執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 この説明は、二つのことを一度に言っています
財産の処分や返還について交付主体に照会をすると、取扱いは補助金適正化法のみによって判断されるものではなく、交付規程や通達その他の関係規程等を踏まえて取り扱う、という趣旨の説明を受けることがあります。この説明は、よく読むと二つのことを一度に言っています。
- (1)交付主体の内部では、法律のほかに交付規程や通達も見ながら事務を処理している、という事実の説明。
- (2)したがって、事業者の義務の範囲も交付規程や通達によって決まる、という法律論。
(1)はそのとおりです。交付主体は、法律だけを見て事務を処理しているわけではありません。これに対し、(2)はそのままは成り立たないと考えております。交付規程や通達は、補助金適正化法が事業者に課していない義務を、事業者に対して新たに課すことはできません。以下、その理由を、交付規程自身の文言、補助金適正化法4条、文献の順に見ていきます。
2 交付規程自身が、法令の定めが先であると書いています
以下の交付規程の条数と文言は、中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。令和7年6月30日施行の改正までのもの)のものです。交付規程は、最初の条文で、自分と法令との関係を定めています。
引用(同交付規程1条(通則))「中小企業等事業再構築促進補助金(以下「本補助金」という。)の交付については、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号。以下「適正化法」という。)、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令(昭和30年政令第255号。以下「施行令」という。)、独立行政法人中小企業基盤整備機構法(平成14年法律第147号)及びその他の法令の定めによるほか、この規程の定めるところによる。」
「法令の定めによるほか、この規程の定めるところによる」という構えです。法令が先にあり、交付規程はその残りの部分を定めるものとして置かれています。交付規程が法令に代わる、あるいは法令の内容を書き換えるという構えではありません。
本補助金について補助金適正化法が及ぶのは、中小機構法16条による準用です。同条は、中小機構法15条1項6号等の規定により機構が交付する助成金について、補助金適正化法の規定を罰則を含めて準用するものとしています。したがって、ここで「法令」として先に置かれているものの中心は、補助金適正化法と同法施行令です。
3 補助金適正化法4条——法律より先に出られるのは何か
補助金適正化法は、自分と他の定めとの関係を4条に置いています。
引用(補助金適正化法4条(他の法令との関係))「補助金等に関しては、他の法律又はこれに基く命令若しくはこれを実施するための命令に特別の定のあるものを除くほか、この法律の定めるところによる。」
補助金適正化法より先に適用されるもの(「特別の定」)になれるのは、他の法律、その法律に基づく命令(委任命令)、又はその法律を実施するための命令(執行命令)です。文献は、この形式の要件について、次のように述べています。
引用(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』57頁(株式会社全国会計職員協会、2016))「単なる行政規則にすぎない告示(国家行政組織法第一四条第一項)や訓令又は通達(同条第二項)の法形式はこれには含まれない。したがって、補助金等交付規程あるいは補助金等交付要綱等の行政規則に特別の規定をしても、それによって「特別の定」となることはありえない。」
交付規程と通達は、名指しで挙げられています。同書は、「特別の定」たりうるための要件は二つあり、第一は形式的要件であって、法律又は委任命令若しくは執行命令の形式で定められたものであることを要するとし、委任命令及び執行命令は政令の場合もあり省令の場合もあるが、告示や訓令・通達の法形式はこれに含まれないとしています(同書56〜57頁)。第二の実質的要件については、補助金適正化法の規定する補助金等の予算の執行に関する共通一般原則以上の固有の規制をする必要性をもつものでなければならないとしています(同書57頁)。
交付規程は、交付主体が自ら定める規範です。平成16・6・10会課第5号(「補助事業等により取得し又は効用の増加した財産の処分等の取扱いについて」)は、経済産業省大臣官房会計課の通達です。いずれも、法律でも、法律に基づく委任命令でも、法律を実施するための執行命令でもありません。したがって、どちらも補助金適正化法の「特別の定」にはならず、補助金適正化法に先立って適用されることはないと考えております。後から定められたものであっても、この形式の要件を欠いていれば同じです。
以上を前記1の(2)に当てはめますと、「交付規程や通達も踏まえるのだから、事業者の義務の範囲もそれによって決まる」という部分は、4条の構造と合わないと言わざるを得ません。交付主体が内部で何を参照しているかは、事業者が負う義務の範囲とは別の問題です。
4 それでも交付規程が効いてくる道筋は、別にあります
交付規程が「特別の定」でないということは、交付規程を気にしなくてよいという意味ではありません。交付規程の内容が事業者を拘束しうる道筋は、別にあります。交付決定に附された条件(補助条件)としての道筋です。
補助金適正化法7条1項は、交付の決定をする場合において、法令及び予算で定める交付の目的を達成するため必要があるときは、同項各号に掲げる事項につき条件を附するものとすると定めています。同条3項は、1項・2項に定める条件のほか、交付の目的を達成するため必要な条件を附することを妨げるものではないとしています。交付規程の条項が交付決定に条件として取り込まれている限りで、事業者はその条件に拘束され、条件に違反すれば補助金適正化法17条1項の取消事由(「交付の決定の内容又はこれに附した条件……に違反したとき」)に当たりうることになります。
ここが実務上の分かれ目になります。交付規程の条項が補助条件として取り込まれているのであれば、根拠は交付規程ではなく補助金適正化法7条であり、同条の枠が及びます。同条4項は、交付の決定に附する条件は、公正なものでなければならず、いやしくも交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等に対し干渉をするようなものであつてはならないと定めています。交付規程の条項であるからそのまま有効だ、という形にはならないと考えております。
そして、交付決定通知書に「交付規程で定めるところに従う」との記載があることのみによって交付規程の全部が補助条件になったと解することは難しいという点、及び「中小機構は……することができる」という形の、交付主体自身を主語とする条項は事業者に義務を課していないという点は、Q&A「交付規程に違反したと言われたら」で述べています。「適正化法だけではない」という説明を受けたときは、この順に下りてくることになります。すなわち、交付規程は「特別の定」ではない(前記3)→では補助条件として取り込まれているのか→取り込まれているとして、その条項は事業者に何を命じているのか、という順です。
5 財産の処分についてこの順番が効く場面
財産の処分は、この順番がはっきり効く場面です。補助金適正化法22条は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならないと定めています。承認の対象として法律が並べているのは、交付の目的に反する使用、譲渡、交換、貸付け、担保提供の五つです。
これに対し、交付規程は、処分を制限する財産を定める条文の中で、「処分」の中身を括弧書きで示しています。
引用(同交付規程24条1項)「取得財産等のうち、処分(補助金の交付の目的に反する使用、譲渡、交換、貸付、担保に供する処分、廃棄等をいう。)を制限する財産(以下「処分制限財産」という。)は、取得価格又は効用の増加価格が単価50万円(税抜)以上の機械、器具及びその他の財産とする。」
法律の五つに対し、交付規程には「廃棄等」が加わっています。前記3の整理によれば、この加わった部分によって、補助金適正化法22条の承認を受ける義務そのものが広がることはないと考えております。廃棄が補助金適正化法22条の承認の対象に含まれるかどうかは、交付規程の括弧書きではなく、同条の解釈として論じられる問題です。この論点は、コラム「廃棄処分」と、裁判例を扱ったコラム東京地判平成2年の廃棄の事案で述べています。
納付についても同じ構造が出てきます。交付規程は、処分の場合の納付を定めたうえで、末尾のなお書きで通達を参照しています。
引用(同交付規程24条6項)「中小機構は、補助事業者が処分制限財産を処分するときは、様式第12-5による納付通知書により、当該処分制限財産に係る補助金額を限度として、納付させることができるものとし、補助事業者は当該納付命令にしたがって納付しなければならない。なお、当該処分については、補助事業等により取得し又は効用の増加した財産の処分等の取扱いについて(平成16・6・10会課第5号)の各規定を踏まえ取り扱うものとする。」
このなお書きは、交付規程自身が、処分の取扱いについて通達の各規定を踏まえるものとしていることを示しています。「交付規程と通達も踏まえる」という説明の出どころは、ここだと考えております。そして、このなお書きは事業者にとって不利にばかり働くものではありません。踏まえるものとされている通達には、承認に当たって国庫納付条件を付さないことができる場合も定められています。この点は、Q&A「財産処分の承認を申請したら、残存簿価相当額を納めることになるのか」で述べています。通達を持ち出すのであれば、その通達の中にある事業者の側に働く定めも一緒に見ることになると考えております。
個別のQ&Aや回答文書に当てはめるとき
同じ見方は、公表されているQ&Aや手引の記載を読むときにも使えます。交付規程・施行令の文言と公表されている説明とが一致していない例については、次のページで条文と突き合わせています。
- 処分制限期間の数え方について、交付規程の文言と施行令の文言が違う場合
- 担保設定が「認められません」と書かれている場合と、補助金適正化法22条の「承認を受けないで」との関係
- 交付規程の条文にない言葉で義務が説明されている場合
次のような場合は、ご回答になる前にご相談ください
- 交付規程や通達の条項を挙げて、法律には書かれていない義務に違反したと言われている
- 照会への回答として、適正化法のほかに関係規程も踏まえて判断すると説明された
- 交付規程の括弧書きを根拠に、財産の処分に当たると言われている
6 書面を受け取ったら、この順に確かめる
交付主体からの書面に「交付規程」「通達」「関係規程」という言葉が出てきたときは、次の順に確かめていただくのがよいと考えております。
- 挙げられているのが、法律・施行令か、交付規程か、通達か、公表されているQ&A・手引か。どれなのかを、書面の上で切り分けてください。法律・施行令以外のものだけが挙げられているときは、前記3の問題がそのまま出ます。
- 交付規程が挙げられているときは、版を確かめてください。交付規程の条番号と文言は、補助金ごとに、また改正ごとに違います。交付決定を受けた時点でどの版が適用されていたのかが出発点になります。
- その条項の主語が誰か。「補助事業者は……しなければならない」という形か、「中小機構は……することができる」という形かで、見方が変わります。
- 法律の側に対応する条文があるか。ある場合は、法律の文言と交付規程の文言のどこが違うのかを並べてください。前記5の「廃棄等」のような差が、争点そのものになることがあります。
- 通達が挙げられているときは、その通達の全体を見てください。事業者の側に働く定めが同じ通達の中にあることがあります。
- 交付決定通知書と、交付決定に附された条件の記載。補助条件として取り込まれているかどうかは、ここから見ることになります。
なお、ここで述べているのは、法律上の義務の範囲の問題です。交付主体に対して「交付規程は法律ではないから従わない」と答えることをお勧めするものではありません。実務としては、求められている対応に応じるかどうかと、法律上の義務があるかどうかとを分けて整理し、応じる場合にも、応じたことが義務の存在を認めたことにならないようにしておくことになると考えております。返還や納付を求められている場面では、この整理が、その後の手続の全体に効いてきます。
交付決定の取消しそのものの要件は、交付決定の取消し・返還請求のページで、取消しの前にすべきことは、コラム「取消し前にすべきこと」で述べています。
交付規程や通達の条項を挙げて、法律には書かれていない義務に違反したと言われている事業者の方、照会への回答として関係規程も踏まえて判断すると説明された方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、ご回答になる前にご相談ください。交付決定通知書、適用されている版の交付規程、交付主体から受け取った書面があれば、どの定めがどの資格で持ち出されているのかを切り分けた検討ができます。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 補助金適正化法4条(他の法令との関係)「補助金等に関しては、他の法律又はこれに基く命令若しくはこれを実施するための命令に特別の定のあるものを除くほか、この法律の定めるところによる。」
- 補助金適正化法22条(補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない。ただし、政令で定める場合は、この限りでない)
- 補助金適正化法7条1項(交付の決定をする場合において、法令及び予算で定める交付の目的を達成するため必要があるときは、同項各号に掲げる事項につき条件を附するものとする)、同条3項(前二項に定める条件のほか、交付の目的を達成するため必要な条件を附することを妨げるものではない)
- 補助金適正化法7条4項(交付の決定に附する条件は、公正なものでなければならず、いやしくも交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等に対し干渉をするようなものであつてはならない)
- 補助金適正化法17条1項(取消事由は、①補助金等の他の用途への使用、②交付の決定の内容又はこれに附した条件への違反、③法令又はこれに基く各省各庁の長の処分への違反の三つ)
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構法15条1項6号、16条(中小機構が交付する助成金への補助金適正化法の準用)
- 中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。令和7年6月30日施行の改正までのもの)1条(通則)「中小企業等事業再構築促進補助金(以下「本補助金」という。)の交付については、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号。以下「適正化法」という。)、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令(昭和30年政令第255号。以下「施行令」という。)、独立行政法人中小企業基盤整備機構法(平成14年法律第147号)及びその他の法令の定めによるほか、この規程の定めるところによる。」〔同規程1頁〕
- 同交付規程24条1項(処分を「補助金の交付の目的に反する使用、譲渡、交換、貸付、担保に供する処分、廃棄等」とするもの。単価50万円(税抜)以上の機械、器具及びその他の財産)〔同規程8頁〕、24条6項(様式第12-5による納付通知書により、当該処分制限財産に係る補助金額を限度として納付させることができるものとし、「なお、当該処分については、補助事業等により取得し又は効用の増加した財産の処分等の取扱いについて(平成16・6・10会課第5号)の各規定を踏まえ取り扱うものとする」)〔同規程8〜9頁〕
- 「補助事業等により取得し又は効用の増加した財産の処分等の取扱いについて」(平成16・06・10会課第5号。経済産業省大臣官房会計課。最終改正令和元年5月7日)=経済産業省大臣官房会計課の通達であり、法律でも委任命令でも執行命令でもないもの
- 小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』56〜57頁(株式会社全国会計職員協会、2016)(「特別の定」たりうるための要件は二つあり、第一は形式的要件であって、法律又は法律の委任に基づく委任命令若しくは法律を執行するための執行命令の形式で定められたものであることを要するとするもの)、同57頁(「単なる行政規則にすぎない告示(国家行政組織法第一四条第一項)や訓令又は通達(同条第二項)の法形式はこれには含まれない。したがって、補助金等交付規程あるいは補助金等交付要綱等の行政規則に特別の規定をしても、それによって「特別の定」となることはありえない。」。第二の実質的要件として、補助金等の予算の執行に関する共通一般原則以上の固有の規制をする必要性をもつものでなければならないとするもの)
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
関連ページ
- 交付規程に違反したと言われたら(Q&A) →
- 処分制限期間――交付規程の文言と施行令の文言(Q&A) →
- 担保設定は「認められません」と書かれている場合(Q&A) →
- 財産処分の承認と残存簿価相当額の納付(Q&A) →
- 廃棄と補助金適正化法22条の裁判例(コラム) →
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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。