執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 この要領は、どの補助金に、どういう位置づけで適用されるのか
県や市の補助金で設備や建物を取得した後に、個人事業を法人にしたい、親が亡くなって事業を継いだ、火事で設備が使えなくなった、設備を県内の別の店舗へ移したい、というご相談があります。処分制限期間内に処分すれば返還になる、という趣旨の案内しか受けていない方が多く、そこで諦めてしまう方がいらっしゃいます。しかし、自治体の中には、どのような場合に返還を免除するかを、公表された要領に列挙しているところがあります。このページでは、神奈川県が公表している「中小企業者等を対象とした補助金に係る財産処分等の取扱要領」(以下「要領」といいます。)を素材に、その中身を読みます。
はじめに、位置づけです。自治体が自らの財源で交付する補助金は、補助金適正化法2条1項の「補助金等」(国が国以外の者に対して交付するもの)に当たりませんので、同法22条が直接に適用されるものではありません。神奈川県では、補助金の交付等に関する規則(昭和45年3月31日規則第41号。最終改正令和3年9月28日規則第80号。以下「規則」といいます。)17条が、補助事業等により取得し、又は効用の増加した「次に掲げる財産」(不動産及びその従物、機械及び重要な器具で知事が別に定めるもの、その他知事が特に必要があると認めて別に定めるもの)を、知事の承認を受けないで「補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、担保に供し、取り壊し、又は廃棄してはならない」と定めています。同条ただし書は、交付を受けた補助金等の全部に相当する金額を県に納付した場合と、知事が別に定める期間を経過した場合を、この制限から外しています。お手元の財産がこの対象に入るのか、期間を過ぎていないかが、最初に確かめる点です。国の法律と違って、取壊しと廃棄が条文に書き込まれていることは、コラム「補助金で取得した設備を廃棄することは「処分」か」で述べています。
要領は、この規則17条の承認について、知事が自分の判断の基準を定めたものです。要領1条は、その趣旨を次のように書いています。
引用(神奈川県「中小企業者等を対象とした補助金に係る財産処分等の取扱要領」1条・1頁。https://r8seisansei.pref.kanagawa.jp/assets/data/syobunyouryou.pdf 、2026年10月30日閲覧)「この要領は、別表に定める補助金交付要綱(以下「交付要綱」という。)及び補助金の交付等に関する規則(昭和45年神奈川県規則第41号。)(以下「規則」という。)の規定に基づき財産処分及びその承認基準等について、必要な事項を定める。」
要領の原文の算用数字は半角ですが、このページの引用では全角に改めています(以下同じ)。
読み落としてはいけないのは、「別表に定める補助金交付要綱」という限定です。要領の別表(5頁)に挙げられている交付要綱は、令和6年度中小企業生産性向上促進事業費補助金交付要綱、中小企業生産性向上促進事業費補助金交付要綱、神奈川県小規模事業者デジタル化支援推進事業費補助金交付要綱の三つです。要領が自ら適用の範囲として挙げているのは、この三つの補助金です。もっとも、同じ県の同じ規則17条の承認について知事が示した基準ですから、神奈川県の他の補助金で同じ場面が問題になったときに、この要領の扱いと違う扱いをするのであれば、その理由が問われてよいと考える余地があります。「要領は三つの補助金の基準にすぎない」と言われたときは、その補助金では何を基準に承認と納付の条件を判断するのかを、逆に書面で尋ねることになります。他の自治体の補助金については、その自治体の規則と要領を読む必要があります(後記6)。
要領は令和6年3月22日に施行され、令和7年5月20日と令和8年4月3日の二度の改正を経ています(附則・5頁)。以下に引くのは、令和8年4月3日施行のものです。
要領の骨格も先に書いておきます。処分制限財産を処分する場合は、あらかじめ承認申請書を知事に提出して承認を受けなければなりません(要領3条本文)。知事は、承認をする場合、7条に定める返還金を県に納付する旨の条件を付すものとされています(同4条1項)。承認を受けて財産処分を行った補助事業者は、10条の処分事由に該当する場合を除き、納入通知書等により返還金を県に納付しなければなりません(同7条1項)。つまり、返還金は、承認に付された条件(講学上の附款)から生じるものであり、要領はその条件を付さない場合を10条に列挙している、という作りです。国の補助金について、納付義務が承認の附款から生じるという整理は、Q&A「会社の形を変えたら補助金を返すのでしょうか」の5で述べています。県の要領は、同じ組み立てを条文の形で書いています。
2 そもそも「財産処分に該当しない」とされている四つの場合(要領9条)
要領は、免除の前に、承認の手続そのものを要しない場合を置いています。
引用(同要領9条・3頁)「次に掲げる事例については財産処分に該当せず、第3条に定める手続きを経ることを要しないこととする。
(1) 補助事業者(法人)が補助事業完了後に大企業となった場合
(2) 所有権が初めから補助事業者に帰属しない財産を処分する場合
(3) 一時使用の場合(業務時間外や休日等を利用して補助目的たる事業の遂行に支障を来さない範囲で一時的に目的外使用する場合、又は処分制限財産(施設に限る。)の一部(施設延べ床面積の概ね10%を超えない範囲。ただし、150平方メートルを上限とする。)について付帯設備の設置を行う場合その他当該目的外使用が極めて軽微である場合。)
(4) 補助目的たる事業を遂行するために必要な、処分制限財産の機能の維持、回復又は強化を図るための改造を行う場合」
(1)は、補助事業が終わった後に会社が大きくなって中小企業者の枠を超えた場合です。県の要領は、これを財産処分に該当しないと言い切っています。財産の所有者も使い方も変わっていないのですから、当然の整理です。国の補助金について、同じ場面を公式の資料が「財産処分」と呼んでいる問題は、前掲のQ&A「会社の形を変えたら補助金を返すのでしょうか」で扱っています。
(2)は、リース物件のように、はじめから所有権が補助事業者にない財産です。(3)と(4)は、国の取扱基準(「補助事業等により取得し又は効用の増加した財産の処分等の取扱いについて」平成16・6・10会課第5号)2(2)とほぼ同じ文言で、10%・150平方メートルという数字も同じです。この数字の読み方と、業務時間外の一時的な転用には面積の定めがないことは、Q&A「補助金で入れた設備・施設を別の用途にも使いたい――手続が要らないのはどこまでか」で述べていますので、ここでは繰り返しません。国の取扱基準が「次に掲げる場合その他これらに準ずる場合」と書いているのに対し、要領9条には「準ずる場合」という柱書がなく、(3)の中に「その他当該目的外使用が極めて軽微である場合」という受け皿が置かれているという違いがあります。
3 返還金が免除される処分事由(要領10条)――法人成り・相続・合併・交換・移設
次が、このページの中心です。要領10条は、財産処分には当たるが返還金を免除することができる処分事由を、表の形で列挙しています。柱書は次のとおりです。
引用(同要領10条柱書・3頁)「財産処分のうち次表に掲げる区分ごとに定める処分事由に該当すると知事が認めた場合は、財産処分に係る返還金を免除することができる。免除を受けようとする補助事業者は、第3条に基づく承認申請を行う際に次表に掲げる証明書類及びその他必要に応じて求める書類を添付するものとする。」
表は、区分(譲渡・交換・取壊し・廃棄・移転・その他)、処分事由、証明書類、備考の四つの欄から成ります(3〜4頁)。災害と取壊しは次の4で述べることにして、ここでは、譲渡・交換・移転の各区分を見ます。処分事由と備考の欄は、原文のとおり引きます。
譲渡の区分――法人成り・個人事業主化・相続・合併
- 「補助事業者(個人事業主)が法人化」。証明書類は、補助事業の承継に係る誓約書、履歴事項全部証明書又は現在事項全部証明書、法人設立(開設)届出書(「設立の形態」が1であるもの)。
- 「補助事業者(法人)が個人事業主化」。証明書類は、補助事業の承継に係る誓約書と個人事業開業届出書。
- この二つの備考欄は、「事業者の同一性が確認できる場合に限る ただし、特別の法律に基づき設立された法人に承継する場合を除く」です。
- 「補助事業者(個人事業主)の死亡、又はこれに類する事情に起因した相続」。証明書類は、補助事業の承継に係る誓約書、相続者の個人事業開業届出書、被相続者の死亡届又は住民票除票。備考は「相続者が補助事業を継続する場合に限る(相続後に事業貸付、事業譲渡する場合を除く)」。
- 「補助事業者(法人)の合併(吸収合併含む)」。証明書類は、補助事業の承継に係る誓約書、履歴事項全部証明書又は現在事項全部証明書、法人設立(開設)届出書(「設立の形態」が2であるもの)。備考は「合併後の法人が補助事業を継続する場合に限る」。
要領は、個人事業主の法人成りを「譲渡」の区分に置いています。個人の財産が法人のものになるのですから、所有者の変更があるという整理です。そのうえで、同じ事業者が同じ補助事業を続けるのであれば返還金を免除することができる、としています。法人成りは財産処分に当たるから納付が要る、という説明で止めるのではなく、免除の事由として表に載せているのです。国の補助金について、公式のよくあるご質問が、補助事業実施期間終了後に個人事業主が医療法人になった場合を「財産処分の扱いとなり、補助金額の一部を返還していただく必要があります」とし、法人化一般については、なお書きで、事前に中小機構の承認を得る必要があり、事前承認なしに実施した場合は補助金額の一部を返還することがあるとしていることは、前掲のQ&Aで引用しました。県の要領は、同じ場面を財産処分(譲渡)に当たるとしたうえで、返還金を免除することができる事由として表に載せています。公式のよくあるご質問は、免除の可能性に触れないまま返還で止めています。
備考欄の「事業者の同一性が確認できる場合に限る」と「補助事業を継続する場合に限る」は、いずれも、補助金で取得した財産が同じ事業に使われ続けることを求めるものです。相続については、相続した後に事業を貸し付けたり譲渡したりする場合が除かれています。合併については、吸収合併も含まれることが明記されています。「特別の法律に基づき設立された法人」の除外は、医療法人や学校法人のような法人への承継を念頭に置いたものと読めますが、要領はその理由を書いていません。
合併・会社分割を含む組織再編の一般的な扱いと、国の補助金の公募要領が交付決定前の承継を禁じていることとの関係は、Q&A「採択の後に会社分割や事業譲渡をしたいのですが」と、Q&A「補助事業を事業譲渡したら、補助金の返還や罰則の対象になるのか」で述べています。
交換の区分――不具合・リコール
処分事由は「処分制限財産の不具合、リコール等」です。証明書類は、不具合、リコール等を証明する書類、交換したことを証明する書類(交換後に提出)、交換する設備が処分制限財産と同等以上の性能等を有することを証明又は確認する書類で、備考は「交換する設備が処分制限財産と同等以上の性能等を有すること」です。補助金で買った機械が初期不良やリコールで交換になった場合、交換は規則17条の「交換」に当たりますが、同等以上の性能の設備に替わるのであれば返還金は免除され得る、ということです。
移転の区分――県内の別の事業所への移設
要領は、国の取扱基準の七つの類型にはない「移転」という区分を置いています。要領2条(4)クは、移転を「処分制限財産の他の事業所等への移設、他の事業所等での使用」と定義しています(1頁)。10条の処分事由は「補助事業者の県内にある別の事業所に移設」、証明書類は登録事項変更届と移設に係る費用の見積もり、備考は「補助事業の目的を逸脱せず、移設後も補助目的を達成できる場合に限る」です。
裏から読むと、県外への移設は免除の事由に挙げられていません。県の財源で交付した補助金ですから、県内に財産がとどまることを免除の条件にしているものと読めます。店舗の移転や工場の集約を予定されている方は、移設先が県内かどうかで扱いが変わります。
次のような場合は、承認申請を出される前にご相談ください
- 県や市の補助金で設備を入れた後に、法人成り・相続・合併を予定している
- 火災や自然災害で使えなくなった設備について、保険金を受け取ったことを理由に返還を求められている
- 自治体から「処分すれば返還」とだけ案内され、免除の定めがあるのかどうか分からない
関連ページ: 災害や火災で使えなくなった設備――国の補助金の場合(Q&A)/会社の形を変えたら補助金を返すのでしょうか――国の補助金の場合(Q&A)
4 災害・道路拡張・老朽化・危険な施設の取壊し――保険金が入ったときのただし書
取壊し・廃棄の区分には、四つの処分事由が並んでいます(4頁)。
- 「滅失・毀損」。証明書類は、罹災証明書等の滅失又は毀損を証明する書類と、滅失又は毀損した処分制限財産の写真。
- 「道路拡張整備等に伴う取壊し」。証明書類は、道路拡張整備等を証明する書類。
- 「老朽化により代替施設を整備する場合の取壊し等」。証明書類は、法務局提出前の建物滅失登記申請書と代替施設の図面。
- 「立地上若しくは構造上危険な状態にある施設等の取壊し又は廃棄」。証明書類は、法務局提出前の建物滅失登記申請書と、災害危険区域に指定されていることが分かる書類等。
この四つは、国の取扱基準が報告書の提出によって承認を受けたものとみなし国庫納付を求めないとしている場合(5(1)②)と、地方公共団体以外の者についても国庫納付条件を付さないことができるとしている場合(5(2)②aが引く同①a・b)を、ほぼそのまま写したものです。国の側の定めの読み方は、Q&A「災害や火災で使えなくなった設備、危険で取り壊した建物――承認と納付は必要か」で述べています。県の要領で違うのは、次の三点です。
第一に、手続です。国の取扱基準は、災害・火災・危険な状態にある場合の取壊し等について報告書の提出で承認を受けたものとみなしますが(5(1)②)、要領は、災害の場合も承認申請を求めたうえで、3条ただし書で「災害等やむを得ない場合は事後の承認申請を認めるものとする」としています。片づけてしまった後でも、事後の承認申請ができる、という作りです。
第二に、「滅失・毀損」の備考欄に、ただし書が置かれていることです。
引用(同要領10条の表「取壊し・廃棄」の区分「滅失・毀損」の備考欄・4頁)「火事による消失、地震等の自然災害による損壊等
ただし、本人に故意又は重大な過失がある場合や、保険金等による収入があり、補助事業を継続しない場合はこの限りではない。」
前段の「故意又は重大な過失」は、国の取扱基準の「補助事業者等の責めに帰することのできない事由による場合に限る」より、事業者に有利な書き方です。軽い過失では免除の事由から外れないことが、文言の上で明らかになっています。
後段が、保険金の扱いです。要領が免除の対象から外しているのは、「保険金等による収入があり、補助事業を継続しない場合」です。保険金が入ったことだけでは外れません。保険金が入り、かつ、補助事業を続けない場合に限られています。保険金で同種の設備を入れ直して補助事業を続けるのであれば、このただし書には当たらないと読む余地があります。国の取扱基準5(2)①aの括弧書き(相当の補償を得ているものの、代替施設を整備しない場合を除く。5(2)②aが地方公共団体以外の者に及ぼしています。)と同じ考え方を、県は「滅失・毀損」の欄に書き込んだものと読めます。
第三に、老朽化と危険な施設の証明書類に「法務局提出前の建物滅失登記申請書」が挙げられていることです。免除を求めるのであれば、滅失登記を済ませる前に承認申請を出すことが前提になっています。先に登記を終えてしまうと、要領が予定している書類がそろわなくなります。
なお、保険金が入った場合に納付額の基礎がどうなるかは、別の問題です。要領8条1項の表は、取壊し・廃棄の返還額を「取壊し時点での残存簿価に補助率を乗じて得た額」「廃棄時点での残存簿価に補助率を乗じて得た額」としており、保険金の額を基礎とする定めは置いていません(2頁)。この要領の返還額の算式と、国や他の自治体の式との違いは、コラム「自治体の補助金で返す額は、どう計算されるのか――残存簿価方式と、経過年数による按分」で述べています。
5 「その他」の判断基準と、「免除することができる」という書き方
表の末尾には「その他」の区分があり、備考欄に判断の基準が書かれています。
引用(同要領10条の表「その他」の備考欄・4頁)「「処分事由が不可抗力によるものであるか否か」を主な判断基準とし、「経済的利得」の所在を副次的な判断基準として、事業に応じた判断を行うものとする」
これは、表に載っていない処分事由についても、免除があり得ることを前提にした定めです。主な基準は、処分の原因が事業者の意思によらない不可抗力かどうか。副次的な基準は、処分によって誰かが経済的な利得を得ているかどうか。表の各事由を見直すと、法人成り・相続・合併は事業者が利得を得ない承継、滅失・道路拡張・危険な施設は不可抗力、というように、この二つの基準で説明できるものが並んでいます。表にない場面(たとえば、取引先の倒産で事業の継続ができなくなった、行政からの指導で設備の使用を止めざるを得なくなった、といった場面)でも、この基準に照らして免除を求める余地があります。承認申請書には、不可抗力であること、利得がないことを、この基準の言葉で書いてください。
次に、免除の書き方です。7条1項は、納付義務の対象から「第10条の返還免除の特例に定める処分事由に該当する場合」を除いています。「免除を受けた場合」を除くとは書いていません。処分事由に該当する以上、納付義務はそもそも生じないと読む余地があります。この読み方は、免除を求める側が先に出すべき点です。
一方で、10条の柱書は「知事が認めた場合は……免除することができる」と書いています。表の事由に当たれば当然に免除される、とまでは書かれていません。この限りでは、免除するかどうかは知事の判断に委ねられています。もっとも、要領は、知事が自分の判断の基準として公表したものです。表の処分事由に当たり、証明書類もそろっているのに免除をしないのであれば、要領と違う扱いをする理由が示されるべきであると考える余地があります。規則16条の4は、交付の決定の取消し、遂行の指示、一時停止の命令、是正のための措置の指示をするときは「当該補助事業者等に対してその理由を示さなければならない」と定めています。免除をしない判断そのものはこの列挙に入っていませんが、県の規則が理由の提示を求める作りになっていることは、理由を尋ねるときの足場になります。免除されなかった場合には、どの事由に当たらないと判断したのか、それとも当たるが免除しないのか、その理由を書面で尋ねてください。
要領には、ほかにも、事業者の側で知っておくとよい定めがあります。4条2項は、知事が適当と認める場合に、県への納付に代えて、又は納付と併せて、処分制限期間中に新たな財産処分を行う場合は交付要綱に基づき再度知事の承認を受ける旨の条件(再処分条件)を付すことができるとしています。免除の表に当たらない場合でも、納付に代えて再処分条件を求める道があるということです。11条は、破産手続開始その他倒産手続開始の申立てがあった場合、法人を解散した場合、個人事業を解散した場合、処分制限財産の差押えを受けた場合に、直ちに県に報告するものとしています。要領は知事が定めた基準であって、それ自体が交付決定に付された条件ではありません。ただ、交付決定通知書にこの報告が条件として付されている場合には、報告を怠ることが規則15条1項2号の「条件……に違反したとき」として取消しの事由に持ち出される余地があります。交付決定通知書に付された条件を確かめたうえで、該当する場面では早めに報告してください。廃業・破産の場面の全体は、Q&A「廃業・破産したら、補助金の返還はどうなるのか」で述べています。
6 自分の自治体の要領をどう探し、どう使うか
ここまで神奈川県の要領を読んできましたが、お手元の補助金が神奈川県のものでなければ、同じ定めがあるとは限りません。自治体ごとに、要領があるところ、要綱の本文に書いてあるところ、何も公表していないところがあります。次の順に探してください。
- 交付決定通知書を読む。通知書には、根拠となる交付要綱の名前と、付された条件が書かれています。財産処分について「別に定める」とあれば、その「別に定める」ものが要領です。
- その補助金の公式サイトの、様式や手引きのページを見る。神奈川県の要領も、補助金のサイトの資料として公表されています。承認申請書の様式が置かれていれば、その様式の記載要領や添付書類の一覧に、免除の事由が書かれていることがあります。
- 自治体の例規集で、補助金の交付に関する規則(通則)を読む。財産処分の制限の条文に、承認の対象となる行為と、「知事が別に定める」事項が書かれています。神奈川県の規則は、ウェブの例規集で、最新の改正まで反映された条文を読むことができます(例規集に表示された状態の日付を確かめてください)。
- それでも見つからなければ、担当課に「財産処分の承認基準と返還金の免除の基準を定めた文書があるか」と書面で尋ねてください。回答も書面で受け取ってください。内部の基準として持っているのに公表していない、ということがあります。
- 何もないと言われた場合は、国の取扱基準(会課第5号)が参考になります。自治体の規則の多くは補助金適正化法の条文を写したものですし、神奈川県の要領も、一時使用や災害・老朽化の部分は国の取扱基準とほぼ同じ文言です。自治体に定めがないからといって、免除の余地がないことにはなりません。補助金適正化法7条4項は、交付の決定に付する条件は「補助金等の交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等に対し干渉をするようなものであつてはならない」と定めています。自治体の補助金に直接の適用はありませんが、神奈川県の規則5条1項も、条件を付すのは「補助金等の交付の目的を達成するために必要があると認めるとき」としています。国の取扱基準が国庫納付を求めないとしている場面について、県や市が理由なく返還金を求めるのであれば、承認に付す条件がこの限度を超えていないかという問題になると考える余地があります。
最後に、免除を求めるときの実務です。承認申請書の「処分の理由」欄には、要領のどの区分のどの処分事由に当たるのかを、要領の言葉で書いてください。証明書類は表に列挙されているとおりにそろえ、足りないものがあれば、なぜ出せないのかと代わりの資料を添えてください。法人成り・合併であれば登記の前に、取壊しであれば滅失登記の前に、申請を出してください。窓口とのやり取りは、電話で済ませず、書面で残してください。免除が認められなかったときに、どの時点でどう説明したかが問題になります。
返還額の計算の仕組みそのものは、国の補助金について、コラム「補助事業を続けられないとき――手続の順番、返還額の計算、返還が生じない選択肢」で述べています。処分制限期間の数え方は、コラム「補助金で取得した財産の処分制限期間は何年か」をご覧ください。
県や市の補助金で取得した設備・建物について、法人成り・相続・合併・移設を予定されている方、災害や火災の後に返還を求められている方、顧問先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、承認申請をお出しになる前にご相談ください。交付決定通知書、交付要綱、自治体の規則・要領、受け取った案内文書があれば、免除の事由に当たるかどうかの具体的な検討ができます。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 神奈川県「中小企業者等を対象とした補助金に係る財産処分等の取扱要領」(令和6年3月22日施行。令和7年5月20日・令和8年4月3日施行の改正後のもの。全5頁)1条(別表に定める補助金交付要綱及び補助金の交付等に関する規則の規定に基づき財産処分及びその承認基準等について必要な事項を定める。1頁)、2条(処分制限財産・残存簿価・補助率の定義と、財産処分の区分ア〜ク。クは「移転:処分制限財産の他の事業所等への移設、他の事業所等での使用」。1頁)、3条(あらかじめ承認申請書を知事に提出し承認を受けなければならない。ただし書で災害等やむを得ない場合は事後の承認申請を認める。1頁)、4条1項(承認をする場合、7条に定める返還金を県に納付する旨の条件を付す。担保権設定は知事が適当と認めた場合に限り承認し、担保権が実行に移される際に返還金を納付する条件を付す。1頁)、4条2項(納付に代えて又は併せて再処分条件を付すことができる。1頁)
- 同要領7条1項(承認を受けて財産処分を行った場合、10条の返還免除の特例に定める処分事由に該当する場合を除き、納入通知書等により指定された期限までに返還金を県に納付しなければならない。2頁)、7条2項(納期日の翌日から年10.95パーセントの延滞金。2頁)、8条1項(区分ごとの財産処分返還額の表。取壊し・廃棄は取壊し時点・廃棄時点での残存簿価に補助率を乗じて得た額。補助金交付額を上限とし、知事が特に認める場合はこの限りでない。2頁)、8条2項(残存簿価=取得価額(補助対象経費)-減価償却額、減価償却額=取得価額×償却率×経過月数÷12月、補助率=補助金交付額/補助対象経費。2頁)
- 同要領9条(財産処分に該当せず3条の手続を要しない事例。(1)補助事業者(法人)が補助事業完了後に大企業となった場合 (2)所有権が初めから補助事業者に帰属しない財産を処分する場合 (3)一時使用の場合(業務時間外・休日等の一時的な目的外使用、施設延べ床面積の概ね10%を超えない範囲(150平方メートルを上限)での付帯設備の設置その他当該目的外使用が極めて軽微である場合) (4)機能の維持、回復又は強化を図るための改造。3頁)
- 同要領10条(返還免除の特例。柱書=処分事由に該当すると知事が認めた場合は返還金を免除することができる。免除を受けようとする補助事業者は3条の承認申請の際に証明書類等を添付する。表=譲渡:個人事業主の法人化・法人の個人事業主化(備考「事業者の同一性が確認できる場合に限る ただし、特別の法律に基づき設立された法人に承継する場合を除く」)、個人事業主の死亡等に起因した相続(備考「相続者が補助事業を継続する場合に限る(相続後に事業貸付、事業譲渡する場合を除く)」)、法人の合併(吸収合併含む)(備考「合併後の法人が補助事業を継続する場合に限る」)/交換:不具合、リコール等(備考「交換する設備が処分制限財産と同等以上の性能等を有すること」)/取壊し・廃棄:滅失・毀損(備考「火事による消失、地震等の自然災害による損壊等 ただし、本人に故意又は重大な過失がある場合や、保険金等による収入があり、補助事業を継続しない場合はこの限りではない。」)、道路拡張整備等に伴う取壊し、老朽化により代替施設を整備する場合の取壊し等、立地上若しくは構造上危険な状態にある施設等の取壊し又は廃棄/移転:県内にある別の事業所に移設(備考「補助事業の目的を逸脱せず、移設後も補助目的を達成できる場合に限る」)/その他(備考「「処分事由が不可抗力によるものであるか否か」を主な判断基準とし、「経済的利得」の所在を副次的な判断基準として、事業に応じた判断を行うものとする」)。3〜4頁)、11条(倒産手続開始の申立て・法人の解散・個人事業の解散・差押えの報告。5頁)、附則(令和6年3月22日・令和7年5月20日・令和8年4月3日施行。5頁)、別表(令和6年度中小企業生産性向上促進事業費補助金交付要綱、中小企業生産性向上促進事業費補助金交付要綱、神奈川県小規模事業者デジタル化支援推進事業費補助金交付要綱。5頁)
- 神奈川県 補助金の交付等に関する規則(昭和45年3月31日規則第41号。最終改正令和3年9月28日規則第80号)5条1項(交付の目的を達成するために必要があると認めるときに交付の決定に付する条件)、15条1項2号(交付の決定の内容若しくはこれに付した条件又は法令若しくはこれに基づく知事の指示若しくは命令に違反したときの取消し)、16条の4(交付の決定の取消し、遂行の指示、一時停止の命令、是正のための措置の指示をするときの理由の提示)、17条(補助事業等により取得し、又は効用の増加した次に掲げる財産(不動産及びその従物、機械及び重要な器具で知事が別に定めるもの、その他知事が別に定めるもの)を知事の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、担保に供し、取り壊し、又は廃棄してはならない。ただし書=補助金等の全部に相当する金額を納付した場合又は知事が別に定める期間を経過した場合はこの限りでない)。神奈川県法規集(d1-Law公開検索)の令和6年7月19日状態の条文。2026年10月30日閲覧
- 補助金適正化法2条1項(「補助金等」は国が国以外の者に対して交付するもの。自治体が自らの財源で交付する補助金には同法が直接には適用されない)
- 補助金適正化法7条4項(交付の決定に附する条件は、公正なものでなければならず、交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等に対し干渉をするようなものであつてはならない。自治体の補助金に直接の適用はなく、考え方の参照として引いています)
- 「補助事業等により取得し又は効用の増加した財産の処分等の取扱いについて」(平成16・6・10会課第5号。経済産業省大臣官房会計課。最終改正令和元年5月7日)2(2)(財産処分に該当しない一時使用等)、5(1)②(災害・火災・危険な状態にある場合の取壊し又は廃棄=報告書の提出により承認を受けたものとみなし国庫納付は求めない)、5(2)②a(地方公共団体以外の者が行う財産処分のうち同①a・bに該当するもの=国庫納付条件を付さないことができる)、5(2)①a(道路の拡張整備その他の責めに帰することのできない事由によるやむを得ない取壊し等(相当の補償を得ているものの、代替施設を整備しない場合を除く。))、5(2)①b(老朽化により代替施設を整備する場合の取壊し等)。頁番号が印刷されていない通達のため節番号で引いています
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。