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弁護士 岸上大起

行政や事務局のメールに「承知しました」と返す前に――受け取ったことと、受け入れたことを分けて書く

このページの結論

交付主体・事務局から、返還額の算定の考え方と今後の手続を説明するメールが届きました。「承知しました」と返してよいのでしょうか。金額の協議には応じたいのですが、義務そのものは争いたいと考えています。

「承知しました」は、連絡を受け取ったという意味にも、内容に同意したという意味にも読めます。後に義務や金額を争う段階になると、この一行は、こちらが算定の基準を受け入れた事実として持ち出されます。義務の存否を争う可能性があるなら、連絡を受領したことと、納付義務の存否及び金額について当方の立場を留保することを、分けて書いてください。承認による時効の更新(民法152条1項)は、書いた側の内心ではなく、文面に表示されたところで判断されます。

金額の協議に応じること自体は不利ではありません。不利になるのは、協議の中で義務や金額を認めたと読める言動が残ることです。残額の確認書・分割納付の書面への署名と一回目の納付は承認の典型ですので、処分そのものを争うかどうかを決めてからにしてください。

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

1 何が問題になるのか――「受け取った」と「受け入れた」の混同

交付主体や事務局から、返還額の算定の考え方や今後の手続を説明するメールが届く。それに対して、「ご説明の判断基準および今後の手続について承知いたしました」と返す。業務のメールとしては、ごく普通の返事です。

ところが、後になって返還の義務や金額を争う段階になると、この一行が、こちらが算定の基準を受け入れた事実として持ち出されます。「貴社は当時、当方の基準に異議を述べていない」という形です。日本語の「承知しました」は、連絡を受け取ったという意味にも、内容に同意したという意味にも読めます。書いた側は前者のつもりでも、読む側は後者として使います。問題の根は、受領の確認と内容の承諾が、同じ一語に重なってしまうところにあります。

もう一つ、同じ型の問題があります。こちらが自分で出した書面(申請書、台帳、試算表)に書いた前提です。たとえば、残存簿価の計算に使う耐用年数や算式について、交付主体の説明と同じ前提を自分の書面でも採っていると、交付主体はそれを強く援用します。「貴社自身がその前提で計算している」という形です。後から別の前提を主張するときに、自分の書面が壁になります。

2 承認による時効の更新――「承知しました」はどこまで効くのか

返信の文言が法律の上で効いてくる場面の一つが、消滅時効です。以下でいう「承認」は、民法が定める時効の更新事由としての承認であり、財産処分の承認(補助金適正化法22条)とは別のものです。民法は、次のように定めています。

引用(民法152条1項)「時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。」

民法152条1項の「承認」は、契約のように意思を表示する行為ではありません。最高裁判所判例解説は、我妻榮『民法総則』470頁を引いて、承認とは「時効の利益を受ける当事者が,時効によって権利を失う者に対して,その権利の存在することを知っている旨を表示すること」であり、その法律上の性質は「いわゆる観念の通知であって法律行為ではなく,中断しようとする効果意思は必要でない」と整理しています(最高裁判所判例解説民事篇平成25年度403頁。最二小判平成25年9月13日民集67巻6号1356頁の解説。この整理は、令和2年4月1日施行の改正前の民法147条3号の「承認」についてのもので、引用中の「中断」は、現在の「更新」に当たります。改正前の147条3号の承認は、現行の152条1項に引き継がれています)。つまり、「時効を更新するつもりだったかどうか」は問われません。相手の権利があることを知っている、と表示したかどうかだけが問われます。

方式も決まっていません。同じ解説は、「承認には特別の方式は必要ではなく,その権利の存在を認識して,その認識を表示したと認めることのできる行為は全て承認となる」とし、承認と認められた例として、債務の一部弁済、利息の支払、一部弁済のために振り出した小切手が支払われたこと、別件訴訟での証言を挙げています(同403〜404頁)。メールでも、書面でも、支払でも、承認になります。

期間が過ぎた後の承認は、時効の主張そのものを失わせます

さらに注意を要するのが、時効の期間が既に過ぎている場合です。民法によるのであれば、時効は、当事者が援用(時効が完成していることを自分から主張すること)しなければ、裁判の基礎になりません。最大判昭和41年4月20日民集20巻4号702頁は、債務者が消滅時効の完成後に債権者に対して債務の承認をした場合には、時効が完成した事実を知らなかったときでも、その後に時効を援用することは許されないとしています。時効の完成後に債務を承認することは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方も債務者はもはや援用をしない趣旨だと考えるから、信義則に照らして援用を認めない、という理由です(前記の最高裁判所判例解説民事篇平成25年度416頁(注16)の整理)。何年も前の補助金について返還を求められ、期間が過ぎているかもしれないという場面で、何気なく「承知しました」「お支払いの方法をご相談させてください」と返すと、使えたはずの時効の主張を自分で手放すことになりかねません。

もっとも、これは、民法の枠組みで扱われる債権についての話です。会計法31条1項が適用される国の権利については、時効の援用を要せず、その利益を放棄することもできないとされていますので、完成後の承認によって援用権を失うという議論は、そのままは当てはまりません。補助金の返還請求権がどちらの枠組みによるのかは、前記のQ&A「補助金の返還請求に時効はあるのか」で述べています。

書いた側の内心ではなく、表示された文言で判断されます

時効の完成後に出した通知書の文言が承認に当たるかが争われた裁判例があります。保険会社が、給付金の受取人は2名で各2分の1を取得したとして、その一方に宛てて、2分の1に相当する額を支払う旨の通知をしたところ、通知を受けた側が全額を請求し、保険会社が消滅時効を援用した事案です。大阪高判平成20年10月31日金判1337号13頁は、通知書の記載から、保険会社が「1審原告に対する1審被告の債務の存在を認め、これを1審原告に対して表示し、通知していると認められるから、1審被告による1審原告に対する債務の承認があったということができる」としました。保険会社は、時効の援用を前提に顧客サービスとして通知したにすぎないと主張しましたが、裁判所は次のように述べています。

引用(大阪高判平成20年10月31日金判1337号13頁)「本件通知の内容からは、1審被告の内心はともかく、消滅時効を援用する旨の意思が外部に客観的に表示されているということはできず、本件通知によって表示されているのは、債務の承認である」

同時に、この判決は、承認の範囲を通知書に明示された金額に限っています。保険会社が「1審原告に対する債務の全額が214万6214円であることを明示した上で、これを支払う旨の意思を表示し、通知したもの」と認められる以上、「それ以上の債務を負わないことを表示し、通知しているということができるから、本件通知による債務承認の範囲は上記金額に限られる」としたものです。もっとも、同判決は、承認の範囲をこのように限ったうえで、別の理由(時効の援用が信義則に反し、権利の濫用に当たること)により、全額の請求を認めています。この判決に対する上告は棄却されています(最三小判平成21年6月2日民集63巻5号953頁)。ただし、上告審が判断したのは保険金受取人の確定に関する論点であり、承認についての上記の判示は、上告審の判断を経ていません。

この判決は補助金の事案ではなく、保険会社と受取人の間のものです。しかし、承認が観念の通知であり、方式を問わないという前記の整理は、時効の完成の前後を通じて同じですので、二つのことが読み取れます。一つは、書いた側の内心ではなく、文面に外部から見て何が表示されているかで判断されるということ。もう一つは、文面が「ここまでしか認めない」と明示していれば、承認の範囲もそこで止まるということです。返信の文言に何を書き、何を書かないかが、そのまま効いてきます。

相手の側から届く通知は、催告として働きます

引用(民法150条1項・2項)「催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
2 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。」

交付主体から届く支払の求めは、民法によるのであれば、民法150条1項の催告として、6か月の間、時効の完成を止めます。こちらが返事をしなくても、この効果は生じます。会計法が適用される場面では、法令の規定により国がなす納入の告知に時効の更新の効力があるとされており(会計法32条)、6か月の猶予にとどまる民法の催告とは扱いが異なります。他方で、こちらが承認をすれば、152条1項により時効は新たに進行を始めます。返事をするかどうかではなく、返事に何を書くかで、法律の効果が変わるということです。補助金の返還請求権が会計法の時効によるのか民法の時効によるのかは、前記のQ&A「補助金の返還請求に時効はあるのか」で述べています。いずれの枠組みでも、承認による更新は問題になります(会計法31条2項は、完成猶予・更新について民法の規定を準用しています。援用と放棄は、同条1項の事項として、準用の対象から除かれています)。

3 書き分けの実例文

申し上げたいのは、返事をしないことではありません。連絡を受け取ったことと、内容を争う権利を留保することを、分けて書くことです。次のような一文で足ります。

三つの要素でできています。受け取った事実、留保、こちらからの問いです。「承知しました」は使いません。「ご指摘のとおり」「異存ありません」「お支払いの件」といった、内容を受け入れたと読める語も使いません。

問いの部分は、こちらが争うための材料を集める働きもします。根拠の条文、適用した交付規程の版、算式の出どころを書面で示してもらえば、それを前提に検討ができます。示されなければ、示されなかったという事実が残ります。書面を出したのに返事が来ないときの進め方は、Q&A「中小機構・事務局に書面を出したのに、返事が来ないとき」で述べています。

「期限を延ばしてほしい」の書き方

期限が迫っていて時間がほしいときも、書き方で意味が変わります。「お支払いの期限を延ばしていただけないでしょうか」は、支払うことを前提にした猶予の申入れと読まれ、承認として扱われる余地があります。求めるのは、支払の猶予ではなく、回答のための期間です。「ご連絡の内容を検討するため、回答の期限を○月○日まで延ばしていただきたく存じます」と書きます。

自分の書面の前提にも、同じことがいえます

財産処分の承認申請書や試算表に数字を書くときも、前提を争うつもりがあるのなら、そのことを書面に残しておきます。「本申請書の時価欄は、貴職の指示に従い耐用年数○年を前提に記載しているが、当方は、処分制限期間及び算定の前提について別途意見を述べる予定である」という一文です。前提を書かずに数字だけを書くと、その数字がこちらの立場になります。

次のような場合は、お返事をされる前にご相談ください

  • 交付主体・事務局から、返還額の算定の考え方や今後の手続についてのメールが届き、返事を求められている
  • 既に「承知しました」と返してしまい、後から金額や義務を争えるのか不安がある
  • 分割納付の取決めや残額の確認書に署名を求められている
いまの状況を相談する →お電話:070-3618-5126(受付:平日10:00〜18:00、出られないときは折り返します)

関連ページ: 補助金の返還請求に時効はあるのか(Q&A)/返還命令を放っておくとどうなるのか(Q&A)

4 協議に応じることと、義務を認めることは別です

返還額の協議に応じること自体は、不利ではありません。むしろ、交付主体の側が長い期間、取消しではなく納付額の協議を続けてきたという経過は、こちらに有利に働く余地があります。協議の経過は、交付主体自身がその件を財産処分と納付の枠組みで処理する意思であったことを示す事実になります。後から取消しと加算金という構成に転じた処分を争うときに、この経過は、裁量の逸脱濫用を主張する際の事情として使えると考える余地があります。協議に応じることで失うものはなく、協議の経過が残ることにはこちらにとっての意味があります。

不利になるのは、協議の中で義務や金額を認めたと読める言動が残ることです。こちらも返還の可能性を前提に金額の協議をしてきた、という事実の経過があると、後から「一切の支払義務はない」と主張することは、経過と整合しにくくなります。ここで効いてくるのが、協議の途中で一言、納付義務と金額を認めない旨を書面で留保していたかどうかです。留保があれば、協議の経過を「争いつつ、話合いに応じていた」ものとして読む余地が残ります。留保がなければ、「認めたうえで、額を交渉していた」ものとして読まれやすくなります。承認は方式を問いませんので、留保があれば足りるというものでもありませんが、留保のない協議の記録よりは、はるかに分があります。

協議の中で、こちらから試算を示すこともあります。そのときも、「当方の試算は、貴職の示された算式を前提とした場合の参考値であり、算式及び前提の当否についての当方の意見を留保する」と添えておきます。試算を出したことが、算式を受け入れたことにならないようにするためです。

交付主体の説明が、どの条文、どの規程の、どの版に基づくものかは、協議の早い段階で書面で確かめておきます。交付規程に書かれていることが、そのまま補助条件になるのかという問題は、Q&A「交付規程に違反したと言われたら」で、財産処分の承認と一緒に届いた納付の求めを争えるのかは、Q&A「納付命令だけを争えるのか」で述べています。

5 確認書・分割納付の書面に署名する前に

協議の終わりに、残額の確認書や分割納付の誓約書への署名を求められることがあります。これらは、前記2の時効の更新事由としての承認に当たる典型です。債務の存在と金額を認める文言が入っており、署名した時点から時効は新たに進行を始め、処分の違法を主張する場面でも、こちらが義務を認めていた事実として扱われます。一部の納付も同じです。前記の最高裁判所判例解説は、債務の一部弁済について「債務の一部弁済は債務の承認を表白するもの」であることを理由に、残債務について時効の中断の効力が認められるとした判例(大判大正8年12月26日民録25輯2429頁)を挙げています(同403頁)。一回目の分割金を払った時点で、残額全体について承認があったものと扱われるのが通常です。確認書・誓約書・分割納付の申出書に債務を認める文言が入っていないかを見る順序は、Q&A「『争わずに早く返した方が、延滞金が付かないので得です』と言われたら」の6でも述べています。

ですので、署名や一回目の納付の前に、処分そのものを争うかどうかを決めておくことになります。この順序は、Q&A「補助金の返還命令を放っておくとどうなるのか」の「払えないとき、どう動くか」で述べています。処分を争う期間は、協議をしている間も進みます。審査請求の宛先と期間は、Q&A「取消しの通知に不服があるとき、どこに言えばよいのか」で、取消訴訟の出訴期間は、Q&A「交付決定の取消しから6か月を過ぎたら」で述べています。

署名せざるを得ないときは、文言を直すことを求めます。「本確認書は、納付義務の存否及び金額についての当方の主張を妨げるものではない」という一文を入れられるかどうかです。入れられなければ、入れられなかった事実を、こちらから出す書面に残しておきます。

6 どう動くか

  • 届いたメール・書面に返事をする前に、その内容が、連絡なのか、算定の基準の提示なのか、支払の求めなのかを分けます。支払の求めであれば、処分(返還命令・納付命令)なのか、処分の前の任意の求めなのかも確かめます。
  • 返事は、受領の確認、立場の留保、根拠を問う一文の三つで組みます(前記3)。「承知しました」は使いません。
  • 時間がほしいときは、支払の猶予ではなく、回答の期限の延長を求めます。
  • これまでに送ったメール・書面を読み返し、義務や金額を認めたと読める文言がないかを確かめます。あれば、次に出す書面で、当時の趣旨が受領の確認であったことと、現在の立場を明記します。既に送った一行を消すことはできませんが、その後の書面で位置づけを示しておくことはできます。
  • 承認申請書・試算表など、自分で出す書面の前提を確かめます。前提を争うつもりなら、そのことを書面に書きます。
  • やり取りは書面に残します。電話で説明を受けたときは、同日中に要旨を書いた確認のメールを送り、そこにも留保の一文を入れます。残し方は、Q&A「事務局とのやり取りが申請システムの中にしかない」で述べています。
  • 確認書・分割納付の書面への署名と、一回目の納付は、処分を争うかどうかを決めてからにします(前記5)。

既に「承知しました」と返してしまった方も、それで争えなくなるわけではありません。承認の範囲は文面に表示されたところまでであり、連絡の受領を伝えた一行が、義務と金額の全部を認めたものとまで読めるかは、文面と前後の経過によります。ただ、その一行の意味を後から説明するよりも、最初から書き分けておく方が、はるかに楽です。次の返信からで構いませんので、受け取ったことと、受け入れたことを、分けて書いてください。

交付主体・事務局からのメールに返事を求められている方、既に「承知しました」と返してしまった方、残額の確認書や分割納付の書面に署名を求められている方、顧問先・支援先からこのご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、お返事や署名の前にご相談ください。これまでのメール・書面の往復、交付決定通知書、交付規程、返還額の算定資料があれば、具体的な文案の検討ができます。

根拠(条文・公式資料・裁判例)

※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。

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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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