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弁護士 岸上大起

会社の形を変えたら補助金を返すのでしょうか――「補助対象者でなくなった」ことは財産の処分か

このページの結論

補助事業が終わった後に、法人成りや医療法人化、あるいは親会社による株式の取得によって、補助対象者の要件を満たさなくなりました。公式の手引きやよくあるご質問には、財産処分となり、残存簿価相当額を基に算出した金額を納付する必要があると書かれています。返さなければならないのでしょうか。

補助対象者の地位を失うことそれ自体は、財産についての行為ではありません。補助金適正化法22条が承認にかからせているのは「使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供」する五つの行為であり、中小企業新事業進出促進補助金交付規程24条1項が挙げる処分の類型(補助金の交付の目的に反する使用、譲渡、交換、貸付、担保に供する処分、廃棄等)にも、平成16・06・10会課第5号が定義する七つの類型(転用・譲渡・交換・貸付け・担保に供する処分・取壊し・廃棄)にも、地位の喪失は含まれていません。そして、交付規程の別紙と公募要領は、補助事業実施期間終了後に従業員数・資本金額の上限を超えた事業者及びみなし大企業に該当することとなった事業者について、「補助対象外となりません」と自ら定めています。

もっとも、個人事業主が医療法人になる場合のように、財産の所有者が変わるのであれば、それは22条の「譲渡」に当たり得ます。その場合に要るのは22条の承認であって、会課第5号3.(2)※1は、補助目的たる事業を第三者に遂行させるための譲渡等について、国庫納付条件に代えて再処分条件を付すことができるとしています。問題は「返還が必要か」ではなく、この再処分条件の余地が示されていないことにあると考えております。

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

1 公式の説明は何と書いているか

補助事業が終わった後に、会社の形や資本構成が変わることがあります。個人事業主の法人成り、医療法人化、親会社による株式の取得。いずれも、補助対象者としての要件を満たさなくなる場面です。このとき返還になるのかについて、公式の資料は次のように書いています。

一つ目は、中小企業省力化投資補助金(一般型)の「よくあるご質問」(第5回〜第8回)です。一つのPDFの中に、次の三つが置かれています。

引用(中小企業省力化投資補助金(一般型)「よくあるご質問」(第5回〜第8回。2026年10月1日更新)PDF5頁、分類「申請要件」NO.12。https://shoryokuka.smrj.go.jp/assets/pdf/faq_ippan_05-08.pdf 、2026年10月23日閲覧)(問)「補助事業終了後5年以内に補助対象者の要件を満たさなくなった場合、補助金の返還が必要ですか。」
(答)「補助事業実施期間内に大企業になった等の事情で補助対象者の要件を満たさなくなった場合には、補助対象外となり、事業廃止を行う必要があります。補助事業実施期間終了後に補助対象者の要件を満たさなくなった場合には、補助金の返還は必要ありません。」
引用(同Q&A・PDF3頁、分類「応募・交付申請」NO.25)(問)「応募申請の後、法人形態が変更となりました。この場合の手続きはどのようにすればよいですか。」
(答)「補助事業実施期間内に大企業になった等の事情で補助対象者の要件を満たさなくなった場合には、補助対象外となり、事業廃止を行う必要があります。補助事業実施期間終了後に補助対象者の要件を満たさなくなった場合には、交付決定の取消はしません。」
引用(同Q&A・PDF3頁、分類「応募・交付申請」NO.26(第5〜6回)・NO.27(第7〜8回))(問)「応募申請の後、個人事業主が医療法人になった場合は、どのように手続きをすればよいですか。」
(答)「補助事業実施期間終了後に個人事業主が医療法人になった場合は、財産処分の扱いとなり、補助金額の一部を返還していただく必要があります。(補助事業実施期間終了前に医療法人になった場合は補助金は支払われません。)」

NO.27は、これに続けて、歯科医業を営む個人事業主が一定の要件を満たす歯科医業を営む医療法人となった場合の例外を置いたうえ、次のように述べています。

引用(同Q&A・PDF3頁、分類「応募・交付申請」NO.27(第7〜8回)。歯科医業の例外部分を除く)「なお、法人化を予定している場合は、事前に独立行政法人 中小企業基盤整備機構の承認を得る必要があり、事案毎に判断させていただきますので、その際は必ず事前にご連絡ください。事前承認なしに実施した場合は、補助金額の一部を返還、または補助金の交付が受けられなくなる場合があります。」

NO.28も、法人化や個人化等を予定している場合は事前に中小機構の承認を得る必要があり、事案毎に判断するとしています。

二つ目は、中小企業新事業進出補助金事務局の「補助事業の手引き」(第1.8版)です。財産処分の手続を説明した65頁(PDF66頁)に、次の記述があります。

引用(中小企業新事業進出補助金事務局「補助事業の手引き」(2026年8月17日・第1.8版)65頁(PDF66頁)。https://shinjigyou-shinshutsu.smrj.go.jp/docs/shinjigyou_hojo_tebiki.pdf 、2026年10月23日閲覧)「補助事業終了後、補助対象者に該当しなくなった場合4は、処分制限財産について財産処分となり、残存簿価相当額を基に算出した金額を納付する必要があります。」(「4」は脚注番号。脚注4は「中小企業等の定義から外れ、中堅・大企業等に成長するときを除く。」)

なお、この補助金では、手引きの題名が「中小企業新事業進出補助金」、交付規程の題名が「中小企業新事業進出促進補助金交付規程」です。別の制度ではなく、同じ補助金の資料です。

2 同じ公式資料の中で、結論が割れています

まず目につくのは、省力化のよくあるご質問の中での食い違いです。NO.12は、「補助事業実施期間終了後に補助対象者の要件を満たさなくなった場合」について「補助金の返還は必要ありません」と答えています。NO.25も、同じ場面について「交付決定の取消はしません」と答えています。ところがNO.26・27は、同じ「補助事業実施期間終了後」の場面について、「財産処分の扱いとなり、補助金額の一部を返還していただく必要があります。」としています。

三つは、別々の資料に書かれているものではありません。一つのPDFの中の、別々の分類に分かれて置かれています。NO.25〜27は分類「応募・交付申請」(PDF3頁)、NO.12は分類「申請要件」(PDF5頁)です。読む側は、自分の場面がどちらの分類に入るのかを、この資料だけからは決めることができません。

食い違いの中身は、言葉の上の不統一にとどまりません。NO.25が述べているとおり、この場面では交付決定の取消しがありません。株式の移動や役員の交代のように財産の所有者が変わらない場面では、取消しもなく、財産についての行為もないのに、金銭の納付義務だけが生じるという説明になっています。義務の出どころが示されていないのです。財産の所有者が変わる場面(法人成り・医療法人化)は、場面が違いますので、後記6で分けて述べます。

手引きの側も、同じ資料の中で割れています。65頁の「処分の分類」の表が挙げるのは、譲渡(有償・無償)、貸付(有償・無償)、目的外使用、交換、廃棄、担保に供する処分の六つで、その直前の本文は「処分制限財産を処分制限期間内に以下のいずれかの方法で処分する場合は、補助金の全部または一部を納付する必要があります。」としています。補助対象者に該当しなくなることは、この六つの中にありません。同じ頁の中で、表に載っていないものについて納付が必要だと述べていることになります。

さらに、同じ手引きの78頁(PDF79頁)には「4-4. 補助金返還となるケース」という節があります。ここで補助金返還が必要になるケースとして挙げられているのは、交付規程27条による目標値未達の返還、同条による実地検査に係る返還、交付規程22条による交付決定の取消し等に係る返還の三つです。補助対象者に該当しなくなった場合は、この返還の総まとめに挙げられていません。

3 どこが誤りか――地位の喪失は、財産についての行為ではありません

法律の側から見ます。これらの補助金について補助金適正化法が及ぶのは、中小機構法16条による準用です。同法22条は、補助事業者等は、取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、承認を受けないで「補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない」と定めています(補助金適正化法22条)。列挙されているのは五つで、いずれも財産についての行為です。

省力化投資補助金の交付規程(令和6年6月24日規程令6第4号。規程令8第9号による改正後のもの。以下、同補助金の条数はこの版で引いています)は、25条1項で、処分制限財産を「施行令第13条第4号及び第5号の規定に基づき中小機構が定める処分を制限する財産」としており、処分そのものの定義を置いていません。ここで「処分」が何を指すのかは、適正化法22条と、後記の通達に直結しているということです。

手引きの側の補助金(新事業進出)では、交付規程が処分の中身を括弧書きで示しています。

引用(中小企業新事業進出促進補助金交付規程24条1項。令和7年4月21日規程令7第1号。規程令7第17号及び規程令8第2号による改正後のもの。2026年10月23日閲覧)「取得財産等のうち、処分(補助金の交付の目的に反する使用、譲渡、交換、貸付、担保に供する処分、廃棄等をいう。)を制限する財産(以下「処分制限財産」という。)は、取得価格又は効用の増加価格が単価50万円(税抜)以上の機械、器具及びその他の財産とする。」

ここには「廃棄等」と「等」が入っています。もっとも、「等」とあるのだからどんな場合でも入りうる、という読み方はできないと考えております。括弧書きに並ぶのは、使用・譲渡・交換・貸付・担保供用・廃棄で、いずれも財産についての行為です。「等」は、この同じ種類のものを受けるにとどまると考える余地があります。財産に何も起きていない事柄まで取り込めるのであれば、処分の定義を置いた意味がなくなります。

通達の定義にも入っていません

財産処分の扱いについては、国の通達があります。「補助事業等により取得し又は効用の増加した財産の処分等の取扱いについて」(平成16・06・10会課第5号。以下「取扱基準」といいます)です。これは経済産業大臣等に向けて出された通達で、本補助金に及ぶのは、交付規程が自ら取り込んでいるからです。省力化投資補助金交付規程25条6項、新事業進出促進補助金交付規程24条6項は、いずれも、処分について取扱基準「の各規定を踏まえ取り扱うものとする」としています。

その取扱基準は、2.(1)(PDF2頁)で、財産処分の定義を次のように置いています。

引用(「補助事業等により取得し又は効用の増加した財産の処分等の取扱いについて」(平成16・06・10会課第5号)2.(1)(PDF2頁))「転用:処分制限財産の所有者の変更を伴わない目的外使用。/譲渡:処分制限財産の所有者の変更。/交換:処分制限財産と他人の所有する他の財産との交換。/貸付け:処分制限財産の所有者の変更を伴わない使用者の変更。/担保に供する処分:処分制限財産に対する抵当権その他の担保権の設定。/取壊し:処分制限財産(施設(土地を含む。以下同じ。)に限る。)の使用を止め、取り壊すこと。/廃棄:処分制限財産(設備に限る。)の使用を止め、廃棄処分すること。」(原文は改行区切り)

七つの類型は、いずれも、所有者が変わるか、使用者が変わるか、用途が変わるか、物がなくなるかです。補助事業者が中小企業者でなくなることは、このどれにも当たりません。財産の所有者も、使用者も、用途も、現物も、そのままだからです。

交付規程が「踏まえ取り扱うものとする」としている定義から離れた扱いをするのであれば、なぜ離れるのかが示されなければならないと考えております。手引き65頁にも、省力化のよくあるご質問NO.26・27にも、その説明はありません。この回答は、22条の文言と交付規程24条1項の処分の定義を離れていると言わざるを得ません。

承認の対象を広く捉える整理を前提にしても、結論は変わりません

承認の対象を広く捉える整理が示されていることは承知しております。最三小判令和3年3月2日民集75巻3号317頁の解説は、22条の承認の対象について「補助事業等により取得した財産を補助事業者等において補助目的に沿って管理しなくなること」であると解され、条文の列挙はその具体例として挙げられているもののように思われるとしています(荒谷謙介・最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)86頁)。さらに、補助事業者等の意思が介在するか否かは重要ではなく、補助目的に沿って管理しない目的外使用の状態になる以上は承認を要すると解されるとも述べています(同頁)。担保権実行のような場面でも承認が必要になるという方向に働く部分です(この整理の当てはめは、Q&A「補助金の『目的外使用』とは何か」と、コラム「宇都宮地裁の財産処分の裁判例」で述べています)。

もっとも、この整理が見ているのは、財産の管理の状態です。同解説が意思の介在を重要でないとするのは、目的外使用の状態が現に生じている場面についてであり、担保権実行についても、所有権を失って補助目的に沿って使用することができなくなる点に着目しています。会社の形が変わっても、株主が変わっても、同じ財産が同じ補助事業に使われ続けているのであれば、「補助目的に沿って管理しなくなった」ものではないと考えております。広く捉える整理を前提にしても、結論は変わりません。

4 制度の側は、自分で時期の線を引いています――落ちているただし書

ここまでは条文と通達の読み方の話でした。もっとも、この問題については、制度の側がもっと手前のところで答えを出しています。交付規程の別紙と公募要領に、ただし書が置かれているのです。

新事業進出促進補助金交付規程の別紙1は、補助対象外となる事業者を列挙しており、その(10)は「応募申請以降に」中小企業者等の定義のいずれにも該当しなくなった事業者及びみなし大企業に該当することとなった事業者です。そして、この(10)には、次のただし書が付いています。

引用(中小企業新事業進出促進補助金交付規程 別紙1オ.(10)の※。「⑧」は原文のまま)「※ ただし、補助事業実施期間終了後に、ア.中小企業者及びウ.特定事業者の一部の表における従業員数、資本金額を超えることとなった事業者及び⑧みなし大企業のいずれかに該当することとなった事業者は補助対象外となりません。」

同じ定めが、公募要領にもあります。

引用(中小企業新事業進出促進補助金公募要領(第3回)10頁の11.の※。2026年10月23日閲覧)「ただし、補助事業実施期間終了後に、「(1)中小企業者」及び「(3)特定事業者の一部」の表における従業員数、資本金額を超えることとなった事業者及び「9.みなし大企業」のいずれかに該当することとなった事業者は補助対象外となりません。」

つまり、補助事業実施期間が終わった後に、従業員数や資本金額の上限を超えた事業者、及び親会社の株式取得などによってみなし大企業に該当することとなった事業者は、交付規程と公募要領の文言の上で、そもそも補助対象外とならないのです。「補助対象者に該当しなくなった」事業者ではありません。

ところが、手引きには、このただし書がありません。手引き13頁(PDF14頁)の11.は、交付規程別紙1(10)・公募要領11.と同じ文言を写しているのに、その※を付していません。そして65頁の脚注4は、「中小企業等の定義から外れ、中堅・大企業等に成長するときを除く。」としています。ただし書が救っているのは、従業員数・資本金額の超過と、みなし大企業の二つです。脚注4は、前者を「成長するとき」という形で残し、後者のみなし大企業を落としています。

そのうえで手引き65頁は、「補助対象者に該当しなくなった場合」について財産処分となるとし、納付に結び付けています。上位の定めが補助対象外にならないとしている事業者について、下位の資料が納付を求める形になっています。

取消事由の側も、時期で限られています

取消事由の側も同じです。新事業進出促進補助金交付規程22条1項12号は、取消事由として「補助事業者が、補助事業実施期間中に別紙1に記載するみなし大企業又はみなし同一事業者(相続等の事由による場合を除く。)になった場合」を掲げており、「補助事業実施期間中に」という限定が置かれています。手引き9頁(PDF10頁)も、取消しの場面を「応募申請日から補助事業完了までの間に」の株主・役員の変更に限っています。省力化投資補助金交付規程の別紙1も、みなし大企業の留意事項として「・本条件の適用は、補助事業実施期間中にも及ぶ。」としています。

同交付規程22条1項13号が「その他公募要領で定める事項に該当した場合」という包括的な定め方をしていることには、注意が要ります。もっとも、その公募要領の定め(11.)には、前記のただし書が付いています。また、手引き12頁(PDF13頁)の「補助対象外となる事業者」の柱書は、取消しの場面を「本補助金で補助金交付候補者として採択された後に、応募申請時点で下記の事項に該当していたことが発覚した場合」に限っています。補助事業終了後に要件を外れたことは、この柱書が定める取消しの場面に当たらないと考えております。

省力化投資補助金交付規程23条1項も同じです。同項13号は「第一号から第十二号の他、第3条の交付の目的に反する事由が生じた場合」、同項14号は「その他応募申請時点における公募要領で定める事項に該当した場合」です。14号は応募申請時点を基準にし、13号は交付の目的に反する事由を要件としています。補助事業が続いている以上、交付の目的に反する事由とはいえないと考えております。そして、同条2項の返還命令は、同条1項の取消しを前提としています。

返還命令の仕組みからも外れています

補助金の「返還」は、どこからでも出てくるものではありません。補助金適正化法18条1項は、交付の決定を取り消した場合に、すでに交付されている補助金等の返還を命じなければならないとするものです。返還命令は、取消しを前提とする仕組みであり、その取消しの事由は同法17条1項が三つに限っています(この三つは交付決定の取消し・返還請求のページで述べています)。同法18条2項の返還は、同法15条による額の確定の結果すでにその額をこえる補助金等が交付されているときのものですから、額の確定から何年も経った後の地位の喪失を、この条項で説明することはできません。

そして、よくあるご質問NO.25が自ら述べているとおり、この場面では取消しをしないのです。取消しがなければ、18条1項の返還命令の前提を欠きます。

自らの行為によらずに要件を外れる場合があります

みなし大企業は、自分が何かをしなくても成立します。新事業進出の手引き13頁(PDF14頁)の9.(ア)は、「発行済株式の総数又は出資価格の総額の2分の1以上を同一の大企業が所有している中小企業者等」を挙げています。株式を取得するのは親会社の側です。前記のただし書が、補助事業実施期間終了後のみなし大企業該当を救っているのは、この点を踏まえたものと読む余地があります。

なお、ここで申し上げているのは、22条の処分に当たるかどうかという話ではありません。自らの行為によらずに生じた状態を理由に金銭の納付義務を負わせる条件が、補助金適正化法7条4項が定める「公正」なものといえるかという、条件の側の問題です。同項は、交付の決定に附する条件は公正なものでなければならず、交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等に対し干渉をするようなものであってはならないとしています。検討の余地があると考えております。

次のような場合は、ご回答になる前にご相談ください

  • 補助事業が終わった後の法人成り・医療法人化について、財産処分として納付が必要だと言われている
  • 親会社の株式取得によってみなし大企業に該当したことを理由に、納付を求められている
  • 組織再編や資本参加を控えていて、補助金の扱いを取引条件に織り込む必要がある
いまの状況を相談する →お電話:070-3618-5126(受付:平日10:00〜18:00、出られないときは折り返します)

関連ページ: 自主返納の求め(対応ページ)/補助事業を事業譲渡したら、返還や罰則の対象になるのか(Q&A)

5 正しい整理――納付義務はどこから生じるのか

22条は、承認を受けないで補助目的に反する処分をすることを禁じた規定です。裏から言えば、補助目的に適合する限り、処分は自由です。文献も、次のように述べています。

引用(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』301頁(株式会社全国会計職員協会、2016))「したがって、補助目的に適合する限り、補助事業者等は自由に使用、譲渡等の処分を行うことができる。」

では、財産処分のときに納付が生じるのはなぜか。承認に付された条件(講学上の附款といいます)から生じるものです。同書は、承認が独立の行政行為であることを理由に、次のように述べています。

引用(同書302頁。注番号は省いています)「これらの承認をなすにあたって交付行政庁は、当該承認が独立の行政行為であるところから、例えば「補助金等の全部又は一部に相当する金額を国に納付すること」等の条件を付すことも可能である。」

同書は、この承認を「禁止の解除の効果をもつ行政行為であり、講学上の許可(Erlaubnis)に相当するものといいうる。」とも述べています(同書304頁注(12))。取扱基準3.(1)(PDF2頁)が、22条の承認をする場合には国庫納付条件を付さなければならないとしているのも、同じ組み立てです。

整理すると、順序はこうなります。財産についての行為がある。その行為が補助目的に反する。だから承認が要る。承認に国庫納付条件が付される。その条件によって納付義務が生じる。出発点にある「財産についての行為」がなければ、この順序は始まりません。補助対象者の地位を失うことは、その出発点に立っていないのです。

交付規程の納付命令規定から考えても同じです

もっとも、中小機構の交付規程には、納付命令の規定が置かれています。納付を求める側は、納付義務の根拠を、22条の承認の附款ではなく、この条項に求めることが考えられます。実際、前記の最高裁判決の解説も、当該事案における承認の根拠は22条ではなく補助金適正化法7条3項(交付の目的を達成するため必要な条件を附することを妨げないとするもの)による交付決定条件に基づくべきものであったとしています(荒谷謙介・前掲86頁)。そこで、その条項を見ます。

引用(中小企業省力化投資補助金交付規程25条6項。新事業進出促進補助金交付規程24条6項も同趣旨)「中小機構は、補助事業者又は対象リース会社が処分制限財産を処分するときは、納付通知書により、当該処分制限財産に係る補助金額を限度として、指定する口座に納付させることができるものとし、補助事業者は当該納付命令にしたがって納付しなければならない。」

この規定が発動する条件は「処分制限財産を処分するとき」です。処分がなければ、この条項も動きません。新事業進出促進補助金交付規程8条が、24条6項に基づく納付命令を「財産の処分による収入の納付命令」と呼んでいることも、同じ前提に立つものと考えております。

そして、交付規程は、7条3項に基づき交付決定に附された条件です。であれば、同法7条4項の「公正」の枠がかかります。前記4の最後に述べた点は、ここにつながります。

加えて、補助金適正化法4条は、「補助金等に関しては、他の法律又はこれに基く命令若しくはこれを実施するための命令に特別の定のあるものを除くほか、この法律の定めるところによる。」としています。交付規程は法律でも命令でもありませんから、同条がいう「特別の定」には当たりません。まして手引きやよくあるご質問が、22条の行為類型を増やすものではないと考えております。

6 反対の材料と、本当の論点――医療法人化の設例

当方の整理に対して、材料が当方に不利に働く場面があります。正直に書きます。

公式のよくあるご質問は、次の設例を挙げています。個人事業主が医療法人になった場合です(省力化の第5〜8回NO.26・27)。この場合、個人が持っていた財産は、医療法人のものになります。財産の所有者が変わるのです。取扱基準2.(1)の「譲渡:処分制限財産の所有者の変更。」に当たり得ますので、22条の「譲渡」に当たる余地があります。

もっとも、それはあくまで22条の承認の話です。承認の対象になることと、納付しなければならないこととは、別です。取扱基準は、承認に付す条件について、次の定めを置いています。

引用(取扱基準3.(2)及び※1(PDF2〜3頁))「(2)ただし、大臣等が適当であると個別に認める場合※1には、国庫納付条件に代えて、又は国庫納付条件と併せて、処分制限期間中に新たな財産処分を行う場合に交付要綱に基づき大臣等の承認を得る旨の条件(以下「再処分条件」という。)を付すことができる。」
「※1 「大臣等が適当であると個別に認める場合」としては、国庫納付条件に代えて再処分条件を付すものとして補助目的たる事業を第三者に遂行させるための譲渡等が、国庫納付条件と併せて再処分条件を付すものとして一時的な有償貸付け等が、考えられる。」

個人事業主が医療法人になり、その医療法人が同じ補助事業を続けるのであれば、これは「補助目的たる事業を第三者に遂行させるための譲渡等」にほかなりません。取扱基準は、まさにこの場面について、国庫納付条件に代えて再処分条件を付す道を開いているのです。

交付規程の側にも、受け皿があります。省力化投資補助金交付規程28条2項は、「補助事業者は、補助事業完了後の事業計画期間において、事業計画を他に承継させようとするときは、承認申請書を速やかに中小機構に提出しなければならない。」としています。補助事業完了後の承継について、承認申請の手続が正面から置かれており、そこに納付は書かれていません。

手引きの側はもっと明確です。新事業進出の手引き35頁(PDF36頁)には「3-3-2. 法人成りや補助事業の承継を行う際の手続き」という節があり、「個人事業主が法人成りを行う場合や他者に補助事業を承継する場合の承認申請の手続きです。」として、「根拠規定」に「交付規程第12 条」を挙げ、「補助事業を他に承継させた場合、承継者(承継先)が補助事業者となり、本補助金の交付決定を受けたものとみなします。」としています。同じ手引きが、法人成りを財産処分ではなく承継として扱い、根拠規定も、財産処分の節が挙げる「交付規程第24 条」(64頁)とは別の条文にしているのです。

そうしますと、本当の論点は「返還が必要か」ではありません。承認に付す条件に複数の道があり、承継の手続も用意されているのに、それが示されていないことにあります。公式のよくあるご質問は、承認が要ることと、事前に連絡が要ることは書いていますが、国庫納付条件に代えて再処分条件を付す道があることは書いていません(取扱基準には、取壊し・廃棄について国庫納付条件を付さないことができる場合の定めもあります。同基準5.(2)②b、PDF5頁)。読んだ事業者は、納付が決まっているものと受け取ります。これが、この説明のいちばんの問題であると考えております。

承継を認めないという回答への先回り

もっとも、同じよくあるご質問のNO.29は、補助事業の承継を認めないとしています。

引用(同Q&A・PDF3頁、分類「応募・交付申請」NO.29)(問)「交付決定を受けた事業者が、交付決定を受けた補助事業を含む一部の事業を他社に譲渡した場合、譲渡先に補助事業を承継することはできますか。」
(答)「対象となりません。本補助金は基準年度の労働生産性・給与支給総額と比較して数値目標を達成する必要があります。事業の一部譲渡を行うと、目標達成の判定が適切にできなくなるため、補助事業の承継は認めておりません。」

示されている理由は、事業の一部譲渡を行うと数値目標の達成の判定が適切にできなくなるということです。しかし、個人事業主の法人成りや医療法人化は、同じ事業がそのまま一つの法人に移るものであって、事業の一部譲渡とは場面が違います。判定ができなくなるという理由も当てはまりません。NO.29の理由は、法人成りの場面にそのまま及ぶものではないと考えております。前記の28条2項が補助事業完了後の承継の承認申請を正面から置いていることも、一律に認めない扱いとは整合しにくいと考える余地があります。

公平のために、もう一つ書いておきます。取扱基準1.(2)は、財産処分を「……担保に供する処分その他の処分」と呼んでおり、「その他の処分」という開かれた書き方をしています。もっとも、1.(2)は承認の基準を定める必要から財産処分を広く呼んだ規定であり、これを承けた2.(1)が「本取扱いで定める財産処分の定義は、以下のとおりである。」として手続の対象を七つに画しています。この取扱いの中では、七つが定義であると読むのが素直であると考えております。

7 この説明を示されたときに、どう動くか

公式の説明は、紛争の一方当事者の見解です

ここまで述べたことは、公式の資料の書き方の問題ではありません。立場の問題です。

中小機構及び各事務局は、補助金を交付し、取消しや納付命令をする側です。争いになれば、相手方になります。その立場の者が書いた説明は、公正な第三者による解説ではなく、紛争の一方当事者の見解(いわばポジショントーク)です。その中には、通説が説いていない極端な立場を強引に主張しているものもあります。公式の説明だからと鵜呑みにするのは非常に危険です。

本稿で見た説明は、その一例であると考えております。交付規程の別紙と公募要領は、補助事業実施期間終了後に従業員数・資本金額の上限を超えた事業者及びみなし大企業に該当することとなった事業者は補助対象外とならないと、自ら定めています。よくあるご質問も、その場面について「補助金の返還は必要ありません」「交付決定の取消はしません」と答えています。それでもなお納付を求めるために、地位の喪失を「財産処分」と呼び替えているのが、手引き65頁とNO.26・27です。この運用は、補助金適正化法の理解が浅いと言わざるを得ません。

申し上げたいのは、公式の資料を読む必要がないということではありません。読んだうえで、書かれていることがどの条文のどの要件に対応しているのかを確かめていただきたい、ということです。対応する条文がない記述は、交付主体の運用方針にとどまります。運用方針それ自体が、金銭の納付義務を生じさせるものではないと考えております。

取引の条件を決める前に確かめる順序

組織再編、法人成り、医療法人化、資本参加、株式の譲渡を予定されているときは、取引の価格を決めてしまう前に、次の順序で確かめてください。

  • 交付決定通知書と、そこに記載された交付規程・公募要領の版を手元に置く。条番号は補助金ごとにも版ごとにも違います。手引きやよくあるご質問ではなく、交付決定通知書が指している交付規程と公募要領で確かめてください。ただし書は、そちらにしかありません。
  • その変更が、財産の所有者の変更を伴うのかを確かめる。所有者が変わらないのであれば(株式の移動、役員の交代など)、22条の処分にも、交付規程24条1項が挙げる処分にも、取扱基準2.(1)の七つの類型にも当たりません。まず、ここを分けてください。
  • 所有者の変更を伴うのであれば(個人事業主の法人成り、医療法人化など)、それは22条の承認の対象です。承認を受けずに実行しないでください。そのうえで、承認申請書に、承継後も同じ補助事業が続くことと、取扱基準3.(2)※1がいう「補助目的たる事業を第三者に遂行させるための譲渡等」に当たることを書き、国庫納付条件に代えて再処分条件を付すよう求めてください。求めなければ、国庫納付条件が付くのが原則の扱いです(同基準3.(1))。あわせて、補助事業完了後の承継の承認申請(省力化投資補助金交付規程28条2項等)によれないかも確かめてください。
  • 親会社の株式取得などで、自らの行為によらずに要件を外れたときは、納付の根拠を書面で尋ねてください。尋ねる言葉は、「どの条文のどの要件に基づく納付か」です。交付決定の取消しがあるのか(補助金適正化法17条1項のどの事由か)、取消しに基づく返還命令なのか(同法18条1項)、財産処分の承認に付された条件に基づく納付なのか(同法22条)、交付規程のどの条項によるのか。この四つを分けて尋ねると、答えがそろわないことがあります。
  • 納付通知書が来ても、それが行政処分とは限りません。財産処分の承認に付された条件に基づく納付の求めは、条件によって生じた義務の履行を求めるものにとどまると整理されています。文献も、補助金返納請求権には、補助金適正化法18条に基づく補助金返還請求権のような強制徴収(同法21条参照)が認められていないとしています(小滝・前掲303頁)。期限や不服申立ての扱いが変わりますので、どちらなのかを先に分けてください。詳しくはQ&A「加算金・延滞金はどうなるのか」で述べています。
  • 処分制限期間が経過していないかを確かめる。期間が経過していれば、処分の制限そのものが適用されません(施行令14条1項2号)。期間の数え方は、コラム処分制限期間は何年かで述べています。

公式の資料に書かれた納付額の計算(残存簿価相当額に補助率を乗じる等)は、納付義務があることを前提とした計算です。計算に入る前に、義務があるのかを分けて考えることになります。納付の求めを受けた場合の対応は、自主返納の求めのページで述べています。交付規程の条項に違反したと言われている場合の見方は、Q&A「交付規程に違反したと言われたら」で述べています。

法人成り、医療法人化、資本参加、親会社による株式の取得などを控えている事業者の方、補助事業終了後に補助対象者の要件を満たさなくなったことを理由に納付を求められている事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、取引の条件を決めてしまう前にご相談ください。交付決定通知書、交付規程、公募要領、手引き、交付主体から受け取った書面があれば、具体的な検討ができます。

根拠(条文・公式資料・裁判例)

※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。

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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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