執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
補助事業が、補助事業実施期間の末日までに終わらない。設備は納品されたが稼働していない。工事は終わったが検収も支払も済んでいない。電力会社や自治体との協議が片付かず、動かしようがない。――補助金の現場で、もっとも頻繁に起こる事態です。
このとき、事業者の前には二つの道があります。ひとつは、交付行政庁(又は事務局)に対して「期間内に終わりません」と届け出て、その指示を受ける道です。もうひとつは、とりあえず実績報告書を出し、額の確定と入金を受けてしまって、後から追いつく道です。実務では、後者が選ばれることが珍しくありません。期限は迫っている、届出をすれば認められないかもしれない、入金が遅れれば資金繰りが持たない。そういう事情が重なります。
本稿で取り上げる東京地判令和4年11月8日(平成30年(行ウ)第605号、判例秘書L07732860)は、この後者の道を選んだ事業者が、4年後に交付決定の全部を取り消され、交付済みの補助金2億9696万9000円の全額の返還を命じられた事件です。請求は棄却され、取消決定は適法とされました。
この判決が示したことは、三つあります。第一に、補助事業が完了していないのに実績報告書を提出することは、それ自体が「不正、怠慢、その他不適当な行為」に当たるとされ得る。第二に、額の確定を受けて入金まで済んだ後であっても、交付決定は取り消され得る(補助金適正化法17条3項)。第三に、事業の遅れの原因が行政側の誤った回答にあったとしても、遅延の届出を怠った事業者の側に、それを考慮してもらう筋はない。本件では、事業者が行政の回答の変更によって約三年を失ったことを裁判所自身が認定しながら、結論は変わりませんでした。
もっとも、この判決は事業者に不利な材料ばかりではありません。裁量権の判断の冒頭で、裁判所は、取消権の行使は違反行為があるというだけで直ちに行い得るものではない、額の確定後に違反行為が認められた場合には「一次的には」是正措置命令(同法16条1項)によって是正を図るべきものである、と述べています。これは、取消しを争う側が正面から使える判示です。本稿では、この判決を事業者の立場から読み直し、そのうえで、いま事業再構築補助金の現場で「事故等報告」がどのように運用されているのかを、事務局が公表している資料の文言に即して検討します。
1 期限に間に合わないと分かったとき、法律は何をしろと言っているのか
(1)7条1項5号は、報告して指示を受けることを補助条件にする
出発点は条文です。補助金適正化法7条1項は、交付行政庁が交付決定をする際に付さなければならない条件(必要的補助条件)を列挙しています。その五番目が、期間内に完了しない場合の報告です。
小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』(株式会社全国会計職員協会、2016)160頁は、この号を次のように説明しています。
引用(小滝・前掲160頁)「第一項第五号は、必要的補助条件の第五として、補助事業等が予定の期間内に完了しない場合又は補助事業等の遂行が困難となった場合にはすみやかに各省各庁の長に報告して指示を受けるべきことをあげている。」
同書は、続けて、報告の時期について踏み込んでいます。
引用(小滝・前掲160頁から161頁)「このような場合には、予定期間内に完了しないこととなった段階で初めて報告を受けてもほとんど意味がないのであって、予定期間内に完了しえないと見込まれた段階であらかじめ報告させる必要があろう。」
つまり、報告すべき時点は、期限が過ぎてからではありません。「間に合わなさそうだ」と見込まれた段階です。ここは、実務の感覚ともっともずれやすいところです。事業者の側は、まだ何とかなるかもしれない、と考えて報告を先延ばしにします。条文の建前は逆で、見込みの段階で報告を出させることにあります。
(2)報告の先にあるのは、期間の延長である
もうひとつ、同書は見落としてはならないことを書いています。報告を受けた交付行政庁の側が何をするのか、です。
引用(小滝・前掲161頁)「当初の予定期間経過後においても、事業を完了させる必要がある場合には、交付行政庁において予算執行上所要の繰越措置を講ずることにより、期間の延長をなすこととなろう。予定期間経過後は補助目的を達成しえない事業にあっては、交付決定そのものを取り消す(第一七条)必要がある場合も生じよう。」
報告の先にある選択肢は、繰越措置による期間の延長か、補助目的を達成し得ないのであれば取消しか、のいずれかである。こう整理されています。言い換えれば、遅れを届け出ることは、取消しに直結する行為ではなく、延長を得るための手続でもあるということです。この点を、後記7で、いまの運用と突き合わせます。
(3)届け出なかったときに何が起こるのか
では、届け出ないまま実績報告書を出してしまった場合はどうなるのか。ここを正面から判断したのが、本稿の判決です。
2 事案――実績報告書を出し、額の確定を受け、4年後に全部取消しとなった
事案を、必要な範囲で整理します。
(1)補助事業の内容
環境省の「平成25年度地球温暖化対策推進事業費補助金(再生可能エネルギー導入のための蓄電池制御等実証モデル事業)」です。離島に建設した太陽光発電システムに、鉛蓄電池を併設した発電設備を増設し、出力安定化・変動緩和効果の検証を行う、という実証事業でした。平成25年7月12日に3億0106万5000円の交付決定がされ、同年12月10日に2億9696万9000円に減額変更されています。事業実施期間は、交付決定日から平成26年3月31日まででした。
この事業は、発電した電気を固定価格買取制度(FIT)で電力会社に売ることを前提に計画されていました。ところが、鉛蓄電池はその特性上、商用電力を使って月に一回程度の補充電等をする必要があり、その商用電力が太陽光発電の電力と一緒に電力系統へ逆潮流してしまうと、買った電気をFIT価格で売ることになってしまう。この「商用電力分の精算」をどう処理するかが、系統連系の協議で片付かないまま残りました。
(2)実績報告書の提出
事業者は、平成25年12月、計画変更承認申請により、現地試運転調整費636万8000円を増額する変更を受けています。見積書の納期は平成26年3月27日でした。
そして平成26年3月28日付けで、交付要綱16条所定の様式に従い、「実績報告書」という名称で、補助事業が完了した旨の内容の報告書を提出しました。そこには、実支出額として現地試運転調整費636万8000円が計上され、業者からの請求書が添付されていました。しかし、この現地試運転調整費は、実際には支払われていません。注文は取り消されており、現地試運転調整そのものが行われていませんでした。そして、この実績報告書には、系統連系の協議が未了であることも、現地試運転調整ができていないことも、記載されていませんでした。
交付行政庁は、平成26年4月18日付けで交付すべき額を2億9696万9000円と確定し、同月25日、全額が交付されました。
(3)その後
事業者は、平成25年度分と平成26年度分の事業報告書を提出しましたが、平成27年3月31日付けのものを最後に、以後は提出していません。系統連系は進まず、設備は稼働しませんでした。
平成30年7月、報道を契機とする立入調査と現地調査が行われます。その結果、補助事業で取得した鉛蓄電池720個は一個も利用されておらず、うち120個は収納コンテナから取り外されて屋外に置かれ、コンテナ6基はすべて無施錠で、一部はドアノブが劣化して施錠できない状態でした。現地試運転調整費が未払であることも、業者への確認で判明しました。
平成30年7月11日付けで、交付決定の全部が取り消され、全額の返還が命じられました。取消通知が挙げた理由は、①現地試運転調整費を支払っていなかったこと、②取得財産である蓄電池が利用されず善良な管理者の注意をもって管理されておらず、直ちに交付の目的を達成することが困難な状況にあること、③実施要領で定める事業報告書を提出していないこと、の三つです。いずれも交付要綱19条1項3号の「不正、怠慢、その他不適当な行為」に該当するとされました。
なお、事業者はその後、再生手続の開始決定を経て破産手続開始決定を受け、破産管財人が訴訟を受継しています。
3 判決の第一の柱――未完了のまま実績報告書を出すことが「不正、怠慢、その他不適当な行為」とされた
(1)実績報告書の提出は、何を報告したことになるのか
事業者側は、現地試運転調整費については、系統連系の合意ができず実施時期が分からないため注文を一旦取り消したにすぎず、添付した請求書は将来の支払を想定して付けたものだ、と主張しました。
裁判所は、これを採りません。
引用(東京地判令和4年11月8日・第3の2(1)イ)「そうすると、本件実績報告書の法的性質やその内容に照らしても、本件会社は、環境省に対し本件実績報告書を提出することによって、現地試運転調整費は支払済みであり、これをもって増設発電設備は実際に稼働できる段階にあり、本件補助事業は完了したことを報告したものと解するほかなく、原告が主張するように現地試運転調整をいつ実施できるかも分からない状況であることや、現地試運転調整費は将来の支払が見込まれる経費であることなどを報告したものと受け取る余地はない。」
実績報告書は、所定の様式に従って提出された以上、「完了した」という報告として読まれる。中にどういう事情があったかは、提出した書面の意味を変えない。――そういう読み方です。
そして、同じ段落の末尾で、裁判所は、では何をすべきだったのかを述べます。
引用(同・第3の2(1)イ)「加えて、仮に、本件補助事業が平成25年度内に完了する見込みがないのであれば、本件会社としては、本件交付要綱13条に基づき、①遅延の原因及び内容、②遅延に係る金額、③遅延に対して採った措置、④遅延等が補助事業に及ぼす影響、⑤補助事業の遂行及び完了の予定について記載するなどした上で、環境大臣の指示を求める内容の報告書を提出して事業遅延の届出をするものとされているところ、本件会社は、そのような届出をすることもしていない。」
結論は、次のとおりです。
引用(同・第3の2(1)ウ)「以上によれば、本件会社は、本件実績報告書において実支出額として報告していた本件請求書に係る現地試運転調整費を、実際にはCに支払っていなかったものであり、本件取消事由①が認められるところ、これは、本件交付要綱19条1項3号にいう「不正、怠慢、その他不適当な行為」に当たるものといわざるを得ない。」
(2)「放置していたとまではいえない」のに、管理義務違反とされた
取消事由②(蓄電池の不利用・管理)についての判断が、この判決のなかでもっとも実務に響く部分です。裁判所は、まず事業者の努力を認めています。
引用(同・第3の2(2)イ)「上記認定事実によれば、本件会社は、商用電力分の精算の問題を解決するためにエネ庁やBと継続的に協議・調整を行い、エネ庁から計量法上の問題を指摘された後は、計量法に抵触しないように、商用電力による補充電等を行わずに鉛蓄電池の性能を維持する方法について検討を開始するなど、本件会社なりに増設発電設備を早期に稼働すべく行動していたことが認められ(認定事実(2)ないし(4)、(15)、(16))、鉛蓄電池の一部を収納コンテナから取り外したのも、劣化した鉛蓄電池を代替品に交換するためであったものと認められ(認定事実(17)、(18))、その限りにおいて本件会社がいたずらに鉛蓄電池を放置していたとまではいえない(なお、本件会社にとっては、仮に計量法上の問題があるのであれば、より早い時期にエネ庁からその指摘を受けていた方が望ましかったであろうことも指摘できる。)。」
蓄電池を屋外に出していたのは交換作業の途中だった。放置していたのではない。行政からもっと早く指摘を受けていればよかった。――ここまでは、事業者の言うとおりだと認められています。そのうえで、判決は転じます。
引用(同・第3の2(2)イ)「しかしながら、上記(1)イのとおり、そもそもBとの系統連系についての協議が整わず、増設発電設備を稼働して鉛蓄電池を利用することができない状況にあるのであれば、実績報告書を提出するのではなく、その時点で事業遅延の届出をして環境大臣の指示を仰ぐ必要があったのであり、本件会社が事業遅延の届出をせず、本件実績報告書を提出して本件補助事業が完了した旨を報告しているにもかかわらず、実際には、本件実績報告書の提出から4年以上にわたり本件補助事業により取得した鉛蓄電池を一切利用せず、劣化させてしまったというのであれば、結果的にではあれ、本件会社は、取得財産等である鉛蓄電池について「善良な管理者の注意をもって管理し、補助金の交付の目的に従って、その効率的運用を図」る義務(本件交付要綱20条)を果たしていなかったといわざるを得ない。」
「実績報告書を提出するのではなく、その時点で事業遅延の届出をして環境大臣の指示を仰ぐ必要があった」。 この一文が、本判決の中核です。そして、この一文は、取消事由②の判断の中にも、取消事由①の判断の中にも、後の裁量権の判断の中にも、繰り返し現れます。判決は、三つの取消事由のすべてを、結局はこの一点――届出をせずに完了報告をしたこと――に帰着させています。
(3)自ら「完了した」と報告した以上、その後の報告義務から逃れられない
取消事由③(事業報告書の不提出)についても、同じ論理です。事業者側は、設備が稼働していない状況では、そもそも事業報告書の作成・提出は要請されていないと主張しました。この主張は、実施要領の文言(設備の使用開始の日からその年度末まで、及びその後の三年間について提出する)に照らせば、それなりに筋の通った読み方です。
しかし裁判所は、入口で遮ります。
引用(同・第3の2(3)イ)「しかしながら、前記(1)イのとおり、本件会社は、一方で、本件実績報告書の提出により、増設発電設備は実際に稼働し得る段階にあり、本件補助事業は完了した旨を環境省に対し報告していたものと解するほかないのであり、自ら本件補助事業が完了した旨の報告をしている以上、本件会社はその後3年間は本件実施要領の定めに従い事業報告書を提出しなくてはならず、それをしなかったことが本件交付要綱19条1項3号にいう「不正、怠慢、その他不適当な行為」に当たることは明らかである。」
一度「完了した」と報告してしまえば、その後の事業化状況報告・事業報告書の提出義務は、実態が伴っていなくても発生する。実態がないから出せない、という言い分は通らない。――この構造は、いまの補助金で事業化状況報告の未提出を理由に取消しを受けている事業者にとって、そのまま当てはまります。この論点は、事業化状況報告を出していないと言われたらと並べて、補助金の交付決定の取消し・返還請求でも整理しています。
4 判決の第二の柱――額の確定後の取消しと、「一次的には16条1項の命令」
ここからが、取消しを争う側が使える部分です。
(1)裁量権行使の枠組み
裁判所は、裁量権の逸脱・濫用の検討の冒頭で、次の枠組みを立てました。
引用(同・第3の3(1))「補助金適正化法は、補助事業者等が補助金等の交付の決定の内容等に違反したときに、各省各庁の長が補助金適正化法17条1項の規定に基づき補助金等の交付の決定を取り消すかどうかについて、各省各庁の長の裁量権を認めている。もっとも、補助金等の交付決定が瑕疵なく成立した以上、これに基づいて形成された補助行政上の法律関係は、既得の権利利益の保護及び既成の法律秩序維持を図るため、みだりに消滅させることは許されないものと解され、補助金等の交付決定に係る取消権の行使については、補助事業者等の違反行為があるというだけで直ちにこれを行い得るものと解すべきではなく、違反行為が補助目的の達成の可否に与える影響の有無・程度等を踏まえて行われるべきものである。」
「補助事業者等の違反行為があるというだけで直ちにこれを行い得るものと解すべきではなく」。この言い回しは、名古屋高判平成5年2月23日が述べたところと同じ方向です(この点は補助金の交付決定は、どのようなときに取り消すことができるのかで詳しく扱いました)。本判決は、結論において取消しを適法としながら、枠組みのレベルでは、取消事由の存在と取消権の行使とを切り分けています。
(2)「一次的には」是正措置命令
さらに重要なのが、次の説示です。
引用(同・第3の3(1))「そして、補助金等の交付決定に係る取消権の行使は、補助金等の額の確定があった後においても行使することができるものであるところ(補助金適正化法17条3項)、各省各庁の長は、補助事業等の完了又は廃止に係る補助事業等の成果の報告を受けた場合においても、その報告に係る補助事業等の成果が補助金等の交付の決定の内容及びこれに付した条件に適合しないと認めるときは、当該補助事業等につき、これに適合させるための措置をとるべきことを当該補助事業者等に対して命ずることができる旨の定めがあることからすれば(補助金適正化法16条1項)、補助金等の額の確定があった後において補助事業者等の違反行為が認められた場合には、一次的には同項所定の命令によってその是正を図るべきものといえる。もっとも、同命令によっても補助目的が達成され得ないような事情がある場合には、同命令によることなく補助金等の交付決定を取り消すことも許されるものと解するのが相当である。」
整理すると、こうです。
第一に、額の確定後でも取消しはできる(17条3項)。これは事業者に不利な確認です。入金を受けたら安全、ではありません。
第二に、しかし、額の確定後に違反行為が見つかった場合には、「一次的には」是正措置命令(16条1項)によって是正を図るべきである。取消しは、その次に来る手段である。
第三に、命令によっても補助目的が達成され得ない事情がある場合に限り、命令を経ずに取消しができる。
この三段は、額の確定後の取消しを争う場面で、そのまま主張の枠組みになります。すなわち、交付行政庁は、なぜ16条1項の命令を試みなかったのか。是正の余地があったのではないか。命令によっても補助目的が達成され得ないという事情は、どの事実によって裏づけられるのか。――取消通知にこれらの検討が現れていないのであれば、そこを突くことになります。
学説も同じ方向です。小滝・前掲244頁は、完了実績報告の段階でも是正の余地のある限り是正措置命令(16条1項)で対処すべきこととし、「これらの命令処分をまっては所期の目的が達成されえないような、相手方の重大な義務違反を責めるに足る主観的事情があると認められる場合に、取消権を発動することが相当であると解される」としています。本判決の「一次的には」という言い回しは、この解釈を裁判所が採ったものと読めます。
(3)本件で命令が尽くされなかったとされた理由
もっとも、本件では、この枠組みに乗せても結論は変わりませんでした。理由は、系統連系の見込みがないという一点です。
引用(同・第3の3(2)イ)「そして、本件各取消事由はいずれも、Bとの間の系統連系の協議が整わず、増設発電設備を電力系統に接続することができなかったことに起因するものであるところ、本件会社はFITによる売電を前提として本件補助事業を計画していたにもかかわらず、本件取消決定がされた平成30年7月11日の時点においても、FITの適用のために必要な、商用電力による補充電等を行わずに鉛蓄電池の性能を維持する方法は確立しておらず、現に系統連系が行われていなかったというのであるから(認定事実(1)、(19))、近い将来において系統連系が行われる見込みもなかったものというほかはない。このような状況下においては、本件各取消事由に係る違反行為について、命令により是正を図り、補助目的を達成することはもはや困難であったものといえる。」
裏から読めば、是正の見込みが立つのであれば、16条1項の命令を経ずに取消しに進むことは許されないという判断です。取消しを争う側が立証すべき事実は、ここにあります。設備は稼働しているのか、稼働させられるのか、いつまでに何をすれば補助目的が達成されるのか。これを具体的に示せるかどうかが、分かれ目になります。
(4)金額の大小は決定的ではない
もうひとつ、押さえておくべき説示があります。
引用(同・第3の3(2)ア)「本件取消事由①に係る不払の現地試運転調整費は合計636万8000円であり、本件補助金の対象となった総事業費(2億9696万9000円)に占める割合は僅かではあるが、上記2(1)イのとおり、現地試運転調整は増設発電設備を稼働する前提として必要とされるものであり、本件補助事業の完了に不可欠なものであったといえるから、本件取消事由①に係る違反行為が補助目的の達成の可否に与える影響の程度は相応に大きいものといわざるを得ない。」
総額の約二パーセントの経費の未払でも、それが事業の完了に不可欠な工程に係るものであれば、影響は大きいとされる。金額の比率で軽重を論じる主張は、この判決の下では通りにくいということです。逆に言えば、争うべきは比率ではなく、その経費が補助目的の達成にとってどういう位置にあるか、です。17条1項が「全部又は一部」の取消しを認め、18条1項が返還命令の対象を「当該取消しに係る部分」に限っていることとの関係は、補助金の返還額はどう計算するのかで扱っています。
5 判決の第三の柱――行政の誤った回答があっても、届出を怠れば考慮されない
(1)何が起きていたか
認定された事実経過は、次のとおりです。
平成25年8月27日、資源エネルギー庁の担当者は、事業者の技術部長に対し、メールで、商用電力分の精算について「弊庁としては、所定の計算方式を採用することによって、FITでの売電が可能と考えております。」と伝えました。事業者は、この回答を前提に、電力会社との協議を進めます。
その後、平成28年1月から4月にかけての協議を経て、事業者は電力会社の求めに応じ、精算方法について改めて資源エネルギー庁の確認を求めました。平成28年6月13日、同庁の担当者らは、FIT法の下で電力会社が購入する電気は太陽光発電による電気のみであり、売電対象の電力量は計量法の運用・解釈によれば検定済みの取引メーターで計測した数値による必要があり、計算式等により算出された数値を用いることはできないから、事業者の提案する精算方法は計量法に違反する、との判断に至った旨を回答しました。
当初の回答から、約三年が経っていました。
(2)裁判所の答え
事業者側は、この経緯を考慮しなかったことが裁量権の逸脱・濫用を基礎づけると主張しました。裁判所は、遅延の原因のひとつがこの問題にあったことは認めながら、次のように退けます。
引用(同・第3の3(3)イ)「この点、Bとの系統連系の協議が遅延した原因の一つとして、商用電力分の精算に関する問題があったことは原告主張のとおりであると認められるが、そのような問題が生じていたとしても、上記2で説示したとおり、本件各取消事由に係る違反行為が正当化されるものではない。かえって、本件補助事業を年度内に完了することが困難な事態に至っていたのであれば、上記2(1)イのとおり事業遅延の届出をした上で環境大臣の指示を求め、必要に応じて計画変更の承認申請をしたり、完了することが困難なのであれば本件補助事業の廃止を報告したりすることが、補助金適正化法及び本件交付要綱に従ったあるべき対応だったのであり(関係法令等の定め(1)ウ、キ、(2)エ等参照)、本件会社がそのような手続を怠っていた以上、環境大臣において本件補助事業の遅延の原因について考慮しなかったとしても、これをもってその裁量権の範囲の逸脱又はその濫用を基礎付ける事情ということはできない。」
「かえって」。この接続詞に、判決の構えが出ています。行政側の事情を持ち出すのであれば、まず自分の側が法定の手続を踏んでいなければならない。踏んでいない以上、相手方の事情を考慮しなかったことを違法とは言えない。――そういう組み立てです。
(3)「隠していたとまでは認められない」のに救われない
さらに、判決は、事業者が遅れを隠していたのではないことまで認定しています。
引用(同・第3の3(3)ウ)「なお、本件会社は、平成25年度事業報告書及び平成26年度事業報告書においてはBとの系統連系協議が未了であることについて記載し、環境省の委託を受けて本件補助事業の検証評価を行う法人に対してもその旨を回答するなどしており(認定事実(7)、(9)、(13))、殊更に本件補助事業の遅延を環境省に対して隠していたものとまでは認められない。しかしながら、本件会社が環境省に系統連系協議が未了であることを初めて報告したのが、本件実績報告書を提出し、環境大臣による本件補助金の額の確定を受けた後であること(なお、本件補助事業が完了していないのであれば、本件会社は本件補助金額の交付を受ける立場になかったことは、上記(2)ウのとおりである。)は否定し得ず、また、商用電力分の精算の問題について初めて言及したのが本件実績報告書の提出から約1年後に提出した平成26年度事業報告書においてであることに鑑みても、本件会社が上記イのような必要な手続を怠っていたとの評価が上記のような事情によって左右されるものではない。」
隠していたわけではない。事業報告書には書いていた。委託先の法人にも伝えていた。それでも足りない。なぜなら、それを伝えたのが、実績報告書を出して額の確定を受けた後だったからです。
ここが、実務上の分水嶺です。伝えた・伝えないではなく、どの手続で、どの時点で伝えたかが問われています。事業報告書に書いたことは、7条1項5号の報告にはなりません。
そして、国が先導して解決すべき問題だったという主張についても、判決は次のように締めています。
引用(同・第3の3(3)エ)「これらに加えて、上記(2)のとおり本件各取消事由に係る違反行為が補助目的の達成の可否に与える影響の程度の大きさ等を踏まえれば、上記問題の迅速な解決が原告にとって困難であったであろうことなどを考慮に入れても、本件交付決定が取り消される結果はやむを得ないものであったというほかはない。」
(4)行政手続法の弁明の機会はない
手続保障についての判断も、確認しておきます。
引用(同・第3の3(4))「しかしながら、補助金交付決定の取消決定を含む補助金等の交付に関する処分については、行政手続法13条1項(不利益処分をしようとする場合の手続)の規定は適用されず(補助金適正化法24条の2。なお、行政手続法13条1項の規定は、金銭の給付決定の取消し処分にはそもそも適用がない〔同条2項〕。)、本件取消決定が、補助金適正化法の定める手続に違背していると認めることもできない。」
補助金の取消しには、弁明の機会の付与も聴聞も、行政手続法上の保障としては存在しません。適正化法24条の2が行政手続法第2章・第3章の適用を除外しているうえ、行政手続法13条2項により、金銭給付決定の取消しはそもそも不利益処分手続の対象外とされています。立入調査のきっかけが報道であったことも、調査が比較的迅速であったことも、瑕疵とはされませんでした。この点は事前の通知や弁明の機会はあるのかで扱っています。
事前に言い分を聞いてもらえる制度上の保障がないからこそ、遅れが生じた段階での届出が、事業者の側が自分の言い分を記録に残せるほとんど唯一の機会になります。 この判決の実務的な含みは、ここにあると考えております。
6 この判決の射程と限界
正直に書いておくべき部分です。
(1)上訴審を確認できていない
当職は、この判決について、控訴がされたか、上訴審でどのような判断がされたかを確認できておりません。手元の判例データベースには上訴審の裁判が見当たらず、判例秘書の掲載も第一審のみです。したがって、本稿は第一審判決の説示として引いています。書面で用いる際には、上訴審の有無を確かめる必要があります。
なお、本件は第一審の係属中に原告会社について再生手続・破産手続が開始し、破産管財人が訴訟を受継しています。管財人としての訴訟遂行の判断が上訴の有無に影響している可能性もありますが、これは推測です。
(2)国の補助金であり、適正化法が直接適用される事案である
本件は環境大臣が交付する国の補助金であり、補助金適正化法が直接適用されます。自治体の補助金には適正化法は適用されず(同法2条1項参照)、各自治体の条例・規則によります。また、独立行政法人等が交付する補助金については、個別法による準用の有無を確かめる必要があります。したがって、本判決の説示をそのまま持ち込めるのは、適正化法の適用又は準用がある補助金です。
(3)「不正、怠慢、その他不適当な行為」は交付要綱の文言である
本件で取消しの根拠とされたのは、交付要綱19条1項3号の「不正、怠慢、その他不適当な行為」です。適正化法17条1項の文言そのものではありません。判決は、各取消事由がこの号に当たるとした上で、裁量権の判断では適正化法17条1項の枠組みで検討しています。
もっとも、交付要綱・交付規程に書かれた取消事由が、それだけで適正化法17条1項の取消事由になるわけではありません。17条1項の取消事由は、①他用途使用、②交付決定の内容又はこれに附した条件への違反、③その他法令又はこれに基づく処分への違反の三つに限られます。交付規程に書かれていることに反したという指摘が、そのまま②や③に当たるかは別の問題です。この点は交付規程違反は補助条件違反に当たるのかで扱っています。本判決がこの関係を明示的に論じていないことは、射程を考えるうえで留意すべき点です。
(4)事業者の側の事情が重い事案である
本件は、未完了のまま完了報告をし、未払の経費を実支出額として計上し、取得財産を四年以上一切使わずに劣化させた、という事案です。事実関係としては、事業者の側の事情が重い部類に入ります。この判決を「届出を怠ればどんな場合でも全部取消しが適法になる」と読むのは行き過ぎです。前記4(2)の「一次的には16条1項の命令」という枠組みが置かれていることは、むしろその逆を示しています。
7 いま現場で起きていること――「事故等報告」の運用を検討する
ここまでが判決の話です。問題は、いまの補助金の運用が、判決が前提とする仕組みと噛み合っているかどうかです。
(1)交付規程と事務局資料
事業再構築補助金事務局は、「事業再構築補助金 事故等報告をスムーズに進めるためのポイント」(2025年9月、事業再構築補助金事務局)という資料を公表しています。
https://jigyou-saikouchiku.go.jp/pdf/jikotouhoukoku_shinsei_point.pdf
この資料は、交付規程の規定を次のとおり引いています。
引用(事務局資料3頁が引用する交付規程15条)「第15条 補助事業者は、自己の責任によらない理由により、補助事業を補助事業実施期間内に完了することができないと見込まれる場合又は補助事業の遂行が困難となった場合においては、速やかに様式第4による事故等報告書を中小機構に提出し、その指示を受けなければならない。」
そして、同じ3頁は「補助事業の手引き」を引用します。
引用(事務局資料3頁が引用する「補助事業の手引き」)「大雨、台風などの異常気象による激甚災害地域の指定、火事、地震など補助事業者の責任によらない事由により補助事業を予定どおりに遂行することが困難となった場合は、その状況となった時点で速やかに「事故等報告書」<様式第4>を事務局に提出し、指示を受けてください。」
さらに4頁は、「自己の責任によらない」の意味を定義しています。
引用(事務局資料4頁)「「自己の責任によらない」とは、地震、台風等の自然災害により、直接的又は間接的に被害を受けた場合の復旧作業など、交付決定前に予見することができない、補助事業実施期間中に発生した事象であること。」
(2)「認められない例」として列挙されているもの
同じ資料の15頁から17頁は、「事故等報告時における認められない例」として、具体的な事象を列挙しています。原文のまま挙げます。
引用(事務局資料15頁)「・資材の高騰(ウッドショックやアイアンショック等による)や円安の影響等により、当初予定していた補助事業規模に納められる取引先を選定していたが、工期が延長し、補助事業期間を超過することが見込まれる。」
「・取引先からの一方的な契約破棄、ずさんな工事のやり直し等のトラブルによって工期が延長し、補助事業期間を超過することが見込まれる。」
「・近隣住民や自治体から承諾が得られないことによって工期が延長し、補助事業期間を超過することが見込まれる。」
「・金融機関等からの融資が下りず、補助事業が計画どおり進められないことによって工期が延長し、補助事業期間を超過することが見込まれる。」
引用(事務局資料16頁)「・購入した物件において、建築基準法への準拠、シロアリ対策などの追加工事によって工期が延長し、補助事業期間を超過することが見込まれる。」
「・システム開発などで、基準・要望を満たさない、仕様と異なる仕上がり、突然の更新、予期せぬエラーが発生したため、開発を見直す必要があり、納期遅延が見込まれる。」
「・古民家を改装しようとしたら柱が腐っており、修繕のため工期が延長し、補助事業期間を超過することが見込まれる。」
「・地盤調査を行ったところ追加工事が必要となり、工期の延長が必要となった。」
「・建築会社の人手不足により必要な人員が確保できず、工期に遅延が生じたため、補助事業期間を超過することが見込まれる。」
引用(事務局資料17頁)「・発注した機械がオーダーメイドのため、通常より製作に時間を要し、納期が遅延した。」
「・海外製の商品であるため、輸入に時間を要し納期が遅延した。」
「・建築許可申請の準備に時間を要したため、スケジュールが後ろ倒しになった。」
(3)定義と「認められない例」が整合していないと言わざるを得ない
ここから先は、当職の検討です。
事務局自身が示した「自己の責任によらない」の定義は、「交付決定前に予見することができない、補助事業実施期間中に発生した事象」です。この定義を、同じ資料の「認められない例」に当てはめてみます。
古民家を改装しようとしたら柱が腐っていた。地盤調査をしたら追加工事が必要になった。購入した物件が建築基準法に適合していなかった。――これらは、交付決定前に予見することができたでしょうか。改装前の建物の柱の内部、着工前の地盤、購入した物件の既存部分の法適合性は、いずれも調査に着手した後に初めて分かる事柄です。発生時期も、補助事業実施期間中です。事務局自身の定義に素直に当てはめれば、「自己の責任によらない」に該当するはずの事象です。
それが「認められない例」に列挙されている。定義と当てはめが整合していないと言わざるを得ません。
近隣住民や自治体から承諾が得られない、行政の許可申請に時間を要した、という例も同様です。資料の14頁は、「補助事業実施場所から遺跡が発見されたことに起因して、行政の指示により、工事を2か月中断せざるを得なかった」という例を、認められる例として挙げています。遺跡が出て行政の指示で中断した場合は認められ、自治体の承諾が得られずに工期が延びた場合は認められない。この区別の基準が、資料からは読み取れません。
(4)報告する義務と、延長が認められるかどうかは、別の問題である
より根本的な問題があります。
適正化法7条1項5号は、交付行政庁が交付決定に付さなければならない必要的補助条件として、「補助事業等が予定の期間内に完了しない場合又は補助事業等の遂行が困難となった場合」に速やかに報告して指示を受けるべきことを掲げています。この条文に、「自己の責任によらない理由により」という限定はありません。 小滝・前掲160頁も、前記1(1)に引いたとおり、この号を限定なしに説明しています。
これに対し、交付規程15条は、「自己の責任によらない理由により」という限定を冠しています。文言どおり読めば、事業者自身に責任のある遅延については、事故等報告書を提出する義務がないことになります。
そして事務局資料は、6頁で、事故の原因及び内容の記載について「完了期限の延長を申請する理由について」と説明しています。18頁は、次のように締めています。
引用(事務局資料18頁)「審査の結果、自己の責任によらない理由として認められない場合や、延長後の期間設定の妥当性が確認できない場合には、延長自体が認められないことや、希望する延長期間より短い期間で延長を認める場合があるため、定められている補助事業完了期限日から余裕を持って、事象発覚後は速やかに、Jグランツによる事故等報告の申請をお願い致します。」
つまり、この資料全体が、事故等報告を延長の申請手続として説明しています。そして、延長が認められない事象を具体的に列挙しています。
事業者がこの資料を読んだときに受け取る意味は、はっきりしています。「資材高騰、人手不足、取引先のトラブル、オーダーメイド品の遅れ、輸入の遅れ、許認可手続の遅れ――これらでは延長は認められない。だから出しても仕方がない。」そして、これらは、実務でもっとも多い遅延原因です。
ところが、本稿の東京地判令和4年11月8日が述べたことは、まさにその逆です。期間内に完了できない状況にあるのであれば、実績報告書を提出するのではなく、その時点で届出をして指示を仰ぐ必要があった。届出を怠った以上、行政側の事情を考慮しなかったことを違法とは言えない。――届出をしなかったこと自体が、取消しの評価に跳ね返っています。
延長が認められないことと、報告しなくてよいこととは、別の問題です。 事故等報告を延長申請としてのみ説明し、延長が認められない事象を並べて示す運用は、事業者に「報告しても無駄だ」と受け取らせます。その結果として、事業者は期限までに実績報告書を出す側に追い込まれ、後になって「未完了のまま完了報告をした」というもっとも重い評価を受けることになります。適正化法7条1項5号が報告と指示を必要的補助条件とした仕組みを、事実上、空洞化させる運用であると言わざるを得ません。
(5)回数と期間の上限の根拠
もう一点、確かめておくべきことがあります。事務局資料9頁は、次のように述べています。
引用(事務局資料9頁)「補助事業実施期間の延長は、各公募回ごとに定められた期日から最長12か月以内となります。また、事故等報告での延長は、原則1回のみとなります。」
同資料が引用する交付規程15条には、延長の回数や期間の上限についての定めはありません。この「原則1回」「最長12か月」という制限が、交付規程のどの条項に基づくものかは、この資料には示されていません。公募要領又は交付規程の他の条項に根拠があるのか、運用上の取扱いにとどまるのかは、個別に確かめる必要があります。根拠が示されないまま、報告の受付段階で延長の上限が画されているとすれば、適正化法7条1項5号の「指示」の内容が、法令上の根拠なく狭められていることになります。前記1(2)に引いた小滝・前掲161頁が、報告を受けた交付行政庁の対応として繰越措置による期間の延長を挙げていることと、突き合わせて検討すべき点です。
なお、本稿は制度の説明と公表資料の検討にとどめており、個別の事案については触れておりません。
8 期限に間に合わないと分かったときにすること
以下は、前記の判決・文献を踏まえた当職の整理です。
(1)「間に合わないかもしれない」の段階で、文書にする
小滝・前掲160頁から161頁までが述べるとおり、報告すべき時点は、期限が過ぎてからではなく、「予定期間内に完了しえないと見込まれた段階」です。本判決も、系統連系の協議が整わない状況にあった時点で届出をすべきだったとしています。
したがって、まず確かめることは、次の三点です。補助事業実施期間の末日はいつか(交付決定通知書)。その日までに、納品・検収・支払のすべてが終わるか。終わらない工程はどれで、どのくらい遅れるか。ひとつでも終わらないものがあるなら、その時点で報告の検討に入ります。
(2)「認められない例」に当たりそうでも、報告する
前記7(4)のとおり、延長が認められるかどうかと、報告すべきかどうかは別です。報告をして指示を求めた記録が残っていることと、残っていないことの差は、後に取消しを争う場面で決定的になります。
本判決は、事業報告書に遅れを書いていたこと、委託先の法人に遅れを伝えていたことを認定しながら、それでは足りないとしました。所定の様式で、所定の手続により、指示を求める形で出すことに意味があります。
(3)完了していないのに実績報告書を出さない
本判決がもっとも重く見たのは、ここです。所定の様式で実績報告書を出せば、「完了した」という報告として読まれます。中にどういう事情があったかは、後から説明しても通りません。そして、一度「完了した」と報告すれば、その後の事業化状況報告・事業報告書の提出義務も発生します。
未完了のまま出した実績報告書は、①未完了の完了報告、②(未払経費を計上していれば)実支出額の虚偽の報告、③その後の報告の不提出、という三つの違反を同時に作り出します。本件の三つの取消事由は、まさにこの三つでした。
(4)完了できないのであれば、廃止の承認・計画変更の承認を検討する
本判決は、あるべき対応として、事業遅延の届出に加えて、「必要に応じて計画変更の承認申請をしたり、完了することが困難なのであれば本件補助事業の廃止を報告したりすること」を挙げています(第3の3(3)イ)。
補助事業の廃止の承認を受け、その成果に応じて額の確定を受ければ、確定した範囲については正当に交付を受けた補助金になります。判決も、廃止の承認を受けて成果に応じた額の確定を受けない限りは全額の交付を受け得る立場になかった、と述べています(第3の3(2)ウ)。計画を縮小する、廃止する、という選択肢の整理は、補助金の返還・残存簿価の返納を求められたらでも扱っています。
(5)やり取りを残す
本件では、行政側の回答が約三年後に覆されたことが、メールと証人の証言により認定されています。それでも結論は変わりませんでしたが、事実関係が認定されたのは、記録が残っていたからです。
行政機関・事務局・支援事業者・工事業者とのやり取りは、電話で済ませずに、文書又は電子メールの形で残しておくことをおすすめします。遅れの原因が外部にあることを示す資料(発注先の遅延理由書、メーカーの公表文、公的機関の通知書等)は、事務局資料11頁が提出を求めているものでもあります。
(6)取消通知が届いたら、期間を確かめる
取消決定は行政処分です。審査請求又は取消訴訟によって争うほかなく、期間が過ぎれば、他の手続の中で「そもそも取り消されるべきではなかった」と言っても通りません。出訴期間の考え方は出訴期間はいつまでか、不服申立ての宛先は取消しの通知が届く前にしておくべきことで扱っています。返還命令と納付命令の関係は補助金の納付命令、加算金・延滞金は加算金・延滞金はどうなるのかにまとめています。
9 まとめ
補助事業が期限までに終わらないとき、実績報告書を出してよいのか。東京地判令和4年11月8日の答えは、明快です。出してはいけません。
同判決は、系統連系の協議が整わず設備を稼働できない状況にあったのであれば、「実績報告書を提出するのではなく、その時点で事業遅延の届出をして環境大臣の指示を仰ぐ必要があった」と述べました。そして、未完了のまま提出された実績報告書は「完了した」という報告として読むほかなく、未払の経費を実支出額として計上したことは交付要綱19条1項3号の「不正、怠慢、その他不適当な行為」に当たるとし、自ら完了と報告した以上その後三年間の事業報告書の提出義務を免れないとしました。結論として、額の確定と入金から四年後にされた交付決定の全部取消しと全額の返還命令を適法としています。
遅れの原因のひとつが行政側の回答の変更にあったことは、判決自身が認定しています。事業者が遅れを隠していたのではないことも認定されています。それでも、「かえって」届出をすべきだったとされ、行政側の事情を考慮しなかったことは違法とされませんでした。補助金の取消しには、行政手続法上の弁明の機会の保障もありません(適正化法24条の2、行政手続法13条2項)。
他方で、この判決は、裁量権の枠組みとして、取消権の行使は違反行為があるというだけで直ちに行い得るものではないこと、額の確定後に違反行為が認められた場合には「一次的には」是正措置命令(適正化法16条1項)によって是正を図るべきことを述べています。是正の見込みが立つのであれば、命令を経ずに取消しに進むことは許されない、という枠組みです。取消しを争う側は、ここを足場にできます。
そして、いまの運用は、この判決が前提とする仕組みと噛み合っていません。事業再構築補助金の事務局資料は、事故等報告を延長の申請手続として説明し、資材高騰・人手不足・取引先のトラブル・オーダーメイド品や輸入の遅れ・許認可手続の遅れという、実務でもっとも多い遅延原因を「認められない例」として列挙しています。そのうえ、列挙された例の一部は、同じ資料が示す「自己の責任によらない」の定義(交付決定前に予見することができない、補助事業実施期間中に発生した事象)と整合していません。延長が認められないことは、報告しなくてよいことを意味しません。報告を怠ったことが取消しの評価に跳ね返るのは、本判決が示したとおりです。報告を事実上あきらめさせる運用は、適正化法7条1項5号の仕組みを空洞化させるものと言わざるを得ません。
期限に間に合わないと分かったときに、やるべきことは一つです。所定の様式で、間に合わない旨を届け出て、指示を求める。認められそうにないと思っても、記録に残す形で出す。――それが、後に取消しを争う余地を残す道です。
ご相談をお考えの事業者の方へ
補助事業実施期間の末日が近いのに工程が終わらない、事故等報告を出したが認められなかった、実績報告書を出した後に未完了であることが分かった、取消しを示唆された、取消通知と返還命令が届いた。――どの段階であっても、確かめられることがあります。交付決定通知書、交付規程・公募要領、工程表、発注先とのやり取り、事務局とのやり取り、提出済みの報告書類の控えがあれば、具体的な検討ができます。取消通知には不服申立ての期間がありますので、早い段階でご相談ください。
士業の先生方へ
顧問先から「期限に間に合わない」「事故等報告が通らなかった」「とりあえず実績報告を出しておいた」というご相談を受けることがあろうかと存じます。事故等報告の書き方として整理できる場面と、補助金適正化法の側から取消しの当否を争う場面とでは、やるべきことが変わります。本稿の判決は、この二つの境目に位置する裁判例です。補助金適正化法の側からの検討が必要な場面では、その部分だけを分担してお引き受けすることもできます。中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方からのご相談も承っております。連携の形は士業の先生方へにまとめております。
※ 本稿は一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。本稿の第6節(4)、第7節(3)から(5)まで及び第8節は、当職の見解を含みます。具体的な対応は、交付決定通知書等の資料に基づく個別の検討が必要です。
※ 本稿は、執筆時点の法令・公表資料に基づく一般的な整理であり、当職の私見を含みます。個別の事案についての結論を保証するものではありません。