執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 まず、届いた書面に挙げられている条項を確かめる
事業化状況報告を出していなかったことを理由に、交付決定の取消しや補助金の返還の話が出てきたとき、最初に確かめるのは、届いた書面に挙げられている条項です。事業再構築補助金、新事業進出補助金、新事業進出・ものづくり補助金、中小企業省力化投資補助金のように、独立行政法人中小企業基盤整備機構が交付主体となる補助金については、交付決定を取り消す根拠になるのは、交付規程ではなく補助金適正化法17条1項です(中小機構法16条による準用)。交付規程の条項に違反したという指摘は、同項の三つの取消事由のうち「交付の決定の内容又はこれに附した条件」への違反に当たるかどうかという問題になります。この見方は、Q&A「交付規程に違反したと言われたら」で整理しています。
そのうえで、交付規程は、事業化状況の報告を行わなかった場合を、取消し等をすることができる場合の一つとして挙げています。以下に引くのは、中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程の条文です。交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なり、版によって条数と文言が違い得ますので、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でお確かめください。
引用(中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程22条1項柱書・1号・9号・10号)「第22条 中小機構は、第12条第1項第4号の補助事業の全部若しくは一部の中止若しくは廃止の申請があった場合又は次の各号のいずれかに該当する場合には、第9条第1項の交付の決定の全部若しくは一部を取り消し、又は変更することができる。
(1)補助事業者が、法令、本規程又は本規程に基づく中小機構の処分若しくは指示に違反した場合
(略)
(9)補助事業者が、第17条第1項に定める期限内に実績報告書を提出しなかった場合
(10)補助事業者が、第25条第1項に定める事業化状況の報告を行わなかった場合」
1項に掲げられているのは1号から12号までで、ここに引いたのはそのうちの三つです。ご覧いただきたいのは、各号の中身よりも、柱書の末尾です。「交付の決定の全部若しくは一部を取り消し、又は変更することができる」とされており、「全部を取り消す」とは書かれていません。10号に当たるとされたとして、そこから全部の取消しが当然に導かれるわけではないと考えております。どこまで取り消すかは、後記4の問題として残ります。
9号と10号は、書き方が違います
9号は「第17条第1項に定める期限内に実績報告書を提出しなかった場合」であり、10号は「第25条第1項に定める事業化状況の報告を行わなかった場合」です。ここでいう17条1項・25条1項は、いずれも交付規程の条項です。9号には「期限内に」という文言が置かれており、10号にはそれがありません。交付規程17条1項は、補助事業が完了したときは、その日から起算して30日を経過した日又は補助事業完了期限日のいずれか早い日までに実績報告書を提出しなければならないとして、日数で期限を定めています。他方、交付規程25条1項の定め方は、次の2で引くとおりです。
2 報告の義務そのもの――25条1項の定め
引用(同交付規程25条1項)「補助事業者は、補助事業の完了の日の属する年度(以下「補助事業終了年度」という。)の終了後を初回として、以降5年間、次の各号に掲げる事項に関し、様式第13による事業化状況・知的財産権報告書を中小機構に速やかに提出しなければならない。」
主語は「補助事業者は」であり、述語は「提出しなければならない」です。交付主体自身を主語として、「中小機構は……することができる」という形で書かれている条項とは、この点が違います。補助事業者に義務を課す形になっていますので、報告を出していないことが取消事由に当たり得ること自体は、否定しにくいところです。もっとも、その条項が交付決定に補助条件として取り込まれているかどうかは、前記1のとおり別に確かめることになります。このページで述べるのは、そこから先、どこまでの不利益が導かれるのかという点です。
報告の期間は、補助事業終了年度の終了後を初回として以降5年間です。この「5年」が何の期間であり、財産の処分が制限される期間とどう違うのかは、Q&A「事業再構築補助金は5年たてば自由に処分できるのか」で整理しています。報告の期間と、処分制限期間とは、別のものです。
3 報告をしていないことと、補助事業を続けていないことは、別です
報告をしていないという事実から、補助事業を続けていないという事実が出てくるわけではありません。報告は、補助事業の状況を所定の様式で知らせる手続であって、補助事業そのものではないからです。設備が現に稼働し、事業が現に行われているのであれば、報告が出ていないという指摘と、事業が止まっているという指摘とは、分けて扱われるべきであると考えております。
この切り分けは、どの取消事由に当たるとされているのかという問題に跳ね返ります。補助金適正化法17条1項が定める取消事由は、①補助金等の他の用途への使用、②交付の決定の内容又はこれに附した条件への違反、③法令又はこれに基く処分への違反の三つです。報告を出していないことが問題になるのは②であって、補助金を他の用途に使ったという①ではありません。届いた書面が、報告の未提出を述べているのか、補助事業が行われていないことを述べているのか、あるいは補助金の使い方を述べているのかを、条項と対応させて読み分けることになります。
4 どこまで取り消すか――全部か、一部か
交付決定を取り消すかどうか、どこまで取り消すかについては、裁量があると解されています。是正すれば補助事業が交付決定どおりに遂行される見込みがあった場合や、補助目的の達成に支障のない軽微な事由しかない場合に、全部を取り消して全額の返還を求めることは、比例原則に反し、裁量権の逸脱・濫用として違法と判断される可能性があります。この点は、Q&A「補助金の交付決定の取消しに裁量はあるのか」と、交付決定の取消し・返還請求で述べています。
報告の未提出についても、同じ見方が当てはまると考えております。前記1のとおり、交付規程22条1項の柱書は、全部の取消し、一部の取消し、変更を並べています。報告が出ていないことによって、補助金の交付の目的の達成にどのような支障が生じたのかという問いは、そのうちのどれを選ぶのかという判断に関わるはずです。もっとも、事業化状況報告の未提出を理由とする取消しの量定について、正面から判断した裁判例は、現在のところ見当たりません。
5 調べないまま取り消すことができるのか、という筋
補助金適正化法は、17条1項の取消しに先立つ規定として、補助事業等の遂行の状況の報告(12条)、遂行命令・一時停止命令(13条)、是正のための措置の命令(16条1項。「補助事業等の完了又は廃止に係る補助事業等の成果の報告を受けた場合において」という前提が置かれています)を置いています。また、報告を求め、事務所・事業場等に立ち入って帳簿書類を検査し、関係者に質問する権限も定められています(23条1項)。
これらの手段の順序と、補助事業の実施の状況を調べないまま取消しがされた場合の考え方は、コラム「補助事業の実施の状況を調べないまま交付決定を取り消すことは許されるのか」で述べています。報告が出ていないという一事と、補助事業が行われていないという判断との間には、距離があります。
6 加算金・延滞金の扱いを、条文で確かめる
ここまでは取消しの側の話ですが、交付規程は、取消しの定めに続けて、返還と加算金の定めを置いています。この部分は、感覚で見積もるのではなく、条文に即して確かめていただくほかありません。
引用(同交付規程22条2項〜4項)「2 中小機構は、前項の取消しをした場合において、既に当該取消しに係る部分に対する補助金が交付されているときは、期限を付して当該補助金の全部又は一部の返還を命ずる。
3 中小機構は、前項の返還を命ずる場合には、第12条第1項第4号の補助事業の全部若しくは一部の中止若しくは廃止の申請を承認した場合、並びに第1項第4号、第5号及び第6号に規定する場合を除き、その命令に係る補助金の受領の日から納付の日までの期間に応じて、年利10.95パーセントの割合で計算した加算金の納付を併せて命ずるものとする。
4 第2項に基づく補助金の返還については、第18条第3項の規定を準用する。」
3項が加算金の対象から除いているのは、12条1項4号の中止・廃止の申請を承認した場合と、1項4号、5号及び6号に規定する場合です。1項10号は、この除外に入っていません。報告の未提出を理由として返還を命ずる場合には、補助金の受領の日から納付の日までの期間に応じた年利10・95パーセントの加算金の納付を併せて命ずる、という建てつけになっています。補助金適正化法も、17条1項の規定又はこれに準ずる他の法律の規定による処分に関し補助金等の返還を命ぜられたときについて、加算金の定めを置いています(同法19条1項)。加算金・延滞金の仕組みと免除の定めは、Q&A「補助金の返還を求められたら、加算金・延滞金は払うのか」で整理しています。
さらに、4項が準用する交付規程18条3項は、「前項の補助金の返還期限は、当該命令のなされた日から20日以内とし、期限内に納付がない場合は、未納に係る金額に対して、その未納に係る期間に応じて年利10.95パーセントの割合で計算した延滞金を徴するものとする。」としています。返還そのものに加えて、受領の日から納付の日までの加算金が付き、返還期限を過ぎれば同じ率の延滞金が重なり得る、という定めです。ここは、加算金・延滞金まで含めて、条文に即して見積もっておく必要があるところです。
次のような場合は、お返事をされる前にご相談ください
- 事業化状況報告を出していなかったことを理由に、交付決定の取消しや補助金の返還についての書面が届いた
- 報告の未提出を理由に返還を求められている
- 届いた書面に交付規程の条項番号が挙げられているが、何を定めた条項なのかが分からない
7 現に続けているなら、その事実をどう示すか
前記3の切り分けを前提にすると、報告が出ていないという指摘に対して示すことになるのは、補助事業が現に行われているという事実です。ここで効いてくるのは、日付の分かる資料です。設備やソフトウェアが稼働していることの記録、補助事業に係る売上・受注の記録、取引先とのやり取り、現場の写真――いずれも、いつの時点のものかが分かる形で残っているかどうかで、示せる範囲が変わります。
日々の記録がまだ出せない段階で、何をどう残していくかは、コラム「補助事業を続けていることを、どう示すか」で述べています。
8 26条の建てつけ――届出をした場合は、以降の報告は不要とされています
報告の義務がいつまで続くのかは、やめるときの手続と結び付いています。交付規程26条1項は、補助事業完了後の事業計画期間において、事業計画の全部若しくは一部を廃止しようとするとき、又は事業計画の全部又は一部を他に承継させようとするときは、様式第14-1又は様式第14-2のいずれかによる届出書を速やかに提出しなければならないとしています。そして、2項は次のとおり定めています。
引用(同交付規程26条2項)「補助事業者は、前項第1号の規定による届出のうち、事業計画の全部の廃止に係る届出を行った場合は、当該届出日に事業計画期間が終了したものとし、当該届出日の属する年度以降、前条第1項の規定に基づく事業化状況・知的財産権報告書の提出は不要とする。」
事業計画の全部の廃止に係る届出をした場合は、その届出日の属する年度以降の報告は不要とされ、届出をしていなければ、25条1項の報告の義務が残る――報告の義務の終わり方は、この2つの条項で決まっています。もっとも、報告の義務が終わったとしても、取得した財産を管理する義務は、処分を制限する期間が終了するまで残ります(同23条2項)。補助事業を続けるのが難しくなった場面の全体像は、Q&A「補助事業を途中でやめたい・縮小したいとき、補助金はどうなるのか」で整理しています。
9 お手元で確かめられること
- 届いた書面に挙げられている条項。交付規程の条数だけが書かれているのか、補助金適正化法17条1項が挙げられているのか。交付規程が挙げられている場合は、その条項が補助事業者に何を命じているものかを見ることになります。
- 事業化状況報告の提出の履歴。どの年度分について、何を提出し、何を提出していないのか。提出した控えと、送信・送付の記録。
- 補助事業が現に行われていることを示す資料。前記7のとおり、日付の分かる形のものです。
- 事業計画の廃止又は承継の届出をしたことがあるかどうか(交付規程26条1項)。
- 書面が現実に届いた日。取消訴訟は、処分があったことを知った日から6か月を経過したときは提起することができないとされており(行政事件訴訟法14条1項。同条2項は、処分の日から1年を経過したときも提起することができないとしています。いずれにも、正当な理由があるときはこの限りでないとのただし書が置かれています)、この6か月は書面に印字された日付から数えるものではありませんので、封筒や受領の記録も残しておいてください(詳しくは、Q&A「交付決定の取消しから6か月を過ぎたら、取消訴訟は起こせないのか」をご覧ください)。
事業化状況報告を出していなかったことを理由に、交付決定の取消しや補助金の返還についての書面が届いている事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、お返事をされる前にご相談ください。届いた書面、交付決定通知書、これまでに提出した報告書の控えがあれば、挙げられている条項が何を定めたものかという形で、具体的な検討ができます。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程22条1項(柱書は「中小機構は、第12条第1項第4号の補助事業の全部若しくは一部の中止若しくは廃止の申請があった場合又は次の各号のいずれかに該当する場合には、第9条第1項の交付の決定の全部若しくは一部を取り消し、又は変更することができる。」。1号は「補助事業者が、法令、本規程又は本規程に基づく中小機構の処分若しくは指示に違反した場合」、9号は「補助事業者が、第17条第1項に定める期限内に実績報告書を提出しなかった場合」、10号は「補助事業者が、第25条第1項に定める事業化状況の報告を行わなかった場合」。1号から12号まで)
- 同交付規程22条2項(取消しをした場合において既に当該取消しに係る部分に対する補助金が交付されているときは、期限を付して当該補助金の全部又は一部の返還を命ずるとするもの)・3項(返還を命ずる場合には、12条1項4号の中止若しくは廃止の申請を承認した場合、並びに1項4号、5号及び6号に規定する場合を除き、その命令に係る補助金の受領の日から納付の日までの期間に応じて、年利10.95パーセントの割合で計算した加算金の納付を併せて命ずるものとするもの。1項10号は除外に入っていません)・4項(2項に基づく補助金の返還については18条3項の規定を準用するとするもの)
- 同交付規程18条3項(返還期限は当該命令のなされた日から20日以内とし、期限内に納付がない場合は、未納に係る金額に対して、その未納に係る期間に応じて年利10.95パーセントの割合で計算した延滞金を徴するものとするもの)
- 同交付規程25条1項(補助事業者は、補助事業の完了の日の属する年度の終了後を初回として、以降5年間、様式第13による事業化状況・知的財産権報告書を中小機構に速やかに提出しなければならないとするもの)
- 同交付規程17条1項(補助事業が完了したときは、その日から起算して30日を経過した日又は補助事業完了期限日のいずれか早い日までに様式第6による実績報告書を提出しなければならないとするもの)
- 同交付規程23条2項(補助事業者は、取得財産等について様式第7による取得財産等管理台帳を備えるものとし、処分を承認された財産を除き、24条2項に定める期間が終了するまで管理しなければならないとするもの)
- 同交付規程26条1項(補助事業完了後の事業計画期間において、事業計画の全部若しくは一部を廃止しようとするとき(1号)、又は事業計画の全部又は一部を他に承継させようとするとき(2号)は、様式第14-1又は様式第14-2のいずれかによる届出書を速やかに提出しなければならないとするもの)・2項(1項1号の届出のうち事業計画の全部の廃止に係る届出を行った場合は、当該届出日に事業計画期間が終了したものとし、当該届出日の属する年度以降、25条1項に基づく報告書の提出は不要とするもの)
- 補助金適正化法17条1項(取消事由は、①補助金等の他の用途への使用、②交付の決定の内容又はこれに附した条件への違反、③その他法令又はこれに基く各省各庁の長の処分への違反の三つ)
- 補助金適正化法12条(状況報告)、13条(補助事業等の遂行等の命令・一時停止命令)、16条1項(是正のための措置。「補助事業等の完了又は廃止に係る補助事業等の成果の報告を受けた場合において」という前提が置かれています)
- 補助金適正化法23条1項(報告の徴収・立入検査・質問)
- 補助金適正化法19条1項(「第十七条第一項の規定又はこれに準ずる他の法律の規定による処分に関し」補助金等の返還を命ぜられたときは、その命令に係る補助金等の受領の日から納付の日までの日数に応じ、年十・九五パーセントの割合で計算した加算金を国に納付しなければならないとするもの)
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構法15条1項6号、16条(補助金適正化法の準用。「各省各庁の長」を「独立行政法人中小企業基盤整備機構の理事長」と読み替えるもの)
- 行政事件訴訟法14条1項・2項(出訴期間。いずれも「ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。」とのただし書を置いています)
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
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