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弁護士 岸上大起

実際より多く申請して交付を受けたら、全額が「不正」になるのか――裁判例紹介:大阪地判平成17年5月27日・大阪地判平成17年5月11日

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

補助金の申請に実際と違うところがあったとき、届く文書はほとんど同じ形をしています。申請の一部に対象とならないものが含まれていた、だからその申請は「偽りその他不正の手段」による申請である、だから交付を受けた補助金は全額が不正に受けたものである、だから全額を返せ――という形です。ここで事業者の側が受け止めてしまうのは、「一部に間違いがあれば全部が不正になる」という前提です。

この前提は、少なくとも刑事の場面では、裁判所によって二度にわたって否定されています。本稿で取り上げる二つの判決は、いずれも大阪地方裁判所が平成17年に出したものです。大阪地判平成17年5月27日(判時1918号135頁)は、「補助金適正化法29条1項の趣旨は、予算の不当支出による国庫の損失を防止しようとするところにあるから」、正当に受給すべき金額以上の過大交付を受けた場合には、その額が可分であれば「当該超過部分についてのみ」補助金等不正受交付罪が成立するとしました。大阪地判平成17年5月11日(判時1918号126頁)も、「本来正当に受給し得る部分については国庫の損失もない」として、同じ結論に立っています。

この二つの判決には、もう一つ、実務でそのまま効いてくる説示があります。5月11日の判決は、事業の実施要綱に「保管対象荷口の一部に保管対象牛肉でないものがあると認められるときは、その荷口の全てをこの事業の対象としないことがある」という定めがあったことを取り上げました。そして、実施要綱は「対象としないことがある」と書いているだけで断定的に定めていないこと、実施要綱は行政目的のために作られたもので「本来刑罰法規の解釈の基準となるものではない」ことを挙げ、この定めによって罪の成立範囲を広げることはできないとしています。要領・要綱に「全部を対象としないことがある」と書いてあることは、「全部が不正である」ことを意味しない、という判断です。

もっとも、二つの判決は、同じ事件の中で、詐欺罪については反対の結論を出しています。事業の実施主体である団体に対して対象外のものを混ぜて買上げを申し込み、代金と経費の支払を受けた部分については、対象となるものの分も含めて全額について詐欺罪が成立するとされました。なぜ同じ「混ぜて申請した」行為の評価が分かれるのか。ここが、この二つの判決のいちばん読みどころのある部分です。

そして、この論点は、最高裁で決着しています。最二小決平成21年9月15日(刑集63巻7号783頁)は、補助金等不正受交付罪は「不正の手段と因果関係のある受交付額について成立する」とし、交付を受けた補助金全額について成立するものではないとして、全額について罪の成立を認めた下級審の法令解釈を誤りであると明言しました。本稿では、二つの大阪地裁判決の中身を中心に置き、最後に、刑事で否定されたこの論法が行政処分の場面でそのまま通るのか、を整理します。

1 「全額が不正受給だ」と言われたら、まず何を問うべきか

(1)条文は「交付を受け」たことを処罰している

はじめに、条文を確かめます。

引用(補助金適正化法29条1項)

「偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受け、又は間接補助金等の交付若しくは融通を受けた者は、五年以下の拘禁刑若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」

この条文が処罰しているのは、「偽りその他不正の手段により」「補助金等の交付を受け」ることです。不正の手段を用いたこと自体ではありません。手段と、交付を受けたこととが、つながっている必要があります。

小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』(株式会社全国会計職員協会、2016)393頁は、この条文の構造から、次のように述べています。構成要件要素である不正の手段と補助金等の交付を受けることとの間に相当因果関係が存在しなければならない。したがって、仮に不正の手段が講じられても、もともと補助金等の交付を受ける資格のある事業に対して正当な金額を受給した場合は、補助金等不正受交付罪を構成しない。そして、正当に受給しうべき金額以上の過大交付を受けた場合には、当該超過部分についてのみ本罪が成立する、と。

(2)「不正」と「不当」は違う

もう一つ、同書が強調している点があります。同書392頁から393頁までは、この法律の目的規定(1条)が「補助金等の交付の不正な申請及び補助金等の不正な使用の防止」を掲げ、不当な申請や不当な使用までは規定していないことを挙げて、29条1項の「不正の手段」は限定的に解釈すべきであるとします。そして、違法(不正)に至らない不当な手段や行為については、交付決定の取消しや返還命令といった行政処分の対象となり得るとはいえ、刑事罰の対象とすべきものとはされていないとし、「法令違反(法規違反)に至らない行為――単に、補助金等交付要綱などの行政規則に反するだけの手続き違反的なもの――についてまでその罪責を問う趣旨のものではない」と述べています。

交付規程や公募要領に書かれていることに反したという指摘が、そのまま「不正」になるわけではない、ということです。交付規程違反と補助条件違反の関係そのものは、交付規程違反は補助条件違反に当たるのかで扱っています。

(3)実務で問うべき三つのこと

以上を踏まえると、「申請に対象外のものが含まれていたから全額が不正受給である」と告げられたときに問うべきことは、三つに整理できます。

一つ目は、指摘された事実が「不正」に当たるのか、それとも要領の書き方に沿っていないという「不当」にとどまるのか。

二つ目は、仮に不正があったとして、正当に受け取れたはずの部分と、それを超える部分とを分けて計算できるのか。

三つ目は、分けられるのであれば、責任の範囲は超える部分に限られるのではないか。

本稿で紹介する二つの判決は、二つ目と三つ目について、裁判所の言葉で手がかりを与えています。

2 事案――対象のものに対象外のものを混ぜて、数量どおりに申請した

(1)補助金の仕組み

牛海綿状脳症(BSE)が国内で発生したことを受け、全頭検査が実施される前にと畜解体処理された国産牛肉を市場から隔離して一定期間保管する事業が実施されました。補助金は、国の事業団から、事業の実施主体とされた団体に対して交付され、その団体が傘下の団体や業者から対象となる牛肉を買い上げ、保管させるという仕組みです。補助金の額は、牛肉の重量に単価を乗じて計算されます。

ここが、この事件を読むうえでの要点です。補助金の額が「数量×単価」で決まる仕組みだったために、対象となる分と対象外の分とを分けて計算できる事案になっていました。

(2)何がされたのか

実施主体の傘下にあった団体が、対象とならない牛肉(全頭検査の実施日以後にと畜解体処理されたものなど)を含む牛肉について、そのすべてが対象牛肉であるかのように装い、内容虚偽の在庫証明書を添えて、重量の合計に対応する補助金の交付申請および概算払請求をしました。また、実施主体に対しては、対象外のものを含む牛肉の買上げを申し込み、買上げ代金と冷凍保管経費等の支払を受けています。

このうち、国の事業団から補助金の交付を受けた部分については補助金適正化法29条1項違反(補助金等不正受交付罪)として、実施主体である団体から代金と経費の支払を受けた部分については詐欺罪として起訴されました。

(3)争われたこと

いずれの事件でも、事実関係そのものは争われていません。争われたのは、犯罪が成立する範囲です。検察官は、申請ごとに一括して支払われたのだから不可分であり、請求に係る全額について罪が成立すると主張しました。弁護人は、対象外のものに係る不正請求部分に限られると主張しました。

この対立は、そのまま、今の実務で事業者が置かれている状況の対立です。行政の側は「一括して交付したのだから全体が不正である」と言い、事業者の側は「正しく受け取れた分はあるはずだ」と言う。その対立に、裁判所がどう答えたかが、以下の説示です。

3 大阪地判平成17年5月27日――可分であれば超過部分についてのみ

(1)判示

引用(大阪地判平成17年5月27日・第4の1)

「しかしながら、補助金適正化法29条1項の趣旨は、予算の不当支出による国庫の損失を防止しようとするところにあるから、仮に不正の手段が講じられても、結果において正当な金額を受給した場合は、補助金等不正受交付罪を構成せず、正当に受給すべき金額以上の過大交付を受けた場合には、正当に受給すべきであった補助金等の額が可分であれば、当該超過部分についてのみ、補助金等不正受交付罪が成立するものと解するのが相当である。同旨の弁護人の主張には理由がある。」

組み立てを分けて読みます。

第一に、出発点は条文の趣旨です。29条1項は、予算の不当支出による国庫の損失を防止しようとするものである。

第二に、そこから、不正の手段が講じられても結果において正当な金額を受給した場合には、そもそも罪を構成しないという帰結が導かれます。損失がないからです。

第三に、過大交付の場合には、正当に受給すべきであった額が「可分であれば」、超過部分についてのみ罪が成立する。

そして、この判決は、検察官の「一括不可分」論を正面から退けています。本件の補助金額は牛肉1キログラム当たりの単価に基づいて計算され、対象となるものと対象外のものの重量も特定されているから、正当に受給すべきであった額とそれを超過して不正に受給した額とを明確に分けて算定することが可能であり、可分であるといえる、としました。

(2)可分性の判断は計算の仕組みで決まる

ここが、実務で使うときの要です。判決は、「一括して申請し、一括して支払われた」という外形ではなく、補助金額がどのように算定される仕組みになっているかを見ています。単価に数量を乗じて算定される仕組みであれば、数量を分ければ金額も分かれる。だから可分である、という筋道です。

判決は、この考え方に従って、各事実について成立範囲を具体的に計算し直しています。たとえば、申請に係る全重量から対象外の重量を差し引いた部分については、「結果において正当な補助金を受給したものといわざるを得ない」として、対象外の重量に単価と交付割合を乗じた額に成立範囲を限っています。

同じ考え方は、古い裁判例にもさかのぼります。小滝・前掲395頁注14・注15は、秋田地判昭和39年5月13日と金沢地判昭和45年3月16日を引いています。前者は、たとえ不正と目すべき手段が講じられても、交付されるべき資格ある事業等について正当な金額の交付を受けた場合は含まれないとし、その理由を、この場合には補助金が国の財政目的に沿って支出されたのであって国に財政上の損失を生ずることがないからであるとしています。後者は、工事の入札につき競争入札を仮装した場合であっても、正当な金額の交付を受ける場合は含まれないとしました。手段の悪質さと、罪の成立範囲とは、別の問題として扱われているということです。

4 大阪地判平成17年5月11日――要綱の「全てを対象としないことがある」で範囲は広がらない

同じ事業に関する別の被告人らについて、その2週間ほど前に出された判決です。結論は同じですが、理由づけの入り方と、踏み込んだ範囲が違います。

(1)判示

引用(大阪地判平成17年5月11日・(争点に対する判断)第3の1)

「適化法29条1項違反の罪は、偽りその他不正の手段を講じ、その結果補助金等の交付を受けることを処罰するものであり、その立法趣旨は予算の不当な支出による国庫の損失を防ごうとするものである。そして、本罪のごとき行政罰則は、行政目的を達するために行政法規に違反する行為を刑罰の対象とするものであり、このことからすれば、正当に受給し得べき金額以上の過大交付を受けた場合については、本来正当に受給し得る部分については国庫の損失もないのであるから、両者が不可分であるなど特段の事情がない限り、その超過部分についてのみ補助金等不正受交付の罪が成立するものと解するのが相当である。」

5月27日の判決が「可分であれば」という条件を立てたのに対し、こちらは「両者が不可分であるなど特段の事情がない限り」という言い方をしています。原則と例外の置き方が逆になっています。超過部分に限るのが原則で、不可分であることが例外側にある、という書き方です。

(2)実施要綱の定めで罪の成立範囲は広がらない

そして、この判決には、本稿でもっとも使い道のある説示があります。

引用(大阪地判平成17年5月11日・(争点に対する判断)第3の1)

「もっとも、本件では、実施要綱第4(3)で、『現品確認の結果、保管対象荷口の一部に保管対象牛肉でないものがあると認められるときは、その荷口の全てをこの事業の対象としないことがある。』とされていることから、すべての牛肉につき、保管対策事業に乗せられないものであったのではないかとの疑問が生じ得る。この点については、『荷口の全て』の意義の解釈問題でもあるところ、実施要綱は『対象としないことがある。』と規定し、対象としない旨断定的な定めはしていないこと、実施要綱は、行政目的を達するために作成されたものであって、本来刑罰法規の解釈の基準となるものではないこと等からすれば、これによって適化法違反の罪の成立範囲を拡大させることはできない。」

裁判所は、二つの理由を挙げています。一つは、要綱の文言そのものが「対象としないことがある」であって、断定的な定めではないこと。もう一つは、要綱は行政目的のために作られたものであって、本来刑罰法規の解釈の基準となるものではないことです。

この説示は、今の補助金の実務にそのまま当てはまります。 事業の要領・交付規程・公募要領には、「一部に適合しないものがあるときは全部を対象としないことがある」という趣旨の定めが置かれていることがあります。しかし、そこに「ことがある」と書いてあるのであれば、それは全部を対象外とする取扱いもあり得るという定めであって、全部が対象外であることを決めた定めではありません。そして、要領の文言は、法律上の責任の範囲を決める基準ではありません。小滝・前掲392頁から393頁までが、交付要綱などの行政規則に反するだけの手続違反的なものについてまで罪責を問う趣旨ではないとしているのと、同じ方向です。

(3)「間接補助金」かどうかも、ここで争われている

この判決は、もう一つの論点にも答えています。弁護人は、実施主体から傘下団体に支払われた冷凍保管経費等は反対給付を伴わないものであるから、適正化法上の「間接補助金等」に当たり、詐欺罪ではなく適正化法違反になると主張しました。

裁判所は、「間接補助金等」の定義(同法2条4項。国以外の者が相当の反対給付を受けないで交付する給付金であること等)に立ち返り、実施主体が買い上げた牛肉の所有権は実施主体に帰属するのだから、構成員に支払われる冷凍保管経費等は、本来所有権者である実施主体が行うべき保管行為を構成員が代わって行うことに対する反対給付としての性格を有するとして、間接補助金には当たらないとしました。

同じ補助金から出ているお金であっても、反対給付があるのかどうかで性質が変わる。間接補助金の範囲の考え方については、裁判例紹介:福岡高判と間接補助金でも扱っています。

5 同じ事件で詐欺罪は全額――結論が分かれた理由

ここは、正直に書いておかなければならない部分です。二つの判決は、いずれも、詐欺罪については全額について成立するとしています。

引用(大阪地判平成17年5月27日・第3の4)

「しかしながら、本件において、D18連は、被告人等の欺罔行為により、買上申込に係る牛肉すべてが保管対象牛肉であると誤信した結果、申込みに係る牛肉すべてについて買上決定をして、その買上代金及び冷凍保管経費等をD4連に支払ったものであり、もし、D18連において、買上申込に係る牛肉の中に対象外牛肉が混入していることを知っていたならば、後に再請求を認めるかは別として、そのままでは買上決定をすることがなかったことは証拠上明白である。」

※ 「D18連」「D4連」は、判決における団体の匿名表記のままです。

5月11日の判決も、「対象外牛肉が含まれていることが分かっていればその全額につき支払わなかったといえるから、対象牛肉の分も含めて全額につき詐欺罪が成立するものと解するのが相当である」としています。

なぜ分かれるのか。当職の理解では、見ているものが違うからです。補助金等不正受交付罪の側で裁判所が見ているのは、国庫に損失が生じたかどうか、つまり正当に支出されるべき金額がいくらだったかです。詐欺罪の側で見ているのは、だまされた相手がその交付行為をしたかどうか、つまり欺罔と交付との間の対応関係です。前者は金額の問題として分けられ、後者は意思決定の問題として分けられない。5月27日の判決は、実施主体が買上げを決めなければ代金を請求する権利はそもそもなかったという関係も指摘しています。

したがって、本稿で紹介した「超過部分に限る」という考え方は、国から交付される補助金等の不正受交付の場面についてのものです。民間の団体や事業者をだまして金銭を交付させた場面にそのまま広げられるものではありません。この区別を取り違えると、書面でも相談でも話がかみ合わなくなります。

6 最高裁はどう決着させたか

この論点は、その後、最高裁で決着しました。別の地域の同じ事業をめぐる事件についてのものです。

引用(最二小決平成21年9月15日・なお書き3)

「そこで検討すると、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律29条1項の文理及び趣旨に照らせば、補助金等不正受交付罪は、不正の手段と因果関係のある受交付額について成立するものと解するのを相当とする。そして、因果関係については、不正の手段の態様、補助金交付の目的、条件、交付額の算定方法等を考慮して判断することが相当である。」

そして、当てはめです。この事件の補助金は、対象牛肉を市場から隔離するためにこれを保管又は処分した場合に、その量に応じて交付されるものであった。被告人らは、対象牛肉に加えてそれ以外の又は実在しない牛肉についてこれらが対象牛肉であると偽り、これを上乗せした合計量に対する補助金の交付を受けた。そうすると、不正の手段と因果関係のある受交付額は、対象牛肉以外の又は実在しない牛肉に係る受交付額である。最高裁は、こう述べたうえで、第1審判決とこれを是認した原判決は、交付を受けた補助金全額について罪の成立を認めた点において「法令の解釈適用を誤ったものといわざるを得ない」としました(結論としては、量刑への影響がないとして上告は棄却されています)。

押さえておきたいのは、最高裁が持ち出した判断の要素です。「不正の手段の態様、補助金交付の目的、条件、交付額の算定方法等」。大阪地裁の二つの判決が「可分かどうか」と呼んでいたものは、最高裁の枠組みでは「交付額の算定方法等」を考慮した因果関係の判断に置き換わっています。数量に単価を乗じて算定する仕組みであれば、上乗せした分に対応する額だけが不正の手段と因果関係を持つ。考えていることは同じです。

なお、本稿で紹介した大阪地判平成17年5月27日の事件は、控訴審で控訴が棄却された後、最二小判平成24年4月2日(集刑307号775頁)により、併合して起訴されていた証拠隠滅教唆の事実について重大な事実誤認の疑いが顕著であるとして原判決が破棄され、大阪高等裁判所に差し戻されています。これは証拠隠滅教唆の事実認定を理由とするものであり、本稿で紹介した罪の成立範囲についての判断を変更したものではありません。5月11日の判決については、上訴審の裁判を手元の資料で確認できていません。

7 では、行政処分の側はどうなるのか

ここからは、本稿の中心である判示から一歩外に出ます。以下は、当職の整理です。

(1)刑事の範囲と行政処分の範囲は、別に決まる

まず、はっきりさせておかなければならないことがあります。本稿で紹介した判決は、いずれも刑事事件です。補助金等不正受交付罪が超過部分についてのみ成立するということは、交付決定の取消しや返還命令の範囲が自動的に超過部分に限られることを意味しません。処分の根拠条文も、判断する主体も違います。

もっとも、これは行政の側にとって有利にだけ働く話ではありません。17条1項は、取消事由があるときに交付決定の「全部又は一部」を取り消すことができると定めています。そして、返還命令の対象は「当該取消しに係る部分」です(18条1項)。全部取消しだけが法の定める姿ではないこと、どこまで取り消すかは判断の対象であることは、条文の形からそのまま出てきます。この枠組みは、補助金の交付決定の取消し・返還請求と補助金の交付決定の取消しに裁量はあるのかで扱っています。

(2)行政の側も、現に一部取消しで処理している

抽象論ではありません。本稿で取り上げた事業について、国の側は、実際に一部取消しで処理しています。

名古屋地判平成24年4月12日(平成20年(ワ)第2287号)が認定したところによれば、事業団の事務を承継した独立行政法人農畜産業振興機構は、事業の実施主体に対し、委託先による補助金の申請のうち特定の団体の分について補助対象外品が含まれるという不正が認められたとして、補助金適正化法17条2項の規定により「交付決定の一部」を取り消し、18条1項の規定によりその額の返還を命じています。取り消されたのは、交付された補助金の全体ではなく、不正が認められた部分に対応する額でした。

つまり、「一部に対象外のものが混じっていたのだから交付決定は全部取消しになる」という扱いは、この事業について国が実際に採った扱いでもありません。

(3)要領に「全部を対象としないことがある」と書いてあることの意味

そのうえで、申し上げておきたいことがあります。実務では、事務局や中央会、自治体の窓口から、「公募要領(交付規程)に、一部でも適合しないものがあれば全部を対象としないと書いてあります」という説明を受けることがあります。この説明が、そのまま全額の取消しと全額の返還の根拠として示されることがあります。

しかし、第一に、そうした定めは多くの場合「対象としないことがある」という書き方であって、全部を対象外とすることを決めた定めではありません。第二に、交付規程や要領は行政規則であって、それ自体が全部取消しの根拠になるものではありません。この点は、裁判例紹介:名古屋地判・名古屋高判で扱った取消事由の組立てと同じ問題です。第三に、本稿で見たとおり、「一部に混入があったから全体が対象外である」という読み方は、刑事の場面では裁判所が正面から退けた読み方です。

要領の一文だけを示して全額の返還を求める説明は、根拠の示し方として足りていないと言わざるを得ません。事業者の側としては、その取扱いの根拠がどの条文のどの規定なのか、取り消される範囲がなぜ全部なのかを、文書で確かめておくことになります。返還を求められた場面での手順は、補助金の返還・残存簿価の返納を求められたらにまとめています。

(4)確かめておくこと

以上の主張は、いずれも計算の裏づけを必要とします。確かめておくべきことは、おおむね次のとおりです。

① 補助金額の算定方法。 交付決定通知書・交付規程・公募要領で、補助金の額がどのように算定される仕組みになっているかを確かめます。単価に数量を乗じる形、経費区分ごとに積み上げる形、定額の形で、分けられるかどうかが変わります。最高裁が「交付額の算定方法等」を考慮要素に挙げているのは、まさにここです。

② 指摘された部分と、それ以外の部分の切り分け。 指摘を受けた経費・設備・数量がどれで、金額がいくらになるのか。帳簿・伝票・納品書・契約書で特定できるのであれば、分けられるという主張の事実的な裏づけになります。

③ 指摘が「不正」なのか「不当」なのか。 事実と違う記載があったのか、それとも要領の様式や手続に沿っていなかったのか。小滝・前掲392頁から393頁までの区別が効いてくる場面です。

④ 加算金・延滞金の計算の前提。 返還額が変われば、それに付される加算金の額も変わります。加算金・延滞金とは何かと補助金の返還額はどう計算するのかをあわせてご覧ください。納付命令が届いた場合の扱いは納付命令が届いたらで扱っています。

8 まとめ

補助金適正化法29条1項が処罰しているのは、不正の手段によって補助金等の「交付を受け」ることです。不正の手段を用いたこと自体ではありません。

大阪地判平成17年5月27日は、同項の趣旨が予算の不当支出による国庫の損失の防止にあることから、不正の手段が講じられても結果において正当な金額を受給した場合には罪を構成せず、過大交付の場合には、正当に受給すべきであった額が可分であれば「当該超過部分についてのみ」罪が成立するとしました。そして、補助金額が単価と数量で算定され、対象となる分と対象外の分の数量が特定されているのであれば可分であるとして、検察官の「一括不可分」論を退けています。

大阪地判平成17年5月11日は、同じ結論を「両者が不可分であるなど特段の事情がない限り」という形で示し、さらに、実施要綱に「一部に対象でないものがあるときはその荷口の全てを対象としないことがある」という定めがあっても、「対象としないことがある」という書き方であること、要綱は行政目的のために作られたもので本来刑罰法規の解釈の基準となるものではないことから、これによって罪の成立範囲を拡大させることはできないとしました。

ただし、二つの判決は、民間の団体に対する詐欺罪については、対象となる分も含めて全額について成立するとしています。見ているものが、国庫の損失の額なのか、欺罔と交付行為との対応関係なのかで、分けられるかどうかの答えが変わるためです。そして、国からの補助金等の不正受交付については、最二小決平成21年9月15日が、罪は「不正の手段と因果関係のある受交付額について成立する」とし、因果関係は「不正の手段の態様、補助金交付の目的、条件、交付額の算定方法等」を考慮して判断するとして、全額について成立を認めた下級審の解釈を誤りであるとしました。

そのうえで、交付決定の取消しと返還命令の範囲は、刑事の成立範囲とは別に決まります。17条1項は「全部又は一部」を取り消すことができると定め、18条1項は返還命令の対象を「当該取消しに係る部分」としています。この事業について、国の側も、現に17条2項による「交付決定の一部」の取消しという形で処理しています。要領の一文を示して全額の返還を求める説明は、根拠の示し方として足りていないと言わざるを得ません。

ご相談をお考えの事業者の方へ

「申請に対象外のものが含まれていたので全額を返還してください」と言われた段階で、金額の計算をやり直さずに受け入れてしまう前に、確かめていただきたいことがあります。補助金の額がどのように算定される仕組みだったのか、指摘された部分と残りの部分を金額として分けられるのか、取り消される範囲がなぜ全部なのか。交付決定通知書、交付規程・公募要領、申請書と実績報告書の控え、届いている通知書類があれば、具体的な検討ができます。取消通知や納付命令には不服申立ての期間がありますので、早い段階でご相談ください。通知が届く前にしておくべきことは取消しの通知が届く前にしておくべきことにまとめています。

士業の先生方へ

顧問先から「申請数量の一部が対象外だと指摘された」「実績報告の一部に誤りがあったので全額返還と言われた」というご相談を受けることがあろうかと存じます。金額の算定方法から切り分けを組み立てる作業と、取消しの範囲を争う作業とは、やるべきことが変わります。補助金適正化法の側からの検討が必要な場面では、その部分だけを分担してお引き受けすることもできます。中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方からのご相談も承っております。連携の形は士業の先生方へにまとめております。

※ 本稿は一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。本稿の第5節の後半及び第7節は、当職の見解を含みます。具体的な対応は、交付決定通知書等の資料に基づく個別の検討が必要です。

※ 本稿は、執筆時点の法令・公表資料に基づく一般的な整理であり、当職の私見を含みます。個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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