執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
1 訴えを起こしても、処分も徴収も当然には止まりません
交付決定の取消しや返還命令を裁判で争うと決めたとき、次に出てくる問いは、裁判が終わるまで支払を待ってもらえるのか、というものです。民事の取引であれば、仮差押えがされない限り、相手方が判決などの債務名義を得て強制執行に進むまで差押えはされませんので、争っている間は事実上支払が止まります。行政処分は違います。行政事件訴訟法は、取消訴訟を起こしても処分の効力や執行は止まらない、という原則を置いています。
引用(行政事件訴訟法25条1項)「処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。」
これを執行不停止の原則といいます。訴えを起こした、というだけでは何も止まりません。そして、国の補助金の返還命令には、この原則が重く効く仕組みが置かれています。補助金適正化法21条1項は、各省各庁の長が返還を命じた補助金等、加算金、延滞金を、国税滞納処分の例により徴収することができると定めています。訴訟を経ずに、督促、差押え、換価へと進める建て方です。小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』280頁(株式会社全国会計職員協会、2016)は、この条の趣旨を、公法上の金銭債権の円滑な執行を確保するため、債務が履行されない場合には、最終的に債権者たる国において自らこれを執行しうることとしたものと説明しています。
つまり、取消訴訟と徴収は、別々に、並行して進みます。訴訟の側で勝つまで待っていると、その間に徴収の側が先に終わっていることがあり得る、ということです。差押えまでの流れと、加算金・延滞金がどう増えるかは、Q&A「補助金の返還命令を放っておくとどうなるのか」で述べています。本稿は、そのQ&Aが扱わなかった部分、すなわち、訴訟と並行して進む徴収を止めるための手続を扱います。
なお、民事の仮処分を使うことはできません。行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為については、民事保全法に規定する仮処分をすることができないとされています(行政事件訴訟法44条)。裁判所に処分の執行を手続の間だけ止めてもらう手続が、同法25条2項の執行停止です。
もう一つ、本稿が扱うのは、交付決定の取消しに伴う返還命令です。財産処分の承認に伴う残存簿価相当額の納付命令は、返還命令とは別のものです。21条1項が徴収の対象としているのは「返還を命じた補助金等」とその加算金・延滞金であり、承認に付される納付の負担は、加算金・延滞金なしに、強制徴収の対象ともならない形で返還させるものとして整理されています(コラム「補助金の納付命令とは何か」)。ですから、納付命令を受けた場合には、訴訟と並行して差押えが進むという本稿の前提は、そのままは当てはまりません。納付命令を争う場合の考え方は、Q&A「納付命令だけを争えるのか」で述べています。
2 何を止めるのか――効力・執行・手続の続行の三つ
執行停止の申立てでは、まず、何を止めてほしいのかを特定します。条文は、止める対象を三つに分けています。
引用(行政事件訴訟法25条2項)「処分の取消しの訴えの提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる。ただし、処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合には、することができない。」
- 処分の効力の停止。処分がなかったのと同じ状態を、手続の間だけ作るものです。
- 処分の執行の停止。処分の内容を強制的に実現する行為を止めるものです。
- 手続の続行の停止。その処分を前提として進む後の手続を止めるものです。
ただし書に注意が要ります。効力の停止は、執行の停止や手続の続行の停止で目的を達することができる場合には、することができません。三つのうち、効力の停止は効果の大きい手段で、他の二つで足りるときには使えない、という建て方です。
補助金の場面に当てはめると、次のようになると考えております。返還命令は、期限を定めて返還を命じる処分です(補助金適正化法18条1項)。その内容を強制的に実現する行為が、21条1項による督促・差押え・換価です。そうすると、支払を止めたまま争いたいときに止める対象は、返還命令の「執行」であり、国税滞納処分の例による徴収の停止を求めるのが基本形になると考える余地があります。返還命令の効力そのものの停止は、徴収が止まれば目的を達することができる、として認められないことがあり得ます。他方、交付決定の取消しについては、それを前提として返還命令・徴収へと進む手続を止めるという意味で、手続の続行の停止が問題になり得ます。どの処分の何を止めるのかは、届いている書面がどれか(取消しの通知だけか、返還命令まで来ているか、督促状まで来ているか)によって変わります。
裁判所は、申立書の文言に縛られず、処分の内容と主張に照らして、どれを求めているのかを読み取ります。金沢地決令和2年1月28日(令和元年(行ク)第3号。LLI/DB判例秘書登載)は、指定障害福祉サービス事業者の指定取消処分の執行停止が申し立てられた事案で、申立書には処分の「執行を停止する」と書かれていましたが、処分の内容性質と申立人の主張内容に照らして、処分の効力の停止を求める趣旨であると解しました(補助金の事案ではありません。抗告審の帰趨は確認できていません)。この決定は申立ての趣旨の読み替えをしたものにとどまりますが、指定の取消しのように、処分の効力が生じること自体が不利益になる処分では効力の停止になり、返還命令のように後に続く徴収が不利益になる処分では執行の停止になる、という振り分けになると考えております。もっとも、金銭の納付を命ずる処分に続く滞納処分を、処分の「執行」とみるのか、「手続の続行」とみるのかは、整理の分かれ得るところです。申立てでは、効力・執行・手続の続行のどれを求めるのかを、予備的な申立てを添えて特定しておくことが考えられます。
3 要件――重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき
積極要件と、その考慮事項
執行停止が認められる要件は、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」です(25条2項)。そして、同条3項が、重大な損害に当たるかどうかの考慮事項を定めています。
引用(行政事件訴訟法25条3項)「裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。」
この文言は、平成16年の改正で入ったものです。改正前の要件は「回復の困難な損害」でした。改正の立案に当たった小林久起「行政事件訴訟法の改正について」判タ1149号4頁(2004)6頁は、執行停止の要件について、損害の性質のみならず、損害の程度並びに処分の内容及び性質が適切に考慮されるようにするため、「回復の困難な損害」の要件を「重大な損害」に改めるとともに、考慮事項を定めたと説明しています。改正法案の段階で開かれた座談会(市村陽典ほか「座談会 新行政事件訴訟法の解釈」判タ1147号17頁(2004)33〜34頁)では、裁判官の側から、「回復困難」というとその損害の性質に由来する絶対的なものに着目しがちであるのに対し、「重大な損害」という場合にはこれを広く相対的に考えていくことができる、との発言がされています。
返還命令の場面で問題になるのは、お金を払う損害は後から取り戻せるのではないか、という点です。取消判決が出れば、払ったお金は返ってきます。ですから、金額が大きいというだけでは足りず、徴収が進むことによって事業の継続そのものが危うくなる、従業員の雇用や取引先との関係が壊れる、といった、後から元に戻すことが難しい損害が生ずることを、資料で示すことになります。前記の金沢地決令和2年1月28日は、処分の執行等により維持される行政目的の達成の必要性を踏まえた処分の内容及び性質と、これによって申立人が被ることとなる損害の性質及び程度とを、損害の回復の困難の程度を考慮した上で比較衡量し、処分の執行等により維持される行政目的等を考慮してもなおこれを停止して申立人を救済しなければならない緊急の必要性があるか否かという観点から判断すべきものと述べたうえで、損害の側では、取消しによって売上げの大部分を占める給付費を受けられなくなり、事業所の収支が大幅な赤字になって事業の継続自体が困難になると推認されること、利用者との継続的な雇用関係が一旦解消されると事業の再開に相当の困難を伴い、事後的な金銭賠償による回復になじみにくいことを認め、行政目的の側では、他の監督処分や市町村による徴収によっても目的を相当程度達成できることなどから、速やかに排除する必要性が格別大きいとまではいえないとして、両者を比較衡量して、重大な損害を避けるため緊急の必要があると判断しました。返還命令の場面では、相手方から、公金の回収という行政目的の必要性が主張されますので、損害の側だけでなく、徴収を手続の間だけ止めてもその目的が著しく阻害されるわけではないことまで組み立てることになります。なお、返還命令のような金銭の納付を命ずる処分について執行停止を認めた公表例は、当方では確認できていません。事業の収支と、徴収が進んだ場合に何が起きるかを、具体的な数字で疎明することが要になります。
消極要件――本案について理由がないとみえるとき
引用(行政事件訴訟法25条4項)「執行停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、することができない。」
「本案について理由がないとみえるとき」とは、取消訴訟の本体で勝てる見込みがないことが一見して明らかなときです。申立人の側で勝てる見込みを証明する必要はなく、相手方の側で、理由がないとみえることを疎明する建て方になっています。前記の金沢地決は、処分の取消事由の有無が本案審理を経ない時点で明らかであるとまではいえないとして、この要件に当たることの疎明はないと判断しています。言い換えると、取消しの理由に争う余地があること自体を、執行停止の段階で示しておく必要があります。
取消事由が補助金適正化法17条1項の三つに限られていること、交付決定の取消しをするときに理由を示すことが法律上の義務であること(同法21条の2。同条が挙げているのは、交付決定の取消しと、補助事業の遂行・一時停止の命令、是正のための措置の命令です)、取消しに裁量の逸脱があり得ることは、それぞれ「交付決定の取消し・返還請求」、コラム「取消しの処分性と理由付記の不備」、Q&A「取消しに裁量はあるのか」で述べています。執行停止の申立書は、これらの本案の主張を短く圧縮したものを含むことになります。
消極要件――公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ
25条4項のもう一つの消極要件が、執行停止が「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」です。返還命令の場面で相手方が主張するのは、こちらです。公金の回収と補助金制度の適正な執行が、公共の福祉に当たるという組み立てになります。これに対しては、一事業者からの返還金の徴収を手続の間だけ止めることが公共の福祉に重大な影響を及ぼすとはいえず、徴収は本案の判決の後にもできる、という組み立てで答えることになります。前記の金沢地決も、この要件について、損害の側の判断を踏まえて、疎明があるということはできないと判断しています。
手続の形
執行停止の決定は、疎明に基づいてされます(25条5項)。疎明とは、証明より低い程度で、一応確からしいと裁判官に思わせることをいいます。口頭弁論を経ないですることができますが、あらかじめ当事者の意見をきかなければならないとされています(同条6項)。実際には、審尋という形で双方の言い分を聞く期日が開かれることが多い手続です。決定に対しては即時抗告ができますが(同条7項)、即時抗告は決定の執行を停止する効力を有しません(同条8項)。執行停止の決定が確定した後に、停止の理由が消滅するなど事情が変更したときは、相手方の申立てにより決定が取り消されることがあります(26条)。
次のような場合は、期限が来る前にご相談ください
- 交付決定の取消し・返還命令を争うつもりだが、裁判の間に差押えが進むのではないかと心配している
- 返還命令の期限が過ぎ、督促状や財産調査の照会が届いている
- 返還を命じられた額を一度に払うと、事業の資金繰りが続かない
あわせてご覧ください: 返還命令を放っておくとどうなるのか(Q&A)/出訴期間と「正当な理由」(Q&A)
4 内閣総理大臣の異議(27条)
執行停止には、民事の保全手続にはない仕組みが一つ付いています。内閣総理大臣の異議です。
引用(行政事件訴訟法27条1項・4項)「第二十五条第二項の申立てがあつた場合には、内閣総理大臣は、裁判所に対し、異議を述べることができる。執行停止の決定があつた後においても、同様とする。
(略)
4 第一項の異議があつたときは、裁判所は、執行停止をすることができず、また、すでに執行停止の決定をしているときは、これを取り消さなければならない。」
異議には理由を付さなければならず(同条2項)、その理由においては、処分の効力を存続し、処分を執行し、又は手続を続行しなければ、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれのある事情を示すものとされています(同条3項)。そして、内閣総理大臣は、やむをえない場合でなければ異議を述べてはならず、異議を述べたときは次の常会において国会に報告しなければなりません(同条6項)。佐藤英善「内閣総理大臣の異議」ジュリ925号186頁(1989)は、この制度が、昭和23年施行の行政事件訴訟特例法に、「諸外国にも殆どその例を見ないといわれる」形で盛り込まれ、「行政事件訴訟制度の中でも最も議論の分かれる制度の一つとなっている」と述べています。
補助金の返還命令の執行停止について、この異議が現実に問題になることは考えにくいと考えております。異議の理由として示すべきなのは公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれのある事情であり、一事業者に対する返還金の徴収を手続の間だけ止めることが、そのような事情に当たるとは通常いえないからです。ただ、執行停止の決定は、民事の保全命令と違って、法律上このような仕組みの下に置かれているということは、知っておいていただく必要があります。
5 申立ての時期と、並行して進む徴収
取消訴訟を起こしてからでなければ申し立てられない
25条2項は「処分の取消しの訴えの提起があつた場合において」と定めています。執行停止は、本案である取消訴訟が係属していることを前提とする手続で、その管轄裁判所も、本案の係属する裁判所です(28条)。取消訴訟を起こす前に執行停止だけを申し立てることはできません。実務では、訴状と執行停止の申立書を同じ日に出すことが多く、前記の金沢地決の事案でも、本案訴訟の提起と同時に申立てがされています。
ここから、時期の問題が出てきます。取消訴訟の出訴期間は、処分があったことを知った日から6か月です(行政事件訴訟法14条1項)。しかし、徴収の側は、それより早く動きます。返還命令の期限は、交付規程に定めがあり、中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程では、取消しに伴う返還について22条4項が準用する18条3項により、命令のなされた日から20日以内です(この条文は、前記のQ&A「返還命令を放っておくとどうなるのか」で引用しています。交付規程は補助金・版ごとに違いますので、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でお確かめください)。期限を過ぎれば延滞金が付き、督促を経て差押えに進み得ます。小滝・前掲281頁は、国税滞納処分の流れを、原則としてまず督促を行い、督促状発出後10日を経過してもなお完納されないとき又は法律の定める一定の要件に該当するときは、徴収職員自ら債務者の財産を差し押え、強制的に換価し、換価代金をもって充当する一連の処分と説明しています。出訴期間を目一杯使ってから提訴する、という進め方は、執行停止を使う場面では採りにくくなります。
「もう6か月を過ぎている」と言われた場合の考え方は、Q&A「交付決定の取消しから6か月を過ぎたら、取消訴訟は起こせないのか」で、不服をどこに言うのかは、Q&A「取消しの通知に不服があるとき、どこに言えばよいのか」で述べています。
執行停止で止まるものと、止まらないもの
執行停止の決定が出ても、止まるのは決定の主文に書かれた範囲だけです。注意していただきたい点が三つあります。
- 返還命令の執行(徴収)の停止にとどまる場合、返還命令そのものの効力は残ります。そうすると、停止の間も、返還命令に基づく延滞金(補助金適正化法19条2項)が計算上は積み上がり続ける可能性があると考えております。もっとも、やむを得ない事情があると認めるときは、加算金・延滞金の全部又は一部を免除することができるとされています(同条3項)。この点は、どの対象の停止を求めるかを決めるときに検討する事項です。延滞金・加算金の仕組みと免除は、Q&A「加算金・延滞金は払うのか」で述べています。
- 返還を命ぜられた額を納付しない場合に、同種の事務又は事業について交付すべき補助金等の交付を一時停止し、又は未納付額と相殺することができるとする定め(補助金適正化法20条)は、徴収とは別の仕組みです。徴収の停止を求めるだけでは、この一時停止・相殺が当然に止まるとは限りません。Q&A「返還を争っている間、ほかの補助金は止められたり、相殺されたりするのか」で述べています。
- 執行停止の決定には、期間が付くことがあります。前記の金沢地決は、期間を限定せずに効力の停止が求められた事案で、本案の第1審判決の結論をみた上で改めて要件を判断するのが相当であるとして、第1審判決の言渡しの日から40日を経過する日までの間に限って効力を停止しました。本案の判決が出た後、その先の手続の間も止めたいのであれば、改めて申し立てることになります。
6 どう動くか
- 届いている書面を分ける。交付決定の取消しの通知、返還命令、督促状のどこまで来ているかで、止める対象(効力・執行・手続の続行)と、残された日数が変わります。書面の日付と、返還の期限を書き出してください。
- 争うかどうかを先に決める。執行停止は、取消訴訟を起こすことが前提です。訴えを起こさずに支払だけ止めてもらう手続はありません。分割納付の打診に乗る前に処分そのものを争うかどうかを決めておくべきことは、前記のQ&A「返還命令を放っておくとどうなるのか」で述べています。
- 損害を数字で示す資料をそろえる。直近の決算書・試算表、資金繰り表、返還を命ぜられた額を一度に払った場合の資金の推移、従業員数と給与の支払額、金融機関との取引状況です。重大な損害の疎明は、「困る」という言葉ではなく、徴収が進んだら何がいつ起きるかを示す数字で組みます。
- 本案の主張を圧縮して用意する。取消しの理由のどこに争う余地があるのか(取消事由に当たる事実がないのか、理由の提示が不十分なのか、裁量の逸脱なのか)を、執行停止の段階で一応示せるようにしておきます。
- 徴収の側とは別に連絡を取る。執行停止の申立てをしたことは、徴収する側に伝え、決定が出るまでの間の差押えの扱いについて確かめておくことになります。電話のやり取りは、日時・相手・内容を記録に残してください。
申し上げたいことは一つです。取消訴訟を起こすだけでは、徴収は止まりません。止めたいのであれば、何を止めるのかを特定し、重大な損害を数字で疎明して、取消訴訟と同時に執行停止を申し立てる、という段取りになります。返還を求められたときの対応の順序は、返還・残存簿価の返納を求められたらのページで、納付命令の仕組みは、コラム「補助金の納付命令とは何か」で述べています。
交付決定の取消し・返還命令を受け、争いたいが裁判の間に差押えが進むのではないかと心配されている事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、返還の期限が来る前にご相談ください。取消しの通知、返還命令、督促状、交付規程、直近の決算書と資金繰り表があれば、何を止める申立てになるのか、重大な損害をどう示すのかの検討ができます。
根拠(条文・公式資料・裁判例)
- 行政事件訴訟法25条1項(処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない)、同条2項(処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止をすることができる。ただし、処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合には、することができない)、同条3項(重大な損害を生ずるか否かの判断に当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案する)、同条4項(公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、することができない)、同条5項〜8項(疎明、口頭弁論を経ないですることができるが当事者の意見をきかなければならない、即時抗告、即時抗告に執行停止の効力なし)
- 行政事件訴訟法26条1項(事情変更による執行停止の取消し)、27条1項〜6項(内閣総理大臣の異議。理由を附さなければならず、理由においては公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれのある事情を示す。異議があつたときは裁判所は執行停止をすることができず、すでに決定をしているときはこれを取り消さなければならない。やむをえない場合でなければ述べてはならず、述べたときは次の常会において国会に報告する)、28条(執行停止の申立ての管轄裁判所は本案の係属する裁判所)、44条(行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為については、民事保全法に規定する仮処分をすることができない)
- 行政事件訴訟法14条1項(出訴期間。処分があつたことを知つた日から六箇月)
- 補助金適正化法21条1項(各省各庁の長が返還を命じた補助金等又はこれに係る加算金若しくは延滞金は、国税滞納処分の例により、徴収することができる)
- 補助金適正化法18条1項(交付の決定を取り消した場合において、補助事業等の当該取消に係る部分に関し、すでに補助金等が交付されているときは、期限を定めて、その返還を命じなければならない)
- 補助金適正化法19条1項・2項(加算金・延滞金)、同条3項(やむを得ない事情があると認めるときは加算金又は延滞金の全部又は一部を免除することができる)、20条(補助事業者等が補助金等の返還を命ぜられ、当該補助金等、加算金又は延滞金の全部又は一部を納付しない場合において、その者に対して、同種の事務又は事業について交付すべき補助金等があるときは、相当の限度においてその交付を一時停止し、又は当該補助金等と未納付額とを相殺することができる)
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構法16条(補助金適正化法の準用)
- 金沢地決令和2年1月28日(令和元年(行ク)第3号。LLI/DB判例秘書登載)(指定障害福祉サービス事業者の指定取消処分について、申立書には処分の「執行を停止する」と記載されていたが、処分の内容性質及び申立人の主張内容に照らして処分の効力の停止を求める趣旨であると解したうえ、25条2項の「重大な損害を避けるため緊急の必要」は、処分の執行等により維持される行政目的の達成の必要性を踏まえた処分の内容及び性質と、申立人が被ることとなる損害の性質及び程度とを、損害の回復の困難の程度を考慮した上で比較衡量して判断すべきものとし、取消しにより売上げの大部分を占める給付費を受けられず事業の継続自体が困難になると推認され、損害は事後的な金銭賠償による回復になじみにくい一方、他の監督処分等によっても行政目的を相当程度達成でき、速やかに排除する必要性が格別大きいとまではいえないとしてこれを認め、「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」と「本案について理由がないとみえるとき」はいずれも疎明がないとして、本案の第1審判決言渡し後40日を経過するまでの間に限り効力を停止したもの。補助金の事案ではない。抗告審の帰趨は確認できていない)
- 小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』280〜281頁(株式会社全国会計職員協会、2016)(21条は、公法上の金銭債権の円滑な執行を確保するため、債務が履行されない場合には最終的に債権者たる国において自らこれを執行しうることとしたものであり、国税の滞納処分は、原則としてまず督促を行い、督促状発出後10日を経過してもなお完納されないとき又は法律の定める一定の要件に該当するときは、徴収職員自ら債務者の財産を差し押え、強制的に換価し、換価代金をもって充当する一連の処分であるとするもの)
- 小林久起「行政事件訴訟法の改正について」判タ1149号4頁(2004)6頁(平成16年改正は、執行停止の要件について、損害の性質のみならず、損害の程度並びに処分の内容及び性質が適切に考慮されるようにするため、「回復の困難な損害」の要件を「重大な損害」に改めるとともに、重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっての考慮事項を定めたとするもの)
- 市村陽典ほか「座談会 新行政事件訴訟法の解釈」判タ1147号17頁(2004)33〜34頁(「回復困難」というとその損害の性質に由来する絶対的なものに着目しがちであるのに対し、「重大な損害」という場合にはこれを広く相対的に考えていくことができるとの発言)
- 佐藤英善「内閣総理大臣の異議」ジュリ925号186頁(1989)(昭和23年施行の行政事件訴訟特例法に、「諸外国にも殆どその例を見ないといわれる」「内閣総理大臣の異議」が盛り込まれ、「行政事件訴訟制度の中でも最も議論の分かれる制度の一つとなっている」とするもの)
※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。
関連ページ
- 補助金の返還命令を放っておくとどうなるのか――裁判なしの差押えと、払えないときの考え方(Q&A) →
- 交付決定の取消しの通知に不服があるとき、どこに言えばよいのか(Q&A) →
- 交付決定の取消しから6か月を過ぎたら、取消訴訟は起こせないのか(Q&A) →
- 加算金・延滞金は払うのか(Q&A) →
- 返還を争っている間、ほかの補助金は止められたり、相殺されたりするのか(Q&A) →
- 補助金の交付決定の取消しに裁量はあるのか(Q&A) →
- 財産処分の承認と一緒に「残存簿価相当額を納付せよ」と言われた。納付命令だけを争えるのか(Q&A) →
- 処分性のある補助金とない補助金(コラム) →
- 従来のものづくり補助金の交付決定の取消し・返還請求は、取消訴訟で争えるのか(コラム) →
- 返還・残存簿価の返納を求められたら(対応ページ) →
- 補助金Q&A 一覧へ →
※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。