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弁護士 岸上大起

補助事業を途中でやめたい・縮小したいとき、補助金はどうなるのか

このページの結論

補助金で始めた事業が赤字です。処分制限期間の途中ですが、いったんやめたい(事業を縮小したい)と考えています。補助金を返すことになるのでしょうか。

処分制限期間の内側であっても、補助事業をやめられないわけではありません。ただし、やめる時期に応じて、あらかじめ承認を受けること(補助事業の実施期間中)又は届出をすること(補助事業の完了後の事業計画期間中)とされています。返還や納付が問題になるのは、補助金で取得した設備・ソフトウェアを「どうするか」――手元に残すのか、売るのか、廃棄するのか、事業ごと引き継ぐのか――によって分かれます。

やめ方によって、必要な手続も、お金の扱いも変わります。事業をやめても設備が手元に残っているのであれば、財産の「処分」はまだ起きていないと考えております。動かれる前であれば、選べる方法が多く残っています。

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

1 やめられないわけではない――ただし手続は要る

「処分制限期間」という言葉の響きから、期間内は何もできない、途中でやめたら全額返還になる、と考えてしまう事業者の方が少なくありません。しかし、法律が承認を必要としている行為は、限られています。

補助金適正化法22条は、補助事業で取得し、又は効用の増加した政令で定める財産について、次のように定めています。

引用(補助金適正化法22条)「補助事業者等は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない。ただし、政令で定める場合は、この限りでない。」

承認の対象として挙げられているのは、交付の目的に反する使用・譲渡・交換・貸付け・担保供与の5つです。「事業をやめること」そのものは、この5つのいずれでもありません。「廃棄」という言葉も、条文には出てきません。

この制限は、無期限のものでも、すべての財産に及ぶものでもありません。期間は、交付の目的と当該財産の耐用年数を勘案して定められる期間(処分制限期間)とされており(同法施行令14条1項2号)、事業再構築補助金では減価償却資産の耐用年数等に関する省令を準用するとされています(交付規程24条2項)。一律10年というルールはありません(詳しくは、コラム「補助金で取得した財産の処分制限期間は何年か――「10年ルール」はあるのか」をご覧ください)。また、対象となる財産(処分制限財産)は、取得価格又は効用の増加価格が単価50万円(税抜)以上の機械、器具及びその他の財産とされています(交付規程24条1項。公式「よくあるご質問」財産処分Q3も同じ説明です)。

そして、廃業と、補助金で取得した財産の廃棄は別のことです。事業をやめても、設備や内装、ソフトウェアがそのまま手元に残っているのであれば、財産は何も「処分」されていません。「やめたから返還」という話が来たときに、まず切り分けるべきはこの点であると考えております。

交付決定を取り消し、補助金の返還を求めることができる理由は、補助金適正化法17条1項所定の3つ――①補助金の他の用途への使用、②交付決定の内容又はこれに附した条件(補助条件)への違反、③法令又はこれに基づく処分への違反――に限られています(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』243〜245頁)。やめたことがこの3つのどれにも当たらなければ、交付決定の取消しも、補助金の返還請求もできないことになります。

もっとも、手続が要らないという意味ではありません。同法7条1項4号は、交付決定に附する条件として「補助事業等を中止し、又は廃止する場合においては、各省各庁の長の承認を受けるべきこと」を掲げています。これを受けて、補助事業の実施期間中(補助事業がまだ完了していない段階)の中止・廃止は、あらかじめ承認申請をする対象とされています(交付規程12条1項4号)。補助事業が完了した後の事業計画期間(補助事業の完了後、事業化状況報告を行うこととされている期間。同25条1項、26条2項)において事業計画の全部又は一部をやめる場合は、届出の対象とされています(同26条1項1号)。

この承認・届出を踏まずにやめてしまうと、それ自体が、交付決定に附した条件への違反(前記②)として取消事由に当たると言われる余地が生じます。やめられないわけではないけれども、順番は踏む――そう整理していただくのが正確です。

なお、以下は、事業再構築補助金、新事業進出補助金、新事業進出・ものづくり補助金、中小企業省力化投資補助金のように、中小企業基盤整備機構が交付し、中小機構法16条により補助金適正化法が準用される補助金を念頭に置いた整理です。交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なりますので、条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。

2 「やめる」の中身で扱いが分かれる

同じ「やめる」でも、取得した財産をどうするかによって、必要な手続も、返還・納付の見込みも変わります。事務局の運用と、当職の見解とを分けて並べます。

いったん止めて、設備は手元に残す

事業は止めるが、設備・ソフトウェアは手元に残しておくという場合です。財産の「処分」がされていない以上、財産処分に伴う納付は生じないと考えております。取得した財産については、補助事業の完了後も、善良な管理者の注意をもって管理し、補助金の交付の目的に従ってその効率的運用を図る義務が残り(交付規程23条1項)、取得財産等管理台帳(様式第7)を備えて処分制限期間が終了するまで管理することとされていますが(同条2項)、それは保管を続けるということであって、納付とは別の話です。

また、修繕も、補助金適正化法22条の規制対象ではありません。典型的なのは、事業を続けるために、故障した取得財産を修理し、修理後も補助事業に使い続ける場合です。22条が承認を必要とする使用・譲渡・交換・貸付け・担保供与のいずれにも形式的に当たらず、交付規程24条1項が定める「処分」の定義(補助金の交付の目的に反する使用、譲渡、交換、貸付、担保に供する処分、廃棄等)にも、修繕は含まれていないからです。これは補助金の目的に沿って財産を管理し続けている状態そのものであると考えております。もっとも、修繕を名目にして、実際には補助事業とは別の用途に作り替えるような場合は、目的外使用として別に検討が必要になります。

手続の面では、事業計画期間中に事業計画の全部の廃止に係る届出を行った場合、その届出日に事業計画期間が終了したものとされ、以降の事業化状況報告は不要になります(交付規程26条2項)。届出をしていなければ、補助事業終了年度の終了後を初回として5年間の事業化状況報告の義務は残ります(同25条1項)。報告が出ていないことをきっかけに事務局から連絡が来る、という場面は実際にあります。

設備だけを第三者に売る、無償で渡す

処分制限期間内の処分ですので、事務局の運用では、あらかじめ財産処分の承認申請(様式第12-1)をすることとされています(交付規程24条3項)。納付額は、有償譲渡であれば譲渡額、無償譲渡であれば残存簿価相当額(取得価額(税抜)から処分の時点までの減価償却費の累計額を差し引いた金額。後記3)を出発点として、後記3の計算式で決まります。

もっとも、公式の計算式には、譲渡額が残存簿価相当額等に比べて著しく低価であってその理由を合理的に説明できないときは残存簿価相当額等が適用される場合があること、鑑定評価を行う場合には残存簿価相当額と鑑定評価額のいずれか高い額が適用されることという注記が付いています。金額に直接効いてくる部分ですので、見落とさないでください。

賃借している店舗や土地から退去する際に、補助金で付けた内装・設備をそのまま次の借主に無償で使わせる場合には、「譲渡」と評価されるおそれがあります。この場面については、Q&A「借りている土地・店舗に補助金で設備や内装を付けた。退去するときどうなるのか」で整理しています。

廃棄する(撤去・解体してしまう)

事務局の運用では、事前に財産処分の承認申請を求められ、承認と引き換えに、残存簿価相当額を基に計算した金額の納付を命じられます。

当職は、廃棄はそもそも補助金適正化法22条の承認の対象ではないと考えております。条文の列挙に「廃棄」がないうえ、交付の目的どおりに建設され、その後も目的どおり使用されていた施設を、耐用年数が十分残っている段階で解体した行為について、同条の規制する行為の対象には含まれないと判断した裁判例があります(東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁。同判決に対しては控訴がされており、控訴審判決は公刊物に見当たりません。詳しくはコラム「廃棄処分」で述べています。)。

もっとも、最高裁第三小法廷令和3年3月2日判決(民集75巻3号317頁)の調査官解説は、22条に基づく承認の対象を、補助目的に沿って管理しなくなることと広く捉える整理を示しています(荒谷謙介・最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)86頁)。この整理を前提とすれば、廃棄も承認の対象に含まれると解する余地は否定し切れません。「当たらないと解する余地が十分にある一方、当たり得るとする解釈も否定し切れない」というのが、この論点の正確な現状です。

そのうえで、仮に承認の対象であるとしても、事業の継続が困難となってやむを得ず廃棄する場合に、その承認に残存簿価相当額の納付という条件を付けることには、許される限界の問題があると考えております。この二段構えの議論は、コラム「処分制限期間中に補助金で取得した設備を廃棄したら、残存簿価相当額を納付しなければならないのか」で詳しく述べています。

なお、災害・火災により使用できなくなった場合(補助事業者等の責めに帰すことができない事由による場合)や、立地上又は構造上危険な状態にある場合の取壊し・廃棄については、交付規程自身が、報告書(様式第12-4)の提出により財産処分の承認を受けたものとみなすことができるとしています(交付規程24条5項)。

補助事業ごと引き継いでもらう(事業譲渡)

譲り受けた者が補助事業を続け、財産が引き続き補助目的に沿って使われるのであれば、その事業譲渡は補助金適正化法22条が禁じる「交付の目的に反して」する譲渡には当たらず、返還の理由にはならないと考えております。財産処分制限に違反することなく、補助事業者自身は補助事業の継続義務から解放されるという点で、廃棄か保管かの二択で悩む前に検討する価値のある選択肢です。

手続は時期によって異なり、補助事業の実施期間中の承継は承認申請(交付規程12条1項6号)、補助事業の完了後の事業計画期間中の承継は届出(様式第14-2。同26条1項2号)の対象とされています。また、事業化状況報告の義務は、交付決定の名宛人である補助事業者に課された公法上の義務(交付決定という行政処分に基づいて名宛人に課された義務)ですので、事業譲渡によって当然に譲受人へ移るものではないと考えております。もっとも、中小機構は承継されるとの理解で運用していると思われますので、実務では、譲渡人と譲受人の双方から報告をしていただくことをお勧めしています。譲渡後も報告を無理なく行える仕組みを契約で確保しておく必要があり、契約の作り方が重要になります。詳しくは、コラム事業再構築補助金により取得した財産を含む補助事業を事業譲渡するという解決方法についてをご覧ください。

次のような場合は、ご相談ください

  • 赤字の補助事業をいったんやめたい(縮小したい)が、返還を求められるのが不安で動けない
  • 設備やソフトウェアを手元に残したまま事業を止めたいが、承認が必要なのか分からない
  • 事務局から、財産処分の承認申請や残存簿価相当額の納付を求められている
いまの状況を相談する →お電話:070-3618-5126(受付:平日10:00〜18:00、出られないときは折り返します)

関連ページ: 手続の順番、返還額の計算、返還が生じない選択肢(コラム)/事業譲渡による解決(対応ページ)

3 手続の順番と、お金の扱い

補助事業が完了した後の事業計画期間中に事業をやめる場合の順番は、事務局が公式に示しています。

引用(事業再構築補助金 よくあるご質問「補助金交付候補者の採択後の手続きについて」Q10)「事業を廃止しようとする場合には、『様式 第14-1 補助事業完了後の事業計画の廃止届出書』を提出してください。廃止の届出の受付完了後、処分制限期間内※の取得財産については、速やかに『様式第12-1 財産処分承認申請書』を事務局に提出し、『様式第12-2 財産処分承認通知書』による事務局の承認を受けてください。」
出典:事業再構築補助金「よくあるご質問」採択後の手続きQ10

すなわち、事業廃止の届出(様式第14-1)、財産処分の承認申請(様式第12-1)、承認(様式第12-2)と処分の実行・財産処分報告(様式第12-3)、納付通知(様式第12-5)を受けての納付、という順番です。

納付額は、公式の「よくあるご質問」が計算式を示しており、D(補助金の納付金額)=A(有償譲渡又は有償貸付であれば譲渡額又は貸付額、目的外使用・無償譲渡・無償貸付等であれば残存簿価相当額)×C(Bに対する補助金の確定額)/B(当該処分財産に係った補助対象経費)とされています。残存簿価相当額は、取得価額(税抜)から処分の時点までの減価償却費の累計額を差し引いた金額です。納付額は処分制限財産に係る補助金額を上限とし(交付規程24条6項)、納付は通知日から30日以内の一括とされています。計算式の注記と計算例は、コラム「補助事業を続けられないとき――手続の順番、返還額の計算、返還が生じない選択肢」で整理しています。

加算金についても、順番が効いてきます。交付決定の取消しに伴って返還を命ぜられると、原則として年10・95パーセントの加算金が併せて課されます(補助金適正化法19条1項)。もっとも、交付規程は、補助事業の中止・廃止の申請を承認した場合などを、この加算金の対象から除いています(交付規程22条3項)。

また、交付規程24条6項は、納付を「させることができる」と定めており、必ず納付させると定めているわけではありません。実務では、補助事業の廃止が取消事由に当たるとしながら取消処分は行わず、同項に基づく一部返納のみを求める運用も見られます。取消事由に該当するというのであれば補助金適正化法17条1項に基づく取消処分によるべきであり、法的整合性を欠く面があると考えております。

既に納付してしまった場合でも、財産処分の承認とそれに付された条件(附款)は、取消訴訟で争える場合があります。ただし、原則として、処分があったことを知った日から6か月を経過すると提起することができません(行政事件訴訟法14条1項。ただし、正当な理由があるときはこの限りでないとされています)。承認通知書を受け取った段階で、納付に応じるかどうかを含め、早い時期に検討を始めることが大切です。

4 賃上げの条件と補助率の引上げ分

補助率の引上げを受けている場合、事業が縮小すれば賃上げの条件を満たせなくなり、引上げ分の返還を求められるのではないか、という点も問題になります。交付規程は、一定の枠(成長枠、グリーン成長枠、成長分野進出枠(通常類型)、成長分野進出枠(GX進出類型))について、事業化状況・知的財産権報告書により、補助金額又は補助率引上げを受けている補助事業者が事業計画終了時点を含む年度までの間に、予見できない大きな事業環境の変化に直面するなどの正当な理由なく所定の条件を満たしていないと認められる場合には、「補助金額及び補助率引上げ分について補助金の返還を命ずる」と定めています((新市場進出)交付規程27条3項)。

もっとも、私見としては、賃上げ要件はそもそも補助事業者に義務を課す補助条件になっておらず、達成できなかったとしても補助金適正化法17条1項の取消事由には当たらないと考えております。賃上げ要件についての定めは、いずれの交付規程でも主語が「中小機構は」、述語が「返還を命ずる」であって、補助事業者を主語とする義務規定が置かれていないからです。交付規程は中小機構が自ら定めた内部的な規範であり、国民に対して直接の法的効力を有するものではないと解されています(山本拓・最高裁判所判例解説民事篇令和5年度551頁参照)。

取消事由に当たらなければ、交付決定の取消しも、補助金の返還請求もできないことになります。もっとも、この論点を正面から判断した裁判例は、現在のところ見当たりません。詳しい理由は、Q&A「賃上げできなかったら、交付決定の取消し・補助金の返還になるのか」と、コラム「賃上げ要件を達成できなければ、補助金を返還しなければならないのか」で述べています。

なお、「納付」と呼ばれるものには収益納付もありますが、これは補助事業の事業化などによる収益が生じたときに問題になる別の仕組みであり、報告の決算が赤字の場合は納付を免除するものとされています(交付規程27条1項)。赤字で事業をやめる場面で問題になるのは、通常は財産処分に伴う納付です。

5 やってはいけないこと

  • 承認・届出を踏まずに、黙って事業をやめてしまうこと。やめること自体は禁じられていませんが、補助事業の実施期間中の中止・廃止はあらかじめ承認を受ける対象、完了後の事業計画期間中の廃止は届出の対象とされています。手続を飛ばすと、それ自体が交付決定に附した条件への違反と言われる余地が生じます。
  • 承認を受けずに先に財産を処分してしまうこと。事務局は、事前の承認を得ずに財産を処分した場合は交付決定が取り消される場合があると説明しています(公式「よくあるご質問」財産処分Q7)。順番を崩さないことが大切です。
  • 逆に、促されたその場で承認申請を出してしまうこと。申請書に書いた内容は、その後の手続の前提になります。そもそも補助金適正化法22条の処分に当たるのか、当たるとして納付の条件を受け入れるのかを確かめる時間を取っても、遅くはありません。
  • 届出を出さないまま事業を止め、事業化状況報告も出さないこと。報告が出ていないことをきっかけに事務局から連絡が来て、話が返還から始まってしまう場面があります。
  • 賃借物件を明け渡す際に、内装・設備の扱いを決めずに引き渡してしまうこと。残したものが「無償譲渡」に当たるのではないかと指摘されることがあります。
  • 電話で言われた内容だけで判断してしまうこと。何をいつ言われたのかを書面又はメールで確認しておくと、後に争うことになった場合の主張の立て方が変わります。

やめ方によって見通しが変わる類型ですので、届出や承認申請を出される前、財産を動かされる前の段階でご検討されることをお勧めします。処分の前であれば、選べる方法が多く残っています。

赤字の補助事業をいったんやめたい、縮小したいとお考えの事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、届出や承認申請を出される前にご相談ください。交付決定通知書、取得財産等管理台帳(様式第7)、直近の事業化状況報告の控えがあれば、具体的な検討ができます。

根拠(条文・公式資料・裁判例)

※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。

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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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