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弁護士 岸上大起

県や市の補助金の取消し・返還は、国の補助金と何が違うのか――適用される法令の確かめ方

このページの結論

県や市の補助金の取消し・返還は、国の補助金と何が違うのか

補助金適正化法は「国が国以外の者に対して交付する」補助金の法律であり(2条1項)、県や市が自らの予算で交付する補助金には適用されません。自治体の補助金は、地方自治法232条の2を土台に、その自治体の補助金等交付規則と、補助金ごとの交付要綱と、交付決定通知書に付された条件の三つで動いています。規則の骨格は適正化法によく似ていますが、取消事由・相殺・免除・財産処分の制限・徴収に違いがあり、どこが違うかは自治体ごとに規則を読んで確かめるほかありません。

中小機構が交付する補助金は、独立行政法人中小企業基盤整備機構法16条が適正化法を準用しているため、国の補助金と同じ規律の下に置かれます。自治体の補助金には、これに当たる法律の定めがありません。

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

県や市から受けた補助金について、交付決定の取消しや返還を求める通知が届いた。調べてみると、補助金の取消し・返還の解説は、ほとんどが補助金適正化法(補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律)を前提に書かれている。では、県や市の補助金にも、この法律が当てはまるのか。当てはまらないとすれば、何を読めばよいのか。――本稿は、この問いに答えるものです。

先に答えを申し上げます。補助金適正化法は、国が交付する補助金を対象とする法律であり、県や市が自らの予算で交付する補助金には適用されません。県や市の補助金を動かしているのは、地方自治法232条の2を土台とする、その自治体の補助金等交付規則(通則)と、補助金ごとの交付要綱と、交付決定通知書に付された条件の三つです。規則の骨格は適正化法によく似ていますが、同じではありません。どこが違うかは、自治体ごとに規則の条文を読んで確かめるほかありません。

本稿では、神奈川県の規則と東京都の交付要綱の例を挙げながら、何がどう違い、まず何を読めばよいのかを整理します。中小機構が交付する補助金(事業再構築補助金など)の全体像は「中小機構が関与する補助金における問題の概要」で、取消しや返還の争い方は「補助金の処分性の見分け方、財産処分制限、減額確定・自主返納への誘導」で述べていますので、本稿では、自治体の補助金と国の補助金の違いだけを扱います。自治体の補助金の取消し・返還を取消訴訟で争うのか民事訴訟で争うのかという問題(処分性)には、本稿では立ち入りません。

1 補助金適正化法は「国が交付する」補助金の法律

補助金適正化法が「補助金等」として規律する対象は、同法2条1項が定めています。

引用(補助金適正化法2条1項)「この法律において「補助金等」とは、国が国以外の者に対して交付する次に掲げるものをいう。
一 補助金
二 負担金(国際条約に基く分担金を除く。)
三 利子補給金
四 その他相当の反対給付を受けない給付金であつて政令で定めるもの」

「国が国以外の者に対して交付する」ものです。交付する側が国でなければ、同法の「補助金等」には当たりません。この法律の立案に携わった小滝敏之氏の解説書も、この点を次のように述べています。

引用(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』19頁)「ここで「補助金等」とは、「国が国以外の者に対して交付する」ものをいうから、国以外の地方公共団体、独立行政法人等が交付する給付金は「補助金等」には含まれない。」

県や市が補助金を出す根拠は、地方自治法232条の2です。

引用(地方自治法232条の2)「普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる。」

この一条だけです。交付の申請、交付決定、取消し、返還、加算金といった手続は、地方自治法には書かれていません。国の補助金であれば適正化法が定めているこれらの手続を、自治体の補助金については、それぞれの自治体が自分で定めることになります。「公益上必要がある場合」とは何かという問題は、「自治体はどんな補助金でも出せるのか――裁判例紹介:東京地判平成10年7月16日」で扱っています。

なお、県や市の補助金であっても、その財源の全部又は一部が国の補助金であるときは、適正化法2条4項1号の「間接補助金等」として、同法の一部の規定が及びます。この類型は、本稿の対象ではありません。国の補助金を財源とする団体経由の補助金については、「ものづくり補助金の手引きは『補助金等適正化法第11条第2項に従い』と書いていますが、同法の取消し・返還・財産処分の条文は、当社に向けられたものなのでしょうか」と「従来のものづくり補助金の交付決定の取消し・返還請求は、取消訴訟で争えるのか」で述べています。本稿が扱うのは、自治体が自らの予算で交付する補助金(単独補助)です。

2 県や市の補助金を動かしている三つの定め

自治体の補助金は、次の三つの定めで動いています。

  • 補助金等交付規則(通則)。知事や市長が定める「規則」で、その自治体のすべての補助金に共通する手続――申請、交付決定、条件、実績報告、額の確定、取消し、返還、加算金――を定めるものです。名称は自治体によって「補助金等交付規則」「補助金の交付等に関する規則」「補助金等交付規程」などと違います。
  • 個別の交付要綱。補助金ごとに所管の部局が定めるもので、対象者、対象経費、補助率、上限額、その補助金に固有の義務(事業継続義務など)と、規則を補う取消し・返還の定めを置きます。
  • 交付決定通知書に付された条件。規則は、交付の目的を達成するために必要があるときは交付決定に条件を付するものとしており、事業者を直接縛るのは、この条件です。

この三層の関係は、交付要綱の冒頭に書かれています。東京都の交付要綱の一つを例に挙げます。

引用(私募債(政策課題対応)補助金交付要綱(令和5年6月6日5産労金金第336号。令和8年3月12日7産労金金第1161号による改正後)1条)「(通則)
第1条 私募債(政策課題対応)補助金の交付については、東京都補助金等交付規則(昭和37年東京都規則第141号)及び東京都補助金等交付規則の施行について(昭和37年12月11日付37財主調発第20号)に定めるもののほか、この要綱の定めるところによる。」

「東京都補助金等交付規則……に定めるもののほか、この要綱の定めるところによる」。ここに適正化法は出てきません。この補助金の取消し・返還は、東京都の規則と、この要綱と、交付決定の条件で決まるということです。

(1)規則の骨格――神奈川県の例

規則の骨格は、どの自治体でも適正化法によく似ています。神奈川県の「補助金の交付等に関する規則」(昭和45年神奈川県規則第41号)を例にすると、取消しから財産処分の制限までの条文は次のように並んでいます(条番号は神奈川県のものです。他の自治体では違います)。

  • 15条(決定の取消し)。取消事由は、偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受けたとき(1号)と、補助金等を他の用途に使用したときその他補助事業等に関して交付の決定の内容若しくはこれに付した条件又は法令若しくはこれに基づく知事の指示若しくは命令に違反したとき(2号)です。額の確定後も適用があります(3項)。2号は適正化法17条1項の取消事由と同じ組立てですが、1号は適正化法にはない事由です(第3節(1))。
  • 16条(補助金等の返還)。取消しをした場合に、すでに補助金等が交付されているときは、「期限を定めて、当該補助金等の返還を命ずるものとする」と定めています。
  • 16条の2(加算金及び延滞金)。15条1項の規定による処分に関し返還を命ぜられたときは、受領の日から納付の日までの日数に応じ、年10.95パーセントの割合で計算した加算金を納付しなければならない(1項)。納期日までに納付しなかったときは、年10.95パーセントの延滞金を納付しなければならない(4項)。適正化法19条と同じ利率です。
  • 16条の3(他の補助金等の一時停止)。返還を命ぜられた補助金等、加算金又は延滞金を納付しない場合に、同種の事務又は事業について交付すべき補助金等があるときは、「相当の限度において、その交付を一時停止することができる」。
  • 16条の4(理由の提示)。交付決定の取消し、遂行の指示、一時停止の命令、是正のための措置の指示をするときは、「当該補助事業者等に対してその理由を示さなければならない」。適正化法21条の2とほぼ同じ文言です。
  • 17条(財産の処分の制限)。補助事業等により取得し、又は効用の増加した「次に掲げる財産」(不動産及びその従物、機械及び重要な器具で知事が別に定めるもの、その他知事が別に定めるもの)を、知事の承認を受けないで、交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、担保に供し、取り壊し、又は廃棄してはならない。ただし、交付を受けた補助金等の全部に相当する金額を県に納付した場合、又は交付の目的と財産の耐用年数を勘案して知事が別に定める期間を経過した場合は、この限りでない。

取消事由、期限を定めた返還命令、年10.95パーセントの加算金と延滞金、他の補助金の一時停止、理由の提示、財産処分の制限。並びも中身も、適正化法の17条から22条まで(理由の提示は21条の2)を写したものです。だからこそ、国の補助金について書かれた解説が、自治体の補助金にも大筋で当てはまります。

(2)要綱が規則を補っている部分

交付要綱は、規則の骨格の上に、その補助金に固有の定めを乗せます。先に挙げた東京都の要綱では、要綱が定める補助対象事業者の要件を満たさなくなったことや、取扱金融機関の引受けによる私募債の発行がされなかったことを取消事由に加える定め(16条1項3号・5号)、事情変更による取消しを天災地変などにより事業を継続する必要がなくなった場合に限る定め(10条2項)、違約加算金を16条1項の取消しに伴う返還に限る定め(18条1項)が置かれています。東京都の別の補助金の要綱には、複数年度の事業継続義務、一部取消しのときの返還額を日割りで按分する算式、取消しに至る事由がやむを得ないと知事が認める場合に違約加算金を免除できるというただし書を置くものもあります。同じ東京都の補助金でも、要綱ごとに定めが違います。規則だけを読んでも、要綱だけを読んでも、全体は分かりません。

3 骨格は似ているが、同じではない――五つの違い

似ているからこそ、同じだと思って読むと間違えます。神奈川県の規則を適正化法と並べて読んだときに目につく違いを、五つ挙げます。

(1)「偽りその他不正の手段」が、独立の取消事由として置かれている

適正化法17条1項が定める取消事由は、補助金等の他の用途への使用、交付決定の内容又はこれに付した条件への違反、法令又はこれに基づく各省各庁の長の処分への違反の三つです。「偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受けたとき」という事由は、そこにはありません。国の補助金について、取消事由がこの三つに限られ、交付規程で取消事由を増やすことができないことは、「交付決定の取消し・返還請求」で述べています。これに対し、神奈川県の規則15条1項は、1号に「偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受けたとき」を独立の取消事由として置き、2号に適正化法17条1項に当たる事由を置いています。規則は知事が定める法規ですから、交付規程という内部の定めで取消事由を増やせないこととは、話が別です。県から届いた取消しの通知が1号によるのか2号によるのかで、確かめるべき事実が変わります。1号は申請の段階での不正を問うものであり、2号は交付後の使途や条件への違反を問うものです。

(2)他の補助金との相殺の定めがない

適正化法20条は、返還を命じられた補助金等を納付しない者に対し、同種の事務又は事業について交付すべき補助金等があるときは「相当の限度においてその交付を一時停止し、又は当該補助金等と未納付額とを相殺することができる」と定めています。一時停止と相殺の二つです。神奈川県の規則16条の3は、このうち一時停止だけを「できる」と定めており、相殺の定めがありません。東京都の規則23条は、逆に、一時停止と相殺の両方を「するものとする」と定めています。同じ自治体の補助金でも、ここまで違います。この違いは、返還を争っている間に次の補助金をどう扱われるかに直結します。国の補助金についての整理は「補助金の返還を争っている間、ほかの補助金は止められたり、相殺されたりするのか」で述べています。

(3)加算金・延滞金の免除の定めがない

適正化法19条3項は、「やむを得ない事情があると認めるときは、政令で定めるところにより、加算金又は延滞金の全部又は一部を免除することができる」と定めています。神奈川県の規則には、これに当たる定めがありません。規則にないからといって免除の余地がないということにはならず、東京都の補助金の交付要綱の中には、要綱の側に免除のただし書を置く例があります(第2節(2))。免除を求めるときは、規則と要綱のどちらに根拠があるのかを確かめてから申し出ることになります。

(4)財産処分の制限に「取り壊し」「廃棄」が入っている

適正化法22条が承認の対象とするのは、交付の目的に反した使用、譲渡、交換、貸付け、担保提供の五つです。廃棄は書かれていません(「補助金で取得した設備を廃棄することは『処分』か――裁判例紹介:東京地判平成2年1月30日判タ736号151頁」)。これに対し、神奈川県の規則17条は、この五つに「取り壊し、又は廃棄」を加えています。東京都の規則24条は、適正化法と同じ五つにとどめています。同じ廃棄でも、どの自治体の補助金かによって、承認を要するかどうかの答えが変わるということです。書き方にも違いがあります。神奈川県の17条は、補助事業者等を名宛人として「……してはならない」と禁じる形ですが、東京都の24条は「あらかじめ知事の承認を受けさせなければならない」と、都の側に向けて書かれています。また、神奈川県の17条には、交付を受けた補助金等の全部に相当する金額を県に納付した場合は承認を要しないというただし書があります。承認を受けて処分したときに納付を求められる額の算式は、本稿とは別に整理します。

(5)国税滞納処分の例による徴収の定めがない

適正化法21条は、返還を命じた補助金等と加算金・延滞金を「国税滞納処分の例により、徴収することができる」と定めています。神奈川県の規則には、これに当たる定めがありません。規則で定めなかったというより、規則では定められないと考える余地があります。自治体の歳入を地方税の滞納処分の例により徴収できるのは、分担金、加入金、過料又は法律で定める使用料その他の歳入に限られているからです(地方自治法231条の3第3項)。もっとも、その補助金の根拠となる個別の法律に、地方税の滞納処分の例により徴収することができるという定めが置かれていれば、話は別です。自治体の補助金の返還命令を放置したときに何が起きるかは、本稿とは別に整理します。国の補助金についての整理は「補助金の返還命令を放っておくとどうなるのか」で述べています。

次のような場合は、文書の根拠条文を特定する段階でご相談ください

  • 県や市から補助金の取消し・返還の通知が届いたが、どの規則・要綱によるのかが書かれていない
  • 違約加算金・延滞金を付けると言われたが、取消しの根拠条文が分からない
  • 補助金で取得した設備の廃棄や事業の終了について、承認が要るのかどうかを確かめたい
いまの状況を相談する →お電話:070-3618-5126(受付:平日10:00〜18:00、出られないときは折り返します)

関連ページ: 交付決定の取消し・返還請求(対応ページ)/加算金・延滞金は払うのか(Q&A)/自治体はどんな補助金でも出せるのか(裁判例紹介)

4 行政手続法が適用されない理由は、国と自治体で違う

国の補助金の交付決定の取消しに、行政手続法の聴聞・弁明の機会の付与や理由の提示の規定が適用されないのは、適正化法24条の2が「補助金等の交付に関する各省各庁の長の処分については、行政手続法……第二章及び第三章の規定は、適用しない」と定めているからです(「交付決定取消しの事前通知が届いたら」)。「各省各庁の長の処分」についての定めですから、県や市の処分には、この条文は関係しません。

自治体の処分について行政手続法が適用されないとすれば、その理由は、行政手続法3条3項です。

引用(行政手続法3条3項)「第一項各号及び前項各号に掲げるもののほか、地方公共団体の機関がする処分(その根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る。)及び行政指導、地方公共団体の機関に対する届出(前条第七号の通知の根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る。)並びに地方公共団体の機関が命令等を定める行為については、次章から第六章までの規定は、適用しない。」

根拠となる規定が条例又は規則に置かれている処分については、行政手続法の第2章から第6章まで――申請に対する処分、不利益処分、行政指導、処分等の求め、届出、意見公募手続等の各章――が適用されません。そのかわりに、同法46条が、地方公共団体に対し、これらの処分等の手続について「この法律の規定の趣旨にのっとり、行政運営における公正の確保と透明性の向上を図るため必要な措置を講ずるよう努めなければならない」と定めており、各自治体は行政手続条例を置いています。補助金等交付規則に根拠を置く取消しについて、理由の提示や意見陳述の機会を求める根拠は、行政手続法ではなく、その自治体の行政手続条例と、補助金等交付規則そのものに探すことになります。その際、行政手続条例の側に適用除外の定めがあって、補助金に関する処分がそこから外されていないかを、先に確かめます。

逆に、規則に根拠を置かず、交付要綱だけに基づいて交付された補助金の取消しは、3条3項の括弧書き「その根拠となる規定が条例又は規則に置かれているものに限る」に当たりません。その取消しを「処分」と見る限り、行政手続法の不利益処分の章――理由の提示を定める14条を含みます――が及ぶと考える余地があります。もっとも、交付要綱だけに基づいて交付された補助金について、その取消しが処分なのか、契約の解除にすぎないのかは、裁判上争いがあります。この問題は本稿では立ち入らず、別の記事で扱います。

次に、理由の提示です。国の補助金では、適正化法21条の2が、交付決定の取消し、遂行若しくは一時停止の命令、是正のための措置の命令をするときは「当該補助事業者等に対してその理由を示さなければならない」と定めています。行政手続法の章が適用除外になっても、理由の提示は適正化法の側で義務づけられているということです(理由付記の不備をどう争うかは、「事業再構築補助金の交付決定の取消しには処分性があり、理由付記の不備という瑕疵がある可能性が高いこと」で述べています)。自治体ではどうか。先に挙げた神奈川県の規則16条の4は、21条の2とほぼ同じ文言です。

引用(補助金の交付等に関する規則(昭和45年神奈川県規則第41号)16条の4)「(理由の提示)
第16条の4 知事は、補助金等の交付の決定の取消し、補助事業等の遂行の指示若しくは一時停止の命令又は補助事業等の是正のための措置の指示をするときは、当該補助事業者等に対してその理由を示さなければならない。」

神奈川県は、規則の中で、取消し・遂行の指示・一時停止の命令・是正の指示の四つについて、理由を示すことを自らに義務づけています。この規則の下で、理由を示さずにされた取消しは、規則が自ら定めた手続に反するものです。これに対し、東京都の規則には、理由の提示の定めがありません。国の補助金であれば法律が一律に理由の提示を義務づけているのに対し、自治体の補助金では、規則にその定めがあるかどうかで答えが変わり、定めがなければ、行政手続条例と規則の文言に探すほかないということです。届いた文書に理由が書かれていないときは、その自治体の規則に理由の提示の定めがあるかを、まず確かめていただきたいと思います。

5 まず何を読むか――交付規程・交付要綱の通則、規則、交付決定通知書

自分が受けた補助金に、どの法令が当てはまるのか。それを確かめる手順は、次の三つです。

(1)交付規程1条・交付要綱の冒頭(通則)を読む

交付規程や交付要綱は、冒頭の「通則」で、何に従って交付するのかを書いています。国の補助金や中小機構の補助金であれば、そこに適正化法と施行令が挙げられています。中小機構の事業再構築補助金の交付規程を例に挙げます。

引用(中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程1条)「(通則)
第1条 中小企業等事業再構築促進補助金(以下「本補助金」という。)の交付については、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号。以下「適正化法」という。)、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令(昭和30年政令第255号。以下「施行令」という。)、独立行政法人中小企業基盤整備機構法(平成14年法律第147号)及びその他の法令の定めによるほか、この規程の定めるところによる。」

これに対し、自治体の交付要綱の通則には、第2節で見たとおり、その自治体の補助金等交付規則が挙げられています。通則に適正化法が挙げられているか、自治体の規則が挙げられているか。この一行で、読むべき法令が決まります。通則に何も挙げられていない要綱もあります。その場合は、その自治体の補助金等交付規則が、要綱とは別に当然に適用される建前になっていることが多く、規則の側を読みに行くことになります。

(2)その自治体の補助金等交付規則を読む

規則は、自治体の例規集として公開されています。都道府県・市区町村のウェブサイトから「例規集」「法規集」をたどり、「補助金」で検索すれば出てきます。読むべき条は、取消し、返還、加算金・延滞金、他の補助金の一時停止、理由の提示、財産処分の制限の六つです。第3節で挙げた五つの違いは、この六つの条を適正化法と並べれば確かめられます。

規則を読むときに最初にすべきことは、届いた文書がどの条文による取消しなのかを特定させることです。神奈川県の規則16条の2第1項は、加算金の対象を「第15条第1項の規定による処分に関し、補助金等の返還を命ぜられたとき」に限っています。不正の手段や条件違反を理由とする取消し(15条1項)に伴う返還だけです。事情の変更による取消し(8条)に伴う返還や、額の確定後に確定額を超えて交付されていた分の返還(16条2項)には、加算金は付きません。適正化法19条1項も「第十七条第一項の規定……による処分に関し」と限っており、この点は国と同じ組立てです。ところが、自治体から届いた文書は、どの条文による取消しなのかを書いていないことがあります。根拠条文を特定させることが、加算金が付くかどうかを分けます。国の補助金について加算金・延滞金の仕組みを整理したものとして、「補助金の返還を求められたら、加算金・延滞金は払うのか」があります。

(3)交付決定通知書に付された条件を読む

規則は、交付の目的を達成するために必要があると認めるときは交付決定に条件を付するものとし(神奈川県の規則では5条)、交付決定をしたときはその内容と条件を通知するものとしています(同6条)。事業者を直接縛るのは、通知書に書かれた条件です。取消事由の「交付の決定の内容若しくはこれに付した条件……に違反したとき」に当たるかどうかは、通知書の条件を読まなければ分かりません。要綱に書かれていることが、通知書の条件として付されているかどうかも、ここで確かめます。要綱は自治体の内部の定めであり、規則が定めていない義務を事業者に負わせることはできません。通知書の条件にもなっていない要綱の記載を、取消事由の根拠として持ち出されているのであれば、規則と通知書のどこにその義務があるのかを問うことになります。

6 中小機構が交付する補助金は、国の補助金と同じ扱いになる

最後に、混同されやすい点を一つ補います。事業再構築補助金のように、独立行政法人である中小企業基盤整備機構(中小機構)が交付する補助金は、交付する側が国ではありませんから、適正化法2条1項の「補助金等」には、そのままでは当たりません。小滝氏の解説書が「国以外の地方公共団体、独立行政法人等が交付する給付金は「補助金等」には含まれない」と述べているのは、そのとおりです。

しかし、中小機構については、独立行政法人中小企業基盤整備機構法16条が、同法15条1項6号(創業や経営の革新を行う中小企業者等への助成)と2項3号の規定により中小機構が交付する助成金について、適正化法の規定を罰則を含めて準用し、「各省各庁の長」を中小機構の理事長と、「国」を中小機構と読み替えると定めています。事業再構築補助金は、この15条1項6号の助成に位置づけられています。

引用(独立行政法人中小企業基盤整備機構法16条)「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和三十年法律第百七十九号)の規定(罰則を含む。)は、前条第一項第六号及び第二項第三号の規定により機構が交付する助成金について準用する。この場合において、同法(第二条第七項を除く。)中「各省各庁」とあるのは「独立行政法人中小企業基盤整備機構」と、「各省各庁の長」とあるのは「独立行政法人中小企業基盤整備機構の理事長」と、同法第二条第一項及び第四項、第七条第二項、第十九条第一項及び第二項、第二十四条並びに第三十三条中「国」とあるのは「独立行政法人中小企業基盤整備機構」と、同法第十四条中「国の会計年度」とあるのは「独立行政法人中小企業基盤整備機構の事業年度」と読み替えるものとする。」

この読替えによって、適正化法2条1項の「国が国以外の者に対して交付する」の二つの「国」は、いずれも「独立行政法人中小企業基盤整備機構」と読まれ、中小機構の補助金は、法律の上で、国の補助金と同じ規律の下に置かれます。取消し(17条)、返還命令(18条)、加算金(19条)、一時停止と相殺(20条)、徴収(21条)、財産処分の制限(22条)、行政手続法の適用除外(24条の2)、罰則まで、すべてが準用されています。自治体の補助金には、これに当たる法律の定めがありません。同じ「国の補助金ではない」補助金でも、中小機構の補助金と自治体の補助金とでは、適用される法令の構造がまったく違うということです。準用の意味については、「独立行政法人や事務局から交付された補助金の取消し・返還は、取消訴訟で争えないのか」の第5節で述べています。

小滝氏の解説書は、地方公共団体の補助金について、次のようにも述べています。

引用(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕』93頁)「もとより、右の論議は本法の規律対象となる国の補助金等の交付の法律関係について妥当するものであり、公法的規律の対象とならない地方公共団体の補助金等の交付については、これを私法契約として構成しうるものと考えてよい。」「反面、条例等により本法と同様の公法的規律がなされている地方公共団体の補助金等については、国の補助金等と同様に取り扱うべきこととなるのである。」

自治体の補助金が「私法契約として構成しうる」側に入るのか、「国の補助金等と同様に取り扱うべき」側に入るのかは、その自治体がどこまでの規律を条例や規則に置いているかで決まるということです。第2節で見たとおり、神奈川県のように、規則に取消し・返還・加算金・一時停止・理由の提示・財産処分の制限まで置いている自治体があります。どちらの側に入るかは、取消訴訟で争うのか民事訴訟で争うのかという問題に直結しますが、本稿の範囲を超えますので、別の記事に譲ります。

県や市から届いた文書の根拠条文を特定し、規則と要綱と通知書の条件を突き合わせる段階になりましたら、ご相談ください。どの定めが当てはまるかは、自治体と補助金ごとに違います。

よくある質問

県や市の補助金にも、補助金適正化法は適用されるのですか。

適用されません。補助金適正化法が「補助金等」として規律するのは「国が国以外の者に対して交付する」ものです(2条1項)。県や市が自らの予算で交付する補助金は、地方自治法232条の2を根拠とし、その自治体の補助金等交付規則・交付要綱・交付決定通知書の条件によって動きます。ただし、財源の全部又は一部が国の補助金であるときは、適正化法2条4項1号の「間接補助金等」として同法の一部の規定が及びます。

間接補助金と適正化法の条文(Q&A) →

出典:補助金適正化法2条1項(e-Gov法令検索)

自治体の補助金等交付規則は、補助金適正化法と同じ内容なのですか。

骨格は似ていますが、同じではありません。神奈川県の規則を適正化法と並べると、「偽りその他不正の手段」が独立の取消事由として置かれていること、他の補助金との相殺の定めがないこと、加算金・延滞金の免除の定めがないこと、財産処分の制限に「取り壊し」「廃棄」が入っていること、国税滞納処分の例による徴収の定めがないこと、の五つの違いがあります。東京都の規則は、相殺を「するものとする」と定め、財産処分の制限は適正化法と同じ五つにとどめています。どの定めが当てはまるかは、自治体と補助金ごとに違います。

出典:補助金適正化法17条1項(e-Gov法令検索)

県から届いた取消しの通知に、理由が書かれていません。

国の補助金では、補助金適正化法21条の2が、交付決定の取消しをするときに理由を示すことを義務づけています。自治体の補助金では、行政手続法の不利益処分の章が適用されない代わりに(3条3項)、規則の側に理由の提示の定めが置かれていることがあります。神奈川県の規則16条の4は21条の2とほぼ同じ文言であり、東京都の規則にはこの定めがありません。まず、その自治体の規則に理由の提示の定めがあるかを確かめ、なければ行政手続条例と規則の文言に根拠を探すことになります。

理由付記の不備という瑕疵(コラム) →

出典:補助金適正化法21条の2(e-Gov法令検索)

中小機構が交付する補助金も、国の補助金ではないのに適正化法が適用されるのですか。

適用されます。独立行政法人中小企業基盤整備機構法16条が、同法15条1項6号・2項3号の規定により中小機構が交付する助成金について、補助金適正化法の規定を罰則を含めて準用し、「各省各庁の長」を中小機構の理事長と、「国」を中小機構と読み替えると定めているからです。取消し・返還命令・加算金・財産処分の制限・行政手続法の適用除外まで、すべてが準用されます。自治体の補助金には、これに当たる法律の定めがありません。

準用の意味(コラム第5節) →

出典:中小機構法16条(e-Gov法令検索)

※ 本稿は、執筆時点の法令に基づく一般的な整理であり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。神奈川県の規則の条文は、令和3年9月28日規則第80号までの改正を反映した神奈川県法規集の本文を2026年10月30日に閲覧したものです。東京都の規則の条文は東京都財務局が掲載しているPDF(附則は昭和45年規則第132号まで)により、東京都の交付要綱の条文は、東京都産業労働局が掲載している私募債(政策課題対応)補助金交付要綱(令和8年3月12日7産労金金第1161号による改正後のもの)を2026年11月5日に閲覧したものによります。規則・要綱の条番号と内容は自治体・補助金ごとに違い、改正もされますので、ご自身の補助金については、その自治体の現行の規則・要綱をご確認ください。

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