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弁護士 岸上大起

財産処分の承認申請が何度も差し戻される――承認を求めれば納付、求めなければ取消し。その板挟みの出口

このページの結論

補助金で取得した設備の財産処分の承認を申請しましたが、残存簿価相当額の計算書や写真の提出を求められて差戻しが繰り返され、承認が出ません。承認を受けずに処分すれば交付決定を取り消すと言われています。どう進めればよいのでしょうか。

承認の前に残存簿価相当額の計算書を出すことは、交付規程の様式第12-1の記載事項にも添付書類にも、公式の案内にも書かれていません。報告を求める権限(交付規程20条・補助金適正化法23条1項)には「必要があるとき」という限度があり、承認の判断に関わる資料と、納付額の計算のための資料とは分けて考えることになります。そして、差戻しが続いている間は承認がされておらず、納付の義務も生じていません。納付の義務は、補助金適正化法22条の承認に附される負担として法の仕組みに根拠が求められるものであり(その告知の形が交付規程24条6項の納付通知書です)、申請をしたことや計算書を出したことで義務を認めたことにはならないと考える余地があります。

承認を受けずに処分すれば、承認を受けない処分を理由とする交付決定の取消しの土俵に入ります。そこで、承認の申請は行う一方で、承認を要するという見解に同意する趣旨でも納付を受け入れる趣旨でもないこと、取扱基準5.(2)②に当たる事情があることを書面で明示しておく、という第三の進め方があります。あわせて、納付額の算定の根拠規定と計算の基礎(処分の日・耐用年数・取得価格・補助率・処分の分類)を、申請の前に書面で確かめておきます。

執筆 補助金に関する紛争・法律問題を主に取り扱う弁護士 岸上 大起(埼玉弁護士会・登録番号63780)

補助金で取得した設備や内装を、処分制限期間の途中で手放すことになった。財産処分の承認を申請したところ、残存簿価相当額の計算書を出せ、取得財産等管理台帳を直せ、処分の日を証明する書類を出せ、写真を出し直せ、と求められ、そのたびに差し戻される。承認は出ない。しかし、承認を受けないまま処分すれば、交付決定の取消しになると言われている。――財産処分の承認申請をめぐるご相談は、この形で始まることが少なくありません。審査の過程で差戻しが繰り返されることがあり、その往復が長く続くこともあります。

このページでは、この板挟みを、条文の順番でほどきます。先に申し上げておきたいのは、差戻しが続いている間、事業者の側は何も失っていない、ということです。承認はされておらず、納付の義務も生じていません。そのうえで、承認を求めれば納付、求めなければ取消しという二択の外に、争いのある点を書面に残したまま承認を申請するという進め方があることを、順を追って述べます。

以下の交付規程の条数と文言は、中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程(令和3年6月15日規程令3第13号。令和7年6月30日施行の改正までのもの)のものです。交付規程の条番号は補助金ごと・版ごとに違いますので、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程で読み替えてご覧ください。

1 求められているものを、条文に当てて分ける

差戻しのたびに求められる書類は、たいてい次のどれかです。残存簿価相当額の計算書、取得財産等管理台帳の訂正、処分の日を証明する書類(賃貸借契約の終了を示すもの等)、処分前・処分後の写真、処分に伴う収入が分かる通帳の写し、見積書です。これらを、交付規程が承認申請の段階で求めているものと、承認の後の段階で求めているものとに分けることから始めます。

承認の申請は、交付規程24条3項に基づき、様式第12-1で行います。

引用(中小企業等事業再構築促進補助金(新市場進出)交付規程24条3項)「補助事業者は、前項の規定により定められた期間内において、処分制限財産を処分しようとするときは、あらかじめ様式第12-1による承認申請書を中小機構に提出し、その承認を受けなければならない。」

様式第12-1に書く事項は、「1.取得財産の品目及び取得年月日」「2.見積額及び取得価格」「3.処分の方法」「4.処分の理由」の四つで、添付書類として掲げられているのは「見積書」だけです。残存簿価相当額の「計算書」という書類は、この様式の記載事項にも添付書類にも挙げられていません。

もっとも、同様式の見積額の欄には四つの注記があり、そのうち二つが残存簿価相当額に触れています。「目的外使用や廃棄による処分等で見積額を算出できない場合は見積額の入力は不要。」「目的外使用、無償譲渡、無償貸付等の補助金返還額は、残存簿価相当額を以て算出する。」「3者未満の見積書を提出された場合、残存簿価相当額と鑑定評価額のいずれか高い額を適用する。」というものです(もう一つは、見積書を3者以上徴取した場合の扱いです)。申請の段階で納付額の算定が視野に入っていることは、様式の文面からも読み取れます。しかし、この注記は返還額の算定方法を示したものであって、申請者に算定の根拠を作らせ、その提出がされるまで承認を出さないという進め方を定めたものではありません。注記が算定方法を示していることと、計算書の提出を承認の前提にすることとは、別の問題です。

公式の案内も、同じ順番で書いています。事業再構築補助金の「財産処分」のページは、手続の流れを「申請」→「承認」→「処分」→「報告」→「納付」とし、各段階の登録事項を次のように説明しています。

引用(事業再構築補助金「財産処分」(事業化状況報告)のページ。申請の段階)「申請する項目は、処分する財産名や処分の分類、処分の理由、有償の場合の見積書等です。」
出典:事業再構築補助金「財産処分」(https://jigyou-saikouchiku.go.jp/jigyouka/zaisanshobun.html。2026年10月31日閲覧)
引用(同ページ。報告の段階)「登録する項目は、処分日、処分価格、残存簿価相当額又は見積額、撤去前後の写真、有償の場合の見積書等です。」

残存簿価相当額を実際に登録する手続として組まれているのは、承認を受けて処分をした後の「報告」の段階です(公式の案内。交付規程24条4項の様式第12-3の記載事項は、処分日・処分の方法・処分価格・財産処分に係る書類の四つです)。承認の前の段階で計算書を出すことは、交付規程の様式にも、公式の案内にも、書かれていません。写真と通帳の写しも同じで、様式第12-2(承認通知書)は、「財産処分を行った場合は、同条第4項の規定に基づき、様式第12-3財産処分報告書を、下記の資料と併せてご提出ください。」として、「財産処分に伴う収入額が記載された通帳(写)等」「撤去前の写真」「撤去後の写真」を挙げています。いずれも処分の後に出す資料です。

廃棄の場合は、もう一つ押さえておく点があります。様式第12-2の参考表は、処分の分類ごとに処分後の提出書類の要否を定めており、廃棄・無償譲渡・交換・目的外使用では「財産処分に伴う収入額が記載された通帳(写)等」を提出不要(×)としています。廃棄の事案で通帳の写しを求められているのであれば、交付規程の様式自体が不要としている書類だということになります。同表には「『処分の分類』により別途書類を提出いただく場合があります。」という一文もありますが、分類ごとに要否を定めた表の後に置かれた一般的な留保であり、承認の判断に必要な範囲を超える求めを基礎づけるものとは読めないと考える余地があります。

ですから、承認の前に計算書や処分後の写真を求められたときは、まず「それは交付規程のどの条項に基づく求めなのか」を確かめることになります。申請の様式が求めていない以上、根拠として残るのは、報告を求める一般の権限です。次に述べます。

2 報告を求める権限・調べる権限には、「必要があるとき」という限度があります

承認の申請に関して追加の資料を求める根拠として考えられるのは、二つです。一つは、交付規程20条です。見出しは「(是正のための措置)」であり、報告徴収や立入検査そのものを目的とした条ではなく、補助事業を適切に遂行させるための是正の手段として置かれた条です。

引用(同交付規程20条)「中小機構は、補助事業の適切な遂行のため必要があると認めたときは、補助事業者に対し、補助事業に関し報告を求め、又は、補助事業者の事業所等に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査し、若しくは関係者に質問することができる。この場合において、補助事業者は協力するものとする。」

もう一つは、法律です。補助金適正化法23条1項は、「各省各庁の長は、補助金等に係る予算の執行の適正を期するため必要があるときは、補助事業者等若しくは間接補助事業者等に対して報告をさせ」ることができると定めています。事業再構築補助金にこの規定が及ぶのは、中小機構法16条の準用によるものです。

どちらの定めにも、「必要があると認めたとき」「必要があるときは」という要件が置かれています。文献は、23条について、「本条は、交付行政庁の行政調査の権限及びその限界について定めた規定である」と説明し(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』311頁(株式会社全国会計職員協会、2016))、報告徴収について「事務の効率性の観点からいっても、不必要に詳細なデータを徴収することは避けるべきであろう」としています(同312頁)。権限を定めた規定が、同時にその限界を定めた規定でもある、という読み方です。

そして、同法24条は、補助金等の交付に関する事務に従事する職員は、「当該事務を不当に遅延させ、又は補助金等の交付の目的を達成するため必要な限度をこえて不当に補助事業者等若しくは間接補助事業者等に対して干渉してはならない」と定めています。同書は、この規定について、補助条件の形式をとらなくとも、実質的に補助金交付の前提条件として相手方に不当な干渉を加えるものは、すべて本条に違反する行為とみるべきであろう、としています(同320頁)。もっとも、同書は同じ頁で、本条はいわゆる訓示的規定であるとも述べています。ですから、24条を単独で持ち出して資料の提出を断ることはできず、23条1項の「必要があるとき」と並べて、求めが「必要な限度」に収まっているかを測る物差しとして読むことになります。

承認の申請に当てはめると、こうなります。承認をするかどうかを判断するために必要な資料――処分の対象となる財産の特定、処分の方法、処分の理由を裏付けるもの――を求めることは、権限の範囲内です。これに対し、承認の前の段階で、納付額を計算するための資料を繰り返し求め、その提出がされるまで承認を出さないという進め方は、承認の判断に「必要があるとき」に当たるのか、「必要な限度をこえて」いないのかが、条文の上で問われる余地があります。承認と納付は、交付規程の上でも別の項に書かれた別のものだからです(後記3)。

3 差戻しが続いている間は、承認もされておらず、納付の義務も生じていません

差戻しが繰り返されると、「いつまでも終わらない」という焦りから、求められるものを何でも出してしまいがちです。ここで、条文の上で何が起きているのかを確かめておきます。

承認は、交付規程24条3項の申請に対する応答であり、様式第12-2の承認通知書で示されます。差戻しとは、この応答がまだされていない状態です。そして、納付は、承認とは別の項に、別の形で書かれています。

引用(同交付規程24条6項)「中小機構は、補助事業者が処分制限財産を処分するときは、様式第12-5による納付通知書により、当該処分制限財産に係る補助金額を限度として、納付させることができるものとし、補助事業者は当該納付命令にしたがって納付しなければならない。なお、当該処分については、補助事業等により取得し又は効用の増加した財産の処分等の取扱いについて(平成16・6・10会課第5号)の各規定を踏まえ取り扱うものとする。」

ここから読み取れることが三つあります。第一に、納付の前提は「処分制限財産を処分するとき」であり、承認を申請したことではありません。第二に、交付規程の文面上、納付を求める行為は「様式第12-5による納付通知書」によって行われます。交付規程8条も、この通知を「同条第6項の規定に基づく財産の処分による収入の納付命令」と呼んでいます。第三に、「納付させることができる」であって「納付させる」ではなく、処分をすれば当然に納付になるという書き方ではありません。

ここで一つ、取り違えてはならない点があります。納付の義務の法的根拠は、交付規程それ自体ではありません。交付規程は行政の内部の決まりであって、法律ではないからです。納付の義務は、補助金適正化法22条の承認に附される負担として、法の仕組みにその根拠が求められるものです(事業再構築補助金では中小機構法16条の準用によります)。交付規程24条6項と様式第12-5は、その負担の内容と告知の形を定型化したものにすぎません。この点は、Q&A「納付命令だけを争えるのか」の冒頭で、最高裁判所判例解説の整理に沿って述べています。

納付の義務が、承認に付された条件(講学上の附款)として生じるのか、後から届く納付通知書によって生じるのかは、事案によって整理が分かれます。最三小判令和3年3月2日民集75巻3号317頁の解説は、承認自体に納付の条件が付されていた事案について、後の納付の求めは附款により発生した義務の履行を求めるにすぎないとしています(荒谷謙介・最高裁判所判例解説民事篇令和3年度(上)83〜84頁。コラム「財産処分の承認を受けたら、補助金を返さなければならないのか――裁判例紹介:最三小判令和3年3月2日」で紹介しています)。他方、承認の段階では金額が示されず、後の通知で初めて金額と期限が示される場合には、その通知によって初めて納付の義務が発生するという考え方があります(大阪高判令和3年12月14日判時2545号27頁は、道路占用料の納入告知について、納付義務は納入告知の書面によって初めて発生するとしました。高等裁判所の判断であり、上告・上告受理の申立ての有無とその結果は確認できていません。コラム「承認と一緒に届いた『納付命令』は、取消訴訟で争えるのか――裁判例紹介:大阪高判令和3年12月14日」で紹介しています)。どちらの整理をとっても、承認がされる前の段階で納付の義務が生じている、という結論にはなりません。この点は、Q&A「納付命令だけを争えるのか」で詳しく述べています。

申請をしたこと、計算書を出したことは、義務を認めたことにはなりません

気になるのは、様式第12-1の本文です。同様式は、「下記のとおり申請するとともに、所定の計算式により算出した収入を納付します。」という一文を含んでいます。申請をすれば納付を約束したことになるのではないか、という不安が生まれるところです。

私見としては、そうはならないと考える余地があります。理由は二つです。一つは、前記のとおり、納付の義務を生じさせるのは、承認に付される負担(その告知の形が納付通知書です)であって、申請ではないことです。申請は、承認という応答を求める行為であり、その応答がどのような内容になるかは、申請の時点では決まっていません。もう一つは、様式の文言が、システムに組み込まれた定型の文であって、事業者が選んで書いたものではないことです。定型の文があることをもって、争いのある納付の義務を認めたものと扱うことはできないと考える余地があります。

もっとも、後から「認めていた」と言われる余地を小さくしておくに越したことはありません。計算書を出す場合も同じです。求めに応じて算定を示したにとどまり、納付の義務を認める趣旨ではないことを、申請とは別の書面に書いて残しておくことになります(後記5・6)。計算書の提出と権利の承認(民法152条1項)との関係は、Q&A「財産処分の承認申請・事業計画の廃止届を出してしまった」の5で述べています。

4 板挟みの構造――承認を受けずに処分すれば、取消事由になると言われる

では、承認が出ないなら申請をやめて処分してしまえばよいかというと、そこに板挟みのもう一方があります。交付主体は、承認を受けないまま処分すれば交付規程24条3項に違反し、交付決定の取消事由に当たり得る、という立場を示すことがあります。

条文の構造は、次のとおりです。補助金適正化法22条は、補助事業等により取得し、又は効用の増加した政令で定める財産について、承認を受けないで、交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供してはならないと定めています(政令で定める場合を除くただし書があります)。これに違反すると、17条1項の取消事由のうち「その他法令又はこれに基く各省各庁の長の処分に違反したとき」(第3類型・法令違反)に当たるとされ、取消しがされれば、18条1項により返還が命じられ、加算金が付きます。22条違反それ自体から直ちに納付の義務が生じるのではなく、取消しと返還命令を経る、という組み立てです。

交付主体は、22条違反(17条1項の第3類型)としてだけでなく、交付規程24条3項の定めを交付決定に附した条件とみて、同項の「交付の決定の内容又はこれに附した条件」への違反(第2類型)として構成することもあります。廃棄のように22条が列挙していない行為では、この構成で来ることがあります。どちらの類型でも、取消しは「取り消すことができる」という裁量の問題であることに変わりはありません。交付規程の定めが補助条件になるのかという点は、Q&A「交付規程に違反したと言われたら――交付規程を守ることは『補助条件』なのか」で述べています。

ここで押さえていただきたいのは、二つの道の違いです。承認を受けたうえで処分すれば、問題になるのは、当該処分制限財産に係る補助金額を上限とする納付(取壊し・廃棄等では、取扱基準上、残存簿価相当額に補助率を乗じた額。鑑定評価を行う場合は、これと鑑定評価額に補助率を乗じた額の高い方)であり、しかも「納付させることができる」という裁量の問題です。承認を受けずに処分して取消しがされれば、問題になるのは交付額の全部又は一部の返還と加算金です。どちらも争う道はありますが、争う土俵が違います。17条1項の取消しは「取り消すことができる」という裁量の定めであり、取消事由があることと取消権を行使できることとは別であるとした裁判例もあります(コラム「補助金の交付決定は、どのようなときに取り消すことができるのか」で紹介しています)。それでも、相手に取消しという重い手段を選ばせる形に自分から持ち込むことは、避けられるなら避けたいところです。

そもそも廃棄・取壊しが22条の承認を要する行為なのかという前提の争いもあります(コラム「補助金で取得した設備を廃棄することは『処分』か」)。当職はこの前提を争う立場ですが、交付主体が承認を要するという立場を維持している以上、その前提の争いを理由に承認を受けずに処分すれば、前記の板挟みのもう一方に自分から入ることになります。承認を申請すれば納付、申請しなければ取消し。その二択に見えるところに、第三の進め方があります。

なお、災害又は火災(補助事業者の責めに帰すことができない事由による場合に限ります)により使用できなくなった場合と、立地上又は構造上危険な状態にある場合の取壊し・廃棄は、交付規程24条5項により、事前の承認申請ではなく様式第12-4の報告書の提出で承認を受けたものとみなすことができるとされています。この型に当たる事案では、そもそも差戻しの往復に入りません。Q&A「災害や火災で使えなくなった設備、危険で取り壊した建物――承認と納付は必要か」と、Q&A「機械の故障等により廃棄する場合には事前に承認申請を、と書かれていますが――交付規程24条5項の報告でよい場合」をご覧ください。

次のような場合は、次の再申請をされる前にご相談ください

  • 財産処分の承認申請を出したが、差戻しが繰り返され、承認が出ないまま時間が経っている
  • 承認の前に残存簿価相当額の計算書の提出を求められ、出すと納付が決まってしまうのではないかと迷っている
  • 承認を受けずに処分すれば交付決定を取り消すと言われている
いまの状況を相談する →お電話:070-3618-5126(受付:平日10:00〜18:00、出られないときは折り返します)

関連ページ: 財産処分の承認を申請したら、残存簿価相当額を納めることになるのか(Q&A)/行政から求められた資料は、どこまで出さなければならないのか(コラム)

5 第三の道――争いのある点を書面で明示したまま、承認を申請する

第三の道とは、承認の申請は行う(又は維持する)一方で、納付については争う、という進め方です。申請と同時に、代理人又は本人の名義で、次の趣旨の書面を交付主体に出しておきます。

  • 承認の申請は、交付主体が承認を要するという立場をとっていることを前提に、交付決定の取消しという事態を避けるために行うものであること。この処分行為が22条の承認を要する行為であるとの見解に同意する趣旨ではないこと。
  • 申請は、承認に伴って残存簿価相当額の納付を命じられることを受け入れる趣旨ではないこと。様式第12-1の定型の文言は、この趣旨を変えるものではないこと。
  • 求めに応じて残存簿価相当額の計算書を提出する場合には、それは算定の内容を示すにとどまり、納付の義務を認める趣旨でも、その算定の基礎(処分の日、耐用年数、取得価格、処分の分類)を認める趣旨でもないこと。
  • 承認に当たっては、取扱基準(平成16・6・10会課第5号)5.(2)②に当たる事情があるので、国庫納付条件を付さない取扱いを求めること。その事情を具体的に書き、資料を添えること。
  • 承認に国庫納付の条件が付され、又は納付通知書が届いたときは、承認及び納付命令の取消訴訟(審査請求を先に経る必要はありません。Q&A「交付決定の取消しの通知に不服があるとき、どこに言えばよいのか」をご覧ください)を提起する予定であること。

この進め方の実益は、三つあります。第一に、承認を受けたうえで処分することになるので、承認を受けない処分を理由とする取消しの土俵に入りません。第二に、納付の義務は承認に附される負担(その告知が納付通知書です)によって生じるものですから、争う対象がそこに絞られ、争う額も、交付額の全部ではなく、交付規程24条6項が上限とする当該処分制限財産に係る補助金額の範囲にとどまります(算定は、取扱基準4.(2)本文の残存簿価相当額に補助率を乗じた額。鑑定評価を行う場合は、これと鑑定評価額に補助率を乗じた額の高い方です)。第三に、取扱基準5.(2)②に当たる事情を申請の段階で示しておくことで、承認をする側がそれを検討したかどうかが、後に裁量の問題として問えるようになります。基準があるのに当てはめを検討しない納付命令が裁量権の逸脱・濫用になりうることは、Q&A「『国庫納付条件を付さないことができる場合』を検討しないまま納付を命じられました」で述べています。

私見としては、争いのある点を書面で明示したうえでの承認申請は、承認を要するかどうかの争いと、納付を命じることが許されるかどうかの争いの両方を手放さずに、取消しの危険だけを外す進め方であり、差戻しが続いている事案で採る余地があると考えております。

6 申請の前に、書面で求めておくこと――算定の根拠規定と、計算の基礎

最後に、承認の前に計算書を求められた段階で、こちらから書面で確かめておく事項を挙げます。差戻しの往復をメールや電話だけで続けると、何を根拠に何を求められているのかが、後から追えなくなります。

  • (1)納付額を算定する根拠は、どの規定のどの文言か。交付規程24条6項が参照する取扱基準は、転用・無償譲渡・無償貸付け・交換・取壊し・廃棄の場合の国庫納付額を「残存簿価相当額に補助率を乗じて得た額とする。ただし、鑑定評価を行う場合には、鑑定評価額に補助率を乗じた金額と前記の金額で高い方とする。」と定めています(取扱基準4.(2))。有償譲渡・有償貸付けの場合は、処分制限財産に係る補助金額を上限として、譲渡額又は貸付額に補助率を乗じて得た額です(同4.(1))。求められている計算が、このどれに当たるものとして求められているのかを、書面で確かめます。
  • (2)処分の分類は何か。廃棄なのか、無償譲渡なのか、転用なのかで、添付書類も、当てはまる例外の定めも変わります。審査の過程で分類の変更を求められることがありますが、分類は事実に即して決まるものであり、書き換えると、その分類の処分をしたことを自認する形になります。分類の変更を求められたときの考え方は、Q&A「財産処分の報告で『廃棄』を『譲渡(無償)』に書き換えてほしいと言われたら」で述べています。
  • (3)計算の基礎は何か。処分の日(賃貸借の終了日か、明渡しの日か、撤去の日か)、処分制限期間(交付規程24条2項が準用する省令の耐用年数。取得財産等管理台帳の記載がその算定の根拠とされます。期間そのものの定め方は、Q&A「処分制限期間は『減価償却資産の耐用年数等に関する省令のとおり』か」で扱っています)、取得価格、補助率です。処分の日が一日違えば残存簿価相当額は変わります。どの日を処分の日として計算させようとしているのか、その根拠は何かを確かめます。「残存簿価相当額」が帳簿の簿価と違うことは、Q&A「『残存簿価相当額』は、当社の帳簿の簿価ではないのでしょうか」で、見積りを3者から取るよう求められたときの見積額と鑑定評価額の関係は、Q&A「3者から見積りを取ると、いちばん高い金額で納付額が決まるのでしょうか」で述べています。
  • (4)取扱基準5.(2)②の検討がされるのか。社会経済情勢の変化等により処分制限財産を維持する意義が乏しくなった場合、又は資金繰りの悪化等により処分制限財産を維持管理することが困難になった場合の取壊し等は、国庫納付条件を付さないことができる場合として、基準に書かれています(取扱基準5.(2)②b)。当たると考える事情と資料を示したうえで、承認に当たってこの定めを検討するのかどうかを、書面で尋ねておきます。
  • (5)求められている資料の根拠条項は何か。承認の前の段階で、処分後の写真、通帳の写し、計算書を求める根拠が交付規程20条・補助金適正化法23条1項であるなら、承認の判断にそれがどう必要なのかを尋ねます。差戻しの通知に根拠が書かれていないのであれば、書面で尋ねたという事実そのものが、後に残ります。

やり取りは、申請システムの画面の中だけで進むことが多く、差戻しの通知がシステムの外に残らないことがあります。通知の画面、再申請の内容、提出した資料は、その都度保存しておいてください。記録の残し方は、Q&A「事務局とのやり取りが申請システムの中にしかない」で述べています。書面を出しても返事が来ないときの考え方は、Q&A「中小機構・事務局に書面を出したのに、返事が来ないとき」をご覧ください。

以上のとおり、差戻しの最中は、承認も納付の義務も生じていません。その状態のまま、応じる資料と根拠を尋ねる資料とを分け、争いのある点を書面に残したうえで承認を申請する。この順序で進めれば、承認を求めれば納付、求めなければ取消しという二択の外に、出口があります。

財産処分の承認申請の差戻しが続き、承認の前に残存簿価相当額の計算書の提出を求められている事業者の方、承認を受けずに処分すれば取消しになると言われている事業者の方、顧問先・支援先からこのようなご相談を受けている中小企業診断士・行政書士・税理士の先生方は、次の再申請をされる前にご相談ください。交付決定通知書、交付規程、取得財産等管理台帳、申請システムの差戻しの画面、これまでに提出した資料があれば、具体的な検討ができます。

根拠(条文・公式資料・裁判例)

※ 交付規程は補助金ごと・公募回ごとに版が異なります。条数と文言は、お手元の交付決定通知書に記載された交付規程でご確認ください。

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※ 本ページは一般的な法的整理を示すものであり、個別の事案についての結論を保証するものではありません。

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