執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)
補助金の中には、交付の対象を「登録された事業者を通した場合」に限る仕組みのものがあります。IT導入補助金では、IT導入支援事業者として登録を受けた事業者と補助事業者とが共同で申請し、あらかじめ登録されたITツールを導入することが前提とされています。省力化や設備導入の類型でも、登録された製品・登録された販売事業者を通じた導入であることが要件とされるものがあります。同じ設備を同じ価格で導入しても、どの事業者を通したかによって、補助の対象になるかどうかが変わるのです。
この仕組みは、そこに入れなかった事業者にとっては、営業の機会そのものを左右します。そして、いったん登録を受けた支援事業者・販売事業者が登録を取り消されると、その事業者だけでなく、その事業者を通して申請していた顧客の事業者にも影響が及びます。申請が通らない、交付決定が取り消される、交付済みの補助金の返還を求められる、といった形です。そこで、「そもそもこういう限定は許されるのか」という問いが立ちます。
この問いに正面から答えた最高裁判決が、最三小判平成7年11月7日(集民177号85頁、判タ897号61頁、判時1553号88頁)です。市が、飼犬・飼猫の不妊手術を受けさせた市民に手術料の一部を補助金として交付するに当たり、その手術をする獣医師を獣医師会支部に所属する獣医師に限った、という事案です。最高裁は、この措置について「行政上の措置として適切であったとはいい難いうらみがある」と述べました。「うらみ」とは、そういう欠点・難がある、という意味の言い回しです。そのうえで、それでも国家賠償法上違法になるとは認め難い、として上告を棄却しました。
つまり、この判決は二つの層を分けています。第一に、補助金の交付の基準としてその限定が適切であったかどうか。第二に、その限定によって損害賠償責任が生じるかどうか。最高裁は、第一の層では否定的な評価を述べ、第二の層では責任を否定したのです。この分け方が、本稿のいちばん大切な部分です。
もっとも、この判決は要綱の適否を直接の審判対象とした事件ではなく、また自治体が単独で交付する補助金についてのものです。国の補助金について補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「補助金適正化法」といいます)が適用される場面とは、前提が違います。本稿では、判決の原文で、どこまでが裁判所の言葉なのかを確かめたうえで、登録を取り消された支援事業者・販売事業者と、その顧客である事業者が、それぞれ何を問い、何を主張できるのかを整理します。
1 「登録された事業者を通さないと補助金が出ない」という仕組み
(1)補助金の側から見た仕組み
まず、仕組みを確かめます。
補助金の交付の要件は、「何に使ったか」だけで決まるとは限りません。「誰を通して導入したか」が要件に組み込まれていることがあります。IT導入補助金では、IT導入支援事業者として事務局に登録を受けた事業者が、補助事業者と共同で交付申請を行う仕組みが採られています。登録を受けていない事業者から同じソフトウェアを導入しても、補助の対象にはなりません。
この形を採る理由は、おおむね想像がつきます。補助金の交付側は、全国の無数の製品・事業者を個別に審査することができません。そこで、あらかじめ事業者と製品を登録させ、登録の際に一定の条件を守らせ、申請の手続や実績報告の一部を担わせ、不正受給の防止にも協力させる。そうすることで、限られた体制で多数の申請を処理できるようにしているわけです。
この構造は、本稿で紹介する判決の事案と、驚くほどよく似ています。
(2)事業者の側に起きること
一方、事業者の側では、次のようなことが起きます。
一つは、登録を受けられない、あるいは登録を取り消される、ということです。登録を取り消されれば、その事業者は、補助金を使いたい顧客に対して売ることができなくなります。同じ製品を同じ価格で提供していても、登録されている競業者だけが補助金を使った取引をできる、という状態になります。支援事業者・販売事業者の登録取消しについては、支援事業者・販売事業者の登録を取り消されたらで扱っています。
もう一つは、その事業者を通して申請していた顧客に起きることです。申請中であれば交付が受けられるのか、交付決定後であれば交付決定が取り消されるのか、交付済みであれば返還を求められるのか。そして、返還を求められるのは顧客なのか、それとも登録事業者なのか。この点は、IT導入補助金の返還請求と、販売事業者に返還を請求できるのかで扱っています。
いずれの場面でも、事業者からは同じ問いが出ます。補助金の対象を登録事業者経由に限るという仕組みそのものが、おかしいのではないか、という問いです。
2 事案――補助金の対象を獣医師会支部所属の獣医師に限った市の要綱
(1)どのような補助金だったか
事案の概要は、次のとおりです。以下の経緯は、判タ臨時増刊945号160頁の解説(平成8年度主要民事判例解説)によります。
町田市は、動物愛護団体等からの請願を受け、野犬及び野良猫の発生を防止し、市民の動物愛護精神の高揚を図ることを目的として、平成4年、犬猫の里親情報の登録事業として不妊手術補助金制度を設けました。要綱を定め、市内に在住する犬猫の飼主が避妊・去勢手術をした場合に一定額の補助金を交付する、というものです。
ただし、補助の対象者は、獣医師会に所属する獣医師が行った不妊手術を受けた飼主に限られていました。判決は、この点を「その獣医師を東京都獣医師会町田支部に所属する獣医師に限定した」と表現しています。
(2)なぜ限定したのか
ここが、今の登録制度を考えるうえで示唆に富む部分です。
市は、この事業を開始するに当たって獣医師会と協議し、里親事業による犬猫の譲渡の際に加入獣医師が無料で健康診断を行うこと、不妊手術補助金制度については手術費用の一部を当該獣医師が負担すること、手術による事故の責任を獣医師会が負うこと、補助金の不正受給の防止に協力することを合意していました(判タ945号160頁)。
つまり、市は、団体に協力義務を負わせる代わりに、その団体に所属する者を通した場合に限って補助金を出す、という組み立てを採ったのです。事務局に登録した事業者に手続と責任の一部を担わせ、その登録事業者を通した場合に限って補助金を出す、という今の仕組みと、構造は同じです。
(3)訴訟の形は国家賠償請求だった
この要綱に対し、支部に所属しない獣医師2名が、市を相手に訴訟を提起しました。もっとも、要綱の無効確認や交付決定の取消しを求めたのではありません。
引用(最三小判平成7年11月7日・理由)「本件は、被上告人が、野犬及び野良猫の発生を防止するための施策の一つとして、本件要綱によって、獣医師に飼犬、飼猫の不妊手術を受けさせた町田市民である飼主にその手術料の一部に相当する金員を補助金として交付するに当たり、その獣医師を東京都獣医師会町田支部に所属する獣医師に限定したところ、上告人らが右の措置は町田市内に診療施設を有しながら同支部に所属しない上告人ら獣医師を不当に差別するもので、その営業の自由を侵害する違憲・違法なものであるなどとして、被上告人に対し、国家賠償法一条に基づいて慰謝料と遅延損害金の支払を求めるものである。」
請求は、国家賠償法1条に基づく慰謝料です。第一審・控訴審はいずれも請求を棄却し(いずれも判例集未登載。判タ945号160頁)、最高裁も上告を棄却しました。最高裁判決ですので、この判断で確定しています。
訴訟の形が国家賠償請求であったことは、後記4(1)で述べるとおり、この判決の射程を考えるうえで外せない点です。
3 最高裁の判示――「適切であったとはいい難いうらみがある」
(1)前段――限定の当否についての評価
最高裁は、まず、この限定措置についての評価を述べます。結論を導く前に置かれた、短いけれども重い一段です。
引用(最三小判平成7年11月7日・理由)「原審の適法に確定した事実関係の下において、同支部の規模、同支部に加入していない獣医師の数、右補助金交付の手続等に照らすと、右の措置は、被上告人における行政効率の点で必ずしもその必要性が高いとはいえず、右の獣医師と競業関係に立つ上告人らの営業上の利益に対する十分な配慮をした形跡がない点において、その手続面も含めて、行政上の措置として適切であったとはいい難いうらみがある。」
分けて読みます。
第一に、判断の材料として挙げられているのは、①支部の規模、②支部に加入していない獣医師の数、③補助金交付の手続等の三つです。団体の側の広がりと、そこに入っていない者の数と、交付の手続の作り方を見ています。
第二に、そこから導かれた評価は二つです。一つは、「行政効率の点でかならずしもその必要性が高いとはいえず」。限定の必要性についての評価です。もう一つは、「競業関係に立つ上告人らの営業上の利益に対する十分な配慮をした形跡がない」。競業者の利益への配慮についての評価です。
第三に、「その手続面も含めて」とされています。限定の内容だけでなく、その限定を作る過程についても向けられた評価です。
そして結びが、「行政上の措置として適切であったとはいい難いうらみがある」。最高裁が、市の措置を適切とは言えないと評価した部分です。
(2)後段――しかし国家賠償法上違法とはいえない
続いて、「しかしながら」で始まる段が来ます。
引用(最三小判平成7年11月7日・理由)「しかしながら、右補助金を交付する趣旨は犬猫の不妊手術を奨励して野犬や野良猫の発生を防止することにあり、不妊手術を受けさせた飼主や不妊手術をする獣医師を保護するためではなく、また被上告人の右措置によって同支部に所属しない獣医師に生じ得る営業上の不利益は直接的なものではなく、これに所属する獣医師との競業関係による波及的な効果である。」
ここで述べられているのは二つです。一つは、補助金の趣旨は不妊手術を奨励して野犬・野良猫の発生を防止することにあり、飼主や獣医師を保護するためのものではない、ということ。もう一つは、支部に所属しない獣医師に生じ得る営業上の不利益は「直接的なものではなく」、支部に所属する獣医師との「競業関係による波及的な効果」である、ということです。
さらに続きます。
引用(最三小判平成7年11月7日・理由)「そして、獣医師会は任意加入の公益社団法人であり、これに加入して会費を納入するとともに獣医師会の各種制約の下に営業するか、加入しないで営業するかは、基本的には各獣医師個人の自由意思に委ねられているものである(上告人らにおいて、同支部への加入が不当に制限されているため同支部に所属する獣医師と同様の利益を受けることができないというのであれば、獣医師会との間でその点を問題にすべきである。)。」
団体への加入が任意であり、加入するかしないかが基本的に各人の自由意思に委ねられている、という点が挙げられています。そして括弧書きで、加入そのものが不当に制限されているのであれば、それは団体との間で問題にすべきことだ、と述べています。行政に向けるべき問題と、団体に向けるべき問題とを切り分けた部分です。
そのうえで結論です。
引用(最三小判平成7年11月7日・理由)「これらの点を考慮すると、本件要綱によって同支部に所属しない獣医師に飼犬、飼猫の不妊手術を受けさせた飼主を補助金交付の対象から除外したことが、直ちに上告人らを含む右の獣医師の営業上の利益を侵害するとして国家賠償法上違法になるとは認め難いというべきである。」
※ 手元の判決全文のテキストは「形跡かない」「獣医師五との間で」となっていますが、文意と判タ897号61頁の判旨に照らし、それぞれ「形跡がない」「獣医師会との間で」と読みました。引用中の「補助金」の前後の空白は、検索用の強調によるものですので除いています。
(3)二つの層を分けて読む
この判決の構造は、次のとおりです。
第一の層――交付の基準としての適切さ。 限定の必要性が高いとはいえない。競業者の営業上の利益への配慮の形跡がない。手続面も含めて適切であったとはいい難い。
第二の層――国家賠償法上の違法。 それでも、「直ちに」営業上の利益を侵害するとして国家賠償法上違法になるとは認め難い。
この二つは、同じ判決の中で逆の方向を向いています。ですから、この判決の引き方には注意が必要です。「最高裁は登録事業者に限る仕組みを是認した」という引き方は、前段を落としています。逆に、「最高裁は登録事業者に限ることを不適切と判断した」という引き方は、後段を落としています。正確には、交付の基準の作り方としては適切とはいい難いとしながら、そのことから直ちに損害賠償責任までは認めなかった判決です。
4 この判決はどこまで使えるか――射程と限界
ここは、正直に書いておかなければならない部分です。
(1)審判対象は国家賠償であって、要綱の適否ではない
前記2(3)で確かめたとおり、この事件の請求は国家賠償法1条に基づく慰謝料請求です。要綱の効力や、個々の交付決定の適法性が審判対象となったものではありません。
また、判決は「原審の適法に確定した事実関係の下において」と述べています。支部の規模、加入していない獣医師の数、交付の手続等という具体的な事実を前提にした判断であり、判示事項も「国家賠償法上違法であるとはいえないとされた事例」と、事例としての判断であることが明示されています。
したがって、この判決から引き出せるのは、「登録事業者に限る仕組みは適法である」という一般命題ではありません。引き出せるのは、第一の層で最高裁が何を見たか――必要性、競業者の利益への配慮、手続――という着眼点です。当職は、この着眼点こそが実務で使えるところだと考えております。
(2)補助金の交付基準に平等原則の適用があること自体は前提とされている
判タ臨時増刊945号160頁の解説は、本判決の位置づけを次のように見ています。本件は、要綱による自治体の補助金の交付基準が、第三者の営業上の利益との関係で平等原則に違反するかどうかが争われた事案であり、最高裁がこれに平等原則の適用があることを前提として具体的な判断を示したことに意義がある。また、本判決は、自治体に対し、補助金の交付基準の策定に当たって競業関係に立つ業者の利益につきより慎重な配慮を求めたものであり、その点で行政実務にとっても意義がある。――こうした見立てです(同161頁)。
平等原則の適用があるという理解そのものは、補助金の解説書にも示されています。
引用(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』(株式会社全国会計職員協会、2016)35頁)「憲法上の制約の第二点は、憲法第一四条の『法の下の平等』の原理に関するものである。特段の合理的理由がないにもかかわらず、不当に特定人の行う事業に対してのみ補助金等を交付したり、補助率を高くしたりするようなことは『法の下の平等』の原理からみて許されないものというべきである」
※ 原文に付されている注番号は省いています。
補助金を交付するかどうかについて行政に広い裁量があることは、確かにそのとおりです。しかし、それは全くの自由裁量ではなく、特段の合理的理由がないのに特定の者だけを有利に扱うことは許されない、という枠がかかっています。本判決が、必要性と競業者の利益への配慮を見たことは、この枠の中での判断と読むことができます。
なお、同解説161頁は、同種の事例として、市が要綱により特定の社会教育団体に対してした補助金の交付決定が公平原則に違反しないとされた裁判例(判タ698号204頁)と、条例により接骨師会に所属する柔道整復師にのみ老人医療助成費の代理受領を認めたことに違法はないとされた裁判例(判時1351号94頁)を挙げています。団体に所属する者に限った取扱いが、いずれの事案でも違法とまでは判断されていない、という流れの中に本判決があることになります。
(3)自治体の単独補助金と、国の補助金との違い
もう一つ、押さえておくべき違いがあります。
本件は、市が要綱に基づいて交付した補助金です。補助金適正化法は、国が交付する補助金等を対象とする法律であり、自治体が単独で交付する補助金等はその適用対象外とされています。小滝・前掲87頁も、「補助金適正化法適用対象外の補助金等(地方公共団体が単独で交付する補助金等)」という整理を示しています。
これに対し、IT導入補助金やものづくり補助金のように、国の予算を原資として、国から交付を受けた法人等が事務局となって交付する補助金では、補助金適正化法と、同法に基づく間接補助金の規律が働きます。交付の要件や取消し・返還の仕組みは、要綱に基づく自治体補助金とは別の建物の中にあるのです。
ですから、本判決を今の事案に持ち込むときには、「自治体補助金についての国家賠償請求事件で、最高裁が交付基準の作り方について述べた評価」として引くのが正確です。取消しや返還の可否そのものは、補助金適正化法の枠組みで論じることになります。取消しの枠組みは補助金の交付決定の取消し・返還請求に、その裁量については補助金の交付決定の取消しに裁量はあるのかにまとめています。
5 登録を取り消された支援事業者・販売事業者は何を問えるのか
ここからは、前記の判決を踏まえた当職の整理です。
(1)「任意加入だから自由意思だ」という論理は、登録取消しには当てはまらない
本判決が国家賠償法上の違法を否定した理由の一つは、獣医師会が任意加入であり、加入するかしないかが基本的に各人の自由意思に委ねられていたことでした。登録を受けるかどうかを自分で選べるのだから、選ばなかった結果として補助金の対象外になることは、行政が直接にもたらした不利益ではない、という見方です。
この論理は、「登録を受けていない事業者」には当てはまります。しかし、「いったん登録を受け、その後に登録を取り消された事業者」には、そのままは当てはまりません。登録を取り消された事業者にとって、補助金の対象から外れたのは自分が選ばなかった結果ではなく、行政側の措置の結果です。自由意思に委ねられていたという前提が、取消しの場面では失われています。
したがって、登録取消しを受けた事業者の側では、本判決の後段ではなく、前段の着眼点を使うことになります。すなわち、①その取消しの必要性はどの程度あるのか、②取消しによって失われる営業上の利益にどこまで配慮されたのか、③その手続はどのように作られ、どのように履践されたのか、という三つです。
(2)必要性・配慮・手続の三点を、取消しの側で問う
① 必要性。 登録の取消しが、補助金の適正な執行を確保するためにどこまで必要なのか。指摘されている事実が、申請書類の不備や報告の遅れといった是正可能なものであれば、登録の取消しというもっとも重い措置を採る必要性は問われます。警告・改善指導・一定期間の新規申請の停止といった、より軽い手段が先に尽くされたのかという問いです。
② 営業上の利益への配慮。 登録の取消しは、その事業者の既存の取引にも及びます。既に申請中の案件、交付決定済みで導入中の案件、実績報告を控えた案件がどうなるのかに、どれだけ配慮されているか。本判決は、競業者という間接的な立場の者についてすら「十分な配慮をした形跡がない」ことを問題としました。当事者である登録事業者について配慮の形跡がないのであれば、その評価はより強く当てはまるはずです。
③ 手続。 取消しの前に、理由を告げられ、弁明の機会が与えられたか。取消しの理由が書面で示されたか。本判決が「その手続面も含めて」適切とはいい難いとしたことは、ここに直接効いてきます。事前の手続については取消しの前に通知や弁明の機会はあるのかで扱っています。
当職としては、登録の要件と取消しの基準、取消しの効果が顧客にどう及ぶのかが、公募要領や登録の要領に具体的に書かれていない運用が少なくないと見ております。基準が示されないまま登録を取り消し、その効果が顧客にまで及ぶという扱いは、本判決が「十分な配慮をした形跡がない点において、その手続面も含めて」適切とはいい難いとした評価がそのまま向けられる場面であり、適切な運用とは言わざるを得ません。
(3)争い方――まず処分といえるかを確かめる
次に、争い方です。
登録の取消しを審査請求や取消訴訟で争えるかは、その取消しが行政処分に当たるかによります。事務局が民間法人である補助金では、ここが最初の関門になります。処分性についての整理は補助金の交付決定の取消しに処分性はあるかと処分性をめぐる対談にまとめています。処分であるとすれば、出訴期間の制約がかかります(取消訴訟の出訴期間)。
処分とはいえないと整理される場合には、本判決と同じ国家賠償請求や、交付を受ける地位の確認を求める形が検討の対象になります。本判決は、まさに処分の取消しではなく国家賠償の形で争われた事案でした。もっとも、本判決が示したとおり、交付基準として適切とはいい難いという評価が得られたとしても、それが直ちに賠償責任に結びつくわけではありません。国家賠償の形を採るのであれば、交付基準の不適切さそれ自体ではなく、自社に向けられた措置が自社の利益をどのように直接に侵害したのかを、具体的に組み立てる必要があります。
(4)記録に残しておくこと
以上の主張は、いずれも事実の裏づけを必要とします。登録の申請書とその添付資料、登録通知、事務局から届いた照会・指摘とそれに対する回答、改善のために行ったことの資料、取消しの通知書とそこに書かれた理由、取消しの前後の顧客との取引の状況。取消しの必要性と配慮の有無を問うには、事務局とのやり取りが時系列で残っていることが決定的に重要です。
6 その顧客である事業者はどうなるのか
(1)「波及的な効果」という評価は、顧客には当てはまらない
本判決は、支部に所属しない獣医師に生じ得る営業上の不利益を、「直接的なものではなく」「競業関係による波及的な効果である」と評価しました。補助金の交付は飼主に対してされるものであり、獣医師はその外にいる、という位置づけです。
これに対し、登録を取り消された支援事業者・販売事業者を通して申請した顧客の事業者は、補助金の外にいる競業者ではありません。自分が申請人であり、自分が交付決定を受け、自分に対して返還が求められる立場です。そこで生じる不利益は、「波及的な効果」ではなく、直接のものです。
ですから、本判決の後段の論理――不利益は波及的であり、自由意思に委ねられていた――は、顧客の事業者には当てはまりません。顧客の側は、本判決を自分の事案の結論として恐れる必要はなく、むしろ前段の着眼点を借りることができる立場にあります。
(2)自分の交付決定を取り消せるのか
顧客の事業者にとっての中心の問いは、支援事業者・販売事業者の側の事情によって、自分の交付決定を取り消せるのか、という点です。
国の補助金であれば、取消しの根拠は補助金適正化法17条1項です。同項が定める取消事由は、①補助金等の他の用途への使用、②交付決定の内容又はこれに附した条件への違反、③その他法令又はこれに基づく処分への違反の三つに限られます。ですから、確かめるべきことは、届いた文書が、自分のどの行為を、この三つのどれに当たるとしているのか、ということです。
「登録を取り消された事業者を通して導入したから」という理由は、そのままでは三つのどれにも当てはまりません。交付規程や公募要領に書かれていることに反したという指摘が、そのまま②や③に当たるかは、それ自体が一つの論点です(交付規程違反は補助条件違反に当たるのか)。また、交付決定の取消しは、取消事由があるというだけで直ちにできるものではない、という裁判例もあります(補助金の交付決定は、どのようなときに取り消すことができるのか)。
(3)返還を求められる相手は誰か
もう一つの問いは、返還を求められる相手です。補助金の受領者は顧客の事業者であり、交付決定の名宛人もその事業者です。他方、不適切とされた行為が登録事業者の側のものであれば、実質的な原因はそちらにあります。この場面の整理は、IT導入補助金の返還請求と販売事業者に返還を請求できるのかで扱っています。納付命令が出た場合の対応は納付命令が届いたら、加算金・延滞金は加算金と延滞金にまとめています。
(4)この最判を、顧客の側はどう使うのか
本判決は、国家賠償法上の違法を否定した判決です。顧客の側が、この判決を「有利な裁判例」として引くことはできません。
それでも、使い道はあります。最高裁が、補助金の交付の対象を団体所属者に限る措置について、必要性の程度と、その外に置かれる事業者の営業上の利益への配慮と、手続の作り方を見た、という事実です。登録制度を前提とする補助金の運用において、登録の取消しが顧客の交付決定にまで及ぶとされる場面では、同じ三つの観点が問われることになります。登録の取消しという事務局側の都合によって、自らに何の落ち度もない顧客の交付決定まで当然に取り消されるという扱いが採られているのであれば、それは配慮の形跡を欠くものであり、是認できないと言わざるを得ません。
7 まとめ
補助金の対象を「登録された事業者を通した場合」に限る仕組みについて、最三小判平成7年11月7日は、二つの層を分けて判断しました。
第一に、交付の基準としての適切さです。最高裁は、支部の規模、支部に加入していない獣医師の数、補助金交付の手続等に照らし、この限定が「行政効率の点でかならずしもその必要性が高いとはいえず」、競業関係に立つ獣医師の「営業上の利益に対する十分な配慮をした形跡がない点において、その手続面も含めて、行政上の措置として適切であったとはいい難いうらみがある」と述べました。
第二に、国家賠償法上の違法です。最高裁は、補助金の趣旨が飼主や獣医師を保護するためのものではないこと、支部に所属しない獣医師の不利益が直接的なものではなく競業関係による波及的な効果であること、獣医師会が任意加入であり加入するかどうかが各人の自由意思に委ねられていることを挙げ、補助金交付の対象から除外したことが「直ちに」営業上の利益を侵害するとして国家賠償法上違法になるとは認め難いとしました。
この判決からいえることは、次のとおりです。登録事業者経由に限るという仕組みそれ自体が違法とされたわけではありません。しかし、その仕組みが適切かどうかは、必要性の程度と、外に置かれる事業者の営業上の利益への配慮と、手続の作り方によって評価される。最高裁は、そのことを前提にして判断しています。
そして、登録を取り消された事業者については、「加入は自由意思に委ねられていた」という後段の論理が当てはまりません。その顧客である事業者についても、「不利益は波及的な効果である」という評価は当てはまりません。いずれも、行政側の措置によって直接に不利益を受ける立場にあります。本判決の前段で最高裁が見た三つの観点――必要性、営業上の利益への配慮、手続――を、自分の事案の事実に当てて組み立てることが、出発点になります。
ご相談をお考えの事業者の方へ
支援事業者・販売事業者としての登録について取消しを示唆された、あるいは取消しの通知が届いたという段階、また、取引先の登録が取り消されたために自社の申請や交付決定に影響が出たという段階で、「制度上そうなっているなら仕方がない」と判断してしまう前に、確かめていただきたいことがあります。登録の要件と取消しの基準がどこに書かれているか、取消しの理由として挙げられた事実がその基準のどれに当たるとされているか、より軽い措置が先に採られたか、事前に理由が告げられ弁明の機会が与えられたか。交付決定通知書、公募要領・登録の要領、事務局とのやり取り、届いている通知書類があれば、具体的な検討ができます。取消しの通知に不服申立ての期間が定められている場合がありますので、早い段階でご相談ください。
士業の先生方へ
顧問先から「IT導入支援事業者の登録を取り消されそうだ」「取引先の登録が取り消されて顧問先の申請が止まっている」「顧客に返還を求められているが自社にも請求が来るのか」というご相談を受けることがあろうかと存じます。登録制度の側の問題と、補助金適正化法に基づく取消し・返還の問題とでは、確かめるべき資料も、争い方も変わります。補助金適正化法の側からの検討が必要な場面では、その部分だけを分担してお引き受けすることもできます。中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方からのご相談も承っております。連携の形は士業の先生方へにまとめております。
※ 本稿は一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。本稿の第5節及び第6節は、当職の見解を含みます。具体的な対応は、公募要領・登録の要領・交付決定通知書等の資料に基づく個別の検討が必要です。
※ 本稿は、執筆時点の法令・公表資料に基づく一般的な整理であり、当職の私見を含みます。個別の事案についての結論を保証するものではありません。