執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 根拠を二つに分け、争点を三つに分ける
補助金で建てた建物、改装した店舗、設置した構築物について、建築基準法や都市計画法の違反を指摘されることがあります。建築確認を受けていなかった、確認を受けた内容と現況が違う、市街化調整区域に許可なく建てていた、といった指摘です。このとき、補助金の側で言われていることは、条文の上では二つに分かれます。
一つは、法律の取消事由、すなわち補助金適正化法17条1項です。もう一つは、交付規程に置かれた取消事由です。以下、交付規程の条数と文言は、中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。令和7年6月30日施行の改正までのもの)のものを引きます。本補助金について補助金適正化法が及ぶのは、中小機構法16条による準用です。交付規程の条数は補助金ごと・版ごとに違いますので、お手元の交付決定通知書に書かれている交付規程の名称と版を先にお確かめください。
この二つは、文言が同じではありません。そして、文言の違いが、そのまま結論の違いになります。そのうえで、この類型で争うことになる点は、次の三つに分かれます。
- その違反が、17条1項にいう「補助事業等に関して」のものか(下記2・3)。
- 取消事由に当たるとして、交付決定の全部を取り消すことが相当か(下記4)。
- 是正が可能であり、是正の経過が考慮されているか(下記5)。
補助金の返還が必要になる場面がそれほど広いものではないことは、コラム「補助金の支払が遅いとき」でも述べているとおりです。もっとも、他の法令の違反という類型については、交付規程22条1項1号が「法令…に違反した場合」を取消事由として正面から掲げており、これを根拠に交付決定の全部を取り消して返還を命ずる運用が現にあります。ですから、この類型では、返還が限定的であることを一般論として述べるのではなく、上の三つの争点を分けて組み立てることになります。
2 17条1項の取消事由は「補助事業等に関して」の違反に限られています
引用(補助金適正化法17条1項)「各省各庁の長は、補助事業者等が、補助金等の他の用途への使用をし、その他補助事業等に関して補助金等の交付の決定の内容又はこれに附した条件その他法令又はこれに基く各省各庁の長の処分に違反したときは、補助金等の交付の決定の全部又は一部を取り消すことができる。」
読んでいただきたいのは、「その他補助事業等に関して」という部分です。この語は、そのあとに並ぶ「交付の決定の内容」「これに附した条件」「その他法令」「これに基く各省各庁の長の処分」の全部にかかっています。つまり、法令違反が取消事由になるのは、その違反が補助事業等に関してのものであるときであって、法令違反であれば何でもよいという条文ではないと考えております。
そうすると、他の法令の違反を指摘されたときに、まず切り分けるのは次の点になります。
- 違反を指摘されている部分が、補助対象経費で取得し、又は効用の増加した財産そのものなのか。
- それとも、同じ敷地にある別の建物、補助事業の前から存在する既存部分、補助金を使っていない別の事業の設備なのか。
- 違反が、補助事業として申請し交付の決定を受けた内容(計画した用途・規模・場所)と食い違っていることによるものなのか、それとも補助事業の内容とは関わりのない手続の欠落なのか。
補助対象物件そのものが違反しているという場合は、「補助事業等に関して」の違反に当たり得ます。これに対し、補助金を使っていない別棟や別事業についての違反は、文言の上で17条1項の取消事由に当たらないと考えております。実地検査や外部からの指摘をきっかけとして話が始まった場面では、事業者の施設全体が一度に問題とされ、補助対象物件とそれ以外の区別がされないまま、交付決定の全部の取消しが示されることがあります。図面、工事の請負契約書とその内訳書、取得財産等管理台帳(交付規程23条2項・様式第7)を並べて、違反の対象と補助対象物件の対応関係を一つずつ示すのが、最初の作業になります。
なお、違反をしたのが自社ではなく工事を請け負った業者であった場合の切り分けは、Q&A「外注先や再委託先がルール違反をしたら、自分の交付決定まで取り消されるのか」で述べています。
3 交付規程22条1項1号を、法より広く読むことはできません
引用(中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程22条1項柱書・1号)「中小機構は、第12条第1項第4号の補助事業の全部若しくは一部の中止若しくは廃止の申請があった場合又は次の各号のいずれかに該当する場合には、第9条第1項の交付の決定の全部若しくは一部を取り消し、又は変更することができる。」「(1)補助事業者が、法令、本規程又は本規程に基づく中小機構の処分若しくは指示に違反した場合」
交付規程の1号は、「法令…に違反した場合」と書くだけで、「補助事業等に関して」という限定を置いていません。文言だけを見れば、補助事業と関わりのない法令違反も取消事由になりそうに読めます。実際、この類型で示される書面は、この1号を引いて組まれていることが多いものです。
もっとも、交付規程は中小機構が定めた行政規則であって、法律でも、法律に基づく命令でもありません。補助金適正化法4条は、「補助金等に関しては、他の法律又はこれに基く命令若しくはこれを実施するための命令に特別の定のあるものを除くほか、この法律の定めるところによる。」と定めています。交付規程は、ここでいう「他の法律又はこれに基く命令若しくはこれを実施するための命令」に当たりませんので、補助金適正化法が定めた取消事由より広い取消事由を、交付規程で作ることはできないと考えております。したがって、交付規程22条1項1号も、17条1項の枠の中で、すなわち「補助事業等に関して」の違反を指すものとして読むべきものであると考えております。
交付規程に書かれた義務が、どのような経路で事業者を拘束することになるのか(補助条件に取り込まれているかどうか)という見方そのものは、Q&A「交付規程に違反したと言われたら――交付規程を守ることは「補助条件」なのか」で述べています。
4 全部取消しが相当か――法律と規程の双方が「一部」を用意しています
違反が「補助事業等に関して」のものであったとしても、次の問いが残ります。交付決定の全部を取り消すことが相当なのか、という問いです。
17条1項は「全部又は一部を取り消すことができる」と定め、交付規程22条1項も「全部若しくは一部を取り消し、又は変更することができる」としています。全部取消しのほかに、一部取消しと変更という選択肢を、法律と規程の双方が用意しているということです。ですから、全部を取り消すという選択をした以上、なぜ一部では足りないのかが説明されるべきものであると考えております。
この点については、総務省に置かれた行政不服審査会の答申に、判断の枠組みを述べたものがあります。国の助成金について、交付要綱16条1項の(1)「改善事業主が、法令、本要綱、法令又は本要綱に基づく厚生労働大臣の処分又は指示に違反した場合」に当たるとして交付決定の全部が取り消された事案で、審査会は、棄却すべきであるとする審査庁の判断を妥当とはいえないとしました(行政不服審査会令和3年度答申第56号・令和3年12月23日)。取消事由の文言が、交付規程22条1項1号とほとんど同じ形をしている点にご注目ください。答申の中心は、次の一段落です。
引用(行政不服審査会令和3年度答申第56号「第3 当審査会の判断」2・4〜5頁)「補助事業者等が補助金等の交付の決定の内容又はこれに附した条件に違反した場合、補助金等適正化法17条1項による補助金等の交付決定の取消しができるとされているが、交付決定の取消しが安易にされてしまうと交付決定によって成立した法律関係及び補助事業者等の信頼が害されることになるから、形式的に補助事業者等に違反行為があるというだけで直ちにすることができると解すべきではなく、補助の目的、義務違反の内容及び程度、義務違反が補助の目的を阻害する程度、交付決定の取消し以外の方法で義務違反を是正する方法の有無等を総合的に判断した上で、補助の目的を阻害する義務違反であると認められる場合に交付決定を取り消すことができると解するのが相当である。」
答申は、個別の審査請求についての諮問に対する答えであって、他の事件の処分庁や裁判所を拘束するものではありません。それでも、①補助の目的、②義務違反の内容及び程度、③義務違反が補助の目的を阻害する程度、④取消し以外の方法で義務違反を是正する方法の有無という考慮事項の並びは、「全部又は一部」「取り消すことができる」という17条1項の文言から出てくるものを具体化したものと読むことができると考えております。この枠組みに沿って主張を組むことには、その意味での実益があります。
他の法令の違反という類型で、この枠組みに当てはめるときに争点になるのは、③の「義務違反が補助の目的を阻害する程度」であると考えております。建築基準法や都市計画法が守らせようとしているのは、建築物の安全性や土地利用の秩序です。これに対し、補助金が達成しようとしているのは、交付の決定の内容として示された事業の遂行です。建物が建築基準法に適合していないことと、補助事業がその目的に沿って遂行されていないこととは、同じ事柄ではありません。補助目的の達成可能性が消滅したと言えるのかを、正面から問うことになると考えております。
補助事業の一部に問題があるときに、全額を返すのか、その部分だけなのかという問題の立て方は、Q&A「実績報告の経費の一部を対象外とされた――補助金の全額を返すのか、差額だけなのか」でも扱っています。
加算金が併せて命じられる類型であることに注意してください
交付規程は、取消しに伴う返還を命ずる場合の加算金について、対象から外れる号を限定して定めています。
引用(同交付規程22条3項)「中小機構は、前項の返還を命ずる場合には、第12条第1項第4号の補助事業の全部若しくは一部の中止若しくは廃止の申請を承認した場合、並びに第1項第4号、第5号及び第6号に規定する場合を除き、その命令に係る補助金の受領の日から納付の日までの期間に応じて、年利10.95パーセントの割合で計算した加算金の納付を併せて命ずるものとする。」
加算金の対象から外れているのは、中止・廃止の申請を承認した場合と、1項4号(交付の決定後生じた事情の変更等により継続する必要がなくなった場合)・5号・6号の場合です。法令違反の1号は、この除外に入っていません。他の法令の違反を理由とする取消しは、年利10.95パーセントの加算金が併せて命じられる建付けになっているということです(補助金適正化法19条1項も、加算金を17条1項の規定又はこれに準ずる他の法律の規定による処分に関し返還を命ぜられたときのものとしています)。金額が大きくなりやすい類型ですので、相当性を早い段階で争う実益があります。加算金の計算と争い方は、Q&A「補助金の返還を求められたら、加算金・延滞金は払うのか」で述べています。
次のような場合は、ご回答になる前にご相談ください
- 補助金で建てた建物・改装した店舗について、他の法令の違反を理由に交付決定の取消しを示されている
- 補助金を使っていない部分の違反まで含めて、交付決定の全部の取消しが示されている
- 是正の工事を進めているのに、是正を待たずに返還を求められている
関連ページ: 交付決定の取消し・返還請求(対応ページ)/補助金の交付決定は、どのようなときに取り消すことができるのか(コラム)
5 是正ができるのに、是正を待たずに取り消されたとき
建築基準法や都市計画法の違反は、是正の余地が残っていることが少なくありません。確認を受け直す、現況を確認の内容に合わせる、違反部分を撤去する、用途を戻す、といった方法です。行政の側からも、是正の命令や指導という形で、是正を求める手続が置かれています。
前記の答申が挙げた考慮事項のうち、「交付決定の取消し以外の方法で義務違反を是正する方法の有無」は、まさにこの点を指しています。是正が現に進んでいるのに、その経過を考慮せずに全部の取消しがされたのであれば、考慮すべき事項を考慮しないままされた判断であると述べる余地があると考えております。是正の計画と工程、着手の事実、是正後に補助事業を継続できることを、書面と写真で示しておくことが要になります。
もっとも、是正の可能性があれば取消しが許されないという話ではありません。是正が制度上できない場合(その場所にその用途の建物を建てることが法律上認められていない場合など)は、この主張は立ちません。自社の違反がどちらなのかを、建築士や建築行政の担当部署に確かめたうえで、補助金の側の書面を組むことになります。
また、違反の内容が、申請の時点で事実と違うことを述べていたことによるものであるときは、問題の立て方が変わります。この場合は、交付規程22条1項5号(申請内容の虚偽等が判明した場合)や同項3号(補助事業に関して不正、怠慢、その他不適当な行為をした場合)が持ち出されますので、他の法令の違反とは別に検討することになります。
6 どう動くか
他の法令の違反を指摘された段階では、補助金の側の書面に、どの条文のどの取消事由によるのかが書かれていないことがあります。順番としては、次のように進めるのがよいと考えております。
- 根拠条文の特定を求める。補助金適正化法21条の2は、「各省各庁の長は、補助金等の交付の決定の取消し、補助事業等の遂行若しくは一時停止の命令又は補助事業等の是正のための措置の命令をするときは、当該補助事業者等に対してその理由を示さなければならない。」と定めています(補助金適正化法21条の2)。取消しをするのであれば理由が示されるべきものですので、法律の取消事由と交付規程の取消事由のどちらによるのか、違反とされる対象はどの物件なのかを、書面で確かめてください。
- 違反の対象と補助対象物件の対応関係を一覧にする。図面、確認申請の書類、工事の請負契約書と内訳書、取得財産等管理台帳を並べ、補助金を充てた部分と、充てていない部分を分けて示します。
- 是正の計画と工程を先に出す。着手の事実、完了の見込み、是正後に補助事業を継続できることを、書面で示しておきます。
- 全部取消しでなければならない理由を説明するよう求める。一部取消しと変更が用意されている以上、全部を取り消す理由は示されるべきものです。
- 取消しの前に弁明・説明の機会が与えられたときは、そこで出す。何を出しておくべきかは、Q&A「交付決定取消しの事前通知が届いたら」で述べています。
- 取消しの通知が届いたら、期限から逆算する。不服を述べる経路と期間は、Q&A「交付決定の取消しの通知に不服があるとき、どこに言えばよいのか」で、出訴期間(行政事件訴訟法14条1項)の数え方は、Q&A「交付決定の取消しから6か月を過ぎたら、取消訴訟は起こせないのか」で述べています。是正の工事に追われている間に期間が過ぎることがありますので、期限の管理は別に行ってください。
他の法令の違反は、補助金の返還が問題になる場面の中では、独立に検討しなければならない類型です。違反の事実があること自体は動かないことが多く、そのうえで、その違反が「補助事業等に関して」のものか、全部取消しが相当か、是正の経過が考慮されているか、という三つを分けて組むことになります。建築の適法性と補助事業の遂行とは別の問題であるという出発点を崩さないことが、書面の組み方を決めると考えております。
補助金で建てた建物・改装した店舗について、他の法令の違反を理由に交付決定の取消しや返還を示されている事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、ご回答をお出しになる前にご相談ください。交付決定通知書、交付規程、交付主体から受け取った書面、違反を指摘した行政からの書面、図面と工事の契約書があれば、具体的な検討ができます。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 補助金適正化法17条1項(各省各庁の長は、補助事業者等が、補助金等の他の用途への使用をし、その他補助事業等に関して補助金等の交付の決定の内容又はこれに附した条件その他法令又はこれに基く各省各庁の長の処分に違反したときは、補助金等の交付の決定の全部又は一部を取り消すことができる)
- 補助金適正化法4条(補助金等に関しては、他の法律又はこれに基く命令若しくはこれを実施するための命令に特別の定のあるものを除くほか、この法律の定めるところによる)
- 中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。令和7年6月30日施行の改正までのもの)22条1項柱書(第9条第1項の交付の決定の全部若しくは一部を取り消し、又は変更することができる)、同項1号(補助事業者が、法令、本規程又は本規程に基づく中小機構の処分若しくは指示に違反した場合)、同項3号(補助事業に関して不正、怠慢、その他不適当な行為をした場合)、同項4号(交付の決定後生じた事情の変更等により、補助事業の全部又は一部を継続する必要がなくなった場合)、同項5号(申請内容の虚偽、ほかの制度との重複受給等が判明した場合)
- 同交付規程22条2項(既に交付されているときは、期限を付して全部又は一部の返還を命ずる)、22条3項(中止・廃止の申請を承認した場合、並びに1項4号、5号及び6号に規定する場合を除き、年利10.95パーセントの割合で計算した加算金の納付を併せて命ずる)、23条2項(様式第7による取得財産等管理台帳)
- 補助金適正化法19条1項(加算金を、17条1項の規定又はこれに準ずる他の法律の規定による処分に関し、補助金等の返還を命ぜられたときのものとする)
- 補助金適正化法21条の2(各省各庁の長は、補助金等の交付の決定の取消し、補助事業等の遂行若しくは一時停止の命令又は補助事業等の是正のための措置の命令をするときは、当該補助事業者等に対してその理由を示さなければならない)
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構法16条(補助金適正化法の準用)
- 行政不服審査会令和3年度答申第56号(令和3年12月23日・諮問番号令和3年度諮問第61号)4〜5頁(形式的に補助事業者等に違反行為があるというだけで直ちにすることができると解すべきではなく、補助の目的、義務違反の内容及び程度、義務違反が補助の目的を阻害する程度、交付決定の取消し以外の方法で義務違反を是正する方法の有無等を総合的に判断した上で、補助の目的を阻害する義務違反であると認められる場合に交付決定を取り消すことができると解するのが相当であるとするもの。交付要綱16条1項の(1)「法令、本要綱、法令又は本要綱に基づく厚生労働大臣の処分又は指示に違反した場合」に当たるとされた事案)
- 行政事件訴訟法14条1項(取消訴訟の出訴期間)
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。