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弁護士 岸上大起

公募要領に「交付決定の取消を受けた者は……5年以下の懲役」と書かれていますが、取消しを受けると刑罰を受けるのですか

このページの結論

交付決定の取消通知が届きました。公募要領を読み返したところ、「交付決定の取消を受けた者は……5年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金または両方に処せられる可能性があります」と書かれていました。取消しを受けると、刑事罰を受けることになるのでしょうか。

補助金適正化法29条1項が処罰の対象としているのは、「偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受け、又は間接補助金等の交付若しくは融通を受けた者」です。交付決定の取消しを受けたことは、同項の要件ではありません。取消しの原因は、計画変更の手続、要件の未達成、報告の未提出、承認を受けない財産処分など多様で、同法10条のように事業者の義務違反を前提としない取消しもあります。取消しは行政処分であり、刑罰とは要件も、判断する主体も、手続も別です。新事業進出補助金「公募要領(第4回)」3頁の「交付決定の取消を受けた者は……処せられる可能性があります」という記述は、29条1項の構成要件を取消事由に読み替えたものです。

同じ記述には、刑名の誤りもあります。29条1項の現在の文言は「五年以下の拘禁刑若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」であり、「懲役」ではありません(令和4年法律第68号による改正。令和7年6月1日施行)。もっとも、取消しを争う道があることと、29条1項の要件に当たる事実がないこととは、別です。申請の段階の記載を問題にされている場合には、別の検討が必要になります。

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

1 公式の説明――新事業進出補助金「公募要領(第4回)」3頁

中小企業新事業進出補助金の「公募要領(第4回)」(独立行政法人中小企業基盤整備機構。1.0版。令和8年3月)は、冒頭の【重要:注意事項】の中に「(不正行為の禁止)」という項目を置いています(以下、公式資料の閲覧日はいずれも2026年10月23日です)。その項目は、黒丸二つで構成されています。まず、一つ目をそのまま引きます。

引用(公募要領(第4回)3頁・一つ目の黒丸)「補助金の申請にあたって、「虚偽の申請による不正受給」「取得財産の目的外利用」「補助事業者の自己負担額を減額又は無償とするような販売方法」「補助金受給額を不当に釣り上げ関係者へ報酬を配賦する」などの不正な行為が判明した場合は、交付規程に基づき交付決定取消となるだけでなく、補助金交付済みの場合、加算金を課した上で当該補助金の返還を求めます。また、悪質な不正行為が発覚した場合については、事業者名及び不正を行った時点での代表者名や不正内容を公表します。」

ここまでは、不正な行為があった場合の話です。主語は「不正な行為が判明した場合」です。問題は、そのすぐ下に置かれた二つ目の黒丸です。

引用(同3頁・二つ目の黒丸)「交付決定の取消を受けた者は、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号)」第29条に基づき、5年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金または両方に処せられる可能性があります。」(※原文はPDFの行末で数字の前後に空白が入っています。引用に当たり、詰めました。)

主語が、一つ目の「不正な行為が判明した場合」から、二つ目では「交付決定の取消を受けた者」に広がっています。同じ向きの記述は、中小企業庁のウェブサイトにもあります。

引用(ミラサポplus(中小企業庁)「中小企業庁担当者に聞く『令和7年度 小規模事業者持続化補助金(一般型(通常枠)・創業型)のポイント』」)「補助金を不正受給すると、補助金の交付決定取消、返還命令の他、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されることがあります。」

こちらの主語は「補助金を不正受給すると」です。条文の要件に沿っています。同じ国の側の説明でありながら、公募要領のほうは主語が「交付決定の取消を受けた者」になっている、ということです。以下、二つの点を申し上げます。構成要件の点と、刑名の点です。

2 29条1項の要件は、「偽りその他不正の手段により……交付を受け」たことです

条文を引きます。

引用(補助金適正化法29条)「1項 偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受け、又は間接補助金等の交付若しくは融通を受けた者は、五年以下の拘禁刑若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。/2項 前項の場合において、情を知つて交付又は融通をした者も、また同項と同様とする。」(※原文は「第二十九条」「2」と表記されています。引用に当たり「1項」「2項」とし、「/」で区切りました。)

処罰されるのは、「偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受け」た者です。交付決定の取消しを受けたことは、どこにも書かれていません。この「偽りその他不正の手段」という要件について、文献は次のように述べています。

引用(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』391頁(株式会社全国会計職員協会、2016))「「偽りその他不正の手段により」とは、行為の手段、方法を表す構成要件要素であるが、ここで「偽りその他不正の手段」とは、不当に補助金等の交付又は間接補助金等の交付若しくは融通を受ける原因力を有する手段で不正なものを総称する概念と解される。」

同じ頁は、何がこれに当たるのかも挙げています。

引用(同391頁)「「偽り」はその例示であり、例えば災害に便乗して無関係の事業を含めて補助申請を行い、同一工事につき二以上の所管交付行政庁に補助申請(二重申請)をなし、事業費を過大に見積もった過大申請いわゆる水増し申請を行い、あるいは架空工事を真実と称して申請をなす等の不実の申請(虚偽申請)がこれにあたる。」(※原文では「二重申請」の後に脚注番号が付されています。引用に当たり、番号は省略しました。)

交付を受ける「原因力を有する手段」です。つまり、申請の段階で、交付を受けるために用いた手段が問われています。交付を受けた後に生じた事情は、ここには入りません。

3 取消しの原因は多様で、そのほとんどは29条の要件を満たしません

では、交付決定の取消しのほうは、どういう場合に行われるのか。

引用(補助金適正化法17条1項)「各省各庁の長は、補助事業者等が、補助金等の他の用途への使用をし、その他補助事業等に関して補助金等の交付の決定の内容又はこれに附した条件その他法令又はこれに基く各省各庁の長の処分に違反したときは、補助金等の交付の決定の全部又は一部を取り消すことができる。」

挙げられているのは、①補助金等の他の用途への使用、②交付の決定の内容又はこれに附した条件への違反、③その他法令又はこれに基く各省各庁の長の処分への違反の三つです。この三つのどれも、「偽りその他不正の手段により交付を受けた」ことを要件にしていません。実務で取消しの理由とされるものを並べてみると、重ならないことがはっきりします。

いずれも、申請の段階で交付を受けるために用いた手段の問題ではありません。交付を受けた後に生じた事情です。同法30条が罰則を置いている「他の用途への使用」(11条違反)は29条とは別の罪で、法定刑も別です。

さらに、事業者の側に義務違反がなくても取消しが行われる場合があります。同法10条1項は、「補助金等の交付の決定をした場合において、その後の事情の変更により特別の必要が生じたとき」の取消しを定めています。同条2項は、これができる場合を「天災地変その他補助金等の交付の決定後生じた事情の変更により補助事業等の全部又は一部を継続する必要がなくなつた場合その他政令で定める特に必要な場合」に限っています。天災地変による取消しを受けた事業者が「自分は五年以下の刑を受ける」と読むことになる書き方は、条文の建てつけと合いません。

加えて、取消しは行政処分です。17条1項の取消しをするかどうかは交付主体の判断で決まり、その判断には裁量があります(Q&A「取消しに裁量はあるのか」で述べています)。刑罰は、検察官が公訴を提起し、裁判所が要件を認定して科すものです。要件も、判断する主体も、手続も別です。

私見としては、公募要領3頁の二つ目の黒丸は、29条1項の構成要件を交付決定の取消事由に読み替えたものであり、両者が別の条文に別の要件のもとに置かれていることを理解していないと言わざるを得ません。しかも、一つ目の黒丸は「不正な行為が判明した場合」として正しく書き分けているのですから、同じ項目の中で主語が入れ替わっていることになります。

4 「懲役」は、令和7年6月1日に「拘禁刑」になりました

二つ目は、刑名です。公募要領3頁は「5年以下の懲役」とし、ミラサポplusの記事も「5年以下の懲役」としています。しかし、29条1項の現在の文言は「五年以下の拘禁刑若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」です。懲役と禁錮を拘禁刑に一元化する改正が行われ、補助金適正化法29条から30条までの「懲役」は、刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律(令和4年法律第68号)により「拘禁刑」に改められました。施行日は令和7年6月1日です。

引用した公募要領は、第4回の公募のもので、令和8年3月のものです。施行から10か月近く経った時点で公表された公式資料が、改正前の刑名のまま条文を紹介していることになります。

刑名が「懲役」か「拘禁刑」かで、事業者の負う責任の重さが変わるわけではありません。申し上げたいのは別のことです。この一行は、自ら根拠として挙げた条文を、公表の時点で確かめていないことを示しています。公式資料に条文が引かれていたら、その条文を現在の法令で確かめていただきたい、ということです。

なお、「または両方に処せられる」という部分は、29条1項の末尾の「又はこれを併科する」を言い換えたものと読めます。この点は誤っていません。

5 罰則は三つあり、検査を拒んだ場合は三万円以下の罰金です

補助金適正化法の罰則は、三か条です。29条(偽りその他不正の手段による受交付等。五年以下の拘禁刑若しくは百万円以下の罰金。併科あり)、30条(11条に違反する他の用途への使用。三年以下の拘禁刑若しくは五十万円以下の罰金。併科あり)、31条(各号に該当する者。三万円以下の罰金)です。

実地検査や報告の場面で持ち出されるのは、31条3号です。

引用(補助金適正化法31条3号)「第二十三条の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して答弁せず、若しくは虚偽の答弁をした者」

法定刑は、三万円以下の罰金です。29条の五年以下の拘禁刑とは、桁が違います。検査の場で「罰則があります」と言われたときに、どの条文の話なのかを確かめる意味は、ここにあります。立入検査の範囲と対応については、Q&A「立入検査に応じなければならないのか」で述べています。

そして、23条1項の検査は、行政の調査です。同条3項は、「第一項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。」と定めています。この規定について、文献は次のように述べています。

引用(小滝・前掲315頁)「なお、行政調査が犯罪捜査のために認められたものでない以上、刑事的に利用することは違法であり、これによって得られた資料は刑事訴訟において証拠能力をもたないものと解すべきであろう。」(※原文では文中と文末に脚注番号が付されています。引用に当たり、番号は省略しました。)

同書315頁の注(9)は、旧所得税法上の検査拒否事件(いわゆる川崎民商事件)の最大判昭和47年11月22日(刑集26巻9号554頁)を引いています。同判決は、憲法35条1項の規定は本来主として刑事責任追及の手続における強制について司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であるとしたうえ、当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然にその保障の枠外にあると判断することは相当でない、と判示したものです。検査の場で答えたことが、そのまま刑事手続で使えるわけではありません。もっとも、行政の側の記録には残ります。

なお、中小機構が交付する補助金については、独立行政法人中小企業基盤整備機構法16条が、補助金適正化法の規定を「罰則を含む」として準用しています。罰則の適用がないということではありません。申し上げているのは、罰則の条文が、それぞれ別の要件と別の法定刑を持っている、ということです。

6 公式の説明は、一方当事者の見解です

中小機構・中小企業庁・各事務局の説明は、公正な第三者による解説ではなく、補助金をめぐる紛争の一方当事者の見解です。通説が説いていない立場を強く主張しているものもあります。公式の説明だからと鵜呑みにするのは非常に危険です。

本件について申し上げれば、次のとおりです。29条1項が処罰の対象とするのは「偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受け」た者であり、交付決定の取消しを受けたことではありません。取消しの原因には、計画変更の手続、要件の未達成、報告の未提出、承認を受けない財産処分といったものがあり、事情変更による取消し(10条)のように事業者の義務違反を前提としないものもあります。それにもかかわらず、公募要領3頁は「交付決定の取消を受けた者は……処せられる可能性があります」と書いています。

この書き方が実際に何をもたらすのかも、申し上げておきます。取消しの通知を受けた事業者が、自分は刑事責任を問われる立場にあると思い込むことです。そう思えば、取消しの理由が条文に当たるのかを確かめないまま返還に応じ、検査の場でも、聞かれるまま答えてしまいます。同法21条の2は、取消しをするときに理由を示さなければならないと定めています。理由が示されているのは、争うためです。

次のような場合は、返還に応じられる前にご相談ください

  • 交付決定の取消通知を受け取り、公募要領の罰則の記載を見て、刑事責任を問われるのではないかと心配されている
  • 実地検査や報告の求めの場面で、「罰則があります」と言われている
  • 取消しの理由が、自社のどの行為のどの条文違反を指しているのかが分からない
いまの状況を相談する →お電話:070-3618-5126(受付:平日10:00〜18:00、出られないときは折り返します)

関連ページ: 「不正受給だ」と言われた――刑事罰を受けることになるのか(Q&A)/交付決定の取消し・返還請求(対応ページ)

7 取消通知と一緒に罰則の条文を示されたら

公式の説明の書き方を争うことと、取消し自体を争うこととは、別のことです。実際に通知を受け取られた場合に、順に確かめていただきたいことを三つ挙げます。

  • (1)取消しの理由が、どの条文のどの要件を指しているのかを特定する。21条の2により、取消しの通知には理由が示されます。それが17条1項の三つのうちのどれなのか、交付規程のどの条項を指しているのか、事情変更(10条)によるものなのかを、まず確かめてください。「不正」という言葉が使われていても、それが29条1項の「偽りその他不正の手段」を指しているとは限りません。交付規程の条項違反がそのまま取消事由になるのかという論点は、Q&A「交付規程に違反したと言われたら」で述べています。
  • (2)申請の段階の話なのか、交付後の話なのかを分ける。29条1項が問うているのは、交付を受ける原因力を有する手段です。申請書の記載が事実と違っていたと言われているのか、それとも交付後の報告・財産の扱い・目標の未達成を言われているのかで、話がまったく変わります。申請の段階の記載を問題にされている場合には、その記載を誰がどの資料に基づいて作ったのかを、早い段階で整理しておいてください。
  • (3)検査や事情聴取の場で答える前に、何を聞かれているのかを書面で確かめる。23条の検査は行政の調査であり、同条3項は、その権限が犯罪捜査のために認められたものと解してはならないと定めています。もっとも、答えた内容は行政の記録に残り、後に取消しを争う段階で使われます。口頭で即答するのではなく、質問事項と求められている資料の範囲を書面でいただいたうえで回答なさることをお勧めします。検査員の指摘への向き合い方は、コラム「検査員の事例」でも述べています。

取消しの前に意見を述べる機会が与えられる場合の対応は、Q&A「取消しの前に通知や弁明の機会はあるのか」で、取消しの前にしておくべきことは、コラム「取消し前にすべきこと」で述べています。罰則の条文が示されたからといって、争う道が閉じるわけではありません。示された条文の要件に、ご自身の行為が当たるのかどうかを、条文の側から確かめていただきたいと考えております。

交付決定の取消通知を受け取り、公募要領の罰則の記載を見て不安を感じておられる事業者の方、実地検査や報告の求めの場面で「罰則があります」と言われている方、取消しの理由がどの条文のどの要件を指しているのか分からない方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、返還に応じられる前にご相談ください。取消通知、交付決定通知書、交付規程、公募要領の該当頁、申請書類の控えがあれば、具体的な検討ができます。

根拠(条文・公式資料・裁判例)

※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。

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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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