執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 二つの入口――承認申請(様式第12-1)と報告書(様式第12-4)
補助金で取得した設備や建物が、地震・台風・水害や火事で使えなくなることがあります。また、建物が古くなり、そのままにしておくと危ないので取り壊した、ということもあります。処分制限期間(補助金で取得した財産を自由に処分できないとされる期間)が残っているときに、こうした取壊し・廃棄をしてよいのか、してしまった後にどうなるのか、というご相談です。
以下で引く交付規程の条数と文言は、中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。令和7年6月30日施行の改正までのもの)のものです。ほかの補助金の規程に触れるときは、その都度、補助金の名前を書きます。交付規程の条番号は、補助金ごとにも、改正の版ごとにも違いますので、お手元の交付決定通知書に書かれている交付規程をご確認ください。なお、ここで扱う24条5項は、令和6年11月7日施行の改正で現在の形になったものですが、附則により令和3年3月26日から適用するとされています(規程令6第13号。16頁)。第1回公募の交付決定を受けた方にも及ぶ定めです。
交付規程は、処分制限財産(取得価格又は効用の増加価格が単価50万円(税抜)以上の機械、器具及びその他の財産。24条1項)を処分しようとするときは、あらかじめ承認申請書(様式第12-1)を提出して承認を受けなければならないとしています(同条3項)。これが原則の入口です。しかし、同条5項は、これとは別の入口を置いています。
引用(中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程24条5項・8頁)「補助事業者は、処分制限財産が災害又は火災(補助事業者等の責めに帰すことができない事由による場合に限る。)により使用できなくなった場合若しくは立地上又は構造上危険な状態にある場合の取壊し又は廃棄を行った場合は、第3項の規定にかかわらず、様式第12-4による財産処分報告書を中小機構に提出することにより、財産処分の承認を受けたものとみなすことができるものとする。」
読んでいただきたいのは、二つです。
一つは、「取壊し又は廃棄を行った場合は」と書かれていることです。事前に申請をしていなかったことを前提にした定めです。災害や火災のときに、事前の承認を待ってから片づけるというのは、そもそも無理があります。もっとも、様式第12-4には「処分予定日」「処分の相手方(住所、氏名又は名称、使用の目的等)」という、これから処分することを前提とした欄も置かれています(同交付規程75頁)。この様式は、処分の前後どちらでも使えるように作られているとみるのが素直で、事前に出していないことが同項の適用を妨げるものではないと考えております。
もう一つは、「第3項の規定にかかわらず」と書かれていることです。原則の入口を使わなくてよい、という意味です。交付規程自身も、同条5項に基づく報告のことを「災害等に起因する財産処分の報告」と呼んでおり(同交付規程7条・2頁)、「承認申請」とは呼んでいません。
このことは、公表されている説明の読み方にもかかわります。中小企業新事業進出補助金の「補助事業の手引き」第1.8版(2026年8月17日。中小企業新事業進出補助金事務局)64頁は、「処分制限財産を処分制限期間内に処分しようとするときは、必ず事前に承認を得てください。事前承認を得ずに財産処分をした場合は、交付決定を取り消す場合があります。」と書いています。もっとも、これは原則(交付規程24条3項)を述べたものであり、同じ頁は、続けて、災害・火災により使用できなくなった場合と、立地上又は構造上危険な状態にある場合の二つについて、財産処分報告を行うことで承認を受けたものとみなすことができると書いています。交付規程24条5項が「第3項の規定にかかわらず」と定めている以上、この二つの場合は、事前の承認を得なかったことをもって取消事由(補助金適正化法17条1項)とすべき場面ではないと考えております。
国の側の定めも同じです。補助金適正化法22条の承認の基準を定めた「補助事業等により取得し又は効用の増加した財産の処分等の取扱いについて」(平成16・6・10会課第5号。経済産業省大臣官房会計課。最終改正令和元年5月7日。以下「取扱基準」といいます。)は、5(1)で次のように定めています。
引用(取扱基準5(1)柱書)「次に掲げる財産処分に該当する場合には、財産処分の承認申請手続にかかわらず、別紙様式1(以下「報告書」という。)を大臣等に提出することによって、補助金適正化法第22条の承認を受けたものとみなし、国庫納付は求めないこととする。ただし、報告書において記載事項の不備など必要な要件が具備されていない場合は、この限りでない。」
そして、その「次に掲げる財産処分」の②が、次のものです。
引用(取扱基準5(1)②)「災害又は火災(補助事業者等の責めに帰することのできない事由による場合に限る。)により使用できなくなった場合若しくは立地上又は構造上危険な状態にある場合の取壊し又は廃棄(以下「取壊し等」という。)。」
取扱基準の5(1)は、①が地方公共団体の行う財産処分に限られているのに対し、②にはそのような限定がありません。別紙様式1の「5.承認申請等の特例について」の該当項目欄も、「・地方公共団体 → 5.(1)①a. 5.(1)①b.」「・地方公共団体及びその他の者 → 5.(1)② 5.(1)③」と分けて書かれています。5(1)②は、民間の事業者にも開かれた定めです。以下、この報告書による承認を「みなし承認」と呼びます。
なお、取扱基準は、「取壊し」と「廃棄」を区別しています。取壊しは施設(土地を含む。)について、廃棄は設備についての言葉です(取扱基準2(1))。建物を壊したのであれば取壊し、機械を処分したのであれば廃棄ということになります。
2 「立地上又は構造上危険な状態」は、災害の場合に限られません
交付規程24条5項も取扱基準5(1)②も、二つの場合を「若しくは」でつないでいます。
一つ目は、「災害又は火災(補助事業者等の責めに帰すことができない事由による場合に限る。)により使用できなくなった場合」です。二つ目は、「立地上又は構造上危険な状態にある場合」です。括弧書きの「補助事業者等の責めに帰すことができない事由による場合に限る。」は、「災害又は火災」の直後に置かれており、二つ目の場合には付いていません。
そうすると、二つ目の場合、すなわち立地上又は構造上危険な状態にあることを理由とする取壊し・廃棄は、災害や火災があったかどうかとは別に認められているものと読むのが素直であると考えております。老朽化が進んで倒壊のおそれがある、耐震性が不足していて使い続けられない、斜面や護岸の状況が変わって建物が危険な位置になった、といった場合も、この二つ目の場合に当たり得ると考える余地があります。
事務局の側の説明も、この二つを別のものとして書いています。前掲手引き64頁は、みなし承認となる場合を、「災害または火災(補助事業者等の責めに帰すことができない事由による場合に限る)により使用できなくなった場合」と「立地上又は構造上危険な状態にある場合の取壊し又は廃棄を行った場合」の二つに分けて並べています。
取扱基準の別の部分も、この読み方を支えるものと考えております。取扱基準5(2)①bは、「老朽化により代替施設を整備する場合の取壊し等」について国庫納付条件を付さないことができるとしており、同②aは、これを地方公共団体以外の者が行う財産処分にも及ぼしています。みなし承認の定めではなく、要件も代替施設を整備する場合に限られていますが(後記5)、老朽化という事情そのものは、取扱基準も視野に入れている事情です。
裁判例にも、処分制限期間内の解体撤去が補助金適正化法22条に違反しないとしたものがあります。東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁です。もっとも、同判決の22条に関する判示は、危険であったかどうかではなく、同条が規制する行為の範囲そのものを理由としています。危険な状態であったという事情が結論を支えたという読み方については、判決の認定と照らすと疑問が残ると考えております。この裁判例の事案・判示・控訴審の扱いは、コラム「補助金で取得した設備を廃棄することは「処分」か――裁判例紹介:東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁」で述べていますので、ここでは繰り返しません。
補助金適正化法22条そのものが取壊し・廃棄を規制の対象としているのかという、より手前の問題は、コラム「廃棄処分と残存簿価」で述べています。このページは、交付規程が適用されることを前提としても、交付規程と取扱基準の中に、承認申請も納付もしないで済ませる道が用意されている、という話です。
3 「国庫納付は求めないこととする」――「納付させることができる」をどう読むか
はじめに一点、お断りしておきます。取扱基準は、経済産業省大臣官房会計課が「大臣等」(経済産業大臣及び補助金適正化法26条の規定により事務を委任されている者)に向けて定めたものですので、中小機構をそのまま名宛人とするものではありません(取扱基準1(2))。もっとも、交付規程自身が、次のとおり、なお書きで取扱基準の各規定を踏まえ取り扱うものとしています。
引用(中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程24条6項・8頁)「中小機構は、補助事業者が処分制限財産を処分するときは、様式第12-5による納付通知書により、当該処分制限財産に係る補助金額を限度として、納付させることができるものとし、補助事業者は当該納付命令にしたがって納付しなければならない。なお、当該処分については、補助事業等により取得し又は効用の増加した財産の処分等の取扱いについて(平成16・6・10会課第5号)の各規定を踏まえ取り扱うものとする。」
取扱基準の内容は、この定めを通じて、中小機構自身が従うと宣言した基準になっていると考えております。
そのうえで、この条項は、「納付させなければならない」とは書いていません。「納付させることができる」です。この書き方それ自体は、納付が当然に義務となるものではないことの根拠にもなります(この点は、コラム「残存簿価相当額の納付を求められたら」で述べています)。ここで申し上げたいのは、その先のことです。すなわち、納付を求めるかどうかは中小機構の判断に委ねられていますが、その判断は、同項のなお書きが取扱基準の各規定を踏まえるとしている以上、5(1)に当たる場合について「国庫納付は求めないこととする」と定められていることに沿ってされるべきものと考えております。取扱基準が5(1)柱書のただし書で留保しているのは、「報告書において記載事項の不備など必要な要件が具備されていない場合」だけです。
納付免除の明文があるかどうかは、補助金ごとに違います。中小企業省力化投資補助金交付規程(令和6年6月24日規程令6第4号。令和8年9月16日施行の改正までのもの)25条5項は、事業再構築補助金の24条5項とほぼ同じ場合について、次のように定めています。
引用(中小企業省力化投資補助金交付規程25条5項・7頁)「補助事業者又は対象リース会社は、処分制限財産が災害又は火災(補助事業者等の責めに帰すことができない事由による場合に限る。)により使用できなくなった場合若しくは立地上又は構造上危険な状態にある場合の取壊し又は廃棄を行った場合は、第3項の規定にかかわらず、財産処分報告書に当該事由に該当する書類を添付して中小機構に提出することにより、財産処分の承認を受けたものとみなす。この場合において、中小機構は、第6項に基づく納付を免除することができる。」
事業再構築補助金の交付規程が「承認を受けたものとみなすことができるものとする」としているのに対し、省力化投資補助金の交付規程は「承認を受けたものとみなす」と言い切り、そのうえで納付の免除まで条文に書いています。ご自身の補助金が省力化投資補助金であれば、納付の免除が条文にある、ということになります。
もっとも、省力化投資補助金の交付規程も、「免除することができる」と書いています。みなし承認となれば当然に納付がなくなる、とまでは書かれていません。そうすると、この対比から直ちに導けるのは、災害・火災等の場合を他の処分と同じに扱うことは制度の予定するところではない、ということまでです。ただ、その裁量をどう行使するかは自由ではなく、交付規程24条6項のなお書きが取扱基準の各規定を踏まえるとしている以上、5(1)に当たる場合に納付を求めるのであれば、取扱基準が「国庫納付は求めないこととする」としていることとの関係を説明する必要があると考えております。
以下は新事業進出補助金の手引きの記載ですが、交付規程の作りは同じですので、同じ問題が起きます。前掲手引き64頁は、みなし承認となる二つのケースを掲げ、「上記2点のどちらかに該当した場合は事務局に問い合わせし、必要書類を確認してください。」とした直後に、次のように書いています。
引用(中小企業新事業進出補助金「補助事業の手引き」第1.8版64頁)「処分制限財産を処分制限期間内に処分しようとするときは、残存簿価相当額又は譲渡額等により算出した金額を、当該処分制限財産に係る補助金額を限度に納付しなければなりません。」
この一文には、みなし承認の場合を除く旨の留保が付いていません。しかし、交付規程24条6項(新事業進出促進補助金交付規程では同じく24条6項・7頁)は、なお書きで取扱基準の各規定を踏まえ取り扱うものとしており、その取扱基準は、5(1)に当たる場合について「国庫納付は求めないこととする」と定めています。手引きは、交付規程と取扱基準を読み手に分かるように説明するためのものですから、この場面について「納付しなければなりません」とだけ書くのは、根拠規定の内容を正確に伝えていないと考えております。手引きにこう書かれているからといって、納付の義務があると決まるものではありません。
なお、交付規程は法律に優先するものではありませんので、ここでの整理も、補助金適正化法22条の解釈そのものに対しては補助的な根拠にとどまります。
次のような場合は、ご回答になる前にご相談ください
- 災害・火災で使えなくなった設備を廃棄した後に、承認申請や残存簿価相当額の納付を求められている
- 危険な状態にある建物を取り壊したことについて、事前の承認がないと言われている
- 保険金・共済金を受け取ったことを理由に、その分の納付を求められている
4 保険金・共済金が入ったとき
実務で問題になるのが、保険金・共済金です。
交付規程は、一定の規模の補助事業について、保険又は共済への加入を義務づけています。事業再構築補助金(新市場進出)交付規程17条2項(5頁)は、第1回〜第11回公募で補助金額が1,000万円を超えるとき、第12回・第13回公募で補助事業に要する経費が1,000万円を超えるときに、付保割合(保険でどれだけの割合を補償してもらうかの割合)を満たす保険又は共済への加入を示す書類を実績報告書と併せて提出しなければならないとしています。新事業進出促進補助金交付規程17条2項(4頁)は、金額の線引きなく、申請した補助金の補助率以上の付保割合を満たす保険又は共済への加入を求めています。手引きによれば、この保険は「風水害を含む自然災害による損害を補償すること」が条件とされています(前掲手引き10頁・74頁)。
つまり、制度は、災害が起きること、そのときに保険金が入ることを織り込んでいます。
そして、様式第12-4(同交付規程75頁)には、「3.処分価格」という欄があり、「※交付規程第17条第2項に定める保険、共済等への加入により、保険金、共済金等の収入がある場合は、こちらへご記入ください。」という注記が付いています。前掲手引き71頁も、災害等で使用不可・危険な状態にあり廃棄等を行った場合の提出書類として、【収入額がある場合】として「財産処分に伴う収入額が記載された通帳(写)等」を挙げ、その補足説明に、交付規程17条2項に定める保険、共済等への加入により保険金、共済金等の収入がある場合、と書いています。
そのため、保険金が入ったのだからその分を納付せよ、と言われることがあります。しかし、この結論は、交付規程や取扱基準の文言から直ちに出てくるものではないと考えております。
第一に、取壊し・廃棄の国庫納付額について、取扱基準4(2)は、「転用、無償譲渡、無償貸付け、交換、取壊し又は廃棄の場合の国庫納付額は、残存簿価相当額に補助率を乗じて得た額とする。」と定めており、処分価額を基礎とする定めを置いていません。手引きも、廃棄等の場合について、「処分による対価が発生しない場合は、残存簿価相当額に補助率を乗じた額を納付額とします。」としています(前掲手引き66頁)。そして、手引きは「処分価額」を「譲渡額 または 貸付額」と定義しています(同67頁)。保険金は、財産を誰かに譲り渡した対価でも、貸した対価でもありませんから、取壊し・廃棄について保険金の額をそのまま納付額の基礎とする定めは、取扱基準にも手引きにも見当たりません。様式第12-4の欄の名前が「処分価格」だからといって、そこに書いた金額がそのまま納付額の算定の基礎になる、という関係にはなっていないと考える余地があります。納付額の計算そのものは、コラム「返還額はいくらになるのか(計算式と計算例)」で述べています。
もっとも、交付規程8条は、24条6項の納付命令を「財産の処分による収入の納付命令」と呼んでいます(同交付規程3頁)。保険金がここでいう「収入」に当たるという読み方はあり得るところですので、保険金を受け取られた場合には、その使い道(同種の設備の再取得に充てたのか、そうでないのか)を含め、早い段階で整理しておかれることをおすすめします。
第二に、取扱基準は、補償を受けている場合について書くべきところでは書いています。5(2)①aは、「道路の拡張整備その他の補助事業者等の責めに帰することのできない事由によるやむを得ない取壊し等」について国庫納付条件を付さないことができるとしつつ、括弧書きで「相当の補償を得ているものの、代替施設を整備しない場合を除く。」としています。これに対し、5(1)②には、補償や保険金に関する除外は置かれていません。同じ通達の中で、一方には補償に関する留保を置き、他方には置いていないのですから、5(1)②に当たる場合について、補償の有無によって扱いを変えることは予定されていないと読む余地があります。
もっとも、ここは条文から一義的に出る話ではありません。保険金を受け取り、かつ代替の設備・施設を整備しないという場合に、交付主体が5(2)①aの考え方を持ち出してくることは十分に考えられます。
5 「事業者の責めに帰すべきだ」と言われたとき
交付規程24条5項の括弧書き(補助事業者等の責めに帰すことができない事由による場合に限る。)をめぐって、事業者の側に落ち度があったと言われることがあります。
まず確認しておきたいのは、前記2で述べたとおり、この括弧書きが付いているのは「災害又は火災」の場合だけだということです。立地上又は構造上危険な状態にある場合の取壊し・廃棄について、この括弧書きは働きません。老朽化した建物を取り壊したことについて「管理を怠ったからだ」と言われたとしても、それは24条5項の二つ目の場合の要件ではないと考えております。
次に、保険の加入状況を理由に、災害についても事業者の側に落ち度があったと言われることがあります。しかし、交付規程17条2項の付保義務に従わなかったことと、災害・火災が起きたことについて事業者に責めに帰すべき事由があるかどうかは、別の事柄です。付保義務に従わなかったのであれば、それは交付決定の内容又はこれに附した条件への違反として、取消しの枠組み(補助金適正化法17条1項。本補助金については独立行政法人中小企業基盤整備機構法16条による準用)で論じられるべき事柄であり、24条5項の括弧書きの判断に持ち込むべきものではないと考える余地があります。なお、同条項のただし書は、小規模企業者(常勤従業員数が20人以下(卸売業、小売業及びサービス業については5人以下)の会社又は個人事業主)については、保険又は共済への加入に代わる取組をもって代替することができるものとし、その取組の内容を報告するものとしています。
そして、仮に24条5項の適用が認められないとしても、そこで終わりではありません。取扱基準5(2)②aは、地方公共団体以外の者が行う財産処分についても、同①a・bに当たる財産処分――「道路の拡張整備その他の補助事業者等の責めに帰することのできない事由によるやむを得ない取壊し等(相当の補償を得ているものの、代替施設を整備しない場合を除く。)」と「老朽化により代替施設を整備する場合の取壊し等」――を挙げ、同②bは、「社会経済情勢の変化等により処分制限財産を維持する意義が乏しくなった、又は補助事業者等の資金繰りの悪化等により処分制限財産を維持管理することが困難になったと認められる場合の取壊し等」を挙げています。これらについては、国庫納付条件を付さないことができるとされています。承認申請の手続に進むとしても、国庫納付条件を付さない取扱いを求める道が残されています。
この考え方の背景も、文献から確かめることができます。平成20年4月10日の補助金等適正化中央連絡会議決定事項は、包括承認制を導入して国庫納付を求めないこととしたうえで、次のように述べています。
引用(平成20年4月10日補助金等適正化中央連絡会議決定事項。小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』308頁注(20)所収)「二 概ね十年経過前であっても、災害による損壊等、補助事業者等の責に帰することのできない事由による財産処分や、市町村合併、地域再生等の施策に伴う財産処分については、一と同様とする。」
同じ決定事項は、その前書きで「なお、地方公共団体以外の者の補助対象財産についても、下記の趣旨を踏まえて、適切に対処すること。」とも述べています(同307頁注(20))。災害等による財産処分について国庫納付を求めないという考え方は、地方公共団体に限った話として作られたものではありません。
6 取り壊す前に、残しておいていただきたいもの
最後に、実際に動かれるときの順番です。はじめに申し上げておきますが、どちらの場合に当たるかに疑いがあるときは、取り壊す前に承認申請の手続によることもご検討ください。承認のない処分として扱われると、交付決定の取消し(補助金適正化法17条1項)と加算金(同19条1項。年10.95パーセント)を求められることがあります。
第一に、そもそも処分制限財産に当たるのかを確かめてください。取得価格又は効用の増加価格が単価50万円(税抜)未満であれば、処分制限財産ではありませんので(交付規程24条1項)、承認も納付も問題になりません。次に、処分制限期間が残っているかどうかです。処分制限期間は、減価償却資産の耐用年数等に関する省令を準用して定められています。ただし、中小機構が別に定める場合には、その期間となります(同条2項)。期間が経過していれば、そもそも同条3項の承認を要しません。数え方は、コラム「処分制限期間は何年か――「10年ルール」の正体」で述べています。
第二に、壊す前の記録を残してください。様式第12-4の添付書類として、撤去前の写真と撤去後の写真が求められています(前掲手引き71頁、様式第12-4「4.財産処分に係る書類」)。撤去前の写真は、壊してしまってからでは撮れません。危険だから急いで壊したという場面こそ、記録が後から効いてきます。撮影日が分かる形で、全体と損傷部分の両方を撮っておいてください。
第三に、危険であったこと・使用できなくなったことを、第三者の書面で押さえてください。
- 災害・火災であれば、市区町村の罹災証明書(前掲手引き71頁は、事務局から指示があった場合の提出書類として挙げています)、消防の記録、保険会社の損害調査報告書。
- 老朽化・耐震性であれば、建築士の診断書、耐震診断の結果、行政からの指導や勧告の文書。
これらは、交付規程24条5項に当たることを示すための資料であると同時に、後から「責めに帰すべきだ」と言われたときの反論の資料にもなります。
第四に、報告書の「処分理由」の書き方です。取扱基準の別紙様式1の記載要領は、「処分理由」欄について、「財産処分する理由について、5.(1)との関連が明確に分かるように記入する。」としています。交付規程の様式第12-4にも「2.処分理由」の欄があります。ここに、ただ「災害のため」「老朽化のため」と書くのではなく、交付規程24条5項のどちらの場合に当たるのか(災害・火災により使用できなくなった場合なのか、立地上又は構造上危険な状態にある場合なのか)が読み取れるように書いてください。取扱基準5(1)のただし書が留保しているのは、記載事項の不備など必要な要件が具備されていない場合です。書き方ひとつで、みなし承認の入口を自分で閉じてしまうことがあります。
第五に、事務局とのやり取りを書面で残してください。前掲手引き64頁は、みなし承認の二つのケースに該当した場合は事務局に問い合わせて必要書類を確認するよう求めています。電話で済ませず、問い合わせの内容と回答を記録に残しておいてください。後に納付を求められたときに、どの時点でどう説明したかが問題になります。
第六に、納付通知書(様式第12-5。同交付規程76頁)を受け取ってしまった場合です。納付に応じる前に、交付規程24条5項・6項と取扱基準5(1)の関係を整理した書面で、求められている納付の根拠をお尋ねになることをおすすめします。納付命令そのものの争い方は、コラム「残存簿価相当額の納付を求められたら」で述べています。
なお、設備を取り外して手元に保管しているだけで、まだ廃棄していないという場合は、そもそも「処分」に当たらないという整理になります。この点は、Q&A「補助金で導入した設備を取り外して保管している――管理義務に反すると言われたら」で述べています。借りている土地・店舗の内装や設備を置いて退去する場合は、Q&A「借りている土地・店舗に補助金で設備や内装を付けた。退去するときどうなるのか」をご覧ください。
災害・火災で使えなくなった設備を廃棄した方、危険な状態にある建物を取り壊した方、取り壊した後に事務局から承認申請や残存簿価相当額の納付を求められている方、顧問先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、報告書をお出しになる前、また納付に応じられる前にご相談ください。交付決定通知書、交付規程、取得財産等管理台帳、罹災証明書や保険の証券、事務局から受け取った書面があれば、具体的な検討ができます。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。令和7年6月30日施行の改正までのもの)24条1項(処分制限財産は取得価格又は効用の増加価格が単価50万円(税抜)以上の機械、器具及びその他の財産とする。7頁)、24条2項(処分を制限する期間は減価償却資産の耐用年数等に関する省令を準用する。なお、中小機構が別に定める場合には、その期間とする。7頁)、24条3項(処分しようとするときは、あらかじめ様式第12-1による承認申請書を提出し、承認を受けなければならない。7頁)、24条5項(災害又は火災(補助事業者等の責めに帰すことができない事由による場合に限る。)により使用できなくなった場合若しくは立地上又は構造上危険な状態にある場合の取壊し又は廃棄を行った場合は、3項の規定にかかわらず、様式第12-4による財産処分報告書の提出により、財産処分の承認を受けたものとみなすことができる。8頁)、24条6項(様式第12-5による納付通知書により、当該処分制限財産に係る補助金額を限度として、納付させることができるものとする。なお書きで会課第5号の各規定を踏まえ取り扱うものとする。8頁)、附則(規程令6第13号。令和6年11月7日から施行し、ただし24条5項は令和3年3月26日から適用する。16頁)
- 同交付規程7条(24条5項の規定に基づく報告を「災害等に起因する財産処分の報告」と呼ぶ。2頁)、8条(24条6項の規定に基づく納付命令を「財産の処分による収入の納付命令」と呼ぶ。3頁)、17条2項(補助金額等が1,000万円を超えるときの保険又は共済への加入を示す書類の提出。ただし書で小規模企業者(常勤従業員数が20人以下(卸売業、小売業及びサービス業については5人以下))は加入に代わる取組をもって代替することができる。5頁)、様式第12-4(「1.処分の内容」に処分予定日・処分の相手方、「2.処分理由」、「3.処分価格」欄に17条2項に定める保険、共済等への加入により保険金、共済金等の収入がある場合は記入する旨の注記、「4.財産処分に係る書類」に通帳(写)等・撤去前の写真・撤去後の写真。75頁)、様式第12-5(財産処分に伴う納付について。76頁)
- 中小企業新事業進出促進補助金交付規程(令和7年4月21日規程令7第1号。令和8年6月15日施行の改正までのもの)24条5項・6項(7頁。事業再構築補助金(新市場進出)交付規程の24条5項・6項と同文)、17条2項(申請した補助金の補助率以上の付保割合を満たす保険又は共済への加入を示す書類の提出。4頁)
- 中小企業省力化投資補助金交付規程(令和6年6月24日規程令6第4号。令和8年9月16日施行の改正までのもの)25条5項(同じ場合について「財産処分の承認を受けたものとみなす。この場合において、中小機構は、第6項に基づく納付を免除することができる。」と定める。7頁)、25条6項(7頁)
- 「補助事業等により取得し又は効用の増加した財産の処分等の取扱いについて」(平成16・6・10会課第5号。経済産業省大臣官房会計課。最終改正令和元年5月7日)1(2)(経済産業大臣(補助金適正化法26条の規定により事務を委任されている者を含む。以下「大臣等」という。)が補助金適正化法22条の承認をするための基準等の取扱いを定める)、2(1)(取壊し=処分制限財産(施設(土地を含む。)に限る。)の使用を止め、取り壊すこと。廃棄=処分制限財産(設備に限る。)の使用を止め、廃棄処分すること)、3(1)(承認をする場合には国庫納付条件を付さなければならない)、4(1)(有償譲渡又は有償貸付けに係る国庫納付額は譲渡額又は貸付額に補助率を乗じて得た額)、4(2)(転用、無償譲渡、無償貸付け、交換、取壊し又は廃棄の場合の国庫納付額は、残存簿価相当額に補助率を乗じて得た額とする)。この通達には頁番号が印刷されていないため、節番号で引いています。
- 同通達5(1)柱書(別紙様式1を大臣等に提出することによって補助金適正化法22条の承認を受けたものとみなし、国庫納付は求めないこととする。ただし報告書において記載事項の不備など必要な要件が具備されていない場合はこの限りでない)、5(1)①(地方公共団体が行う財産処分に限る)、5(1)②(災害又は火災(補助事業者等の責めに帰することのできない事由による場合に限る。)により使用できなくなった場合若しくは立地上又は構造上危険な状態にある場合の取壊し又は廃棄)
- 同通達5(2)①a(道路の拡張整備その他の補助事業者等の責めに帰することのできない事由によるやむを得ない取壊し等(相当の補償を得ているものの、代替施設を整備しない場合を除く。))、5(2)①b(老朽化により代替施設を整備する場合の取壊し等)、5(2)②a(地方公共団体以外の者が行う財産処分であって、5(2)①a又はbに該当する財産処分)、5(2)②b(社会経済情勢の変化等により処分制限財産を維持する意義が乏しくなった、又は補助事業者等の資金繰りの悪化等により処分制限財産を維持管理することが困難になったと認められる場合の取壊し等)、別紙様式1(財産処分報告書。該当項目欄は「・地方公共団体 → 5.(1)①a. 5.(1)①b.」「・地方公共団体及びその他の者 → 5.(1)② 5.(1)③」)、別紙様式1記載要領4(「処分理由」欄は、財産処分する理由について、5.(1)との関連が明確に分かるように記入する)
- 中小企業新事業進出補助金「補助事業の手引き」第1.8版(2026年8月17日。中小企業新事業進出補助金事務局)10頁(保険又は共済の条件として、風水害を含む自然災害による損害を補償すること)、64頁(根拠規定=交付規程24条。「処分制限財産を処分制限期間内に処分しようとするときは、必ず事前に承認を得てください。事前承認を得ずに財産処分をした場合は、交付決定を取り消す場合があります。」とした後、みなし承認となる場合を「災害または火災(補助事業者等の責めに帰すことができない事由による場合に限る)により使用できなくなった場合」と「立地上又は構造上危険な状態にある場合の取壊し又は廃棄を行った場合」の二つに分けて掲げ、さらに「処分制限財産を処分制限期間内に処分しようとするときは、残存簿価相当額又は譲渡額等により算出した金額を、当該処分制限財産に係る補助金額を限度に納付しなければなりません。」と記載)、65頁(「処分の分類」として譲渡・貸付・目的外使用・交換・廃棄・担保に供する処分の定義を並べる表)、66頁(「(ウ)譲渡(無償)・貸付(無償)・目的外使用・交換・廃棄等の場合」=「処分による対価が発生しない場合は、残存簿価相当額に補助率を乗じた額を納付額とします。」)、67頁(「処分価額」=「譲渡額 または 貸付額」)、71頁(災害等で使用不可・危険な状態にあり廃棄等を行った場合の提出書類=様式第12-4、取得財産等管理台帳の「財産処分報告(災害)用」シート、【収入額がある場合】財産処分に伴う収入額が記載された通帳(写)等、撤去前の写真、撤去後の写真、【事務局から指示があった場合】罹災証明書)、74頁(保険又は共済への加入義務)
- 補助金適正化法22条(補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない。「取壊し」「廃棄」は列挙されていません)
- 補助金適正化法17条1項(交付決定の全部又は一部の取消し)、19条1項(17条1項の規定による処分に関し補助金等の返還を命ぜられたときは、その命令に係る補助金等の受領の日から納付の日までの日数に応じ、年十・九五パーセントの割合で計算した加算金を国に納付しなければならない)
- 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令14条1項2号(補助金等の交付の目的及び当該財産の耐用年数を勘案して各省各庁の長又は補助実施法人の代表者が定める期間を経過した場合)
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構法16条(補助金適正化法の準用)
- 減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和40年大蔵省令第15号)
- 東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁(判示事項は「国庫補助を受けて建築されたクラブハウスの解体撤去が補助金等適正化法二二条に違反しないとされた事例」。地方自治法242条の2第1項1号に基づく住民訴訟で、請求は棄却されています。この裁判例の事案・判示・控訴審の扱いは、コラム「廃棄は補助金適正化法22条の「処分」か」で扱っています)
- 小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』(株式会社全国会計職員協会、2016)307〜308頁注(20)(平成20年4月10日補助金等適正化中央連絡会議決定事項。「なお、地方公共団体以外の者の補助対象財産についても、下記の趣旨を踏まえて、適切に対処すること。」は307頁、「二 概ね十年経過前であっても、災害による損壊等、補助事業者等の責に帰することのできない事由による財産処分や、市町村合併、地域再生等の施策に伴う財産処分については、一と同様とする。」は308頁)
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。