本文へ移動
弁護士 岸上大起

補助金の交付決定を受けたのは誰か――裁判例紹介:東京地判昭和63年9月16日・東京高判平成元年7月11日

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

補助金の取消しや返還の相談で、意外に早い段階でつまずくのが「そもそも、この補助金の交付決定を受けたのは誰なのか」という点です。申請書の名義は会社になっている。しかし実際に設備を入れて事業を動かしていたのは別のグループ会社だった。あるいは、申請の時点では個人事業で、その後に法人を設立して事業を移していた。あるいは、同業者が集まった任意の団体の名で申請し、代表者がその団体を一人で回していた。――こうした食い違いは、現場では珍しくありません。

この食い違いは、取消しと返還の場面でそのまま効いてきます。補助金適正化法17条1項の取消しは「補助事業者等」の義務違反を理由とするものであり、同法18条1項の返還命令は、取消しに係る部分の補助金が「すでに」交付されている者に対して発せられます。誰が補助事業者等なのかが決まらなければ、誰の義務違反を問うのか、誰に返還を命じるのかも決まりません。納付命令が別人に宛てられていれば、それは名宛人の誤りです。

本稿で取り上げる東京地判昭和63年9月16日(行集39巻9号859頁、判タ698号204頁)は、この問いに正面から答えた裁判例です。市が任意の青少年団体に交付した補助金について、その団体には社団としての実質がないと認定し、補助金は「右団体を主宰する個人に対して交付されたものである」とした事例です(判示事項二)。申請書の名義が団体であっても、法律上の名宛人は団体を主宰する個人である、という判断です。

この判決は控訴され、東京高判平成元年7月11日(行集40巻7号925頁、判タ717号135頁)が控訴を棄却しています。控訴審は、第一審の判断を維持しながら、社団の実質を否定する理由として「経済的基礎」と「経済的活動」という要素を書き加えました。また、補助金の交付が団体に対してされたのか個人に対してされたのかは被告適格の問題ではなく本案の問題である、という整理も示しています。上訴審まで確かめたうえで使える裁判例です。

もっとも、この事件は住民訴訟であり、争われたのは市長に対する交付決定の取消請求と、交付を受けた者に対する不当利得返還請求でした。補助金適正化法の取消処分・返還命令の名宛人が直接の審判対象になったわけではありません。本稿では、どこまでが判決の言葉で、どこからが当職の整理なのかを分けて示したうえで、今の補助金で「交付決定を受けたのは誰か」「返還を求められるのは誰か」を確かめる手順を整理します。

1 「交付決定を受けたのは誰か」はどこで問題になるのか

(1)条文が「補助事業者等」を名宛人にしている

はじめに、条文を確かめます。補助金適正化法2条3項は、次のとおり定めています。

引用(補助金適正化法2条3項)

「この法律において「補助事業者等」とは、補助事業等を行う者をいう。」

そして、同法2条2項は「補助事業等」を「補助金等の交付の対象となる事務又は事業」としています。つまり、補助事業者等とは、交付の対象となった事務又は事業を「行う者」です。申請書に名前を書いた者、ではありません。

この「補助事業者等」が、法律上のあらゆる義務と処分の宛先になります。他の用途への使用の禁止(11条)、事業遂行義務(12条)、状況報告義務(12条)、完了実績報告義務(14条)、取得財産の処分制限(22条)。取消し(17条1項)も、その「補助事業者等」の違反を理由とするものです。

返還命令については、条文はさらに限定的です。

引用(補助金適正化法18条1項)

「各省各庁の長は、補助金等の交付の決定を取り消した場合において、補助事業等の当該取消に係る部分に関し、すでに補助金等が交付されているときは、期限を定めて、その返還を命じなければならない。」

返還命令は、取消しに係る部分について補助金等が「すでに交付されている」ことを前提とします。交付を受けていない者に返還を命じることはできません。返還額の計算の仕組みそのものは、補助金の返還額はどう計算するのかにまとめています。納付命令の性質については、補助金の納付命令とは何かで扱っています。

(2)法人でなくても補助事業者等になり得る

ここで押さえておくべきことがあります。補助金等の交付の相手方は、法人に限られません。小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』(株式会社全国会計職員協会、2016)21頁は、次のとおり説明しています。

引用(小滝・前掲21頁)

「「国以外の者」には、個人(自然人)、法人(私法人、公法人の区別を問わない。)が含まれることはもちろん、法人格のない社団等(第三二条に規定する「法人でない団体で代表者又は管理人の定のあるもの」に限らない。)も含まれる。」

個人でも、法人でも、法人格のない社団等でも、補助事業者等になり得る。ここまでは問題がありません。問題は、法人格のない団体の名で申請がされたとき、その団体が法律上の主体として扱われるのか、それとも団体を動かしている個人が主体として扱われるのか、という点です。

(3)この問いが実務で現れる形

当職が相談をお受けする中で、この問いが現れるのは、おおむね次のような場面です。

第一に、グループ会社の場面です。申請者はA社になっているが、設備が置かれているのはB社の工場で、売上もB社に立っている。実地検査でこの点を指摘され、「補助事業を行っていたのはA社ではない」と言われる。

第二に、個人事業から法人成りした場面です。個人事業主として申請して交付決定を受け、その後に会社を設立して事業を移した。処分制限期間中に、取得した設備の名義や所在が動いている。

第三に、共同申請の場面です。複数の事業者が共同で申請し、代表申請者が窓口となっていた。取消しの通知が代表申請者にだけ届いた、あるいは全員に同額で届いた。

第四に、任意団体・組合の場面です。協議会、組合、グループといった名の団体で申請したが、実際に動かしていたのは代表者個人だった。

本稿で紹介する裁判例は、第四の場面を直接に扱ったものです。しかし、その判断の筋道は、第一から第三の場面にも及びます。

2 事案――団体の名で申請された補助金

(1)どのような補助金か

東村山市は、社会教育関係団体のうち青少年団体に対し、市の要綱に基づいて活動費の補助をしていました。昭和59年度分について、市長は昭和60年3月7日付けで5万円の補助金を交付する旨の決定をし、同月18日に交付しています。

交付の相手方とされたのは、「ドナルドグループ」という子供会です。昭和38年10月に設立された団体で、小学生・中学生のメンバー、父母会会員、活動を指導するリーダー会会員で構成され、総会・運営委員会・父母会・リーダー会という機関が置かれていました。設立者である小松恭子氏が、発足以来の代表者でした。

(2)訴訟の形

訴えを起こしたのは、東村山市の住民です。地方自治法242条の2第1項に基づく住民訴訟として、①市長に対し交付決定の取消しを求め、②交付を受けた者に対し市への不当利得返還(5万円及び遅延損害金)を求めました。被告とされたのは、市長と小松氏です。

被告側は、本案前の主張として、補助金は権利能力なき社団であるドナルドグループに交付されたものであって小松氏に交付されたものではないから、小松氏に不当利得返還請求についての被告適格がないと主張しました。つまり、「自分は補助金を受け取っていない」という主張です。

この主張に答えるために、裁判所は「本件補助金は誰に交付されたのか」を判断することになりました。

3 東京地判昭和63年9月16日――団体に社団の実質がなければ、受けたのは個人である

(1)判断の枠組み

第一審は、まず、法人格のない団体がそれ自体として権利義務の主体になるための要件を示しました。

引用(東京地判昭和63年9月16日・理由二2)

「法人格を有しない団体が社団たる実質を有し、いわゆる権利能力なき社団として、その財産上の権利義務が総有的に構成員に帰属するためには、当該団体が、団体としての組織をそなえ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、組織における代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確立していることが必要であると解される。」

これは、最一小判昭和39年10月15日(民集18巻8号1671頁)が示した要件を用いたものです。もっとも、本判決は出典を挙げておらず、また、最高裁が挙げた「多数決の原則が行なわれ」という要素を本文に掲げていません。「確定している」ではなく「確立している」という語も用いています。引用する際には、この違いを意識しておく必要があります。

(2)団体としての実質はどこまで認められたか

第一審は、ドナルドグループについて、相当に細かい事実を認定しました。総会が最高意思決定機関であり年一回開催されること、運営委員会が日常的な意思決定を行い年数回開催されていること、役員が総会で選出されること、目的・活動内容・組織・役割分担を記載したパンフレットを毎年新入会員に配布していること、会費と補助金で運営され父母会会計が管理し毎年九月に中間会計監査が行われ総会で決算報告と予算承認が行われていること、備品の購入や保険への加入が団体の名で行われ領収書も団体宛てに発行されていること、購入された備品が団体専用のプレハブ倉庫に保管されていること、団体名義の預金口座が開設され通帳と印鑑は父母会会計が保管し代表者の個人用には使われていないこと。

これだけ並べれば、通常の感覚では「団体として動いている」と評価されそうです。実際、第一審は「設立以来これまで、団体の運営をほぼ円滑に行ってきたと認められる」としています。

それでも、結論は否定でした。

(3)結論――補助金は代表者個人に交付された

引用(東京地判昭和63年9月16日・理由二2)

「したがって、ドナルドグループは設立以来これまで、団体の運営をほぼ円滑に行ってきたと認められるものの、その構成員の範囲が必ずしも明確であるということができず、総会の運営や財産の管理等団体としての主要な点が確立しているとはいまだ認められないものというべきであるから、ドナルドグループが社団たる実質を有していると認めることはできないものといわざるを得ない。そして、以上の判示の事情から考えると、ドナルドグループは被告小松が個人として主宰するものというべきであるから、本件補助金は被告小松個人に交付されたものと認めるのが相当である。」

※ 手元の判決全文には「認められないもののというベきである」とありますが、控訴審が同じ箇所を「認められないものというべきである」として引用していますので(後記4(1))、その表記によりました。

決め手になったのは、次の三点でした。第一に、規約が書面として存在しないこと。第二に、総会・運営委員会の決議方法、父母会及びリーダー会への入会資格・入会方法を定めた規約の存在を認めるに足りる証拠がないこと。第三に、父母会会員・リーダー会会員を確定する方法を認めるに足りる証拠がないこと。会員名簿上の大人の会員は31名、子供の会員は146名であったことから、メンバーである子供の父母全員が父母会の会員になっているとは認められない、とも述べています。

つまり、「構成員が誰なのかが書面で確定できない」ことが、団体性を否定する決定的な事情とされました。 運営の実績や会計の分離、団体名義の口座、団体宛ての領収書といった外形は、これを補いませんでした。

そして、団体性が否定された結果、交付決定の名宛人は、団体を「個人として主宰する」代表者個人であると認定されました。申請書の名義が団体であっても、法律上は個人が受けた、という判断です。

(4)ただし、不当利得返還請求は棄却された

もっとも、この事件で小松氏が返還を命じられたわけではありません。第一審は、交付決定それ自体が違法であるとはいえないとして、不当利得返還請求を棄却しています(判示事項三)。

原告は、交付決定が市の規則・要綱に違反する、平等原則に違反する、社会教育法13条に違反する、などと主張しましたが、いずれも採用されませんでした。このうち、要綱違反についての説示は、補助金の実務でそのまま使える部分です。

引用(東京地判昭和63年9月16日・理由三1)

「右のとおり、本件決定は本件要綱に違反するものであるが、要綱は、行政当局が行政の指針として制定する内部規則であって、それ自体法規としての性質をもつものではないから、本件決定が本件要綱に違反するからといって直ちに違法となるものではないと解すべきところ、本件決定が違法となる事情については何らの主張、立証もない。」

要綱は行政の指針として制定された内部規則であって、それ自体法規としての性質を持たない。したがって、要綱違反は直ちに違法とはならない。――この判断は、この事件では「交付決定が要綱に反していても違法ではない」という形で、交付を受けた側に有利に働きました。しかし、同じ理屈は、「交付規程や公募要領に書かれていることに反したから補助条件違反である」と言われる場面では、逆向きに働きます。この点は、交付規程違反は補助条件違反に当たるのかで扱っています。

4 東京高判平成元年7月11日――結論は維持され、判断の要素が加えられた

第一審の判決に対しては、原告が控訴しました。控訴審は、控訴をいずれも棄却しています。

(1)社団性の否定に「経済的基礎」「経済的活動」が加えられた

控訴審は、第一審の理由説示を引用しつつ、何か所かを改めています。社団性に関する部分の改訂は、次のとおりです。

引用(東京高判平成元年7月11日・理由一7)

「同二七枚目表一○行目の「認められないものというべきである」を「認められず、経済的基礎には見るべきものはなく、経済的活動は微弱であって、ほとんど一回的なものにすぎない」と改め、同裏五行目を削る。」

あわせて、事実認定も改められています。年間の収入は会費、行事参加費、補助金が主たるものであってほとんど同一年度内で費消されていること、団体の資産としては若干の動産があるにすぎないこと、という認定が加えられました。

控訴審は、社団としての実質を判断する際に、「経済的基礎」と「経済的活動」を正面から見たということになります。構成員の範囲が不明確であることに加えて、収入がその年度で費消され資産の蓄積がないこと、経済的活動が微弱で一回的であることが、団体性を否定する理由として並べられました。

ここは、今の事案を考えるときに意味を持ちます。グループ会社や共同申請体について「どちらが補助事業を行っていたのか」を争うとき、誰の資産として計上され、誰の損益として立っているのかは、控訴審が見た要素そのものです。

(2)「誰が交付を受けたか」は本案の問題である

控訴審は、もう一つ、手続上の整理を加えました。

引用(東京高判平成元年7月11日・理由一4)

「主張するが、本件補助金の交付が権利能力なき社団であるドナルドグループに対してされたか被控訴人に対してされたかは、控訴人主張の本案請求権である不当利得返還請求権の存否の問題であって、被告適格の有無とは関わりがないから、被控訴人の右主張は失当である。」

「自分は交付を受けていない」という主張は、被告適格を欠くという形では通らない。それは本案の問題である、ということです。手続で切るのではなく、本案で判断される。――名宛人を争う側から見れば、入口で終わらせてもらえないかわりに、中身で判断してもらえる、ということになります。

(3)要綱についての整理も改められた

控訴審は、要綱に関する説示も改めています。「本件決定は本件要綱に違反するものである」を「本件決定は、本件規則に違反するものではなく、本件要綱に適合しないものではある」と改め、「内部規則」を「内部的規律」と改め、「解すべきところ」以下を「解すべきである。」と改めました。

「違反」ではなく「適合しないものではある」という言い方に変えられていることに、注意していただきたいところです。規則(委任を受けた内部規則)と要綱(行政の指針)を、控訴審はより丁寧に区別しました。

5 この裁判例はどこまで使えるか――射程と限界

ここは、正直に書いておかなければならない部分です。

(1)適正化法の処分の名宛人が審判対象になった事件ではない

この事件は、市が要綱に基づいて交付した補助金についての住民訴訟です。補助金適正化法の適用がある国の補助金について、取消処分や返還命令の名宛人が争われた事件ではありません。

したがって、「この判決が、申請名義が団体でも代表者個人が補助事業者等になると判示した」という引き方はできません。判断されたのは、不当利得返還請求の相手方として、誰が補助金の交付を受けたと認められるか、という点です。

もっとも、適正化法の「補助事業者等」が「補助事業等を行う者」と定義され(2条3項)、小滝・前掲21頁が交付の相手方に法人格のない社団等が含まれるとしていることからすれば、法人格のない団体の名で申請がされた場合に、その団体が主体として扱われるのか、主宰する個人が主体として扱われるのかという問いの立て方は、適正化法の場面でも同じです。本判決が示した判断要素は、その問いに答えるための手がかりになります。

(2)判決が「個人に交付された」としたのは、団体性が否定された結果である

本判決は、申請名義と実質的な事業遂行主体が食い違っていたから名宛人を個人としたのではありません。団体に社団としての実質がなかったから、団体を主体として扱えず、主宰する個人が主体となった、という筋道です。

したがって、株式会社どうしのグループ会社の問題に、この判決をそのまま当てはめることはできません。会社はいずれも法人格を有しており、社団性を論じる必要がないからです。後記6では、この違いを踏まえて整理します。

(3)団体の側が「団体に交付された」と言いたい場面では不利に働く

この裁判例の構図は、使う側の立場によって向きが変わります。

代表者個人が「自分は受け取っていない、団体が受け取ったのだ」と言いたい場面では、本判決は不利な先例です。市の補助金を受けた団体が返還を求められ、代表者が個人としての責任を否定しようとする場面では、「その団体に社団としての実質があるか」が問われ、規約が書面で存在しないこと、構成員の範囲が確定できないこと、経済的基礎に見るべきものがないことが、個人への帰属を導く事情として挙げられます。

逆に、「補助事業を行っていたのは申請名義人ではない」と言いたい場面では、「補助事業等を行う者」が誰かを実質で見るという考え方の支えになります。

同じ裁判例が、立場によって逆向きに働きます。 代表者個人の責任という角度からの整理は、補助金の返還を社長個人に求められることはあるのかで扱っています。

(4)上訴審について

第一審判決は控訴され、控訴審で控訴が棄却されています(東京高判平成元年7月11日・行集40巻7号925頁、判タ717号135頁)。さらに上告がされたかどうかは、手元の資料では確認できていません。控訴審が第一審の結論を維持していますので、第一審の説示を引く場合でも、控訴審による改訂の内容をあわせて確かめておくことが必要です。

6 では、今の補助金では誰が名宛人になるのか

ここからは、前記の裁判例・条文・文献を踏まえた当職の整理です。

(1)出発点は、申請書の名義ではなく「補助事業等を行う者」である

条文は「補助事業等を行う者」としています(2条3項)。申請書の名義人、交付決定通知書の宛名、入金口座の名義――これらはいずれも、「行う者」を認定するための事情にはなりますが、それ自体で結論を決めるものではありません。

本判決と控訴審が見た要素を、今の場面に置き換えると、次のようになります。誰の名で契約が締結され、誰の名で領収書が発行されているか。取得した財産が誰の資産として計上されているか。収入と費用が誰の損益として立っているか。経済的活動の実体が、どちらにあるか。控訴審が加えた「経済的基礎」「経済的活動」は、まさにこの点を見る言葉です。

(2)グループ会社――申請者と、設備を使っている会社が違うとき

申請者がA社、設備の所在と稼働がB社という形は、実務でよく見ます。この場合に起こり得ることは、二つに分かれます。

一つは、「A社が補助事業を行っていない」とされる場合です。これは、補助事業の遂行義務(12条)や、交付決定の内容・条件の違反(17条1項)を問われる方向に進みます。

もう一つは、「取得した財産をB社に使わせている」とされる場合です。これは、承認を受けない貸付けとして22条違反を問われる方向に進みます。目的外使用の判断の枠組みは、補助金の目的外使用とは何かで扱っています。

この二つは、同じ事実から出発して違う結論に向かいます。 どちらの筋で言われているのかを確かめることが先です。そのうえで、取消しの根拠が17条1項のどの類型なのかを特定します。この点は、補助金の交付決定の取消し・返還請求で扱っています。

(3)個人事業から法人成りしたとき

個人事業主として交付決定を受け、その後に法人を設立して事業を移した場合、交付決定の名宛人は個人のままです。法人を設立したことによって、交付決定の名宛人が自動的に法人に移ることはありません。

したがって、処分制限期間中に取得財産を法人に移すのであれば、それは財産の譲渡として承認の対象になり得ます。また、補助事業者等としての地位を法人に承継させるには、交付行政庁の手続を経る必要があります。この手続がどのように定められているかは補助金ごとに異なりますので、公募要領と交付規程の該当箇所を確かめる必要があります。

逆に、個人が交付決定を受けたままであれば、取消しと返還命令の名宛人は個人です。法人を設立していても、個人の責任として残ります。事業の形を途中で変える場合の整理は、補助事業を途中でやめるときと設備を処分するときにまとめています。

(4)共同申請・代表申請者の場合

複数の事業者が共同で申請する形の補助金では、代表申請者が窓口になります。もっとも、代表申請者であることと、補助事業者等であることとは同じではありません。

ここで確かめるべきことは、次の点です。交付決定が誰に対してされているのか(交付決定通知書の宛名が共同申請者全員なのか、代表者のみなのか)。補助金が誰に交付されているのか(補助事業者ごとの配分が決められているのか)。取得した財産が誰に帰属しているのか。義務が誰に課されているのか。

18条1項は、返還命令を「補助事業等の当該取消に係る部分に関し、すでに補助金等が交付されているとき」に発するものとしています。共同申請者のうち一社の違反を理由に全員に全額の返還を命じられたとすれば、各社に交付された部分を超える部分について、この要件を満たすのかを問うことになります。

なお、適正化法には、複数の補助事業者が連帯して返還義務を負うことを定めた規定はありません。連帯して返還すべきものとされるのであれば、その根拠がどこにあるのかを確かめる必要があります。

(5)任意団体・組合の場面――本判決が直接に働く場面

協議会、組合、グループといった名の団体で申請した場合、本判決の判断要素がそのまま効きます。

本判決と控訴審が見たのは、規約が書面として存在するか、総会・意思決定機関の決議方法が定められているか、入会資格と入会方法が定められているか、構成員を確定する方法があるか、経済的基礎があるか、経済的活動が継続的なものか、という点でした。

団体として補助金を受けるのであれば、この六点を書面で整えておくことになります。 整っていなければ、交付決定の名宛人が代表者個人であると認定される余地が残り、返還も代表者個人に向かいます。本判決のドナルドグループは、二〇年以上にわたって運営され、団体名義の口座も備品倉庫もありましたが、規約が書面として存在しなかったために社団性を否定されました。

(6)名宛人が違うと言うことに、どのような実益があるか

名宛人の誤りを主張することの実益は、場面によって異なります。

交付決定の取消処分と返還命令が、補助事業者等でない者に対してされているのであれば、その処分の違法を主張することになります。取消処分には不服申立てと取消訴訟の期間がありますので、期間内に争う必要があります。この点は、補助金の取消しの出訴期間で扱っています。

他方で、名宛人が自分であることは認めざるを得ない場合には、議論は取消しの当否と範囲に移ります。取消しの裁量については補助金の交付決定の取消しに裁量はあるのか、取消しの通知が届く前にしておくことについては取消しの通知が届く前にしておくべきことにまとめています。

いずれにしても、「誰が名宛人か」を先に確定しないと、その先の議論の相手方が決まりません。 通知書が届いた段階で、宛名と内容が合っているかを確かめることをおすすめします。

(7)確かめておく資料

以上の主張は、いずれも書面の裏づけを必要とします。確かめておく資料は、おおむね次のとおりです。

交付申請書(申請者欄の記載)。交付決定通知書(宛名)。補助金の入金記録(入金口座の名義)。補助事業に係る契約書・発注書・領収書(名義)。取得財産等管理台帳(登録されている所有者)。決算書(取得財産が誰の資産として計上され、補助金が誰の収益として計上されているか)。共同申請であれば、共同申請の書類と配分の取決め。任意団体であれば、規約、総会議事録、会員名簿、会計帳簿。

本判決で団体性が否定された決め手は、規約が書面として存在しないこと、構成員を確定する方法が証拠上認められないことでした。同じことが、今の事案でも言えます。 主張の筋よりも先に、書面が揃っているかどうかで結論が動きます。

7 まとめ

補助金適正化法の義務と処分は、すべて「補助事業者等」を宛先としています。そして「補助事業者等」とは「補助事業等を行う者」です(2条3項)。申請書の名義や交付決定通知書の宛名は、その認定のための事情にすぎません。

東京地判昭和63年9月16日は、市が任意の青少年団体に交付した補助金について、その団体に社団としての実質がないと認定し、「ドナルドグループは被告小松が個人として主宰するものというべきであるから、本件補助金は被告小松個人に交付されたものと認めるのが相当である」としました。決め手となったのは、規約が書面として存在しないこと、総会等の決議方法や入会資格・入会方法を定めた規約の存在が証拠上認められないこと、構成員を確定する方法が認められないことでした。

東京高判平成元年7月11日は、この結論を維持したうえで、社団性を否定する理由として「経済的基礎には見るべきものはなく、経済的活動は微弱であって、ほとんど一回的なものにすぎない」という要素を書き加えました。あわせて、補助金の交付が団体に対してされたのか個人に対してされたのかは被告適格の問題ではなく本案の問題である、と整理しています。

いずれも住民訴訟であり、適正化法の取消処分・返還命令の名宛人が審判対象になった事件ではありません。それでも、法人格のない団体の名で申請がされたときに誰が主体として扱われるのか、その判断がどの事情によって決まるのかを、裁判所の言葉で示した裁判例として読むことができます。

そのうえで、グループ会社、法人成り、共同申請の場面で問うべきことは、三つです。交付決定を受けたのは誰か。補助事業を実際に行っていたのは誰か。そして、届いた通知書の宛名は、その答えと一致しているか。

ご相談をお考えの事業者の方へ

実地検査や事業化状況報告の過程で「補助事業を行っていたのは申請者ではない」と指摘された、取消しの通知や納付命令の宛名が実態と合っていない、共同申請のうち一社の問題で全員に返還を求められた――こうした場面では、まず名宛人の確定から検討することになります。交付申請書、交付決定通知書、入金記録、取得財産等管理台帳、決算書、共同申請の書類、届いている通知書類があれば、具体的な検討ができます。取消処分には不服申立ての期間がありますので、早い段階でご相談ください。

士業の先生方へ

顧問先から「グループ会社の工場に設備を置いているが問題ないか」「法人成りしたので補助金の名義を変えたい」「協議会の名で申請したいが規約はどこまで作るべきか」といったご相談を受けることがあろうかと存じます。申請の段階で整えておけば足りる場面と、取消しを争う場面とでは、やるべきことが変わります。補助金適正化法の側からの検討が必要な場面では、その部分だけを分担してお引き受けすることもできます。中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方からのご相談も承っております。連携の形は士業の先生方へにまとめております。

※ 本稿は一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。本稿の第5節及び第6節は、当職の見解を含みます。具体的な対応は、交付決定通知書等の資料に基づく個別の検討が必要です。

※ 本稿は、執筆時点の法令・公表資料に基づく一般的な整理であり、当職の私見を含みます。個別の事案についての結論を保証するものではありません。

Contact

補助金の取消し・返還を求められている方へ

ご相談はお問い合わせフォーム、メール、お電話、または LINE よりお願いいたします。法律相談料は30分 5,000円(税別・税込5,500円)です。ご相談はオンラインでも承っています。

お電話の受付は平日10:00〜18:00です(出られないときは折り返します)。

士業・支援機関・お取引先企業の方からのご相談・ご紹介も受け付けています。連携のご案内 →