求に時効はあるのか」で扱っていますので、そちらをご覧ください。長期間が経った後の請求について、時効のほかに主張できることがないかという検討は、個別の経過によって変わります。
6 どう動くか
納付期限が命令の日から20日以内とされている補助金もありますので、順序を決めて動くことになります。
- 通知が引いている条項を特定する。どの補助金の、どの版の交付規程(交付要綱)の何条に基づく命令なのかを、通知の文面から拾います。取消しの通知と同じ書式で来ることがありますので、交付決定の取消しが併せてされているのかどうかも確かめてください。
- 額の確定の通知(様式第8)、交付申請書の経費明細、消費税の申告書と付表、報告の控え(様式第10等)を並べる。計算の検算は、この4点で足りることが多いと考えております。
- 顧問税理士に、対象の課税期間について仕入税額控除を受けた部分の金額と、課税売上割合による按分の有無を確かめる。申請の段階で既に減額していたのであれば、その経緯も残しておきます。
- 期限までに検算が終わらない場合は、期限内に、検算中である旨と見込みの時期を書面又はメールで伝え、控えを残す。口頭での連絡だけでは、後から経過を示すことができません。
- 分割納付の取決めや残額の確認書に署名をする前に、金額を争うかどうかを決める。金額を認める趣旨の書面を出した後では、計算の誤りを指摘することが難しくなります。
納付命令という形で金銭の支払を求められたときに何から確かめるかという一般の順序は、コラム「納付命令」と、返還・残存簿価の返納を求められたらのページで述べています。
消費税等仕入控除税額の返還(納付)を命ずる通知が届いた事業者の方、報告から何年も経った後に改めて納付を求められた方、通知の金額の計算根拠が示されずに検算ができない方は、お返事やご納付の前にご相談ください。交付決定通知書、交付規程(交付要綱)、額の確定の通知、交付申請書の経費明細、消費税の申告書と付表、報告の控え、届いた通知があれば、計算の検算と、争う余地があるかどうかの検討ができます。顧問先からこのご相談を受けている税理士・中小企業診断士・行政書士の先生方からのお問い合わせも承ります。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。令和7年6月30日施行の改正までのもの)21条1項(本補助金に係る消費税及び地方消費税に係る仕入控除税額(補助対象経費に含まれる消費税及び地方消費税相当額のうち、消費税法の規定により仕入れに係る消費税額として控除できる部分の金額及び当該金額に地方税法の規定による地方消費税の税率を乗じて得た金額の合計額に補助率を乗じて得た金額をいう。)が生じる場合は、消費税及び地方消費税の申告により消費税等仕入控除税額が確定した後に、様式第10により速やかに中小機構に報告しなければならない)、21条2項(中小機構は、前項の報告がなされた場合には、当該消費税等仕入控除税額の全部又は一部の返還を命ずる)、21条3項(第18条第3項の規定は、前項の返還の規定について準用する)
- 同交付規程18条3項(前項の補助金の返還期限は、当該命令のなされた日から20日以内とし、期限内に納付がない場合は、未納に係る金額に対して、その未納に係る期間に応じて年利10.95パーセントの割合で計算した延滞金を徴するものとする)、様式第10(消費税額等仕入控除税額の確定に伴う報告書。記載事項は交付規程18条1項による額の確定額と確定した仕入控除税額。注記は「別紙として積算の内訳を添付すること」)
- 中小企業新事業進出促進補助金交付規程(令和7年4月21日規程令7第1号。規程令8第2号による改正までのもの)21条(同じ文言・様式第10)、中小企業省力化投資補助金交付規程(令和6年6月24日規程令6第4号。規定令8第9号による改正までのもの)21条1項(補助事業完了後に、消費税及び地方消費税の申告により補助金に係る消費税等仕入控除税額が確定した場合には、様式第5による報告書により速やかに中小機構に報告しなければならない)・同条3項(第19条第3項の規定を準用)
- 中小企業新事業進出促進補助金 公募要領(第3回)1.1版(令和8年1月)37頁(交付申請の際、消費税及び地方消費税額等仕入控除税額を減額して記載しなければなりません。補助事業者が課税事業者(免税事業者及び簡易課税事業者以外)の場合、補助事業に係る課税仕入に伴い、消費税及び地方消費税の還付金が発生することになるため、この還付と補助金交付が重複しないよう、課税仕入の際の消費税及び地方消費税相当額について、原則としてあらかじめ補助対象経費から減額しておくこととします)
- 補助金適正化法19条1項(補助事業者等は、第十七条第一項の規定又はこれに準ずる他の法律の規定による処分に関し、補助金等の返還を命ぜられたときは、政令で定めるところにより、その命令に係る補助金等の受領の日から納付の日までの日数に応じ、当該補助金等の額につき年十・九五パーセントの割合で計算した加算金を国に納付しなければならない)
- 補助金適正化法17条1項(決定の取消)
- 東京地判令和8年1月29日(令和6年(ワ)第35396号。補助金返還請求事件。LLI/DB判例秘書登載。上訴審の帰趨は確認できていません)(自治体の補助金の交付要綱に置かれた消費税仕入控除税額の報告・納付条項に基づく請求を認容し、元本2001万2441円及び納付期限の翌日から年10.95パーセントの割合による延滞金の支払を命じたもの。支払を求める趣旨は「補助金に係る消費税について、仕入税額控除を受けた際は、控除金に含まれる補助金額が間接補助事業者等に重複して交付されることになるため、公平の観点から、これを保有させ続けることは相当ではないという点にある」とし、「実質的には不当利得返還の性質を有すると見るのが相当であり、本件補助金の一部返還と整理するのが相当である」と述べる。報告から約9年11か月・約7年8か月が経過した後の納付命令について、権利濫用の主張を採用しなかった)
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。