執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 公式の記述――「収入が発生しない場合は、0と入力」したうえで「残存簿価額を算出し、返還額をご案内」
IT導入補助金(2026年からの名称は「デジタル化・AI導入補助金」)で導入したITツールを、処分制限期間の内側で解約・利用中止すると、事務局から辞退届の提出を求められ、その後に「財産処分の対象」として、残存簿価額を基にした返還額が案内されます。以下では、まず、その案内の根拠として事務局が公表している資料を、一字一句で見ます(公式資料の閲覧日はいずれも2026年10月31日です)。
中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局の「後年手続きマニュアル」(令和8年7月24日策定・同年9月4日改訂)は、財産処分の手続の画面で入力する項目を、39頁(PDF40頁)で次のように説明しています。
引用(後年手続きマニュアル39頁「3-3 財産処分に伴う手続き(2/9)」)「※ 処分予定対価額は、導入したITツールを処分する際に発生する収入額を入力してください。収入が発生しない場合は、0と入力してください。」
そして、同じ頁の下段に、こう書かれています。
引用(同39頁)「入力いただいた情報を基に残存簿価額を算出し、返還額をご案内します。/なお、返還額の算出に用いる残存簿価額は、選択した償却方法に関わらず、定額法を用いて一律で算出します。」(※原文は改行で区切られています。引用に当たり「/」で区切りました。)
収入が発生しない場合は0と入力させます。それでも、残存簿価額を算出して返還額を案内します。つまり、収入がゼロの解約・廃棄であっても、返還額はゼロにならない、という建てつけです。しかも、その残存簿価額は、事業者が選択した償却方法にかかわらず、定額法で一律に計算するとしています。同マニュアル11頁(PDF12頁)は、金額の決まり方を次のように書いています。
引用(同11頁「2-1 ITツールの解約(利用中止)に伴う辞退(3/13)」)「• ITツールの導入から1年以上、または実績報告で提出された利用期間経過後であっても、処分制限財産を、交付規程第31条第3項に規定する期間未満で使用中止または処分する場合は、残存簿価額に対して補助率を乗じた金額が返還となる可能性があります(詳細は、「交付規程第31条」及び「事業実施・実績報告マニュアル(P.47)」を参照)。」
「詳細は、「交付規程第31条」……を参照」とあります。そこで、交付規程31条を見ます。
2 交付規程31条4項が納付させることができるのは、「収入があったとき」の「その収入の全部又は一部に相当する金額」です
財産の管理と処分を定めているのは、中小企業デジタル化・AI導入支援事業費補助金交付規程(通常枠)(令和8年(2026年)10月9日。同年11月2日施行。以下「交付規程」といいます)の31条です。12頁にあります。全文を引きます。
引用(交付規程31条。同規程12頁)「(財産の管理及び処分)/第31条 補助事業者は、補助対象経費により取得又は効用の増加した財産(以下「取得財産等」という。)については、補助事業の完了後においても、善良なる管理者の注意をもって適切に管理しなければならない。また、取得価格の単価が50万円以上の取得財産(以下「処分制限財産」という。) については、これを補助金の交付の目的以外での使用、他の者への貸付け、譲渡、他の物件との交換、廃棄又は債務の担保の用に供してはならない。ただし、あらかじめ事務局の承認を受けた場合は、この限りでない。/2 補助事業者は、処分制限財産については、取得財産等管理台帳(様式第3)を備え、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和40年大蔵省令第15号)に基づく期間においては、前項のとおり適切に管理しなければならない。/3 取得財産等の管理及び処分に際し承認が必要な期間は前項に定める期間とする。/4 事務局は、第1項の規定により承認を受けた補助事業者が、当該承認に係る取得財産等を処分したことにより収入があったときは、その収入の全部又は一部に相当する金額を納付させることができる。/5 前四項については、処分制限財産の所有権が補助事業者に存しない場合は適用しない。」(※原文は項ごとに改行されています。引用に当たり「/」で区切りました。)
納付を定めているのは、4項だけです。その4項は、三つの要件を置いています。①1項の承認を受けた補助事業者が、②当該承認に係る取得財産等を処分したことにより、③収入があったときです。そして、納付させることができる金額は、「その収入の全部又は一部に相当する金額」です。収入が上限であり、収入がなければ、納付させる金額の出発点がありません。
前記1のマニュアルは、「収入が発生しない場合は、0と入力」させたうえで、残存簿価額から返還額を算出します。収入がゼロであれば、4項の「収入があったとき」に当たりません。残存簿価額という語も、定額法という語も、交付規程のどこにも出てきません。当方で交付規程の全21頁を通読しましたが、「残存簿価」「定額法」の語は一度も現れません。「補助率」の語は、11条(補助額、補助率及び補助対象経費は別表のとおりとする。同規程6頁)、別表(補助率1/2以内。同14頁)と、様式第1(交付決定通知書)の記の2「補助金の額の確定は、実支出額に補助率を乗じて得た額又は交付決定された補助金の額(変更された場合は、変更された額とする。)のいずれか低い額とする。」(PDF19頁)に現れます。いずれも補助金の額の確定の場面であり、財産処分に伴う納付額の算定に補助率を乗じるという定めは、交付規程にありません。
もう一つ、4項は「納付させることができる」です。「納付させる」でも「納付しなければならない」でもありません。28条1項の返還(「返還しなければならない」)や29条の加算金(「納付しなければならない」)とは、書き方が違います。収入があった場合でも、その全部を納付させるか一部にとどめるか、納付させるかどうか自体が、事務局の判断に委ねられた書き方です。
私見としては、収入のない解約・廃棄について残存簿価額を基に算出した金額を「返還額」として案内することは、交付規程31条4項の文言から出てくるものではなく、根拠を交付規程以外に求めなければならないものだと考えております。マニュアルの記述が交付決定に附された条件に取り込まれているかどうかという見方は、Q&A「交付規程に違反したと言われたら――交付規程を守ることは『補助条件』なのか」で述べています。IT導入補助金の交付決定通知書(様式第1)の記の5は、次のとおりです。
引用(交付規程 様式第1(交付決定通知書)記の5。同規程PDF19頁)「5.補助事業者は、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律、同法施行令及び交付規程の定めるところに従うこと。また、交付申請時に宣誓した事項について遵守しなければならない。虚偽や不正、業務の怠慢及び情報の漏えい等、不適当な行為が発覚した場合、交付規程第27条の規定に基づき交付決定の全部又は一部が取消しとなることに留意すること。」
従うべきものとして掲げられているのは、適正化法、同施行令、交付規程の定めるところと、交付申請時に宣誓した事項です。マニュアルは挙げられていません。宣誓した事項に後年手続きマニュアルの記述が含まれているかは、申請時の宣誓画面の記載で確かめる必要があります。
3 31条5項――所有権が補助事業者にないITツールには、31条は適用されません
31条5項は、「前四項については、処分制限財産の所有権が補助事業者に存しない場合は適用しない。」としています。承認を要する1項も、納付を定めた4項も、所有権が補助事業者にない財産には及びません。
ITツールには、所有権が事業者に移るものと、移らないものがあります。マニュアル5頁(PDF6頁)は、辞退届が必要になる場合を、販売形態で分けています。
引用(後年手続きマニュアル5頁「1-1 後年手続きの概要(1/2)」)「⚫ 販売形態が「買取」のITツール/交付規程第31条第3項に規定する期間未満での解約・利用中止をする場合/⚫ 販売形態が「サブスク」のITツール/ITツールの利用期間満了前での解約・利用中止をする場合/※ カテゴリー8,9は「買取」、カテゴリー5~7,10は「サブスク」とみなします。」(※原文は箇条書きです。引用に当たり「/」で区切りました。)
「買取」のITツールについては交付規程31条3項の期間を引き、「サブスク」のITツールについては交付規程を引かずに「利用期間満了前」としています。事務局自身が、サブスクのITツールを31条の処分制限財産として扱っていないことの表れと読む余地があります。利用権の設定を受けているにすぎないツールは、所有権が補助事業者に存しないからです。
同じ事務局の「事業実施・実績報告マニュアル」(令和8年6月12日策定・同年10月13日改訂)は、処分制限財産に当たるITツールの条件を、47頁で次のように書いています。
引用(事業実施・実績報告マニュアル47頁「3-4 必要書類一覧 (19)取得財産等管理台帳」)「以下全ての条件を満たすITツールは、処分制限財産に該当します。」「• 取得価格(又は効用の増加価格)が単価50万円以上である(ライセンス費用を除く)/• 販売形態が「買取」である/• 次のカテゴリーのいずれかに該当する」「• カテゴリー1(ソフトウェア)/• カテゴリー2(機能拡張)/• カテゴリー3(データ連携ツール)/• カテゴリー4(セキュリティ)※1/• カテゴリー8(PC・タブレット・プリンター・スキャナー・複合機)※2/• カテゴリー9(POSレジ・モバイルPOSレジ・券売機)※2」「※2 カテゴリー8,9は「買取」とみなす。」(※原文は箇条書きです。引用に当たり「/」で区切りました。)
処分制限財産は、販売形態が「買取」であり、かつ、ライセンス費用を除いた単価が50万円以上のものに限る。事務局自身が、そう書いています。
そして、後年手続きマニュアルは、ライセンスについても次のように書いています。40頁(PDF41頁)です。
引用(後年手続きマニュアル40頁「3-3 財産処分に伴う手続き(3/9)」)「「取得単価」は、ライセンス費用を除いた金額に、手書き等で修正のうえ、保管してください。/使用中止または処分となるITツールの情報にライセンスが含まれる場合は、取得財産等処分承認申請書の「取得単価」にライセンス費用が含まれた金額で表示されます。」(※原文は吹き出しの文です。引用に当たり「/」で区切りました。)
ライセンス費用は「取得単価」から除く。これは、ライセンス、すなわち使用許諾を受けているにすぎない部分は、補助事業者の所有に属する財産ではないという整理です。事務局の説明は、ここでは5項の構造のとおりです。問題は、この修正を「手書き等で」事業者にさせていることです。システムは、ライセンス費用を含んだ金額で取得単価を表示します。手書きで除かなければ、ライセンス費用を含んだ取得単価を基礎に残存簿価額が計算されるおそれがあります。
導入したITツールの全部がライセンス、あるいはクラウドの利用契約であれば、所有権が補助事業者に存する処分制限財産は、そもそもありません。31条5項により、1項の承認も4項の納付も適用されません。ハードウェアやパッケージの買取部分がある場合に限って、その部分だけが31条の対象になります。
4 適正化法22条と施行令13条が「処分を制限する財産」として挙げているもの
交付規程1条は、次のとおりです。
引用(交付規程1条。同規程2頁)「(通則)/第1条 中小企業デジタル化・AI導入支援事業費補助金(以下「補助金」という。)の交付については、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号。以下「適正化法」という。)、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令(昭和30年政令第255号。)及びその他の法令の定め並びに独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」という。)の定める中小企業生産性革命推進事業補助金交付要綱(令和2年1月20日規程令1第39号)によるほか、本規程の定めるところによる。」
適正化法と同施行令のほか、中小機構の定める交付要綱が引かれています。この交付要綱に財産処分や納付の定めがあるかは、交付規程とは別に確かめる必要があります。そこで、まず法令の側で処分の制限がどう置かれているかを見ておきます。
引用(補助金適正化法22条)「補助事業者等は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない。ただし、政令で定める場合は、この限りでない。」
引用(補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令13条)「(処分を制限する財産)/第十三条 法第二十二条に規定する政令で定める財産は、次に掲げるものとする。/一 不動産/二 船舶、航空機、浮標、浮さん橋及び浮ドツク/三 前二号に掲げるものの従物/四 機械及び重要な器具で、各省各庁の長又は補助実施法人の代表者が定めるもの/五 その他各省各庁の長又は補助実施法人の代表者が補助金等の交付の目的を達成するため特に必要があると認めて定めるもの」(※原文は号ごとに改行されています。引用に当たり「/」で区切りました。)
三つのことが分かります。第一に、22条が制限している行為は、「交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供」することです。廃棄は挙げられていません。解約も挙げられていません。廃棄が22条の規制対象に当たらないとした裁判例は、コラム「補助金で取得した設備を廃棄することは『処分』か」で紹介しています。交付規程31条1項が「廃棄」を加えているのは、法律より広い制限です。
第二に、施行令13条が掲げる財産は、不動産、船舶等、それらの従物、「機械及び重要な器具」で定めるもの、その他特に必要があると認めて定めるもの、です。ソフトウェアは、一号から三号には入りません。四号の「機械及び重要な器具」に当たるとも読みにくいと考えております。ソフトウェアやクラウドの利用権を処分制限財産とするには、五号により、交付の目的を達成するため特に必要があると認めて「定める」ことが要ります。四号・五号の「各省各庁の長」は、中小機構が交付する補助金については、中小機構法16条の読替えにより中小機構の理事長です。その「定め」が、1条の引く交付要綱に置かれているのか、交付規程31条1項の「取得価格の単価が50万円以上の取得財産」という線がそれに当たるのか、交付規程自身は何も書いていません。単価の線を四号・五号に当たる定めと見る整理は、Q&A「50万円未満の設備や、工事一式で計上したものは、処分制限の対象になるのか」で述べています。もっとも、ソフトウェアやクラウドの利用権についてまで、五号の「特に必要があると認めて」の判断がされたといえるかは、疑問の余地があると考えております(Q&A「補助金で作ったシステム・ソフトウェアにも、財産の処分制限は及ぶのか」)。
第三に、22条の宛先は「補助事業者等」です。当サイトは、IT導入補助金を、中小機構からTOPPAN株式会社の設置する事務局(交付規程4条)に交付され、事務局から事業者に交付される構造のものと整理し、事務局と事業者の関係を交付規程に基づく負担付贈与契約と整理しています(「IT導入補助金(現:デジタル化・AI導入補助金)の返還請求」)。適正化法の条文が宛先を書き分けていること、22条の制限が事業者に届くのは交付規程の条項が交付の条件として取り込まれた限りであることは、Q&A「同法の取消し・返還・財産処分の条文は、当社に向けられたものなのでしょうか」で述べています。いずれにしても、事業者が納付を求められる根拠は、法律の条文そのものではなく、交付の条件として取り込まれた定めです。交付規程の側でその定めに当たるのは、31条4項だけです。そして、その文言は「収入があったとき」です。交付要綱に別の定めがあるというのであれば、その条文が示されなければなりません。
条件には、7条4項の枠がかかります。「補助金等の交付の決定に附する条件は、公正なものでなければならず、いやしくも補助金等の交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等に対し干渉をするようなものであつてはならない。」交付規程が「収入」を基準にすると書いているのに、マニュアルの段階で初めて、収入がなくても残存簿価額から返還額を算出するという取扱いが現れることについては、私見としては、交付規程の文言を超えた負担であり、7条4項の公正との関係でも検討の余地があると考えております。
なお、交付規程36条は「事務局は、本規程に定める事項のほか、補助事業の円滑かつ適正な運営を行うために必要な事項について別途定める。」とし(同規程13頁)、27条1項一号キは「その他本規程に規定する措置並びに事務局の指示及び事務局にて定める事項に違反した場合」を取消事由に掲げています(同11頁)。マニュアルが36条の「別途定める」事項に当たるという説明は、あり得ます。しかし、36条が委ねているのは運営に必要な事項であって、31条4項が「収入」と定めた納付の基準と上限を、マニュアルで広げることまでを委ねたものとは読めないと考えております。
5 公式の記述は、一方当事者の見解です
中小機構・中小企業庁・各事務局の説明は、公正な第三者による解説ではなく、補助金をめぐる紛争の一方当事者の見解です。公式の説明だからと鵜呑みにするのは非常に危険です。
本件について申し上げれば、次のとおりです。交付規程31条4項が納付させることができるのは、承認に係る取得財産等を処分したことにより「収入があったとき」の、「その収入の全部又は一部に相当する金額」です。5項は、所有権が補助事業者にない財産に31条を適用しないとしています。それにもかかわらず、マニュアルは、収入が発生しない場合に0と入力させたうえで、残存簿価額を算出して返還額を案内し、その残存簿価額を償却方法にかかわらず定額法で一律に計算し、残存簿価額に補助率を乗じた金額が返還となる可能性があると書いています。残存簿価額も定額法も、交付規程には現れません。補助率は、補助金の額の確定の場面に現れるだけです。
私見としては、この案内は、交付規程31条4項が納付の基準と上限を「収入」と定めたことの理解が浅いと言わざるを得ません。他方で、申し上げているのは、辞退届や承認申請を出さなくてよい、ということではありません。交付規程17条2項は、ITツールの解約・利用停止により補助事業を辞退する場合の辞退届の提出を定めており(同規程8頁)、27条1項五号は「事務局の承認を受けず補助事業を廃止した場合」を取消事由に掲げています(同11頁)。手続を飛ばせば、争う土俵が、納付額の根拠から、取消しの当否に移ってしまいます。なお、28条1項が返還義務を課しているのは「前条第1項第一号から第四号及び第八号から第十号の規定に基づく交付決定の取消しを受けた場合」であり、五号は挙げられていません。29条の加算金も、28条1項の返還を前提としています。しかも27条2項は、補助金の額の確定後にも適用される号を一号から四号及び八号から十号に限っており、五号は額の確定後には適用されない建てつけです。五号による取消しから返還命令も加算金も出てこないことは、同じ交付規程の文言から言えることだと考えております。これに対し、導入日から一年未満、または実績報告で提出した利用期間未満で利用をやめた場合は四号の取消事由であり、こちらは28条1項・29条の対象です(Q&A「導入から一年未満でやめたら、『いかなる事由であれ』取消し・全額返還・加算金なのでしょうか」)。申し上げているのは、手続は踏んだうえで、案内された金額の根拠を交付規程の条文で確かめ、根拠のない部分は根拠を示すよう求める、ということです。
次のような場合は、入金の前にご相談ください
- ITツールを解約・廃棄したところ、収入がないのに残存簿価額を基にした返還額を案内された
- クラウドやライセンスのツールなのに、処分制限財産として承認申請と納付を求められている
- 辞退届を出したら、財産処分ではなく、導入から一年未満の利用停止による交付決定の取消しとして全額返還と加算金を告げられた
6 案内が来たら、何を確かめるか
納付額の案内を受け取られたとき、あるいは辞退届を出す前に見込みを立てられるときは、次の順に確かめていただくのがよいと考えております。
- (1)どの年度の交付決定で、どの版の交付規程と手引きが当たるのかを特定する。交付規程は年度ごとに別の規程です。本稿で引いた中小企業デジタル化・AI導入支援事業費補助金交付規程(通常枠)(令和8年10月9日)は2026年の交付決定向け、サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金交付規程(通常枠)(令和7年10月9日)は2025年向け、令和5年度補正サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金交付規程(通常枠)(令和6年1月25日)は2024年向け、令和4年度第二次補正サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金交付規程(通常枠)(令和5年7月18日・同年10月3日改訂)は2023年向けです。施行日と適用日が分かれている版もあります(2024年向けは令和6年1月25日施行・同年2月16日適用、2023年向けは令和5年7月18日施行・同年8月1日適用、改訂分は同年10月3日施行・同年10月2日適用)。当方で四つの版を見比べたところ、31条4項(収入があったときの納付)と5項(所有権が補助事業者にない場合の不適用)の内容は、いずれも同一でした(2023年・2024年向けの版は、5項の「前4項」が算用数字である点だけが異なります)。手引きも年度ごとに別で、2023年向けの「後年手続きの手引き」は令和4年度第二次補正の交付規程を、2026年向けの「後年手続きマニュアル」は中小企業デジタル化・AI導入支援事業費補助金交付規程を引いています。交付決定通知書の日付と文書番号から、どの年度かを確かめてください。通常枠以外の枠(セキュリティ対策推進枠・インボイス枠など)は、別の交付規程です。
- (2)届いた手続が「財産処分」なのか「交付決定の取消し」なのかを確かめる。マニュアルは、辞退届の提出後に、「財産処分に伴う手続き」と「交付決定の取消しに伴う手続き」を別の手続として分けています。前者は31条4項の納付、後者は27条の取消しと、それに伴う28条1項の返還・29条の加算金(対象は一号から四号及び八号から十号の取消しです)です。マニュアル35頁(PDF36頁)の表のとおり、申請マイページに「納付額通知」が表示され「交付申請情報詳細」に吹き出しがある場合が取消しに伴う手続、「財産処分手続き」が表示されている場合が財産処分に伴う手続であり、画面に出ている項目の名称と、ダウンロードできる通知書の表題で区別がつきます。本稿で述べたことは、前者に当たる場合の話です。後者に当たる場合の整理は、Q&A「導入から一年未満でやめたら」と「補助事業を途中でやめたい・縮小したいとき」で述べています。
- (3)処分により収入があったかどうかを、資料で確かめる。廃棄であれば廃棄証明、解約であれば解約の通知と返金の有無、売却であれば売買の証憑です。収入がなければ、31条4項の「収入があったとき」に当たりません。収入があれば、納付させることができる金額の上限は、その収入です。案内された金額が収入を超えていれば、その超過部分の根拠を求めてください。
- (4)ITツールの所有権が自社にあるかを、契約書で確かめる。ソフトウェアの使用許諾契約、クラウドサービスの利用規約、ハードウェアの売買契約を分けて読みます。使用許諾や利用権にとどまる部分は、31条5項により31条の対象外です。マニュアル自身が、ライセンス費用を「取得単価」から除くとしています。取得財産等処分承認申請書と取得財産等管理台帳に、ライセンス費用を含んだ金額が出ていないかを確かめ、含まれていれば除いた金額に修正して出してください。全部がライセンスやクラウドであれば、処分制限財産は存在しない、という整理になります。
- (5)残存簿価額・定額法・補助率の根拠規定を、書面で示すよう求める。交付規程には、残存簿価額と定額法の語がなく、補助率を納付額の算定に用いる定めもありません。「交付規程第31条に基づき」と書かれた納付額通知書を受け取られたら、31条のどの項の、どの文言から、残存簿価額を基礎とする計算が出てくるのかを、交付要綱を根拠とするのであれば交付要綱のどの条によるのかを、書面で尋ねてください。後年手続きマニュアルは「事業実施・実績報告マニュアル(P.47)」も参照先に挙げていますが、その47頁に書かれているのは処分制限財産に当たる条件(前記3)であって、残存簿価額を基礎とする算式はありません。事務局とのやり取りは申請マイページの中で完結しがちですので、記録の残し方は Q&A「事務局とのやり取りが申請システムの中にしかない」をご覧ください。
- (6)手続は飛ばさない。辞退届(17条2項)と承認申請(31条1項ただし書)は出してください。承認を受けずに廃止したという形になると、27条1項五号の取消事由に当たるとされ、争う土俵が納付額の根拠から取消しの当否に変わってしまいます(五号の取消しが28条1項・29条の対象でないことは前記5のとおりですが、争点を増やさないことが先です)。争うべき点と、守るべき手続とを分けることが要です。
なお、処分制限期間が経過していれば、承認も納付も要りません。31条3項は、承認が必要な期間を、減価償却資産の耐用年数等に関する省令に基づく期間としています。ソフトウエアの耐用年数は同省令の別表第三で定められており、「複写して販売するための原本」が3年、「その他のもの」が5年です。期間の数え方は、コラム「処分制限期間は何年か」で述べています。金額を詰める前に、期間を数えていただくのが順序です。
ITツールを解約・廃棄したところ収入がないのに残存簿価額を基にした返還額を案内された事業者の方、クラウドやライセンスのツールについて処分制限財産として承認申請と納付を求められている方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士・IT導入支援事業者の方は、入金される前にご相談ください。交付決定通知書、辞退届の控え、納付額通知書、ITツールの契約書(使用許諾契約・利用規約・売買契約)があれば、具体的な検討ができます。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 中小企業デジタル化・AI導入支援事業費補助金交付規程(通常枠)(令和8年(2026年)10月9日。同年11月2日施行。中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局。2026年10月31日閲覧)1条〔同規程2頁。適正化法・同施行令その他の法令の定め並びに中小機構の定める中小企業生産性革命推進事業補助金交付要綱(令和2年1月20日規程令1第39号)によるほか本規程の定めるところによるとするもの〕、4条〔同規程3頁。TOPPAN株式会社が事務局を設置し補助金交付に必要な事務を実施するとするもの〕、11条〔同規程6頁。補助額、補助率及び補助対象経費は別表のとおりとするもの〕、17条2項〔同規程8頁。ITツールの解約・利用停止や廃業等により補助事業を辞退する場合の辞退届〕、27条1項一号キ・四号・五号・同条2項〔同規程11頁。五号「事務局の承認を受けず補助事業を廃止した場合」。2項は額の確定後にも適用される号を「第一号から第四号及び第八号から第十号」に限るもの〕、28条1項〔同規程11頁。「前条第1項第一号から第四号及び第八号から第十号の規定に基づく交付決定の取消しを受けた場合」の返還〕・29条〔同規程11頁。「前条第1項の規定に基づき補助金の返還を行う場合」の加算金〕、31条〔同規程12頁。1項「取得価格の単価が50万円以上の取得財産(以下「処分制限財産」という。) については、これを補助金の交付の目的以外での使用、他の者への貸付け、譲渡、他の物件との交換、廃棄又は債務の担保の用に供してはならない。ただし、あらかじめ事務局の承認を受けた場合は、この限りでない。」、3項「取得財産等の管理及び処分に際し承認が必要な期間は前項に定める期間とする。」、4項「事務局は、第1項の規定により承認を受けた補助事業者が、当該承認に係る取得財産等を処分したことにより収入があったときは、その収入の全部又は一部に相当する金額を納付させることができる。」、5項「前四項については、処分制限財産の所有権が補助事業者に存しない場合は適用しない。」〕、36条〔同規程13頁。「事務局は、本規程に定める事項のほか、補助事業の円滑かつ適正な運営を行うために必要な事項について別途定める。」〕、別表〔同規程14頁。補助率1/2以内〕、様式第1(交付決定通知書)記の2・記の5〔PDF19頁。様式集に印刷頁番号なし。記の2「補助金の額の確定は、実支出額に補助率を乗じて得た額又は交付決定された補助金の額(変更された場合は、変更された額とする。)のいずれか低い額とする。」、記の5「補助事業者は、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律、同法施行令及び交付規程の定めるところに従うこと。また、交付申請時に宣誓した事項について遵守しなければならない。」〕、様式第3(取得財産等管理台帳)〔PDF21頁〕。なお、当方で同規程の全21頁を通読したところ、「残存簿価」「定額法」「会課」の語は一度も現れない。「補助率」は11条・別表・様式第1記の2(いずれも補助金の額の確定の場面)に現れ、財産処分に伴う納付額の算定に補助率を用いる定めはない
- サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金交付規程(通常枠。IT導入補助金2025向け)(令和7年(2025年)10月9日。同年11月1日施行。2026年10月31日閲覧)31条4項・5項〔同規程12頁(PDF13頁)。文言は上記2026年版と同一(5項冒頭も「前四項」)〕
- 令和5年度補正サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金交付規程(通常枠。IT導入補助金2024向け)(令和6年(2024年)1月25日施行・同年2月16日適用。2026年10月31日閲覧)31条4項・5項〔PDF13頁。内容は上記2026年版と同一。5項冒頭は「前4項」(算用数字)〕
- 令和4年度第二次補正サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金交付規程(通常枠。IT導入補助金2023向け)(令和5年(2023年)7月18日施行・同年8月1日適用。同年10月3日改訂(同年10月2日適用)。2026年10月31日閲覧)31条4項「事務局は、第1項の規定により承認を受けた補助事業者が、当該承認に係る取得財産等を処分したことにより収入があったときは、その収入の全部又は一部に相当する金額を納付させることができる。」、同条5項「前4項については、処分制限財産の所有権が補助事業者に存しない場合は適用しない。」〔PDF13頁〕
- 中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局「後年手続きマニュアル」(令和8年7月24日策定・同年9月4日改訂。通常枠・インボイス枠・セキュリティ対策推進枠共通。全60頁。2026年10月31日閲覧)5頁(PDF6頁。「1-1 後年手続きの概要(1/2)」。「⚫ 販売形態が「買取」のITツール/交付規程第31条第3項に規定する期間未満での解約・利用中止をする場合/⚫ 販売形態が「サブスク」のITツール/ITツールの利用期間満了前での解約・利用中止をする場合」)、11頁(PDF12頁。「処分制限財産を、交付規程第31条第3項に規定する期間未満で使用中止または処分する場合は、残存簿価額に対して補助率を乗じた金額が返還となる可能性があります(詳細は、「交付規程第31条」及び「事業実施・実績報告マニュアル(P.47)」を参照)。」)、39頁(PDF40頁。「※ 処分予定対価額は、導入したITツールを処分する際に発生する収入額を入力してください。収入が発生しない場合は、0と入力してください。」「入力いただいた情報を基に残存簿価額を算出し、返還額をご案内します。/なお、返還額の算出に用いる残存簿価額は、選択した償却方法に関わらず、定額法を用いて一律で算出します。」)、35頁(PDF36頁。「3-1 辞退届提出後の流れ」の表。「納付額通知」の表示+吹き出し=交付決定の取消しに伴う手続き、「財産処分手続き」の表示=財産処分に伴う手続き)、40頁(PDF41頁。「「取得単価」は、ライセンス費用を除いた金額に、手書き等で修正のうえ、保管してください。」)、41頁(PDF42頁。取得財産等管理台帳についても「取得単価」からライセンス費用を除いた金額に修正のうえ添付するとするもの)
- 中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局「事業実施・実績報告マニュアル」(令和8年6月12日策定・同年10月13日改訂。通常枠・インボイス対応類型・電子取引類型・セキュリティ対策推進枠共通。全122頁。2026年11月5日閲覧)47頁(PDF47頁。「3-4 必要書類一覧 (19)取得財産等管理台帳」。「以下全ての条件を満たすITツールは、処分制限財産に該当します。」「• 取得価格(又は効用の増加価格)が単価50万円以上である(ライセンス費用を除く)/• 販売形態が「買取」である/• 次のカテゴリーのいずれかに該当する」(カテゴリー1〜4・8・9)。残存簿価額の算式は書かれていない)
- サービス等生産性向上IT導入支援事業事務局「後年手続きの手引き」(IT導入補助金2023向け。令和6年7月1日策定・令和8年9月4日改訂。通常枠(A・B類型)・セキュリティ対策推進枠・デジタル化基盤導入枠共通。全59頁。2026年10月31日閲覧)2頁(PDF3頁。「令和4年度第二次補正サービス等生産性向上IT導入支援事業費補助金交付規程(以下「交付規程」という)第27条、第28条、第31条に基づき、交付された補助金の全額返還あるいは一部返還が発生することがあります。」)、39頁(PDF40頁。「※ 処分予定対価額は、導入したITツールを処分する際に収入が発生した場合、その金額を入力し、収入が発生しない場合は0と入力してください。」「入力いただいた情報を基に残存簿価額を算出し、返還額をご案内します。/なお、返還額の算出に用いる残存簿価額は、入力された償却方法に関わらず、一律で定額法を用いて算出します。」)、40頁(PDF41頁。ライセンス費用を「取得単価」から除いた金額に手書きで修正のうえ保管するとするもの)
- 補助金適正化法22条(補助事業者等は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならない。ただし、政令で定める場合は、この限りでない)
- 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令13条(リンク先は同施行令の e-Gov 頁)(処分を制限する財産。「一 不動産/二 船舶、航空機、浮標、浮さん橋及び浮ドツク/三 前二号に掲げるものの従物/四 機械及び重要な器具で、各省各庁の長又は補助実施法人の代表者が定めるもの/五 その他各省各庁の長又は補助実施法人の代表者が補助金等の交付の目的を達成するため特に必要があると認めて定めるもの」)、同令14条1項2号(補助金等の交付の目的及び当該財産の耐用年数を勘案して各省各庁の長又は補助実施法人の代表者が定める期間を経過した場合を、22条ただし書の政令で定める場合とするもの)。2026年10月31日に e-Gov の法令XML(昭和30年政令第255号)で確認
- 補助金適正化法7条4項(「補助金等の交付の決定に附する条件は、公正なものでなければならず、いやしくも補助金等の交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等に対し干渉をするようなものであつてはならない。」)
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構法16条(機構が交付する助成金について補助金適正化法の規定(罰則を含む。)を準用し、「各省各庁の長」を「独立行政法人中小企業基盤整備機構の理事長」と読み替えるもの。2026年11月5日に e-Gov の法令XML(平成14年法律第147号)で確認)
- 中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。最終改正規程令7第5号(令和7年6月30日施行))24条6項〔同規程8頁(PDF9頁)。処分制限財産を処分するときは「当該処分制限財産に係る補助金額を限度として、納付させることができる」とし、「補助事業等により取得し又は効用の増加した財産の処分等の取扱いについて(平成16・6・10会課第5号)の各規定を踏まえ取り扱う」とするもの。IT導入補助金の交付規程31条との対比のために引くもの〕
- 減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和40年大蔵省令第15号)別表第三(無形減価償却資産の耐用年数表。ソフトウエア「複写して販売するための原本」3年・「その他のもの」5年。2026年10月31日に e-Gov の法令XMLで確認)
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
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